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第6章 激突-その6

 最強。


 かわかみれいを語るのに余計な言葉はいらない。シンプルにその一言だけでいい。

 そんな彼女と戦った者は数知れず、しかし生き残っているのは暮伊豆ただ一人。

 そして暮伊豆もまた、人々にこう呼ばれている。


 不敗。


 「ふんっ!」


 狭い店内を右へ左へと舞うように飛び回り、立て続けに かわかみれい が攻撃を繰り出す。対する暮伊豆は店内ほぼ中央にどっしりと腰を落とし、その攻撃をすべて受け止め、跳ね返し続けた。


 そして一撃必殺の反撃のチャンスをうかがう。


 どんな強者も、永遠に攻撃し続けることはできない。

 必ず攻撃が途切れる瞬間がある。

 暮伊豆が待つのは、その刹那の一瞬。


 「ぬうんっ!」


 タトン、と かわかみれい のリズムが狂った。

 ここだ! と暮伊豆は かわかみれい に向かって突進し、渾身の蹴りを叩き込んだ。


 「ちっ……」


 暮伊豆が舌打ちすると同時に、かわかみれい の体が店内奥の壁に激突した。


 「ひらひらと……うっとうしいぞ」


 またもインパクトの瞬間にかわされた。壁に激突したように見えたが、自ら当たりに行ったようなもの。受け身もきっちり取っていて、かわかみれい にダメージは一切なかった。


 「そちらこそ」


 トン、と軽やかに着地した かわかみれい は、苦笑を浮かべて暮伊豆をにらみつける。


 「相変わらずの守りの硬さ。感心するよりあきれますよ」

 「ビビッて降参してもいいんだぜ」

 「ご冗談を。私、まだ本気じゃありませんよ?」


 だろうな、と暮伊豆は息をつく。

 かわかみれい が得意とする武器はナイフだ。ここまで互角以上に戦ってきた暮伊豆だが、それは彼女がアイスピックで戦っているからだろう。アイスピックに比べればナイフは殺傷力が桁違い。急所さえ外せば刺されても何とかなるアイスピックとはわけが違う。

 だから、本気で かわかみれい を倒す気であれば、ここで倒し切るしかない。


 「とはいえ、このままでは危うそうですね」


 だが、そんなことは かわかみれい も百も承知だった。

 まずい、と暮伊豆が思った瞬間、かわかみれい が手にしていたアイスピックを暮伊豆に向かって投げつけた。それをかわすため、暮伊豆は数歩後退、そこへさらにアイスペールと数個のグラスが飛んできて、さらに数歩後退させられた。


 バンッ、と店の裏口の扉が開いた。


 「ちぃっ!」


 暮伊豆が交代し距離を取ったと同時に、かわかみれい が裏口から飛び出していく。暮伊豆は急いで追ったが、すでに かわかみれい の姿はなく、階段を駆け上がっていくかすかな音が聞こえるだけだった。


 「……まだか」


 暮伊豆は腕にはめたスマートウォッチをちらりと見た。花水木を保護したら入るはずの連絡はまだない。このまま かわかみれい を逃がし、花水木を拉致されたら元の木阿弥だ。


 追うしかない、と暮伊豆は階段を全速力で駆け上がった。


 はるか上、おそらく屋上の扉が開閉する音が聞こえた。屋上から逃げられたら万事休す。暮伊豆は大急ぎで屋上まで駆け上がり、扉を開けて飛び出すと同時に横っ飛びで転がった。


 ガツッ、と暮伊豆の左側すぐ横に何かが当たる音がした。


 何が飛んできたのかとちらりと見て、暮伊豆は「おいおい」とぼやいた。


 「クナイかよ。ずいぶんとまた古風だな」

 「あなたに愛用のナイフを叩き折られてから、いろいろ試したんですよ」


 ジャラッと音がしたかと思うと、クナイが宙を舞い かわかみれい の手に戻った。クナイには細い鎖が付けられていて、それで引き戻したらしい。


 「たわむれに試したところ、意外としっくりきましてね。私の新しい相棒、というわけです」


 かわかみれい が、室外機上の箱からもう一本のクナイを取り出す。暮伊豆を誘い込むことを想定して、ここに武器を隠しておいたのだろう。


 「さて、あまり時間もありません。次で決めさせていただきますよ」


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