7話親睦会その三
ーとある宮殿の廊下にてー
「久しいなぁ、カルミア。
試験は三日前に終わったと聞いたが、
今まで何をしていたのかい?」
「カールス兄様、少し道中で具合が悪くなってしまい、
宮殿につくのが遅くなった次第でございます。」
カールス兄さま。
王の候補として相応しい学力、能力を兼ね備え、
人望もあつい、まさに〝完璧〟という名が相応しい人である。
さすがは、王位継承権第一位であり、私との実力の差は、天と地ほど離れているといっても過言ではない。
「そうか。
知らせを聞いた時には驚いたが、
まさか君と対等に戦える人がいたとはね。
カルミアにとっては面白くない結果だったとは思うけど、それでこそこの学園に入る意味があったのではないかい?」
「…はい。では私はこれで失礼させていただきます。」
ふぅー。とカールス・エルグリッド・アマテラスは
カルミアの後ろ姿をながめてため息をつく。
あれは、完全に王族としてのプライドをおられ、
落ち込んでいるんだろうな。
それにあれほど美しい顔に大きなくまができている。
でも今僕がこれ以上何かいっても彼女の慰めにはならないだろう。ここはそっと様子を見よう。
全く、妹と接するのは大変だな。
私は慢心していたのだろうか。
あれほど屈辱を受けたのは生まれて初めてだ。
この国の中で、いや、ヴァルクール大陸の人族の中でも
私は屈指の実力者であると自負していたし、事実だったはずだ。それなのに…。…それなのにっ!
…前田春馬。
次会う時は勝つ。絶対にお前の惨めな負け顔を拝んでやる。絶対に!
「「どうしてこうなった…。」」
悟くんと亜美さんは揃っていった。
「まぁまぁジャンケンなんだし落ち込むなよ。
あと、5時になったら駅に集合な。
じゃ、かいさーん。」
そう言い、悟くんと柚さんは颯爽と消えていった。
あの落ち込んでる二人は、しばらくベンチに座っているだろう。
「じゃあ、行こっか?瀬奈さん」
「うん!」
瀬奈さんはパーフェクトスマイルで僕のハートを掴み、
頷く。やばい、ヴィーナス様と出会ってからいい事が次々と降ってくる気がする。
「とりあいず、ジェットコスターだっけ?
僕は乗った事ないから行ってみたいんだけどどうかな?」
「私もないから行ってみたいな」
「じゃあそうしよっか。」
僕たちが地図を見ながら、ジェットコスターまで
トコトコと歩く事数分ー
「これがジェットコスターかぁー。おっきーなぁ。」
僕がそう思っていた直後、
きゃあああああああああああああああ!!!!!
もはや直角に近い角度で40メートルくらい上から下に落ちる人たちを見て、
「瀬奈さん?やっぱやめない?」
あんな怖い乗り物、絶対に乗れない。
お願い瀬奈さん。乗らないっていってください。
…。現実はうまくいかないみたいだ。
瀬奈さんは、ジェットコスターに乗る人達を輝く目で見つめながら、
「なんでよ春馬くん!あれは乗らないと後悔するよ!
早く乗ろ!」
なんであれを見て楽しそうだと思えるのだろうか。
僕は瀬奈さんにはんば強引にジェットコスターの受け付けにつれてこられ、気づいたらジェットコスターに乗っている。
これから訪れるであろう絶望に震えながら、自分自身を慰める。
これも全て、瀬奈さんのような女性と一緒の時間を過ごすため。
そう決心し、僕はごんごんごん、となり響く上がり坂で決心をする。
隣にいる瀬奈さんの顔を見ると、とてもご機嫌な様子だった。
ごんごんという音が急速にあやぐなっていくにつれ、
直角に近い下り坂を猛スピードで駆け抜ける。
ぎゃああああああああああああ!
ー前言撤回ー
ぃ!息ができない!
