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第4章 言葉-その4

 「和服美人が食べるといえば、蕎麦しかないだろう」


 そんな、よしあきの謎理論により、お昼は蕎麦と決まった。

 よしあきがスマホで評判のいい店を探すと、それほど遠くないところに評価の高い蕎麦屋があった。反対する理由もないので、花水木はよしあきに連れて行かれるままにその蕎麦屋へと向かった。

 人気のお店なのか、満席だった。

 だがあと十分で午後一時。お昼休みがそろそろ終わるという時間で、食べ終えた人たちが席を立ち始めていた。少し待てば席が空くだろうと、花水木とよしあきはそのまま待つことにした。


 「こちらでお待ちください」


 花水木が入口近くの椅子に座ると、よしあきは「俺、トイレな」と言って店の奥へ姿を消した。

 ちょっと疲れたな、と思いながら、花水木は息をつき、壁にもたれかかって目を閉じた。


 『つこさん。』に、会えるだろうか?


 七割の確率で金曜日の夜にはあの店に現れる、とのことだが、今日が三割の方である可能性は残っている。もしも空振りで、伊賀海栗への攻撃が止まらなかったらどうなるだろう。山へ帰れば花水木は何もできない。そうなると今度こそ黒イ卵が単身で乗り込むと言い出し、実行してしまうかもしれない。

 それは、非常にまずいと思う。

 荒事になるという確証があるわけではないが、なんだかキナ臭い。黒イ卵が一人で乗り込んできて会えたとして、なんとかなる相手とは思えないのだ。


 正樹さんにお願いしようか。


 あの人なら少々のことがあっても問題ない。むしろ返り討ちにされる相手がかわいそうかもしれない。だが間咲正樹には住職としての仕事があるし、そもそも伊賀海栗と直接の面識があるわけではない。頑丈でやたらと強い兄弟子だが、無関係の人のために危険を冒してくれとは言いにくかった。

 いや、快諾はしてくれそうな気がする。だがその代わり「嫁に来い」とか言い出すんじゃないだろうか。そっちの方がはるかに怖い。そんな約束するぐらいなら、破門されてでも自分で来た方がマシだ。


 「あら、素敵な着物」


 いっそ伊賀海栗のSNSを介して『つこさん。』に面談を申し込むか、と考えていたら、そんな声が聞こえた。

 目を開けると、三十前後の女性が二人、花水木の目の前に笑顔で立っていた。

 セミロングの髪をひとつに束ねメガネをかけた女性と、ボブカットのどこか中性的な顔立ちの女性。花水木から見れば、年上の素敵なお姉さま方、といったところだ。手に伝票を持っているから、レジ待ちなのだろう。


 「あ、ごめんね、突然」


 花水木と目が合うと、メガネの女性が謝り、ボブカットの女性も軽く会釈をした。花水木も愛想笑いを浮かべて会釈を返したが、これ以上話しかけられて男だとバレたら面倒だと思い、再び目を閉じた。

 幸い二人はそれ上話しかけてこず、会計を済ませると店を出ていった。ほっとしつつ薄目を開けて二人を追うと、ボブカットの女性が「じゃあ、かわかみちゃん、また今夜ね」と手を振り、二人は店の前で別れていた。金曜の夜だし、きっと二人で遊びに行く予定でもしているのだろう。


 「ほい、お待たせ」


 二人の姿が見えなくなると、よしあきがトイレから戻ってきた。


 「いやー、さっきからちょっと腹痛くてな。ギリギリセーフ。スッキリとヤマモリだったぜ!」

 「お前なあ、ここ飯屋だぞ」


 まったくこいつは、と頭を抱えたところで、店員が「お待たせしました」と言ってやってきた。笑顔ではあるが、少々引きつり気味である。あんなに大きな声だ、聞こえていて当然だろう。


 「こちらへどうぞ」


 それでも店員は接客業の基本、笑顔を崩さず案内してくれる。

 花水木はそんな店員の鑑に敬意を表し、お詫びに一番高い定食を頼むとしよう、と決めたのだった。


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[良い点] 「和服美人が食べるといえば、蕎麦しかないだろう」 [一言] よしあきがいろいろ満喫しててうらやましい
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