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三題噺⑱風船の洞窟

作者: 嘆木鳩

男がその洞窟を見つけたのは、偶然の出来事だった。山の中に一人で住んでいるその偏屈な男は、山の中を歩いているときに、ぽっかりと開いた入り口を見つけたのだ。初めて見つけたその場所に好奇心を抑えきれなくなった男は、洞窟の中に入っていった。

その洞窟の奥には、異様な光景が広がっていた。

赤、黄色、緑、青・・・。様々な色の風船が、その洞窟を埋め尽くさんばかりに浮いていたのだ。かなり長い時間浮いているらしく、小さくしぼんでいる風船もいくつか見られた。

男は、この山には自分一人しかいないと思っていたし、こんな見つかりにくい洞窟にわざわざ風船を運んでくる輩なんているのかととても驚いた。一体どのようにこれだけの風船を見ってきているのか、そもそもなぜ風船を運んでいるのか、すべてが謎だった。この謎を解明してやろうと、男はその日から毎日その洞窟を訪れるようになった。

男がその洞窟を訪れるようになって数日が経ったが、いまだに風船を運ぶものが見当たらなかった。それどころか、かなり奇妙なことが起こっていることに気が付いた。

男は最初、昼頃にその洞窟に向かっていた。朝早くこの洞窟を訪れる輩がいることを想像できなかったし、夜遅くわざわざ山に来るような輩がいることも、同様に想像できなかったからだ。しかし、昼間に何度訪れても、運び屋は現れなかった。そのうち男は、朝や夜にも洞窟を訪れるようになったが、結果は何も変わらなかった。

それでは運び屋は現れなかったのかと言えば、そうではなかった。男は時間があるときに、風船が洞窟にいくつあるか、何色があるかをメモしていた時があった。その数日後に改めて調べてみると、数が増えていたのだ。風船がしぼんで数が減ることはあれど、増えるのは明らかにおかしい。運び屋が来ている証拠だった。そのことに気が付いた男は、何が何でも運び屋を見ようと躍起になっていた。

だが、さらに時間が経つにつれ、男は運び屋の存在を疑うようになっていた。どれだけ張り込んでも見つけることが出来ないからというのはもちろんそうだが、もう一つ、疑いを持つ要素があった。その洞窟に、自分以外に何者かが来た形跡が何一つなかいことに気が付いたのだ。男以外の足跡はなく、動物すらこの近くには来ていないらしかった。そのことに気が付いた男は思い切って、洞窟の周りに罠を仕掛けてみた。だが、数日たっても罠に引っかかるものは現れなかった。にもかかわらず、洞窟の中の風船は増え続けていた。

男はついに意を決して、洞窟の中で一晩明かすことを決意した。洞窟の中で過ごすというのは当然ながら危険が多いが、それどもなお真相をこの目で見たいと、男は洞窟に泊まり込んだ。

そして、ついに男はその瞬間を目撃した。

何もないはずの洞窟の地面から、すっと、風船が浮かんできたのだ。

男は目を疑った。だが同時に納得もした。運び屋なんていなくて、洞窟にそのまま風船が現れたというのが正しい答えだったのだ。

しかしなぜ風船が浮かんで来るのかと、男は風船が現れた場所をのぞき込んだ。

その瞬間、男は足を滑らせ、洞窟の地面に落ちていった。

男は思い出していた。子供のころ、手から風船が離れるあの経験を。それが徐々に空に舞い上がり、いつの間にか消えていくのを。あの風船はどこに行くのだろうと。

それが、時間と場所を超えてこんなところに来ていたのか。それが、男が最期に気付いたことだった。


その洞窟は、今も人に知られることなく、ただ消えていくだけだった風船たちをとどめ続けている。


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