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3話~策略のアーレス

 

 急遽、王子アーレスと模擬戦が組まれることになったコウ。

 

 一応、自由に散策することができたので、城の中を色々と回ってみた。巨大すぎる謁見の間から、城の中に住む者の胃袋を管理している食堂に行き、甘いカボチャのスープをもらった。螺旋階段を昇り物見の塔では、景色の良い街並みを眺め空気を吸った。


 宝物庫の部屋の前には全身鎧で大きな兵士が立っていたので、某勇者のように宝箱の中身を好き勝手に確認することはできなかった。コウはひどく残念がった。



 見習い神官のクリスティとともに、城の外へ出ようとしたがこれは敵わなかった。



「模擬戦が終わるまで城の外へは通してはならない。そう命じられています勇者様」など兵士には言われた。召喚されたばかりだが、しっかりと自身の存在を認知されてるのを再確認した。


「そこをなんとか頼むよ、勇者のお願いだよ」


 兵士はゆっくりと首を横に振った。


「ちぇっケチ」



「よろしければ他の者に、中庭まで案内させましょうか勇者様?」


「いらないよ。見張りが減ったらまた狼藉者が入ってくるんじゃないか。特に姫様の風呂場の見張りを増やした方がいい。誰かがワープしてくるかも」


 コウなりにワープした時にことを猛烈に皮肉ったのだが、兵士は「はぁ」と薄い反応だった。コウは面白くねえなぁと思いながら、その場をあとにした。





「そういやクリス。皆が勇者て俺を呼ぶけど勇者て何すんの?」


 シンプルな質問だが、シンプルすぎるゆえに少し説明に困った見習い神官クリスティ。少し考えてから、たどたどしい口調で説明を始めた。



「そうですね……世界は魔王によって侵略されつつあり混沌としています。やはり勇者様の力で魔王を倒せるとみんな信じているんです」



「そこ。そこだよ気になるのは。別に俺じゃなくてもさ、世界の国が協力して魔王の城にバーンと突入してやっつけりゃいいんじゃないの?」



 コウの言い分はもっともだった。

 勇者という一個人の力に頼るより、国同士が連携をとって一網打尽にした方が話は早い。




「それが国によっては仲の悪いとこもありますし、魔王軍の本拠地が未だ発見されてないんですよね」



「……マジ?」



「マジです」



「うわぁ、それ一番めんどくさいやつだ。不死鳥ラーミアとか飛空艇とかないの?」


「なんのことです?」



 うな垂れるコウの前に兵士がやってきて、中庭で御前試合の準備できたのだと告げに来た。


 はて御前試合? コウの記憶ではただの模擬戦をやると聞いている。気楽な稽古程度の規模だと思ったが、事体は大きなことになっているとコウは思った。



 仕方なく中庭に出ると既に人だかりが出来ていて、コウが現れると「おぉっ」と歓声の声があがった。



 一部の特等席には日よけ用の天幕が張られていて、王や大臣がイスに座っている。

 昔話に出てくるような、大きなクジャクのような羽のうちわで王を仰いでいる侍女がいる。

 さらには黄金の杯を掲げており、側付きの侍女がぶどう酒のワインを注いだ。



 コウに気づいた王は視線が合うと、コクリとうなずいた。



(何のうなずきだよ。人を見世物にして高見の見物かい!)


 とコウは言ってやりたかった。

 以心伝心できたらいいのにと思った。



「お待ちしてました勇者殿。ぜひ今日は胸を借りるつもりで腕試しさせていただきます、まあお手柔らかに頼みますよ」


 歓迎のポーズで両腕を広げるアーレス。

 城内で着ていた、白銀の鎧は脱ぎ軽装のようだ。



 爽やかに笑うアーレスを、どうにもコウは好きにはなれなれない。

 自信に溢れた喋り方に、どこか自分を見下しているような王族ゆえの傲慢さを肌で感じとっていた。


(……それに何だよアレは!?)




「キャー!」

「アーレス様ー!」

「こっち向いてー!」

「かっこいいー!」



 空から桶をひっくり返したような黄色い声援が、中庭で沸き上がった。

 観客のほとんどが若い女で、目を輝かせアーレスを注視している。



「すごい声援ですね」


「どこのアイドル会場だここは。アイドルには俺は興味ねえぞ、特に男には」


 コウは辺りを見渡すと、アーレスのファンのような女達から非難がましい目で見られる。



「あれがアーレス様と対戦する勇者?」


「なんか強そうに見えない。アーレス様の方が勇者ぽいって」


「何で男なのに後ろの髪結ってるの? 勇者だから? 女になりたいのあれ?」




「すっげえアウェイだな。てか悪口なら聞こえないとこでやれ! 髪のことはいいだろ別に!」



 髪のことを指摘されコウは怒った。


「やだ、こわーい」


「勇者様なのに女の子を怖がらせんなよ!」


「そうよ! サイテー」



(……っすげえ、うぜえ。だいたい関取みたいな体型して何がこわーいだ。あいつ場を用意するってわざと囲いの信者を呼んできたんじゃねえだろうなぁ? 俺の勘ってけっこう当たるからさ)



