第7章 花の舞-その7
「先代!」
気を失った白イ卵を介抱していると、作務衣姿の若い男が駆け付けた。
「間咲くん。君ねえ、仕事はきっちり頼むよ」
「すいません、予想以上に手ごわくて」
「言い訳無用。まったく、かわいらしいレディをこんなに痛めつけおって」
先代。由房の師匠であり、ナマコ教(仮称)の先代当主。それが彼、きしかわ せひろ であった。
「君が戦闘狂なのは知っていたが、サディストでもあったとは知らなかったよ」
「いや、そういうつもりはなかったんですけど……」
「ふむ、だとすると実力不足かね? 不甲斐ない。では私が直々に鍛え直してやろう」
うひっ、と間咲正樹が悲鳴を上げる。武闘派にして戦闘狂の間咲正樹でも、きしかわ せひろ 直々の指導と言われたら尻込みする。現当主の由房が「すまぬ……思い出したくない」と真っ青になって話すのを嫌がるぐらいだ、その過酷さは容易に想像できた。
「それで、伊賀海栗さんは大丈夫かね?」
話題がそれたので間咲正樹はホッとした。
「薬を飲まされてますが、大丈夫です。諜報部の人が病院に運びました」
「そうか。では急いで戻るとしようか」
やれやれ、と きしかわ せひろ は肩をすくめた。
ナマコ教(仮称)の当主を由房に譲り、精神科医として忙しく過ごす毎日。気晴らしも兼ねて小説を書いて楽しむ中、利用しているサイトでたまたま読んだのが伊賀海栗の作品だった。
好みの作風であり、お気に入りのユーザーとして登録、そのうち感想やコメントを書くようになった。
一年ほど前から伊賀海栗の作品の感想欄が炎上し始めたとき、純粋に一交流者として伊賀海栗を擁護、難癖をつけてくるユーザーに対し論陣を張った。一時は騒ぎが収まったものの、半年前から始まった執拗な攻撃は一交流者として擁護するには限界があった。
「予想外の成り行きだが……助けられてよかった」
伊賀海栗が孫弟子の友人と知った時は驚いたものだ。その孫弟子を引きずり出そうと、山の結界が突破した者がいると聞いたときはさらに驚いたが、さては伊賀海栗への攻撃はそれが原因か、と気づき、ここはやむなしと前線復帰をした。
「それに……この子もな」
気を失っている白イ卵を見ながら、きしかわ せひろ はため息をついた。
白イ卵。裏の世界では知る人ぞ知る催眠術師で、かわかみれい の弟子との噂だった。まさかその子が伊賀海栗の小説に挿絵を描いている女の子と同一人物とはと、こちらも予想外の成り行きで きしかわ せひろ を驚かせた。
「急ぎ手当せぬと命に関わる。まったく、中途半端に強い者はこれだから困る」
「あー、すいません」
「それに、心に深い傷を負っているようだ。しっかり治療してやるとしよう。間咲くん、彼女も病院に運んでくれたまえ」
「了解っす」
間咲正樹は白イ卵を抱きかかえた。予想外に軽い体に驚きつつ、「お姫様のように扱え」という きしかわ せひろ の指示通り、丁寧に車へと運んだ。
「君の足も治療せねばな」
「よろしくお願いします」
「任せたまえ。きっちり完治させて、みっちり鍛え直してやろう」
え、その話終わったんじゃないの?
間咲正樹は顔を引きつらせながら きしかわ せひろ を振り返り。
「ん、何かね?」
「い、いえ……ゼヒ、ヨロシクオネガイシマス」
拒否することなどできるはずもなく、間咲正樹は笑顔を浮かべるしかなかった。




