表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/63

第6章 激突-その2

 ダンッ、と暮伊豆が踏み込んだと同時にマスターも床を蹴り、両者は真正面から激突した。


 一切無駄のない動きで、正確無比に急所を狙ったマスターのアイスピックを。

 暮伊豆は腰から抜いた警棒を一瞬で伸ばし、逆らわずに受け流す。


 十数撃の応酬の後、マスターがふわりと浮いて暮伊豆と距離を取った。追撃をかけようとした暮伊豆だが、入口の前でまだへたり込んでいる花水木に気付いて舌打ちした。

 

 「何やってるんだ、さっさと逃げろ! 邪魔だ!」

 「だけど、ウニが……」

 「やかましいっ! まずはここを脱出してから考えろ!」


 ザララッ、と音がした。

 マスターがアイスペールを手に取り、入っていた氷を宙に舞わせた音だった。

 透明な氷がランプを反射してキラキラと光り、天井近くまで舞い上がり、一秒と経たずに重力に引き寄せられて落ちてくる。

 その落ちてきた氷を、マスターは持っていたアイスペールで、暮伊豆と花水木に向かって弾き飛ばした。

 

 「ちぃっ!」

 

 ガガガッ、と弾丸となって襲い掛かってくる氷を暮伊豆は横っ飛びでよけた。花水木は着物の袖でそれをはたき落としたものの、いくつかは落としきれず体に当たった。


 「花水木くん、それがアイスピックなら、あなた大けがですよ?」

 

 冷然と言うマスターに、暮伊豆が踏み込む。マスターの懐に入り、すくい上げるように警棒を振るったが、マスターは慌てた様子もなくバックステップで警棒をかわす。


 かわしざまに、アイスピックで暮伊豆を攻撃。

 それを暮伊豆は、踏み込む直前に手にした灰皿で受け止める。


 パリンッ、と乾いた音を立てて灰皿が割れた。暮伊豆は構わず、再度踏み込み警棒を突き出したが、これをマスターはくるりと回転してよけた。


 「まったく……ひらひら、くるくる、よけるんじゃねえよ」

 「花水木くんが気になりますか? お優しいことです」


 マスターの言葉に花水木はハッとした。

 暮伊豆は、常に花水木をかばうような位置でマスターと戦っている。あの実力だ、一瞬でも隙を見せれば、マスターは確実に花水木を狙ってくるだろう。それを避けるための位置取りに違いない。

 つまり、花水木がここでへたり込んでいる限り、暮伊豆の動きには制限がかかり思う存分戦えない、ということだ。


 「……くそっ!」


 花水木は悔しさに歯噛みしながらも、立ち上がり、入口の扉を開けた。

 マスターと暮伊豆の戦いっぷりを見れば、嫌でもわかる。

 今、自分にやれることは逃げること、それだけだ。


 「おや、しっぽを巻いて逃げ出しますか」


 マスターの嘲笑が花水木の背中に叩きつけられた。優しく丁寧な物言いだが、その意味するところは辛らつだ。


 「いいんですか、お友達が死ぬかもしれませんよ?」

 「いいから行け! 挑発に乗るな、落ち着いて考えろ!」


 何一つできなかった。悔しくてたまらない。だが、万全の状態でもかすり傷ひとつ負わせられないであろう相手に、薬でフラフラの今、何ができるというのか。


 「……すいません、お願いします」


 花水木は絞り出すような声で暮伊豆にそう言い、バー「お代六千円」から脱出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