表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/63

第3章 誘導-その3

 とりあえず目につくところを片付けた後、花水木とよしあきはダイニングの椅子に座り込んで茫然とした。

 どうすればいいか、わからない。

 花水木は伊賀海栗を医者に連れて行こうと提案したのだが、よしあきは「無理に連れて行くとまた暴れるかもしれない」と、「少なくとも明日までは待とう」と言った。


 「家族に連絡した方がいいんじゃねえか?」

 「……それこそ、待ってくれ」

 「なんでだよ?」


 よしあきは言いにくそうにしていたが、花水木が重ねて問うと、「ウニは二年前から家族と揉めている」と声を潜めた。


 「卒業したら実家に戻って家業を手伝う、ていう約束でこっちに来てたらしいんだ。でも、ウニ、そのまま就職しちまっただろ? それで、家族とモメているらしい」


 もし今の状態を家族に知られたら、強制的に連れ戻されるのは目に見えていた。


 「彼氏が海外赴任から戻って来たら結婚しよう、て話も出てるらしいんだが……まだ家族に話してないらしくてな。今連れ戻されるのは非常にマズイ」

 「そうは言ってもな……」

 「いや、わかってる。もうそういう状態じゃねえ。だけど、せめて本人が落ち着いて、連絡を取ることを伝えてからの方がいい」


 結局全部そこかよ、と花水木は頭を抱えた。


 「昨日の様子じゃ、大丈夫だと思ったんだけどな……」

 「すまねえ、俺が……」

 「もう言うな」


 直接の原因はよしあきがタブレットを忘れたことだろう。だが、根本的な原因はネットの書き込みだ。それがある限り、今後も伊賀海栗がこうなることは避けられない。


 「一体、なに書かれてるんだろうな」

 「……見てみるか?」

 「どうやって? IDとかパスワードとか、わかんねえだろ」

 「いや、わかる……というか、ログイン済だ」


 よしあきはリュックの中からタブレットを取り出した。


 「ウニ、これでネット見てたから。ログアウトはしていない」


 どうする? とよしあきはタブレットを花水木の前に置いた。


 「プライバシーの侵害……じゃねえの?」

 「そうだけどよ……」

 「しかも女性のだぞ? さすがに……」

 「いやお前は今、女の子みたいなもんだし」

 「そういうオフザケやる気分じゃねえよ」

 「……すまん」


 伊賀海栗があそこまで追い込まれる書き込みとはどんなものか。

 それを見れば、伊賀海栗を助けるヒントがあるかもしれない。しかし、SNSは個人的な空間だ、それを他人である花水木とよしあきが、許可もなくのぞくというのはさすがに気が引けた。


 「……ウニに、見ていいか聞くか?」

 「あいつに今、ネットのことを言えるかよ」

 「そうだな、すまん」


 リンゴーン。


 どうしたもんか、とタブレットを前に悩んでいると、玄関のチャイムが鳴らされた。

 花水木とよしあきは同時に顔を上げ、お互いを見る。


 「誰だろ?」


 リンゴーン。


 二人が出るべきかどうか悩んでいると、再びチャイムが鳴った。


 「だいぶ派手にやったからな……警察に通報されたか?」

 「だとしたら、出ないのマズイんじゃね?」


 花水木の言葉によしあきはうなずくと、そっと玄関に近づいてのぞき窓から確かめた。


 「お、卵ちゃんか」


 リンゴーン。

 リンゴーン。


 「卵ちゃん?」

 「上の部屋に住んでる子だよ。ウニの知り合いだ」


 リンゴーン。

 リンゴーン。

 リンゴーン。

 リンゴーン。


 「あーはいはい。今開けるから」


 よしあきが返事をし、鍵を開けて扉を開くと。


 「……遅い、である」


 もさもさと長い金髪に卵の形をした黒い帽子をかぶった、黒いツナギ姿の女の子が、不機嫌そうな顔で立っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