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20話~ヘビーモス討伐作戦5~死線

 

 コウにとっては二度目の転移。気が付いたら見知らぬ土地にワープするという、ビックリ仰天の事態に、驚きよりも理不尽や不愉快という感情が勝った。悪趣味な神かあるいは運命のイタズラに、いい加減にしろと怒りがこみあげてきて、



 しばしの茫然自失の後に、少し上半身を丸め、ワナワナとコウは怒りで震えながら、



「またかよ! もう間に合ってんだよ!」



 いつものように冷静に皮肉を言う余裕すらなく、天に向けて咆哮するように叫んだ。答える神はおらず、上空に見える少し欠けた満月の下を、黒い不気味な生き物が理由もなさそうに飛び交っているだけだ。




 パッと見たところ、現在いる場所は森のようだ。

 コウ達のいる場所は森の外側のようで、腐葉土の上に湿っぽい葉がいくつも落ちている。森だというのに虫の息一つせず建物も人の気配もなく静まり返っている。

 後方には遠くに黒い山々が連なって見えていた。




「ど、どうなってるでごじゃるか……?」



 困惑しているのはコウだけでなく、サザレも同じ。もう一人のザクロはというと、ネコのような大きな目をより開けていたものの、周囲を見渡したあとで目を細め冷静に努める。



「さあな。だが幻覚の類ではない、これは現実だ。なら次にどうするか考えろ」



 と、原因であろう台座のオブジェに悪態をつきながら、中腹部の金属に蹴りを入れるコウに視線を向けた。



「反応しろよ! クソっ! バグってんのかこいつ!」



 無言で背後に近づき、自分より一回り背の高いコウの襟首を掴んだ。そして後ろに方腕の動作だけで引っ張り投げた。



 クレーンに真後ろから引っ張られたような感覚の後で、地面に尻餅をついてから自分がザクロに投げられたのだと気づく。



「なにすんだってめっ……」



 条件反射的にザクロを見上げ抗議の声を上げるが、今度は頭から水をかけられた。ザクロが皮袋の水筒の全部ぶちまけたのだった。言葉を遮られたコウは改めてザクロを見上げた。



「ぎゃあぎゃあ喚くな。耳障りだ」



「てめえのせいで水がなくなっちまった。ここに水場がなかったらどうしてくれる」



 その行為が自分の頭を冷やすために、水をかけたのだと理解する。



 だが素直に礼を言う気にもならず、どう対応するべきか次の言葉を探していたところ、



「確かこの球体に触ってたな。他に何かしたか?」



 ザクロはコウに水を浴びせたことなど、まるで気にしていないようだった。台座の球体を手で叩いてみたりするが、まるで反応はない。




「また動くかもしれん。お前さっきみたいにやってみろ」



 不満顔でしぶしぶ腰を上げ台座の球体に、触ってみたりするがやはり反応は何もない。


 思案顔のザクロはアゴに手をかける。


「どうやら偶発的な現象のようだな。ともかくここにいてもラチがあかんな」


 と言い、少し後ろに退いてから剣の鞘に手をかけ、台座に向かってザクロが飛びかかった。



 台座を斬りつけ一足飛びで横を通りすぎる。

 キィィンという金属音が鳴り、衝撃で火花が散る。


 本来なら台座が真っ二つになって落ちている予定だったのだろう。

 ザクロは違和感に気づいたのか、小首を巡らす。



「ちっ……かてぇな」


 と言い懐から小型の球体を2つ取り出した。

 良く見ると、導火線が細い口の部分から出ている。


「おいっ。まさか破壊する気じゃないだろうな!」


 とコウが呼びかけるのだが、ザクロは火打石で器用に火をつけポイと台座に投げ捨てると、時間差で爆音が2つ。炎が巻きおこり衝撃で土埃が、コウの頭の上にパラパラと落ちてきた。


 台座はバラバラになり、辺りを染める炎の色の中に溶け込んでいた。



「壊してどうすんだよ! 帰れなくなるだろ!」


 と怒り心頭のコウが、ザクロに詰め寄った。




「お前の言うとおりだ。コイツが魔物の呼び水になってたのは確定と言っていいだろう。ヘビーモス級の魔物が何匹も向こうに召喚されたら、ひと月もすればキャスルホワイトが魔物の楽園になっててもおかしくはないだろうな」


