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終章-その4(完)

 花水木の頭の中が真っ白になった。


 アイドルユニット? デビュー? Flower&Egg?


 ギギギ、と軋む音が聞こえそうな動きで花水木が黒イ卵に顔を向けると、黒イ卵も困惑した表情で花水木を見ていた。


 「あ……あの……師匠、それ、なんすか?」

 「ん? だから、お前と黒イ卵どのの、アイドルデビュー計画だ」

 「は……はぁっ!? なんでっ!」

 「うむ。これには深いわけがあり、話せば長くなるのだが」


 ピッ、と音がして画面が切り替わった。

 「アイドルデビュー計画の目的」と題したプレゼン資料であり、そこにデカデカと書かれているのは。


 「『つこさん。』事件における、費用の回収に……ついて?」

 「うむ。実はあの一件、非常に経費がかかってな。我らナマコ教(仮称)の貯蓄が底をついてしまった。このままでは教団存続に関わるゆえ、当事者である二人にちょっと稼いで来てもらいたいと、まあそういうことだ」


 花水木の救出のための費用、3,800万円。

 伊賀海栗の救出のための費用、2,500万円。


 金額を見て花水木は愕然とした。花水木の方にかかった費用の大半は、暮伊豆への依頼料だという。そして伊賀海栗の方は、間咲正樹への依頼料+伊賀海栗と白イ卵の治療費。住民票もない白イ卵は、当然健康保険なんかに入っていない。ゆえに治療費は全額自己負担。あれだけボロボロの状態だったのだ、治療費もかなりお高くなっていた。


 「何事もタダではないのだよ、花水木」

 「だ、だけど、なんで、なんでアイドル!?」

 「黒イ卵どのは見ての通りの美少女。花水木、お前も女装したらかなりの美少女であろう。そして黒イ卵どのは非常に歌が上手い。そしてお前は舞える。これを使わぬ手はない、というわけだ」


 いっちょ萌え豚どもをだまくらかして、がっぽり稼いでこい。


 爽やかな笑顔と優雅な仕草で、由房はそんな下品なことを言ってのけた。


 「嫌です!」

 「ふうむ、ではこの借金、お前はどう返すのかね?」


 由房は分厚い封筒を手に取り、ひらひらと振った。聞けば、その中身は全て請求書だという。


 「なあに、何も下山してライブをしたり握手会をしたりしろというわけではない。動画投稿サイトで、皆に夢を見せるのだと考えれば良い。ほれ、世のため人のためであろう? ついでにお金が稼げれば、ナマコ教(仮称)も安泰というものだ」


 由房は、はっはっは、と高らかに笑った。


 「は、花水木……ワレ、アイドル、やるのであるか?」

 「いやいや、やらないから。黒イ卵ちゃんだって嫌だろ?」

 「う、うむ。さすがに……」

 「おお、そうだ。アイドル活動中は二人の絆を深めるためにも、一緒に暮らしてもらおうかな」


 黒イ卵の言葉を遮るように、由房がとんでもないことを言い放った。


 「同じ部屋で寝食を共にし、世の萌え豚……んっ、んんっ……人々を喜ばせ楽しませる、新たなアイドル像を作り上げていく。どうかね、すばらしい活動ではないか?」

 「ざけんな! 俺は男で、黒イ卵ちゃんは女だぞ! 間違いあったらどうするんだ!」

 「そこはほれ、お前の好きなラノベのノリで。『アイドルユニット Flower&Egg ~歌手を目指してたらスゴイ美少女と同棲することになりました。でも絶対手は出せません~』てとこかな?」


 ……それラノベというか「なろう系」じゃないか、でもわりとうまいな、と花水木は呆れ半分で感心した。


 「わ、ワレ、花水木と、同棲、であるか?」

 「うーん、そこは青春っぽく、寮生活と言っておこうか。いやかね?」

 「わ、ワレは、その……は、花水木なら……その……マチガイがあっても……」


 由房の問いに顔を赤らめてモジモジする黒イ卵。いやまて、こらまて、と花水木は慌てて黒イ卵の言葉を遮った。


 「何口走ってるの黒イ卵ちゃん! ダメに決まってるだろ!」

 「は、花水木は……ワレでは、不服、であるか?」

 「いや、あのね、そういうことじゃなくてね……」


 潤んだ目で上目遣いに見つめられ、花水木はたじろいだ。何度も言うが、この四年、女気なしの生活だったのだ。こんな美少女にこんな目で見られたら、平静でいられるはずがない。


 「その、黒イ卵ちゃんは……好きだよ?」

 「花水木! ワレも好き、である!」

 「はっはっは、よく言った花水木。では当事者二人の承諾も得たということで。プロジェクトを本格的に始めるとしよう」

 「ち、ちょっと待て、ちょっと待て! 俺は承諾してないからなぁっ!」


   ◇   ◇   ◇


 こうして、『つこさん。』事件は幕を下ろし、山につかの間の平和が戻った。


 そしてしばらくの後、「お山プロジェクト第一弾 アイドルユニット Flower&Egg」が大々的に発表される。

 巫女&魔女という色物的コンセプトでありながら、黒イ卵の圧倒的な歌唱力と花水木の美しい舞が絶賛を浴び、瞬く間にネットアイドル界を席巻、ついには一時代を築くことになるのだが。


 それはまた、別のお話である。

活動報告に補足があります。

そちらもご確認ください。


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1188644/blogkey/2634347/

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