終章-その2
どんっ、と誰かに突き飛ばされる衝撃で花水木は目を覚ました。
「うがっ!?」
いつのまにかソファーでうたた寝していたらしい。衝撃とともに押し倒され、誰かが自分の上に乗っかった。
誰だよ、と目を開けて、花水木はギョッとした。
「ハナミズキー、起きる、である!」
金髪ストレートロングヘアの、ものすごい美少女が目の前にいた。
「く、黒イ卵ちゃん!?」
「うむ、ワレである! 花水木、会いに来たぞ、である!」
「ち、ちょっと、ちょっと待ったぁー!」
思い切り抱きつかれて頬をスリスリされた。華奢でほっそりとした体つきとすべすべの頬の感触に、花水木はドギマギする。山に入って四年も女気の無い生活を送っていたのだ、これはあまりにも刺激的だった。
「だめ、だめだってば、離れて!」
「よいではないか、よいではないか、である!」
「よくなーい!」
やっとのことで黒イ卵をひっぺがし、花水木はホッと息をついた。
「んふふー、花水木ー♪」
ソファーの上に正座し、ニコニコと笑う黒イ卵。モサモサと長かった金髪は整えられてサラサラストレートヘアになり、トレードマークだった卵型の帽子はヘアピンに変わっている。何よりも変わったのは服装で、ツナギではなく、フリルのついた黒いワンピースになっていた。
これでとんがり帽子をかぶったらまさに魔女っ子。幼稚園の女の子や、その筋の大きなお友達に人気者になること間違いなしだ。
「花水木、元気である? ワレは元気である!」
「ああ、元気だよ」
『つこさん。』の事件で一番の重傷を負ったのは白イ卵だった。あばら全てが折れ、右手は骨折、内臓はひどく傷つき、一時は生死の境をさまよった。一ヶ月の昏睡の後に目を覚ましたが、精神がひどく不安定で、何度も自殺を図ったらしい。
だが、きしかわ せひろ の粘り強い治療とカウンセリングで、どうにか危機を脱した。
回復し、罪滅ぼしにと伊賀海栗の治療を手伝った後、白イ卵は自ら心の奥深くへ身を潜めてしまい、黒イ卵に残りの人生を委ねたという。
「白は……やっぱり、みんなを信じられない、である」
「そうか」
白イ卵の過去に何があったのか、それは教えてもらえなかった。カウンセリングをした きしかわ せひろ は「悪いが墓場まで持って行かせてもらうよ」と口を開こうとしなかった。
「どうした、である?」
花水木がじっと見ているのに気づき、黒イ卵は首を傾げた。
十人いれば十人全員が振り向く、卵ちゃんはそんな美少女だ。そんな彼女が「殺される」のと同じような思いを味わったというのは、やはり……と考えかけて、花水木は首を振った。
「黒イ卵ちゃんが元気そうでよかったな、と思ったんだよ」
「うむ。ワレは元気、である!」
黒イ卵は胸を張って笑った。そのあまりの可愛らしさに花水木は思わず手を伸ばし、黒イ卵の頭をそっと撫でた。
黒イ卵は頬を赤く染め、「にへへへ♪」と嬉しそうに笑った。




