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今日はシンシアに呼ばれて、王宮の庭園でお茶を飲んでいる。
王宮の庭園は隅々まで手入れが行き届いていて、色とりどりの花が咲き、いい香りを漂わしている。
リリアンナとシンシアが世間話に花を咲かせていると、周囲が若干騒がしくなってきた。
リリアンナが何事かと見回していると、やっぱりと言うべきか、ジルベルトが護衛を引き連れてやって来た。
こんなに頻繁にお姉様のところに来ていて、この王太子はちゃんと執務をこなしているのかしら。
などと不敬なことを思いつつ、表面上は淑やかに礼を取る。
「リリィ、そんな堅苦しいことはいいから。ちょっと会わせたい人がいるんだが、少しいいかな」
ジルベルトは穏やかな笑みを浮かべているが、目が意地の悪いことを考えている目だと長い付き合いのリリアンナには分かった。
嫌な予感がするから嫌だと言ったところで、会わなければならないのに決まっているのだから、駄々をこねるだけ無駄なのでさっさと済ませた方がいい。
「大丈夫ですけど、どなたですか」
リリアンナは嫌な予感に笑顔を若干引き攣らせていた。
「まぁまぁ、そんなに警戒しなくてもリリィのよく知ってる人だから」
ニヤニヤしているその顔が信用できないんだよ、と突っ込みたいのを殊更ニコニコして誤魔化す。
ジルベルトが護衛の一人に命じて、呼びに行かせた。
しばらくすると一人の男性が現れた。
リリアンナはその顔を見て目を瞬かせた。
「カイル様?」
やって来たのは貴族らしい服装をしたカイルだった。
なぜカイル様?
わざわざ今更ジルベルトがカイルをリリアンナに引き合わせる理由が分からず首を傾げた。
「リリィ、こちらサンダリー公爵の次男のカイル・サンダリーだよ」
ジルベルトが何故かカイルの紹介をした。
知ってるわ!と突っ込みたいところをなんとか堪えて、そう言えばカイル様は公爵家の次男だったなと思い出していた。
騎士としての姿しか知らないから、少し新鮮な気持ちになって、改めてカイルを見つめた。
「カイル、こちらの令嬢がキリシマール侯爵の次女のリリアンナ・キリシマールだよ」
ジルベルトが今度はカイルにリリアンナを紹介した。
全く意味が分からない。
そのまま無言でいる訳にもいかず
「はじめまして?リリアンナ・キリシマールです」
何が正解なのか分からず、ついつい疑問形になってしまう。
そんなリリアンナに合わせたかのようにカイルも戸惑った表情をしながら、疑問形の挨拶をした。
「お初にお目にかかります?カイル・サンダリーです」
「じゃあ、後はお若い二人でってことで」
ジルベルトはお見合いおばさんのようなことを言って、シンシアを連れてその場を去って行こうとする。
「でっ殿下。これはどういったことですか⁉︎」
訳がわからないまま、二人にされたら堪らないと焦った様子で引き止めるリリアンナに向けたジルベルトの目は意外な程温かいものだった。
「二人共、今までのことは一旦忘れて、もう一度出会い直したってことで、一から始めてくれ」
ジルベルトとシンシアは仲良くニマニマ笑いで去って行った。
二人して呆然と去っていく王太子夫妻を見送っていると
「とりあえず、座りましょうか」
先に我に返ったカイルが椅子に座るように勧めた。
「あっ、はい」
二人が腰掛けると、メイドがお茶を淹れ直して、話し声が聞こえない程度まで離れて行った。
「カイル様は今日はなんと言って呼び出されたのですか?」
「サンダリー公爵の次男に紹介したい人物がいるからと。それがまさかリリアンナ嬢だとは驚きました」
カイルは苦笑いを浮かべた。
「貴方は?何もご存知なさそうでしたが」
「私はシンシアお姉様にお茶会をと誘われたんですよ。まさか、カイル様を改めて紹介されるとは思いもしませんでした」
こんな風に不意打ちじゃなくてもいいのにって思うものの、いつまでもぐるぐると同じところを回っているリリアンナの為にわざわざこの場を設けてくれたことは分かった。
メイドが淹れてくれたお茶を一口飲んで、心を落ち着けたリリアンナは心を決めたように思い切ってカイルを見つめた。
「今回のことはジルベルト殿下とお姉様が私のために計画してくれたんだと思います」
長年の片思いに終止符を打つかと思うと、怖くて仕方がなくて、俯きそうになる顔をなんとか上げていた。




