19話~ヘビーモス討伐作戦4~転移の先
「誰かが魔物を手引きしてる――だ? はっ! お前頭がバカなのか?」
自分の側頭部に人差し指をトントン当て、頭は大丈夫かとポーズをするフォボス。完全にバカにしたような言い方だった。
対してフォボスの相方の女魔導士は、腹を抱えて笑った。
「あっはっはっはっ! よしなよフォボス。こりゃ本気で言ってるよ、あー腹痛い……つまり魔王の軍勢に協力してる人間がいるって?」
コウは考えた末に至った推理に泥をかけられ、気恥ずかしさと同時に怒りも沸いたが、冷静に対処する。まあ、こういう反応に出るだろうと思いつつ、
「そうは言っていない。魔王軍の協力者かもしれないし、全く関係のない第三者かもしれない」
「じゃあ、第三者と仮定して何でそんなことをする? 何かメリットは?」と口にしたフォボス。
「それは……まだ分からない」
苦々しくコウは返した。
魔物の生態を調べていた冒険者が全滅した。さらには道具類が全て持ち去られたという話を、コウはオードから以前聞いている。その話が気になっており、今回の件と紐づけたのだった。
「結局、知らねえんだろうが。適当なこと言ってんじゃねえぞ。俺らの中に協力者でもいるみたいな言い方だろうが」
フォボスの話をザクロが遮った。
「雑談はその辺までにしておけ。まだ魔物1匹も狩っていないんだ。このままだと参加費だけのお駄賃で帰ることになる。まだボス猫のヘビーモスがウロウロしてる可能性だってある、奴らの目が腐ってなければな」
と、ザクロは言い、スタスタと一人で洞窟の奥へと向かって行った。やはり何を考えているのか良く分からない。
「おいザクロ! てめえ勝手に仕切ってんじゃねえぞ!」
フォボスと相方の女魔導士が、ザクロの背中を追いかける。
「冒険者の中に魔王軍の協力者がいる。かもしれないってことですか」とクリス。
「可能性の話だけどな」
個人レベルの話ではない、口にはしないものの、何かきっと大きな勢力の力が働いてるとコウは考えた。
サザレがコウに近づいてくる。
何かを思案してるような表情で。
「さっきの話。少々気になるでごじゃる。せっしゃ何を隠そう、疾風の早歩きという団に所属してたでござる」
疾風の早歩きは、オードが以前、口にしてた魔物の生態について探っていた、冒険者ランクBのグループだ。少々変わった団員規定がある以外は、腕は確かだ。
「せっしゃが加入した時、疾風の早歩きは、魔物の生態について調べていたでござる。さっき白ネコがいたでごじゃるな」
白ネコと今からする話に何の関連性があるのか? という疑問を持ったまま、コウとクリスティは耳は傾ける。
「知ってるでごじゃるか? 同じ魔物でも動物を襲う魔物と襲わない魔物がいるでござる。ここに出る魔物はきっと後者でごじゃる」
「そいつは気になる話だ。で、理由は?」
「ダンジョンにいる魔物のほとんどが、小動物は襲わないという結論に至ったでごじゃる。そこら辺を調べるとのことで活動してたのでごじゃるが」
「あの団は、ダンジョンでも街中でも、警戒しながら早歩きするのが基本でごじゃる。せっしゃ、早歩きは性に合わないし、不審者の真似事は嫌でごじゃる。結局1週間で団を抜けたでごじゃる。だからその先は分からんでごじゃる」
「それは……難儀な団ですねぇ」と苦笑いするクリスティ。
「分かってくれるでごじゃるか。街中であれをやるのは、せっしゃも恥ずかしいでごじゃる」
と貴重な魔物に関する話も、結局のとこは分からずじまい。だがコウなりに、先の見えない話の糸口の紐が繋がってきた。
召喚された魔物と、元よりそこに生息する魔物がいると仮定し。召喚された魔物は人間しか襲わないように、魔王に命令されている、もしくは魔物を使役する人間がいる。とコウは僅かな情報から、そこまで推理を働かせた。
「概ね詳細は分かった。もう少し調べる必要はあるけどね」
「疾風の早歩き団が全滅したのは、その件と無関係と思えないでごじゃる。それでも調べるのでごじゃるか?」
「まあね。気になったことはすぐ調べる主義だ」
「それならせっしゃも協力するでごじゃる。早歩き団のみんな、新人のせっしゃにも色々教えてくれて、いい人だったでごじゃる。真相も分からず死んだままじゃ、浮かばれないでごじゃる」
「それは、勇者様と私団のメンバーに入るってことですかね?」
「あ、いや、あくまで協力であって今のとこ、何処かに所属する気はないでごじゃる。しかし変わった名前でごじゃるな」
「そうですか? ところでどうします、あの人達、先行っちゃいましたけど」とクリスが洞窟の奥を指さした。
「せっしゃ。あの人達はあんまり好かんでごじゃる」浮かない顔でサザレが言う。
「同感だね。まあ、これも仕事だからさ、とっとと片付けて帰ろう。幸いヘビーモスはいないみたいだし」
さらに洞窟を奥へ奥へと進んでいく。
奥に行くにつれ地面の岩肌は濡れていて、足元に気をつけて進む必要があった。やがて緩やかな下り傾斜に入り、先行隊が倒した魔物の死体がところどころに見られる。
「吸血コウモリやコボルトの死体でごじゃるな。むっこの吸血コウモリ、爪がはがされてないでごじゃるな」
サザレが吸血コウモリの死体を裏返して爪を見ている。
「爪? そんなものどうすんの?」
