第6章 激突-その11
君、そこへ何しに行ったの?
その言葉が花水木の頭をぐるぐると回り続けていた。
伊賀海栗を助けると意気込んできたものの、何もできず、ただ相手に翻弄され、見知らぬ男に助けられて逃げてきた。
何のために修行をした。
何のために山を降りた。
何のためにそこへ行った
叩きつけられた言葉に、自分の無力さを思い知らされる。薬でもうろうとした意識の中、ただただ悔しくて情けなくて、大声で叫びたい衝動に駆られる。
「お、俺は、俺は……俺はぁっ!」
ブブッ、と握っていた携帯が震えた。メールが届いていた。メールに書かれていたURLにアクセスすると、よしあきの現在地と向かっていると思われる場所が書かれていた。
「よしあき……」
駅まで送ってね。
『つこさん。』にそう頼まれ、ついていったよしあき。よしあきを追えば『つこさん。』がいるはずで、伊賀海栗への攻撃をやめるよう頼むことができるはず。
いや、それはもういい。
伊賀海栗は間咲正樹が助けに行った。あの人ならば滅多なことで負けはしない。ならば花水木が今やるべきことはただ一つ。
よしあきが、伊賀海栗と花水木を裏切ったことに、オトシマエをつけさせる。
「そうだよ……それぐらい、やらなきゃ……」
花水木は立ち上がった。「そこを動くな」と由房には言われたが、そんなことどうでもよかった。破門にするならすればいい、これだけは自分でやらなきゃならないことだ、と花水木は思った。
「よしあき……てめえ、オトシマエつけてもらうからなぁ……」
だが一歩を踏み出そうとして、体がガクリと落ちた。「ちくしょうが!」と舌打ちし、思い切り頬をつねったが、覚醒にはまるで足りない。
「くっそ……があっ!」
がん、と思い切り頭をベンチに打ち付けた。その痛みで意識は覚醒したが、痛みが引くとまた意識がもうろうとする。頭を叩きながら歩いていたら、さすがに怪しい。職質されて、警察にでも連れていかれたらよしあきにオトシマエをつけさせられない。
何かないか。意識を覚醒させる、何かがないか。
「……独鈷杵」
ふと、花水木は間咲正樹がくれた独鈷杵を思い出した。懐から取り出し、ハンカチにくるんだ独鈷杵を取り出す。
金属製の、小さいがズシリとした重さのある独鈷杵。
「……いけるか」
花水木は寄りかかっていた壁に、左の手の平を上に向けて置くと、そこに独鈷杵の先端を置いた。
「あんま、褒められた使い方じゃねえけどな……」
信徒でもないのにすんません、と花水木は間咲正樹に、そして真言宗の先達たちに、心の中で謝罪した。
「南無大師……遍照金剛っ!」
そして、どうかご加護をと祈り、気合いを入れて一喝すると、独鈷杵を思い切り左手に突き立てた。
「ぐっ……」
ずぶり、と独鈷杵の先が手のひらに食い込み、激痛が走った。花水木は必死で悲鳴をこらえると、独鈷杵を引き抜き、ハンカチで左手をぐるぐる巻きにした。
「うぉぉぉっ、いってぇぇ……」
ズキン、ズキン、と左手が痛む。おかげで朦朧としていた意識がはっきりした。
「まっ……てろよぉ、よしあきぃ……」
花水木は携帯取り出し、よしあきの位置を確認すると、怒髪天を突く形相となって歩き出した。
「きっちり、オトシマエ、つけさせてやるからなぁぁぁぁっ!」




