4話仲間
少し遅くなりましたすみません。
実技試験は無事終わり、
学科試験の時にいた教室へ戻る。
「これで試験は終了した。
けが人は何人かいたみたいだが、治癒士に直してもらったみたいだなぁ。」
治癒士とは名前のとうり、回復系の能力を持った、
いわばお医者さんみたいな人たちのことを指す。
実技試験では、必ず、小さな怪我から死に至る怪我まで
負ってしまう受験生がいるので、
学園側が、この王国の中でも優秀な治癒士を
複数用意しているわけだ。
「じゃあお前ら!結果発表は来週にする。
今日はこれで終了なんだなぁ。
解散だぜ!」
そういい、試験官は教室から出て行く。
その直後、僕の席の周りを囲うようにして、周囲が騒ぎ出す。まるで、興奮を抑えきれなかった無邪気な子供のように。
「おっまえ、すげぇじゃんかよ!
カルミア様にあれは実質勝ったみたいなもんだぞ!」
やっぱりその話題だよねー。
僕が、能力を発現したことに重なって、
相手が相手だったので、この周囲の状態に納得する。
有賀くんは、やっぱりと僕に対する疑問に納得したのか、颯爽と教室を出て行った。
ありがとうーうんーそうだねーあはは、
と流していること数分、
僕の席を取り巻いていた周囲も次第に数を減らしていき、今では5人となった。
しかし問題なのは、この5人があまりにもしつこく、
僕に絶大な興味と感心を抱いてしまっていることだ。
僕自身、今日の出来事を整理するのに頭がパニックになっているのに、彼らがあまりにも熱く、称賛してくれるのを聞いて、余計こんがらがってしまい、
今では頭から湯気が出ているような感じがして、
今にも大爆発を起こしそうだ。
5人の中でも一番といっていいほど、僕を絶賛してくれたのは、試験前に一番控え室で騒いでた大隈くんだ。
「大隈くんは勝てたのに、僕は引き分けだったんだ。
大隈くんの方がすごいよ。」
そういうと、大隈くんは納得しないような顔をし、
「だ〜か〜ら〜?相手が俺の時とか次元が違うんだよこれが!お前はあのカルミア様と戦って、無傷なんだぞこれが!」
大隈くんは興奮すると「これが!」を語尾につける癖があるのだろう。僕はくすりと笑う。
「いや傷は結構おったよ?」
「でも、直ってたじゃねぇか」
「あ、うん」
僕は言い逃れをすることができなかったのか、
大隈くんを含む5人に笑われる。
今までの蔑まれた笑い方でなく、対等な人として。
大隈くんが自分の家のハンバーガー屋にいこうと言い出して、僕の周囲に最後に残っていた5人と一緒に学園から歩いていく。
大隈くんと元から仲が良かったという桐谷くんは、
茶髪で、鼻筋が綺麗で少し焼けている、
圧倒的なイケメンオーラを醸し出している。
「俺はさ、最初うわさで春馬のことを聞いた時さ、
かわいそうな子だなって少し馬鹿にしてたんだよ。
でも実際に会ってみてこいつは誰よりも努力して苦労してきたやつなんだなって手の傷や顔を見て確信したんだ。
だから、偏見で人を評価してた自分が恥ずいし、過去の自分を殴りたいと思った。
あらためてごめんな、春馬。
よかったら俺と仲良くして欲しい。」
茜色に染まった、美しい夕焼けを歩きながら眺めていた僕に、唐突のカミングアウト。
あれ?
イケメンなのにタイミングって言葉知らない人かな?
「私も同じよ!前田くんを最初は馬鹿にしてた。
この人は、この国のお荷物だなって。
ほんとごめん。私って最低だよね、、」
いや私もだよ、俺もと5人全員が僕に謝ってくる。
あれ?今ってそういうタイミングでよかったの?
