5話親睦会その一
―神が集う会合にてー
「最近ドラゴンがやけに静かなんだよねー。
あいつららしくないっつか、なにか怪しい気がするってか。
レインカーン大陸の調査報告はこんな感じー。
THE.平和だよー。」
「うんうん、ご苦労様ナムナル。
次は、セインカース大陸の状況報告だわ。
マグナム?」
「おう、何やらアースガルド渓谷で巨人族と吸血鬼族で縄張り争いをしているようだ。
あと、厄介なことに今まで封印されていた魔女の
4人のうち1人が封印していた場所から姿を消した。
早急にとっ捕まえなきゃレインカーン大陸が丸焼けになってしまう。報告は以上だ。」
「それは困ったわね。
最後にヴァルクール大陸の状況報告ね。」
「はい。報告は3つ。
一つは、同じく魔女のことです。
私の部下が大陸巡回中、それらしき姿を見たようです。
部下によると、魔女らしき者の周りの魔素が、震えていたようです。
2つ目は、伝染病が獣族の中で広まっていることです。
今のところ、感染拡大は抑えられていますが、
回復できず、死亡者が日に日に爆増しています。
こちらも早急な対処が必要かと。
最後に、人族の間で戦争が発生しました。
ですが、じきに決着がつくことでしょう。
以上でございます。ヴィーナス様。」
「はぁー。せっかく〝彼〟に会えてひと段落ついたかと思ったのにー。
厄介事が次から次に降ってくるんだもんね。」
この世界の最高神ヴィーナス。
それに続く幹部3名
ナムナル・メンデレス・クリス
マグナム・イーヴィルヒート
ハルカス・ルーレット
彼らは神族の中でも、ずば抜けて優秀な3人であり、
ヴィーナスと同格に近いほどの能力と知力を有している。
一般的に上から
自然の神
火と破壊の神
知識の神
と呼ばれている。
「すべての対応は、あなたたちに任せます。
今日はこれでお開きとしましょう。」
「御意」
神は大変だ。自分より下等生物を監視する必要があるし、休日という休日が一日も存在しない。
はぁー。天使だった頃に戻りたい。
ずっと寝ていたい。
ハルカスは、そうありたかったと地上を空の上から見つめるのであった。
「新聞配達でーす!」
そういい、扉にノックをすると、
何やら朝から喘ぎ声が聞こえる。
朝からって…。ハッスルしすぎじゃないですかまったく。僕は昨日から新聞配達してるっつーのに。
そう心の中で愚痴っていたら、喘ぎ声がやみ、
扉の鍵を開ける音が聞こえた。
「タイミング悪りぃんだよおめえはよぉ!
少しは時間考えろグズがぁ!」
今朝の9時ですし、完全に八つ当たりされている。
今日は最悪の1日となるのかもと不吉な予感がした。
「すみませんでした。僕はこれで。」
僕が配達自転車に戻ると、止まっていた喘ぎ声がまた聞こえだす。ここは今、無血開城と化しているのか。
僕は、全身の震えを抑えながら次の配達先へと向かった。
「ただいまぁ。」
今日は父が仕事なので家には誰もいない。
この家ともそろそろお別れだね。
僕は、新聞配達でかいた汗を水道の蛇口から水をひねって濡らしたタオルで身体を洗う。
今日は、銭湯に行っていいよね。
いつもは、家に風呂がついていないのでキッチンにある水道からの水で身体を洗っている。
でも、明日は新しくできた秋良以来の友達。
さすがに会って臭いといわれ縁をきられたくないので、僕はお金を惜しまず、銭湯に使うことを決心した。
「はふぅー。」
約一年ぶりぐらいに銭湯に来て温泉に入ったので、
今まで蓄積されてきた疲れが一気に分散するのを感じる。
温泉、最高。
見事に全身から漂っていたであろう汚臭を取り除き、僕の身体自身もかつての輝きを取り戻す。
こう冷静になって自分の身体を観察すると、
しっかりつく筋肉はつき、腹も引き締まっている。
自分の身体におっとりしながら、銭湯で無料でもらえる部屋着のようなものを着ていると、
「お?おまえはあの剣の坊主か?」
え?
僕は相手が誰なのか過去の記憶を蘇ってみること数秒、
、、、!
「あの時の試験官ですか?!」
あのあご。絶対にそうだと僕は確信する。
「やっぱりそうかぁ。ふっ。
俺はお前さんが一番実技試験の時に、輝いてたと思っていたんだなぁ。
まさか貧民街に住んでいるとは、苦労人なんだなぁきっと。熱い、熱いぜ坊主!」
「え、えぇ。ありがとうございます。」
この人とはものすっごく話しずらい。
今日は本当に運がないみたいだ。
「学園で今度は、それぞれ教師と生徒として会おうぜ。アディウス!坊主!」
なんだろう。風のように登場し、風のように去ったな。
なんやあんやあったものの、無事家に戻り、おじさんが帰ってくる前に簡単な晩ご飯を作る。
「帰ってきたぞ春馬ー。」
どうやらご飯が完成する前に帰ってきてしまったが問題ない。
「じゃあ銭湯いってくるわ」
僕は水道の水で毎日身体を洗っているというのに、おじさんは毎日銭湯に行っている。
ほんとに優しさのかけらも見えない人だまったく。
30分後おじさんは熱った顔で帰ってきてご飯を一緒に食べる。
「おまえの作る飯はうめぇないつも。」
「はいはい。」
「もうちょい喜ぶかと思ったのに冷たいなぁ。」
「どうせからかってると思ったよ。大した材料使ってないし、塩胡椒がないし。我慢してよ?おじさんのせいでいつも金がないんだから。」
「こら、人聞きが悪いぞ。」
「はぁー。そうだ。明日、友達と遊びに行くからね」
そういうとおじさんが驚いた表情をし、
「おまえに友達ができるとはな!
やっぱあの実技試験で活躍できたからじゃねぇか!
我が子として嬉しいぞ!うっふん。」
「うんうん」
「せっかくなんだし明日くらいは金出してやるよ!
いっぱい遊んでこい!」
はぁー、とため息しか出ない。
「遊ぶ分のお金は自分で貯めたよ。
どうせ、おじさんがくれるお金なんてすずめの涙程度
だし。ほんとひどいよ。」
「おっバレた?じゃあお金はあげなくていいな?」
「いいよ」
晩ご飯を終え、食器を片付け、明日に備え僕は早く寝た。
おじさんの笑い声とテレビの音がうるさく、
あまり深く寝ることができなかった。
…クソじじぃだよやっぱ。
朝みずみずしい空気を大きく吸い、出てきたての太陽の光を全身で浴び、伸びをする。
一昨日買った安くて少しロゴが背中に描かれた白Tシャツにくるぶし丈のジーンズを着て、トートバッグを手に持ち、ベージュカラーのスニーカーを履く。
そして、一昨日稼いだ金で服などを買って余ったお金で床屋に行き、いい感じのマッシュっぽい髪型になった。
こう鏡で服を着た僕を見ると、貧民街に住んでいるとは思わせない、清潔感がありなかなか似合っているので自分を見てニヤニヤとしてしまう。
もちろん決して自分がかっこいいなと思ったのではない。
こんな自分もいるんだなと思っただけだ。
決して自画自賛しているわけではないよ???
財布の中を見ると、一昨日稼いだお金は全て服などで消え、昨日稼いだ1万円が入っている。
これで足りるかと少し不安になりつつもみんなとの集合場所に行くー。
ー僕はこの時まだ、財布の別ポケットの中におじさんが密かに千円入れてくれたことに気がついていなかったー