第6章 激突-その4
バーを脱出した花水木は、フラフラになりながら通りを歩いていた。
とにかく、離れたところへ。
グズグズしていてまた敵の手中に落ち、人質になんてなったらシャレにならない。助けに来てくれた男、暮伊豆がどれぐらい強いかは知らないが、あのマスター相手に正面切って乗り込んでくるというのは、きっとバクチに近い方法だ。これ以上あの男に迷惑をかけるわけにはいかなかった。
「くっ……そ……」
俺が助けに行く。
修行しているから大丈夫。
そんな啖呵を切ってやってきたというのに、結果は惨敗だった。何もできなかった悔しさと、不甲斐ない自分への情けなさで泣きそうになる。
「ウニ……大丈……夫……か……」
やみくもに逃げてきたからか、気が付けば商店街を抜けて、住宅街に来ていた。動いたせいで薬が回ったのか、頭がガンガンして意識がぼやけていた。
「ちく……しょお……」
今すべきことは何だ、何をすればいい。必死で考えて、ようやく山に電話することに思い至った。
幸い、巾着袋は持って脱出できた。
山の電話番号なんて覚えていなかったが、携帯の電話帳を確認すると登録されていた。ボタンを押してかけると事務担当の人が出て、花水木が名前を告げるとすぐに師匠の由房に繋がれた。
『バカ者が!』
電話越しに一喝され、花水木はうなだれるしかなかった。
『すぐに人をやる。そこを動くな。いいな、決して動くなよ!』
電話を切った花水木は、少し先に見えた公園まで行き、そこのベンチに腰かけた。
これでできることはもうない、後は迎えが来るのを待つだけ。
花水木はそう思ったが、すぐに「違う」と思った。
「ウニを……助けなきゃ……」
だけど、どうやって?
薬でフラフラな上、七百キロ以上も離れている場所にいて、花水木に何ができるというのか。
「間咲……さん……」
いや、一人いた、と花水木は急いで携帯を手に取った。携帯には間咲正樹の電話番号も登録されていた。あの人なら大丈夫、きっと伊賀海栗を助けてくれる。そう思って電話をかけたものの、呼出しコールが続くだけで間咲正樹は出てくれなかった。
「法話会とか……してるのか……な……」
こんな時にどうして、と恨めしい気持ちになった。
だがそうじゃない、これはある意味自業自得。自分がこんなところまで来なければ、伊賀海栗を守ってやることができたのに。
「ちくしょう……なんだよ、俺……全然ダメじゃん……」
頭が痛い。意識がぼやける。何のために修行してたんだよ、と情けなくなる。
「間咲さん……お願い……ウニを……ウニを、助けて……」
もうだめだ、と花水木は目を閉じ。
あっという間に、暗い眠りに落ちて行った。