「ギルドに集めてもって行くと報奨金をもらえるでごじゃる。魔物によるのでごじゃるが、スズメの涙くらいのお金になるのでごじゃる。吸血コウモリの爪は、エーテルの原料の一部になるそうでごじゃる」
「げっ! あのクソマズイ飲み物はコイツの爪が入ってんのか。やっぱ二度と飲まねえ」
と言いつつ一応金になるのならと、いそいそと吸血コウモリの爪を剣で剥がして、小さな袋に入れるコウとクリスティ。
そうこう会話をしながら、行く先で他の冒険者達ともすれ違った。
どうやらヘビーモスは見つからないそうで、あと半刻探したら先行隊も撤収するという話だった。
進んで行く内に、フォボスと相方の女魔導士を発見するコウ達。
2人は開けた空間に座っていて、世間話をしてる様子だった。
ちょうど洞窟は二つの分岐点になっており、その手前に2人はいる。
「ザクロ殿は、どこに行ったのでごじゃるか?」
「あの陰険野郎ならヘビーモスをぶった斬るって、一人で勝手に進んで行った。ちょうど右にな」
と言いザクロは右に行ったと手で合図する。
どうやら、もう先に進む気はないらしい。
コウは洞窟の前に置かれた、小石の存在に気が付いた。
同じ大きさの小石は2列に置かれていて、右側の片方が2個、左側が4個、といった具合に置いてあった。
「何だこの石ころ? 賽の河原の住民が石遊びでもしてたのか?」
「知らねえのか? 仕方ねえな教えてやるよ、その石はな危険度を示すもんだ。ダンジョンでは分岐点で冒険者はこうやってサインを残すんだ、覚えときな」
と意外にもフォボスが丁寧にコウ達に教えてくれた。
意外にも親切なとこあるんだな、嫌なやつだけど。
と思いながらもコウは礼を言い、右側の分岐路に進んで行った。
――
――――――
「ハハハハ! あの初心者ども、危険度の高い方に進んで行ったぜ。傑作だぜ! 無知は怖いよなぁ、オイ!」
「フォボス。アンタも人が悪いね、わざと嘘教えてさ」
「石の配列を変えるくらい、何でもないからな。ザクロの野郎は自ら危険度高い方に行ったけどな。まっ運が良ければウィル・オ・ウィスプ辺りの魔物とバッタリ会うことだろうよ」
「運が悪ければ――じゃないの」
とフォボスと女魔導士は、互いに微笑を浮かべた。
コウ達はそんなことを知る由もなく、洞窟を奥へと進んだ。だが、フォボスの策略は実ることもなかった。ウィル・オ・ウィスプに会うよりも先に、ザクロを見つけた。
ザクロは小部屋のような空間にいて、コボルトの死体が積まれた上に座っていた。剣の手入れをしている。全てをザクロが一人で片付けたようだった。
「見てみろ。そこに転がってるミノタウルスを」
と意外にもザクロから話かけてくる。
「うわっ。でけえな、2メートル以上あるんじゃ」とコウ。
「コイツは、こんなところに出てくる魔物じゃない。お前の言うとおり妙だな、確かコウとかいったか」
一応、人の名前を覚えるくらいの社交性はあるらしい。
それくらい会話の出来ない人種だと思っていたコウ。
「これ全部、一人で倒したんすか?」
「準備運動みたいなものだ」
コボルトの死体につい目がいったコウだったが、小部屋の中にあるオブジェに気づいた。
青白い球体のようなものが先端についており、球体の下には三本の長い爪のようなものがついている金属製の台座がある。重量があり、コウが動かそうとしたがビクともしなかった。
セーブポイントか何かか?と思いつつ、とりあえずその場にいるザクロに聞いた。
「これなんですかね? 人工物ぽいけど」
「さあな。前に攻略した時はなかったそうだ、元々このダンジョンは踏破済みだからな。それより女、そこに俺のバックがあるから持ってこい」
とザクロのバッグの一番近くにいるクリスを名指しする。
「もうっ。何で私がこんなこと」
と小声で言いながら、しぶしぶザクロのバックを取りに行くクリスティ。
コウが台座の球体を何気なくポンポンと二度手で叩くと、
球体が眩い光を放ち出し、下から魔法陣のような白く巨大な模様が回転しながら浮かび上がってきた。
「なっ……何だ、これ!?」
この光景に一番、驚いたのはクリスティだった。
何せコウやザクロとサザレの半身が、下から徐々に消えていく光景を目にしてるのだから。
「勇者様!!!」
クリスティはザクロのバックをその場に落とし、走ってコウに手を伸ばそうとするが―――
伸ばした指先は触れることを許さず、3人の姿は跡形もなく、その場から消え去ってしまうのだった。
「嘘……でしょ」
クリスティは力なく、ぺしゃんとその場に座り込む。
―――
――――
―――――
コウ達3人は、網膜に焼き付いた眩い光の残滓が徐々に薄れ、ようやく目を開けると、
そこは暗く深い森の中だった。
空には異形の姿をした黒い生物が、月の下を飛び交っている。
不気味な生き物の声が森の中から聞こえるし、辺りに人の気配はおろか、建物すら見当たらない。
あるのは先ほど目にしていた、球体の台座のみだった。
3人は絶句し、その場に立ちつくした。
閲覧いただきありがとうございます。
タイトル変更を考えております。
あと1話、閑話を投稿してからしっくりくるタイトルが見つかるまで、1~2か月程度更新をお休みする予定です。
それと全部、その場で考えてる話なのでしばらく話のストックためます。




