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街にお出かけしてから、数日後、シンシアから王宮に呼び出しがあった。
「それで、結局何にも言ってないってことなのね」
シンシアに念を押される。
「その通りです。すみません、折角色々取り計らってもらったのに」
リリアンナはしょんぼりと目線を下げた。
「別にいいのよ。街歩きではそんな雰囲気にはなかなかならないわよね」
シンシアはクスクスと笑った。
「実は私があのカフェに行きたいって言ってたから、ジルがそれに無理矢理絡めただけなのよ」
「そうなの?じゃあ、お姉様たちのデートに付き合っただけ?」
「でも、カイル様とは仲良く喋ってたじゃない。ちょっと距離が縮んだんじゃないの?」
シンシアは妹の恋バナが楽しいらしく、今日も目がキラキラしている。
「う〜ん、それはどうなのかな?前よりは縮んだのかな」
前が遠かっただけに、縮んだと言ってもまだまだ遠い気がするけど…
今日もノックもそこそこに部屋に入ってくる人物がいる。
「殿下、なぜいつも突然入ってくるんですか?」
ジルベルトはさっさとシンシアの隣に腰掛けた。
「リリィはまた、そんな他人行儀な呼び方をして」
ジルベルトはやれやれと言うように肩をすくめた。
「かわいい妹に会いに来たのにつれないな。それで、カイルとはしっかり話せたのか?」
「そっそれは、まぁ、それなりに」
面白そうに見つめてくる視線をすっと避けた。
「何年も拗らせてる奴がそんな簡単にできるわけないか」
あっさりとリリアンナの現状を見破ったジルベルトはため息を吐いた。
「仕方ないな。ところで、最近騎士団の訓練の見学に来てないって聞いたぞ」
「どうしてそんなこと知ってるんですか⁉︎」
内緒で行っていたことを全部知られているのかと慄いた。
「カイルに聞いたからな」
「カイル様に?」
オリビアと一緒に行った二回はカイルに直接差し入れを渡したから、知っているだろうけど、最近行っていないことを把握されていると思ってなかった。
「来ていないことを把握している程度には興味があるということじゃないか」
ジルベルトは茶菓子に出されていたクッキーを口に入れた。
だから、もう少し頑張れってこと?
遠回しな激励に微妙な顔になりつつも、興味を持っていてくれるのは少し嬉しかった。
頬をピンク色に染めながらお茶を飲むリリアンナを王太子夫妻は微笑ましく見守っていた。
「見学に来るの、久しぶりね。2ヶ月振りくらい?」
「そうだね。ごめんね、また付き合ってもらっちゃって」
「いいのよ。リリィが頑張る気なら付き合ってあげるわよ」
オリビアは久しぶりに騎士団の訓練の見学に付き合ってほしいと言い出したリリアンナにホッとしていた。
二人で話せたのに告白は出来なかったと、落ち込んでいたから心配していたのだ。
はーっ
やっぱり、かっこいい…
その辺のヒョロヒョロの貴族令息とは違うわ。
あの鍛え抜かれた体。素敵過ぎる。
部下に稽古をつけているのをうっとりと見つめていた。
「リリアンナちゃん、久しぶりだね」
訓練が終わると同時にキースが駆け寄って来た。
いきなりのリリアンナちゃん呼びに引きつつ
「お久しぶりです。スイレーニ様」
なんとか令嬢スマイルを浮かべた。
「リリアンナちゃんはなんでそんなに他人行儀なのかな?キースって呼んでよ」
今日はいやにグイグイ来るなと戸惑っていると
「オリビア、見に来てくれたんだね。リリアンナ嬢、お久しぶりですね」
キースの隣にオリビアの婚約者のクリスがやって来てにこやかに挨拶をした。
「お久しぶりです。訓練、お疲れ様でした」
「ありがとう。最近忙しかったの?」
「まぁ、少し」
カイル様がまた女の人と話しているのを見たくなかっただけだけどね。
リリアンナは苦笑した。
「リリィ」
自分を呼ぶ声にびっくりして振り向くと、そこにはカイルがいた。
この間の愛称呼びはまだ続いてるんだとニヤつきそうになる顔をなんとか引き締めた。
「カイル様、お疲れ様です。この間はありがとうございました。楽しかったです」
「いや、こちらこそ楽しかったよ」
カイルの穏やかに笑う顔を見て、リリアンナはきゅんとしてしまった。
「あの、これ、差し入れです」
ドキドキするのを誤魔化すようにカイルに差し入れの袋を押し付けた。
「それでは、ご機嫌よう」
リリアンナは赤い顔を隠すように礼をしてその場を去って行った。
オリビアを置いて来てしまったのに気づいたのは訓練場を出て来てからだった。




