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第6章 激突-その7

 中華包丁を振り下ろすと、ゴキリ、とあばらが砕ける音がした。


 「ふっ……ぐっ……」


 激痛が走り、くぐもったうめき声が耳を打つ。それが、自分が発したうめき声だと気づいたのは、白イ卵が中華包丁を握ったまま宙を舞い、タンスに叩きつけられた後だった。


 何が……起こった?


 白イ卵はとっさに理解できず、胸の激痛と叩きつけられた背中の痛みに声を失った。

 そんな白イ卵の前に、何者かが立つ。まさか伊賀海栗が意識を取り戻したのか、と驚愕して正面を見上げた白イ卵は、そこに作務衣姿の見知らぬ男の姿を認め、目をむいた。


 「な……なんだ……てめえ……」

 「キャラ設定、ブレてるぜ」


 クククッ、と坊主頭の男が笑う。凶悪な笑みを浮かべたその男は、憎々しげな白イ卵の視線に気づくと、その場で軽やかに回転しやたらと気取ったポーズで言い放った。


 「颯爽登場、坊主美青年! まさーきマサキ♪」


 ふざけた男だった。だが、放つ殺気は本物だ。この男は敵だ、と白イ卵は本能的に悟った。


 「てめえ、どこにいた、どこにいたあっ!」

 「お・ふ・ろ・ば♪ チカンみたいで、ドキドキしちゃった♪」


 うふ、と下品なことを言って下品な笑顔を浮かべた次の瞬間、間咲正樹はふらふらと立ち上がった白イ卵めがけて、問答無用で拳を振り抜いた。


 「ぐぁっ……」


 間咲正樹の拳を左わき腹にまともに食らい、白イ卵はそのまま台所まで吹っ飛ばされた。


 「て、てめえ……」

 「おいおい、まだ動くか?」


 シンクに叩きつけられた白イ卵が立ち上がるのを見て、間咲正樹はあきれたように肩をすくめた。


 「最初の蹴りも、今の拳も、殺す気で(・・・・)いったんだぜ。頑丈だな、おい」


 間咲正樹の言葉に、白イ卵がピクリと眉を動かす。


 「ころ……す……? 私を……か? 私を……殺すのかぁぁぁぁぁっ!」


 白イ卵が、ストン、と四つん這いになり、殺気に満ちた目をギラつかせた。


 「させない、殺させない……」


 まるでオオカミのように唸り、とびかかるタイミングを見計らう白イ卵。そんな白イ卵を見て、間咲正樹は眉をひそめて構えた。


 「お前……訓練(・・)を受けているな」


 間咲正樹の言葉を無視し、白イ卵は唸り続けた。


 「私を、殺すというのなら……」


 白イ卵の中で怒りが膨らんだ。

 血が喉をこみ上げてきて、ごふっ、と吐き出した。折れたあばらが痛い、蹴られたお腹が痛い。だが、黙って殺されなどしない。黙って踏みにじられるだけなんて、もう嫌だ。

 殺させない、殺させない。二度と私を、殺させない!

 殺されるぐらいなら、戦ってやる。


 「私が、お前を、噛みちぎってやるっ!」


 白イ卵の体がバネのように弾けた。そのスピードは、カウンターを狙っていた間咲正樹の予想をはるかに上回っていた。


 「ちいっ!」


 白イ卵の体当たりをまともに受け、間咲正樹よろめいた。小さな体からは想像できない重さだ。


 ──こいつ、花水木より強い!


 鈍い光が右下から駆け上がってくる。それをかろうじてよけた間咲正樹は、すり抜けようとした白イ卵の襟をつかむと、強引に抱え上げ、力任せに窓に向かって投げつけた。

 ガシャーン、と盛大な音を立ててガラスが砕け、白イ卵が放り出された。アパート外の駐車場に叩き出された白イ卵は、くるりと空中で一回転して受け身を取り、見事に着地した。


 「おいおい……これちょっと、わり合わねえんじゃねえの?」


 すっぱりと切り裂かれた右袖を見て、間咲正樹はニヤリと笑う。

 最初の蹴りで片が付いたと思ったが、どうしてどうして。白イ卵の予想外のタフさ、全身から放つ剥き出しの殺意、ためらいのない刃の一撃。どれもこれもが、ヒリヒリとして心地よい。


 「くくくっ、わりには合わねえが……」


 最高に楽しいじゃないか、と間咲正樹の血が騒いだ。


 「そうか。服なんて着てるから緊張感が足りないんだな。よーしよし、ここはいっちょう、やるかやられるかのデスマッチといこうか」


 間咲正樹は作務衣を脱ぐと。


 「よぉし、上げていこうかぁっ!」


 ふんどしに下駄履きという格好で、白イ卵が待ち構える駐車場へ飛び出した。


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