 コウは押し黙ったまま、アーレスの取り巻きに背を向ける。

 バケツがこの場にあったら水を女達にブチ撒いていただろう、そんな気持ちを抑えるのだった。



「勇者様! 応援しますから、ほどほどにがんばってください」



 見習い神官のクリスティがそう言い、コウの背中をぽんと軽く叩いてファイティングポーズの仕草で両手をグーにし、肩まで上げた。そして群衆がいる定位置まで戻っていった。



(あれ? 何でだろう。怒りが風で飛んでいったみたいに軽くなった――まっいいか)



「勇者殿は剣ですかそれとも槍を? 私は合わせますよ斧以外ならね」


「剣でいいよ」



 改めてアーレスと正面切って向き合う。

 170センチあるコウより僅かに背が高く、不敵な笑みを見せつけている。体格的には鍛えているのか帰宅部のコウより細身だがガッチリしている。



 アーレスは従者にアゴで指示をし、大事そうに抱えコウに剣を渡した。


 初めて持つ剣はズシリとした重量があり、おそるおそる鞘を抜き取ると――


 なんとも無骨な剣が姿を現した。

 見るまでは、鋼のような強度と鋭さがあると思っていたのだが。

 そんな輝きもないし、剣のところどころが傷みくすんでいる。


「え……と、これ中古じゃね、てか真剣かよ!」



 今更、抗議とツッコミを混じえた訴えをアーレスにするコウ。

 それに対しアーレス、きょとんとした表情で――


「何か不服でも?」


「当たり前だろ、そっちの真剣の方が強そうだぞ!」


 アーレスは白い布で剣を磨いていた。

 手を止め自分の持つ剣に改めて視線を落とした。



「どうみてもそれ業物だろ!? こっちのポンコツと比べてみろ!」


 コウの持つ無骨で傷んだ肉厚のボロ剣よりも、アーレスの持つ剣は誰が見ても洗練されている。


 剣の柄にはルビーの宝石がはめこまれており、刀身の鍔の部分は4つの蟹の手のように見えた。鞘の辺りは青白い塗装がされているようだった。刀身じたいにも文字のようなものが彫られている。同じロングソード形態の剣でも、コウとアーレスのそれでは天と地の違いがあった。


 そして弁明とすると思いきやアーレスは――



「さすが勇者殿、この業物アンサラーの価値に気づかれるとは」


 と悪気もなくコウを褒め称えるアーレス。


「平等な条件じゃないと意味がねえだろ! 木の剣にしようぜ」


「……木剣ですか。ハンデとしてこれくらいの差はつけてもらおうと思ったのですが、案外小心者なのですね勇者様は」


 残念そうに言うアーレスの放った言葉の矢が、コウの頭にぐさぐさと命中する。



 コイツはやなヤツだな。

 そして、めんどうくせえヤツだ。

 とコウは確信を深める。


 こういう手合いには関わり合いにならない方がいいと、人知れず決意した。


「いいでしょう、木剣にしましょう。木剣などお遊戯ですがね」


 涼やかにアーレスは言い、従者に業物アンサラーを渡して木剣を受け取る。



(最初からそうしろよ……ったく)




「互いにケガはしたくないだろ。木剣で良かったと思うぜ、きっと」




「なるほど、さすがは勇者殿だ。木剣とはいえ楽しめそうです」




 その場でアーレスが、正眼に構えた木剣を試し斬りするように素振りをするとびゅん、と風を斬るような音がした。その動きは軽く振ったように見えた。



(あっ。こいつ多分普通に強そうだぞ。勝てるの俺? 無理じゃね……だって俺、剣道とかやったことないし。うーん、どうすっかな)



 剣を握ったこともないコウですら分かる、実力の差が明白にあった。



「じゃあ始めましょうか」




 アーレスが目で王に合図を送る。

 王はそれに応え手を高く掲げ――


「これより御前試合を行う」と高らかに宣言をしたのだった。



「元々模擬戦なのに、勝手に盛りやがって」



「アーレス様がんばってー!」


「勇者なんて、けちょんけちょんにしてくださいー!」


「おい勇者! アーレス様にケガさせえたら承知しないからね!」



(……おいおいアウェイすぎねえか。俺はヒールレスラーに転職した覚えはねえんだけどな)



「木剣ですからね本気でいかせてもらいますよ。久々にいい練習が出来そうです」



「あまり気負うなよ。地面に転んでも知らないぜ」




 こうしてアウェイ真っ只中で、コウとアーレスによる御前試合が開始された。


三人称だと少し文字が多くなりがち。

だからテンポが気になる今日このごろ。


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