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第3章 誘導-その6

 言葉があふれていた。

 いや、あふれていたのは言葉ではない。そこに込められた感情、しかも決して綺麗ではない、どす黒い感情だ。


 悪意、悪意、悪意、悪意、悪意、悪意。


 ネットでの誹謗中傷が原因で自殺したというニュースを見るたびに憤りを感じていた。しかし心のどこかで「見なければいいだけじゃん」とも思っていた。


 だが、これは無理だと、花水木は思った。


 見るのをやめたとしても、一度この悪意にさらされてしまうと忘れられない。そして、目を背けたくてもどうしようもなく引き付けられる、耐え難い中毒性がある。


 花水木の手が震える。その震えが体中に伝わり、気持ちの悪い汗が流れる。


 これが、人間のむき出しの感情。

 これが、悪意の塊。

 そしてこれが、かつて自分が引き起こした世界──


 「おい、おい花水木?」


 よしあきに声をかけられ、花水木は我に返った。


 「どうした、大丈夫か?」

 「あ、ああ……すまねえ、ちょっと……飲まれた」

 「まあな。これちょっと……すさまじいな」

 「伊賀海栗さま、こんなにも……お、おいたわしや……」


 「よよよ」と声に出して涙をこぼす白イ卵。「いや口で言うなよ」と突っ込む気力も出ず、花水木はペットボトルのお茶に口をつけた。


 「これ一つ一つ見てたら、こっちもやられるぞ」

 「この数だからな。何か手掛かりがあればと思ったんだが。無理か」


 白イ卵が、「うええ」と言いながらハンカチで口元を抑え、メッセージをスクロールし続けていく。確かに吐き気を覚えても仕方のない内容ばかりだ。


 「おい、無理すんなよ」

 「ですが、ですが! ああ、このクソどもに、自分のクソを口に突っ込んで永遠に食べ続けさせてやりたいですわ!」

 「汚ねえよ」

 「あ、このヤロ、テキトーこいてます! 反論してやりますわ!」

 「やめろ、炎上するだけだ」

 「うーむ、何か手掛かりをと思ったが。これは難しいか?」

 「中身を全部見ていくわけにはいかないしな。こっちがやられる」


 よしあきと花水木が途方に暮れていると、白イ卵が「では分析しましょう」と言い出した。


 「分析?」

 「ビッグデータの解析手法を用いて、この投稿を分析するんですわ」

 「え、どうやって?」

 「そこは専門家にお任せしましょう」


 なんでも白イ卵のネット上の知人に、そういうのが得意な人がいるという。


 「SNSとか投稿サイトの感想覧とか、そういうのをターゲットに分析API作ってる方です。手掛かりが得られるかもしれませんわ」

 「なるほど……データサイエンティストというやつか」


 一見無秩序に見えるデータから共通項や法則性を見出す、それがデータサイエンティストだ。確かにそんな人に分析してもらえれば、何かが得られるかもしれない。


 「お仕事に行かれていたら難しいかもしれませんが。連絡、取ってみますわ!」

 「いいね、何か手掛かり得られそうだな。やってもらおうぜ、花水木!」

 「うん、そうだな。頼むよ、白イ卵ちゃん」

 「お任せください!」

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