僕頭パンクして、今まともに話せないんですけど。
「あ、うん。謝ってくれて嬉しいです。
これから僕もみんなと仲良くしたかったでした。
うん。うん?」
自分自身何をいっているか分からず、ぼやけた5人の顔をながめていたことを最後に意識が途切れた。
バタっ。僕は足の力がするりと抜けるように横に倒れた。
「おい、春馬!大丈夫か!
とりあいず俺ん家に運ぶから大隈、春馬を担いでくれ!」
「ああ!」
「ちょっと待って大隈くん!」
女の子の一人、佐藤柚が言った。
「私の能力、重力操作で前田くんを浮かせて運ぶわ。」
「ああ、たのんだ、とにかく、みんな急ごう。」
目が覚めると僕は見知らぬ部屋のベットで寝ていた。
僕は倒れたのか?
大隈くんたちに謝ってもらったところまで覚えている。
この部屋の窓の外から、肉の焼けるいい匂いがする。
「起きたみたいですね、春馬くん!」
「あなたは、。」
「覚えてもらえてない?!がくり。
そっか!自己紹介しなかったもんね!
私は水野亜美。
春馬くんは1時間くらい寝てて今みんな下でハンバーガー?食べてるよ。」
「そっか。僕を見守ってくれてありがとう水野さん。
女性に自分を見守られるの、ちょっと恥ずかしいな、ハハハ。」
そういうと、水野さんは、少しほおを赤らめ、
「そっか。ふふ。春馬くんってあんま女の子と関わりなかった感じ?」
「まー、うん。僕に興味を持ってくれる優しい女の子なんていなかったよ、ハハハ」
「そっか!じゃあ私が春馬くんの初めての女の子の友達になるね!」
僕はドキッとした。
今までに僕にこんな優しくしてくれる女の子がいただろうか。
というか、話すらろくにしたことがなく、今ちゃんと話せているだろうか。
…。でももし、今日あの時、ヴィーナス様にあわずに、
負けていたら、きっと僕に優しくしてくれることはなかっただろう。
僕はひねくれているのだろうか。
そう考えると答えの出ないパラドックスに陥る。
世界は優しくなんかなく、友情も信頼も勝手に振ってくるものではない。
そして僕と同じであり同じではない人間が憎らしい。
それを今まで生きてきて散々理解したはずだ。
でも、ヴィーナス様と出会って、どこか閉鎖的で、薄暗く、埃っぽい僕の世界に光が差し込んだ。
その光は暖かく、優しく、薄暗い僕の世界から、手を差し伸べるかのように、光の先に扉が現れた。
今、僕はその扉を開けて、
眩しくて、今まで憧れていた〝みんな〟の世界にこれから馴染めるだろうか。
ここからは、僕次第だ。
薄暗くて落ち着く僕の世界の部屋に戻ってもいいし、扉の先の輝く世界でみんなのように僕も一つの自分らしい色になるもいい。
ありがとうございます、ヴィーナス様。
これからも見守っててください。
この恩はいつか返します。
「おーい?おーいおーい?あれ?
おーーーい!なにボォーッとしちゃってるの!」
「あぁ、ごめんね、少し考え事していたんだ。
よければ僕と友達としてこれからもよろしくね。」
水野さんは満遍の笑みで僕の目を見て可愛らしく、
「うん!よろしくね、春馬くん!」
「いつの間に仲良くなっちゃって、
それよりも起きたか春馬!」
いつのまにか部屋の中に大隈くんが入ってきていた。
それも、ハンバーガーらしきものをむしゃむしゃ食べながら。
「ちょっと淳、口ん中に物入れながらしゃべるなっていつもいってるよな?」
「あーあーすいませんでした〜」
「おまえはいつもー」
桐谷さんも大変だな。
僕はそう思った。
「身体は大丈夫か?近くに薬草屋があったから適当に春馬に良さそうなやつの飲ませたけど」
大隈さん?適当にって絶対ダメなやつじゃないかな?
