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16話〜ヘビーモス討伐作戦~違和感

 


「まったく何で忘れるんだよ」


「勇者様こそ」



 こんなやりとりをしながら、コウ達は魔女ファティマの家に向かっていた。



 薬草は置いてきたが、サインをもらうのをすっかり忘れ、翌日にまたファティナの家に向かう二度手間をするハメになった。



 視界の端に突貫オークを捉えたコウ。互いにほぼ同時に存在を認識した。


 先に反応を見せたのは突貫オークの方。


「おっ? やる気か、いいだろクリス。手は出さないでくれ」


「了解しました勇者様」


 突貫オークは力が強く、強靭な肉体を持ち名のごとく粗末な槍を武器に特攻してくるオークだ。身長は低くアリスと同じ150センチくらいだが横の体型が広い。槍でなくこん棒をもっている種族もいるが、そこはまちまちだ。




 これまで突貫オークを見ると、コウ達はすたこらと逃げの一手を打ってきた。だが突貫オークに勝てないのでは、王子アーレスには絶対に勝てない、練習台にしようとコウは決意したのだ。



「前の時のようにはいかねえぞ」



 とツヴァイハンターの剣を出し、炎を付与する。


 突貫オークはコウの火剣を見てもひるむことはなく、どすどす足音を響かせながら直進し、突っ込んできた。



 いざ、対峙してみるとかなり迫力があり、少しばかり躊躇し、逃げるべきだったかな。なんて方針転換の思考が沸いてきたが、それを勇気を奮い起こし打ち消した。


 魔女ファティナの使った、トリニティボルトをリプレイで再現したら確実に勝てるのだが、己の剣で勝つと決めた。


 コウは槍を回避し、突貫オークの動きに合わせ半回転してから、背中への火剣での一撃。


 だが思ったより感触が浅かった。


 突貫オークはダメージを受け叫びながら、反射的に裏拳をお見舞いしてきた。


 ブォン! と風を切る音と丸太のような腕がコウの顔面を捉えようとする。


 これにも反応し、焦りながらも上体を反らし避けた。



 今のは我ながら上手く避けれたと自画自賛。


「もう一度だ」



 ツヴァイハンターに火を施してから、ダッシュして直前でフェイントをかけて斬りつけた。


 咄嗟に斬りつける時に炎の出力を上げて、最大の力を持っての一撃を繰り出した。


 攻撃は無事にヒット。


 確かな感触と突貫オークの身体を炎が包み、咆哮を上げながら突貫オークは崩れ落ちた。


 直後、レベルアップしました。

 というコウの持つデバイスからの音声とリプレイストックを獲得した。


「わー! すごい! すごーい! さすが勇者様です!」



 クリスティが拍手しながら近づいてきた。


「やっぱ慣れないな。生き物を殺すのは、いい気分はしないよ。喜んで魔物を狩ってる奴の気分が俺には分からないね。言っちゃ悪いが、サイコパスなんじゃないかと思っちまうね」