 と一応の筋は通っており理路整然と語るので、コウは振り上げそうになっていた拳を引っ込めて背中を向けた。


「ともかくここを脱出するのが先決だ。なんらかの人の手がかかってるのは間違いがないだろう。それから食料と水と寝床の準備だ。ボヤボヤするな、やることは山ほどある」


 ランクは低いが戦闘技能の高さと、冒険者の経験値の高そうなザクロに、コウもサザレも思うところはあるが着いていくことにした。


「ん? 向こうから誰か来るでごじゃるよ」


 とサザレが薄闇の向こうを指さした。

 人影がこちらに向かって2人ほど小走りでやってきている。




「爆発音がしたが何があった?」


 男は若く軍服と思わしき服を着ており、下はブーツで手には長いヤリを携えている。



「それはでごじゃるな……ヘビーモスを」


 サザレの口を無言でザクロが手で塞ぎ、びっくりした表情を見せる。

 口を開こうとむごむごと動かすサザレの代わりに、ノーリアクションのザクロが返答する。



「ここはどこだ?」


「お前ら何を言ってる? ドルオード国立森林地帯に決まってるだろ」


「ドルオード? あのいわくつきのヴァンガード砦がある国か?」


「その砦があるのがここだよ。って、お前ら……まさか侵入者!?」


 返答は挨拶代わりの抜刀、目に止まらぬ速さでザクロが2人を斬りつけた。悲鳴より先に、血しぶきがあがり、2人はほぼ同時に小さな悲鳴を上げ、仰向けに倒れて絶命した。



「なっ……何で殺すのでごじゃるか!?」


「何故だと? 愚問だ。こいつらどう見ても事情を知らない下っ端のようだが、報告されたら厄介だ。国が魔物に関わっているのか、どうかはまだ不明だが大きな研究機関が関わってると考えて間違いがないだろう。死人に口なしだ、分かるな」


 納得いかないようで、ザクロをねめつけるサザレ。

 その肩にコウが後ろからポンと手を置いた。


「奴の言う通りさ。国が絡んでいるとなったら追っ手を放って、俺達は追われることになるだろう。そうなるリスクを減らす意味では間違いじゃない」



 コウはすっかり冷静さを取り戻したようで、


「だが、勝手に行動する前に一言欲しいとこだな」


 皮肉もたっぷりにザクロの方を向いて言った。


「ごじゃる娘。こいつの言うとおりだ、リスクのある可能性を減らすのは当然のことだろ」



 内心では、有無を言わさず殺すような危険な人種と行動を共にしたくない思いもあった。だが見知らぬ土地で、なんらかの事象に巻き込まれたというリスクを考えた結果、腕は確かなので行動を共にした方が良いと打算的に判断したのだった。



「で? どっちに行くよ、道も何も分からない迷子状態だ」


「あの下っ端どもは山側の方からやってきたようだ。おそらくこいつらは警備の者だろう。少し気になることがある」


 と言い、ザクロは死んだ軍服の連中の上着やズボンのポケットを漁りはじめる。


「追いはぎでごじゃるか?」



「気になることがあると言ったろ。ここに魔物がウロウロしてると仮定して、何故こいつらは攻撃されない?」



「セシールの香油をふりかけているとか?」


 コウは、少し前にもらった香油の存在を思い出した。

 身に振りかければ魔物が寄ってこないというアイテムだ。


「それじゃ万全じゃねえ。香油の効果が切れた時はどうするんだ?」


「って俺に言われてもなぁ」


「このペンダントが怪しいかもしれん」


 とザクロは軍服の2人が、身から首につけているペンダントに注目した。

 形状は薄型の逆三角形で、それを囲むように円になっている。その上には星のマークがついており、逆三角形の中にはひし形の目玉が一つ。


 なんとも趣味の悪そうなペンダントだと思った。

 だが、同じ種類のペンダントを2人ともつけているのは、何らかの意味がありそうだ。



「こいつと財布をいただいていくか」


 財布を上着の裏ポケットに2つ入れるザクロの行動を見ていたサザレが、


「独り占めでごじゃるか? きっちり分け前を要求するでごじゃる!」



 と即座に喰いついた。


「なんだごじゃる娘。お前、金に困ってんのか? 強欲なやつだ、まあいい2等分といくか」


「コウ殿はいらないのでごじゃるか?」


「俺は死人から物をかっぱく趣味はなくてね」


「甘いやつだ。金の価値はどんな金であろうと、それは変わらない。結局巡ってまた誰かのとこに行くだけだ」


 ふと足音がして、シューという息づかいに気づいた。生物の気配がしないこの場所では特に良くその息づかいがよく耳に入った。


「構えろ。さっそく、おいでなすったようだぜ」


 とザクロが剣を抜き右手の前に出し構えた。


 闇の中からゆっくりと歩いてくるそれは、茶色い強靭な身体をしており、腕や身体から血管が浮きでている。口から見える大きな前後の歯は、人を一噛みで粉々に砕いてしまえるくらいに堅そうだ。


 眼は赤く頭部には2対の湾曲した角、頭部から背中までを赤いたてがみが流れている。そして揺れる大木を思わせるしなやかな尻尾が左右に揺れていた。



「ヘビーモスだ」


 とザクロが言い放った。


 パッと見て熊より余裕で強そうだ。

 と小並感溢れる印象をコウは感じた。

 間違いなくこれまでコウが戦ってきた魔物の中で、最上級に強いと確信する。


「こっ、これがヘビーモスでごじゃるか!? か、勝てるのでごじゃろうか……?」


「さあな。戦ってみたことはない、だが向こうはやる気らしいぞ」














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