でも身体は動くし、頭も楽になっている。
「平気そう。ありがとうみんな。
あと心配かけてごめんね。」
「いいってことよ。」
大隈くんがハンバーガーを食べ終わったのか、
口の周りについたソースを桐谷くんにとってもらいながらいう。
説得力がないな…。ははは。
「春馬の分のハンバーガー下にあるからこいよ、
爆発するぜ?うまさに。」
僕は素直に従い、下に4人で降りる。
降りるとそこには調理場があり、その広さに驚きつつ、さらにその先の扉を開くとー。
沢山の人が席を埋め、酒を飲んで盛り上がっている人たち、親子で美味しくハンバーガーを食べている人や、
おばさんたちがおしゃべりしていたりと、
店内は広く、大繁盛していた。
「どうや?すげえだろ俺ん家は!」
たしかにすごい。調理場の広さでも僕の家より広いのではないかと疑うほどだ。
「すごいよ!」
「だろだろ!」
大隈くんが満足げに頷く。
「こっちだよー。」
席を見渡していたら、女の子2人が僕たちに向かって手を振っているのが見えた。
そして僕たちはそこの席へと行く。
「全員揃ったし、あらためて自己紹介しよっか。」
と桐谷くんが仕切る。
「僕は、前ー」
「うん、みんな知ってます!はい次!」
あれ、僕の自己紹介できないのかな?
「俺は大隈淳!ってみんな多分知ってるよな!」
全員が頷く。
なんせ、控え室で一番騒いでた人だし。
「俺は桐谷悟。同じ控え室に桐谷三貴っていう人がいましたが兄弟ではないし始めてあった人です。
桐谷界の中でも一番有名になれるよう頑張りまーす。
よろしく。」
「ギャハハハハハ!はらいてぇw
おまえらしくない自己紹介だな桐谷w」
「うっせぇうっせ」
桐谷くんが手で自己紹介の続きを促す。
「私は水野亜美。みんなはじめましてが多いけど早く仲良くなりたいです!よろしく!」
「よろしく!」
早速女の子同士仲良くなり始めているみたいだ。
「私は佐藤柚。重い、ほんと重〜い前田くんを
ここまで運んだ人です。よろしく。」
重いとは…。たしかに重いと思うけど。
「その節はどうもです。」
「えぇ」
なかなかクールな人なのだろう佐藤さんは。
「最後ですね、私は安土瀬奈です。
私もみんなと会えたのは何かの縁ですし仲良くなりたいなって思います。よろしくお願いします!」
温厚な人だなぁと僕は安土さんを見ておっとりする。
その視線に気が付いたのか安土さんは髪の一部を手でくるくる仕草を見せる。
「全員自己紹介終えたな!
せっかくみんな集まったし、もっと仲良くなりたいし、
今度遊びに行かね?」
みんな大隈くんの意見に賛同する。
「学園に入学したらしばらく学園の外に出れないしね。」
そう、僕たちが入る学園は全寮制で、
学園の敷地の外に出ることは卒業するまでできない。
でも、学園の敷地内にアミューズメント施設やショッピングモールはあると秋良に聞いた。
「からおっけとかどうよ?歌うの楽しいし盛り上がるぜ!」
「いいな。他のみんなは行きたいところあるかな?」
「ジェットコスター乗りたい!」
「じゃあ天津パークはどうよ?
からおっけとジェットコスターに加えてショッピングモールもある、ヤベェ!完璧すぎじゃんかこれ!」
みんな着々と遊ぶところを決めていくが僕は重要なことに気づく。
お金がない!!!!!
明日とか言われたら流石にきついと僕は思う。
「みんな三日後の日でいいかな?」
「いーよ!」
「いいぜ」
はぁー。危なかった。僕は安堵する。
遊ぶ分のお金稼ぐために2日は新聞配達で潰れちゃうよ。
はぁー。ため息しか出ない。
「色々決まったな!よし!
せっかくだしここで写真とろーぜ!」
みんなは賛成し、ここでの記念の一枚を紙に焼きつける。
その後もいろんな話をして盛り上がり、
9時くらいになったところで今日は幕引きとなった。
次回天津パーク編!
本編にはあんまり関係ないですが、
春馬の新しい友達との仲を深める話です。
お楽しみに