まるで無に近い重力の中で息のできないように、
胃に溜まっていた水分が逆流するかのように。
僕はひたすら下にうつむき、目をつぶった。
そして、右手で暖かい何かをジェットコスターが終わるまでずっと掴んでいた。
ごん、ごん、ごごごごん。
「春馬くんたらっ、フフフ。そんなんじゃ、ヘタレさんって呼ぶよ?」
「ウゥッ。うぇっ。」
「大丈夫?とりあいず一回降りるよ、ほら」
僕は瀬奈さんに引っ張られるように降りる。
そして近くにあったベンチに座る。
「もう、落ち着いた?春馬くん」
「ふぅー。ありがとう瀬奈さん。少し落ち着いたよ」
「もー、せっかく楽しかったのにぃ、。
春馬くん、ジェットコスターが苦手だなんて
きっと人生の半分損してるよ、フフフ」
そう瀬奈さんが冗談混じりに言う。
「そうかもね。ハハ、なさけない。」
「ほんとだよ!ちょっと残念。」
「もしかして嫌いになっちゃった?」
僕は不安になる。
瀬奈さんとこれからも仲良くしていきたい。
嫌われたくない。
そう僕が言うと、瀬奈さんは口もとを手で隠すように驚く仕草をして、
「ち、ちがうよ?私は春馬くんのこと、実技試験でみかけてカッコいいなって思ったし、。
あと!今こうやって話してるのも楽しいし!ね?
嫌いなんかじゃないよ!ただ冗談のつもりで残念って……。」
大きな二重の目で彼女に見つめられながら、そう言われた僕は言葉が出なかった。
僕がかっこいい?
もしかして、僕に気があるのかな。
僕は次第にこれまでにないほど顔を赤らめ、
同時に自分の言ったことがどういうことなのか気がついた瀬奈さんも今までにないほどに顔を赤らめ、
数秒が一瞬にしてたち、
僕は、ドキドキと震えながらも、
「実は僕、瀬奈さんと話してて、ほんとに楽しかったし今までこんな可愛い人と会ったことがなかったし、ましてや女の子と話す機会なんてなかったし…。
その、、なんていうか、嬉しいです。」
そう僕がいうと、瀬奈さんは、恥ずかしがりながらも、
少し嬉しそうに頬をあげ、
「そっか。じゃ、じゃあ、こ、これから私のこと瀬奈さんじゃなくて、そ、その、瀬名って言ってほしい、な」
「うん、瀬奈。これでいいかな?
ボ、僕のことも呼び捨てでいいよ。」
「じゃあ春って呼ぶねこれから。ふふ。
あ、あらためて、その、よろしくね?」
気がついたら僕たちは手を繋いでいた。
それも恋人繋ぎで。
いつからだろう。
きっとジェットコスターの時かな?
僕は慌てて手を離そうとしたが、瀬奈がもうちょっとつなぎたいと言い、僕はその一言がたまらなく嬉しかった。
そして結局、ジェットコスターにまた乗りたいと
瀬奈は子供のようにいい、結局1人で2回乗った。
そして、時刻は3時。
満足した顔で帰ってきた瀬奈は、
「はぁー!楽しかったぁ!
