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「いえ、きっと不甲斐ないわたしの為ですよ」
カイルは苦笑いを浮かべながらも、真っ直ぐにリリアンナを見つめた。
「わたしにとってリリアンナ嬢は殿下の義妹となる人で、ずっと守るべき子どもだったんです」
カイルから発せられる子どもという単語に悲しくなる。
「でも、久しぶりに会ったリリアンナ嬢は美しく成長されていて…以前からの気持ちが変化していることに気づくのが遅れてしまいました」
カイルがふっと柔らかく微笑んだ。
いつもより柔らかい雰囲気で、いつもなら鋭い目元も優しい気がして、リリアンナは顔が赤くなるのを感じた。
「わたしは公爵家の息子ですが、次男で継ぐべき爵位も家もない上、10歳も年上です。それでも、貴方のことを誰にも渡したくないと思ってしまったんです。リリアンナ嬢貴方とこの先一緒に歩んでいきたい」
カイルの言葉を少しずつ理解し始めたリリアンナは歓喜と共に戸惑いを覚えた。
これはまさかのカイル様からの告白⁉︎
いやいや、話が急展開過ぎるし、上手く出来過ぎている。
まだ何かどんでん返しがあるんじゃ…
「わたしの手を取ってもらえませんか」
カイルが跪いてリリアンナに手を差し出した。
「えっ?あの、えっ?」
ワタワタとして挙動不審のリリアンナ。
「ダメですか」
悲しそうなカイルを見たリリアンナは咄嗟にカイルの手を取った。
「いえ!よろしくお願いします!」
勢いよく返事をする。
その様子を見て、カイルはホッと息をついて立ち上がった。
「あの…本当に?私でいいのですか?」
リリアンナは俄には信じられず恐る恐る訊いた。
「貴方がいいのです。恥ずかしがり屋で怪我をした子がいれば真っ先に駆け寄る優しいリリアンナ嬢が好きなんですよ」
カイルは穏やかに笑んだ。
「あっあの、ずっと好きだったんです。カイル様のこと。だから、とても嬉しいです」
リリアンナは真っ赤になりながら、なんとか気持ちを伝えることができた。
カイルは可愛らしく気持ちを伝えるリリアンナを愛おしそうに見つめていた。
その瞳と目が合い、リリアンナは益々顔が赤くなってしまった。
「あの、ひとつ気になっていることがあるんですけど」
長年の片思いが実って、踊り出したいような気持ちなのだが、気にかかって仕方がないことがある。
「なんですか」
「カイル様はジルベルト殿下に何か言われた訳ではないんですよね?」
ジルベルトにリリアンナとのことを勧められて、こんなことを言い出したのだとしたら、あんまり喜べない。
王太子に言われれば、断ることは難しいだろうから。
不安そうなリリアンナを安心させるようにリリアンナの頭を撫でた。
「殿下には何も言われてない。俺がリリィと一緒にいたかっただけだよ」
それを聞いて漸く、リリアンナは心からの笑顔を浮かべた。
「誰かに何かを言われなくても、リリィは綺麗で優しくて素晴らしい女性なんだから好きになる人はたくさんいるよ。なんでそんなに自信がないのかな?」
綺麗って!素晴らしい女性って!
カイル様に褒められた!
リリアンナはニヤニヤしそうになる顔を見られないように俯いた。
「私はお姉様と違って地味だから」
「地味って、何言ってるんだ?リリィは自分のこと全く分かってないな」
カイルはリリアンナの地味発言に心底呆れたように嘆息した。
「リリィは俺の中で一番綺麗だし、好きになるのに地味とか派手とか関係ない。リリィだから好きになったんだよ」
リリアンナはカイルの最大級の褒め言葉に嬉しくて恥ずかしくてムズムズするという複雑な気持ちを初体験した。