「考えすぎですよ。ここのところ魔王が蘇ってから、魔物が増えて市政の人達も、不安がっているんですから」




「そこだよクリス。どうにも俺は引っかかるんだよ。魔王が蘇っていうけど、直接見た人間はいるのか?」



 コウはどうしても、目の前に与えられた情報というのを、鵜呑みにすることが出来なかった。人や情報はまず全て疑うべきという、自身の心情からくる推察であった。




「え、えーと……あれ? そう言えば……聞いたことはないですね」



「じゃあみんな何を根拠に、魔王が蘇ったって言ってるんだ?」


「多分ですけど、メサイア文献にはそう書かれてますから文献の中身が根拠なんじゃないですかね」




「なるほどメサイア文献か。じゃあさ魔王が軍を直接動かしたとか、これまでの歴史上ではあるのか?」


「魔王が軍を動かしたのは、過去に一度だけあるそうです。魔物は確かに増えたと、私も思います」



 やっぱりおかしい。


 皆、直接魔王を見たワケでもないのに、魔王が蘇ったと信じている。確実に認識しているのは、体感的に魔物が増えたということだけ。



 なら予言書のメサイア文献が間違っていたらどうなる? ……もしかしたら……いくら何でもそれは考えすぎか。



 思考の迷路に陥ったコウ。

 考えているとふと、前にすれ違った冒険者が言っていた言葉が記憶の底から蘇ってきた。




 確か名うての冒険者達が魔物の生態を調べていたら、全滅したとか言っていたはずだ。




 どうも何かが引っかかる。


 魔物の生態系に何か秘密が…….パズルのように情報の断片を集めても、いくら何でも判断材料が少なすぎた。



「勇者様。草原のド真ん中で考えこんでいたら、比較的安全な場所とはいえ、魔物に狙い打ちにされますよ」



「それもそうだな」



 魔女ファティナの家につき、羊皮紙にサインをもらい

 ついでに昼食もいただいてきた。



 あつかましい奴らだねと皮肉を言われたが、金がないんで節約ですよ。と貧乏アピールし少しだが、食料ももらってきた。



 帰る時に、アリスは鏡を使った謎の訓練をしていた。



「メイクの練習ですか?」とコウは聞いたがーー


「そんなワケあるかい」と魔女ファティナに返された。



 ギルドにトンボ帰りし、さっそくお金になる仕事をもらいに行った。


 ギルドの中は冒険者の数がいつもより少なかった。

 入るとさっそく、冒険者連中に無遠慮の視線を浴びるコウ達。


 クリスティは以前、ディスられたことを根に持ち、目を吊り上げ、視線があった人間を片っ端から睨みつけた。


 冒険者達は、従順な羊のように目を反らすのだった。


 冒険者達の間でクリスのことを、マジックミサイル神官、ミサイル姉ちゃん、などとあだ名をつけられていた。


 冒険者によっては、美人のクリスからマジックミサイルを直接喰らいたい。という謎のクリスファンも密かに出来ていた。


 当の本人は、そんな事つゆ知らずだ。



「お金になるお仕事ですか」


 ギルドの女店員はうーんと唸りながら、難しそうな表情。




「なんとかなりませんかね」


「Gランクだと仕事にも制限がありますし。あっ、そういえば白金草原の洞窟で、ヘビーモス討伐作戦をやっていまして、冒険者達が今日そこで募集をかけてましたね」


 危険度が高い故に、本来ならGランク冒険者は参加出来ない仕事だが、引率にBランク以上の冒険者がいれば参加も可能になるということだった。


 さっそく地図をもらい、目的地に向かったコウ達。




 洞窟の前には冒険者達がたむろしていて、雑談に花を咲かせていた。


 その中に、コウが見知った顔がいくつかあった。

 ポツンとしてると向こうから気づいて、話しかけに来た。




「ようルーキー。お前達もヘビーモス討伐作戦に参加か?」


 以前会った身長の高い三白眼の男だった。首から下げたギルドプレートにはランクAと書かれている。



「ギルドで募集を知って来ました。まだ募集間に合いますかね?」



「人数が多いにこしたことはない。まあ後ろの方で肩の力を抜いてやってくれ」


 とコウの肩をポンと叩き去って行こうとする。


「あの、名前はなんと?」


「オルドだ。オルドでいい、今回の引率を担当している。気になることがあったら、今の内に聞いてくれ」



 コウとしては以前の話を聞きたかったのだが、別の冒険者が、本格的に作戦に必要なランタンの数や、冒険者の配置位置など、打ち合わせの話を切り出したので、コウは遠慮した。



「まあ今の内に休んでおこうぜクリス」


「そうしましょうか」


 腰を下ろし冒険者達から離れた所に座っていると、近づいてくる者がいた。




「よぉ。会いたかったぜぇ」



 話かけてきたのはフォボスだった。悪辣な笑みを浮かべながら、コウを見下ろしている。



「俺はアンタに会いたくなかったけどね。セシールの香油を塗ってくるんだったな。人避けの効果もあるなら今すぐ全身に塗ってみるべきかな」


「ふっ。ご挨拶じゃねえか。アリスはどうした? 変な噂が立って引きこもりにでもなったか?」



「アンタを倒す為に特訓中だよ」



「はっはっはっはっは! 今日イチで笑わせやがる! 俺を倒すだぁ? 俺があんなイモ娘に負けるハズねえだろ!」


 フォボスを睨みつけるクリスの視線に気づき、向き直す。


「そんなに睨むなよミサイル姉ちゃん。ヘビーモスに頭から囓られても知らねぇぞ」



 ミサイル姉ちゃんなる単語が気になったクリスだが、フォボスへの不快感が勝り、突き放すように返した。



「貴方とお話しすることは何もありません」



「へっ! せいぜい後ろに気をつけるんだな。今の内に神様にお祈りしとくんだな。ここは人目のつかないダンジョンだからな。神様だって、迷子になって助けに来てくれないぜ」



 と、言いたいことを言い満足そうに、相方の女魔道士の所へ戻っていくフォボス。



「ほんと! 嫌な人ですねあの人! オマケに神を冒涜するあの言い草!」


 同意を求めるように、コウに話しかけるクリス。



「ヘビーモスより先に、やつのケツを叩くことになりそうだな。しかし、沈黙は金とはよく言ったもんだ」



「それはどういう?」



 コウは事前にスマホで、先ほどのやりとりを録音していた。フォボスを発見してから、すぐに録音ボタンを押したのだ。これは何かあった時のための保険にだ。



 それにしても、一筋縄にいかなそうな仕事だなとコウは杞憂した。


ご意見、感想、ブクマなどしていただけたら作者がバケツ1杯の水を流して泣いて喜びます。

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