やっぱ春馬人生損してるよー、ふふふ。」
「してませーん」
「してますぅ。」
「してないものはしてません。」
「してるったらしてるの。
まぁ、哀れな春馬ってことにしとくね?ふふふ。
「あのなぁー、ハハハハっ」
「フフフフ。」
僕たちは、笑いながら青い空の下で手を繋ぎ、歩いた。
「せっかくだし、瀬奈。
プリくるってところで写真撮らないかな?」
僕がそういうと、瀬奈は目をキラキラと光らせ、
「いきたいな!」
僕と瀬奈は、いろんなポーズをして、複数枚写真を撮った。
出来上がった写真を手に取り、僕と瀬奈は笑い合う。
「ハハハ、この瀬奈面白い」
「春馬こそ、このポーズかわいいね、フフフ」
瀬奈にそう言われて、僕はまた照れてしまう。
こんなに可愛い人が隣にいるのだから仕方ない。
瀬奈ととったこの写真、宝物にしよう。
そう僕は考えながら、やはりご機嫌な瀬奈と
飲み物を買いに行くためにトコトコと歩いていく。
500mlのアップルジュースを僕は買い、
パキっと蓋をあけ、ごくごくと飲む。
瀬奈が何やら僕の飲んでいるジュースを見つめている。
「どうしたの?」と僕は聞く。
「いや、なんでもないよ、」
きっと、アップルジュースが美味しそうに見えたのか、
何を買うのかで迷っているようだった。
僕は、すでに自動販売機に150円が入ってるのを確認して、あえてお釣りボタンを押す。
「これ、僕が口つけちゃったやつだけど飲んでみる?」
「う、うん。少しだけ飲み物が飲みたかった気分だったから。飲ませて欲しいな。」
僕は、瀬奈にジュースを渡し、瀬奈がごくごくと飲む。
「美味しいね、フフフ。春馬って積極的なんだね意外と。」
僕も自分で自分のしたことに驚いている。
ヴィーナス様や悟たちと出会って、僕は少しずつ変わっているのだろうか。
そう思いながら、瀬奈からジュースを返してもらうと、
何やら見たこのある姿を僕は見つける。
亜美さんと淳くんだ。
二人とも何かに落ち込んでいたようなので心配だった僕は二人の意外な姿を目撃した。
どうやら楽しそうに二人で笑って話している。
僕は、その光景を遠くから見れてホッとする。
4時50分くらいになり、僕と瀬奈は駅に向かう。
僕たちが駅に着く頃にはみんながもう既にいたようだ。
「おっせーぞ春馬!
30秒くらい多分遅刻してるぞ!」
淳くんは元気そうだ。
「いや間に合ってるよ春馬くん。
このバカの言うことは気にしないでね!」
「おい亜美!馬鹿ってなんだ馬鹿って!」
「だって馬鹿じゃんか」
「馬鹿じゃないし!お前の方が絶対馬鹿だ。」
何やら淳くんと亜美さんの間で揉め事が起きたみたいだ。
「おー、バカップルできちゃったのそこ?、え?」
とこの光景を面白がった悟くんが煽る。
絶対今の言わなくていいことでしょ…。
僕は少し呆れながらも、
「「ちがうわ!」」
…うん。たしかに淳くんと亜美さんはお似合いだと僕は思った。
ガタンゴトン、ガタンゴトン、
熟したみかん色に染まった夕日にあたる建物を見ながら
この楽しかった1日が終わってしまうのかと、
僕はどこか寂しい気持ちでいた。
淳くんと亜美さんは、今日一日で疲れたのか、ぐっすりと眠っている。
悟くんと柚さんは、何やら二人で話しているみたく、
僕は、見ていた窓の外の景色から隣に座る瀬奈に目を向ける。
瀬奈も淳くんと亜美さんと同様、疲れてすぴー、すぴー、と眠っているようだった。
瀬奈の寝顔も可愛いなと思いつつ、僕はこっそり瀬奈の手を握る。
すると、瀬奈は何やら寝言を言って僕の肩へと頭を傾けるのだった。
そして、僕も気づいたら眠りについてしまっていた。
「茜色の夕日に照らされる、理想のカップル。
いやぁ絵になるね、春馬と安土さんは」
そう悟が寝ている二人をニヤリと笑みを浮かべながら
みる。
「春馬くんたちの前の二人に比べたらたしかにね。
幸せは永遠には来ない。あの二人もいつかー」
「まぁまぁ、柚。永遠にはないからこそ、
甘酸っぱくて、美しいものなんだろう恋愛っていうのは。僕は自分が恋愛するより、みる方が好きなんだよね。」
「まぁ、たしかにね。さて、とりあえずそろそろ彼らを起こさないとね。頼んだ悟。」
「えぇ、嫌だよ。こういうのは可愛いレディに起こしてもらった方がみんな喜ぶよ。」
「ったく。悟は性格が悪いな。これじゃ生涯独身確定だね。」
「ハハ、柚に将来を心配されるとはね、」
そう言い、結局僕たちを起こしてくれたのは柚さんだった。
次回からついに学園編!