魔法がすごい事に気づいた
稲の刈り入れをどうしたものかと悩んだ俺は、魔法でどうにかすることにした。
手順は次の通り。
まず風属性の攻撃魔法【エアスラッシャー】で稲の根元あたりをバッサリ切ります。
次に、稲が倒れる前に【ストーンウォール】で切断面ギリギリの高さに地面と水平に薄い石壁をダーッと伸ばします。この時、石壁の端っこを上向けることで箱状にし、稲が田んぼに転がり落ちないようにするといいでしょう。
あとは所持品欄に突っ込んで最初の手順に戻る……を繰り返しましょう。これで一人でも楽々稲刈りができますね!
まあ、一回に収穫できる範囲がせいぜい十メートル×二メートルくらいだから、田んぼ一枚を刈り取るために三十回くらい繰り返す必要があるけど……。
それでも鎌を使って手作業で刈り取るよりはずっといいよね。とりあえずは一枚だけ刈り終えれば、次が見えてくるし。
という事でサクサク進めていきまーす。
◇
ひとまず刈り終えたわけだが……稲を乾燥させるスペースはおいておくとしても、十メートル×三十メートルくらいは畑として使える状態にしなければならん。
そのためには、まず稲の切り株なんかをどうにかしないといけない。
普通なら田起こしってことで土と混ぜまくったりするわけだが、便利な耕運機なんかないし、あったとしても使ったことはない。その辺の作業は全部親父がやっていたのだ。
ってことで、またなんか魔法でどうにかしよう!と考えた。
まあ、予想はできるだろうが、地属性の魔法【アースウォール】をどうにかすりゃいけんだろ、って感じでやってみた。
この魔法は地面の土を使う場合と魔力から直接土壁を作る二つのパターンが有るのだが、今回は前者を応用する。
といっても難しいことはなく、単純に地面を少し間隔を開けて盛り上げまくった後、その下の地面をちょっとずらした位置に盛り上げることで、さながら回転させるかのように順繰りに地面を掘っては埋め掘っては埋めするだけ。
ということで、稲の切り株は綺麗にほぐされて土に混ざりました。稲刈りよりは、ずっと楽だったねえ。
「お次は、この状態から発酵?させる必要があるんだが……」
要するに藁を分解するってことなのだが、正直良くわからん。だが、きっと魔法ならなんとかなるはずだ。だって魔法だし。
植物を分解する魔法……地属性か?
まあ、考えてもわからんものはわからん。という事で、パワーを地面に!とばかりに、魔力を流し込むッ! 一応、藁とか雑草とか発酵させたり分解したりしてくれーと祈りを込める。
「お? おお……おおおお!?」
しばらく魔力を流し込んでいると、いきなり田んぼから蒸気が立ち上り始めた。まるで地面が茹だっているかのような勢いだ。怖い!
でも、発酵すると熱が出るって聞いたことがあるから、きっとこの状態は激しく発酵しているんだろうと思うことにする。
◇
限界まで魔力をブチ込んで放置すること一晩。すっかり湯気も収まって地面は冷めたようだ。
ということで、もう一回ほぐしてみる。
「おっ、完全に土に還ってる感じ」
すっかり藁も雑草もなくなっていた。どうやら成功らしい。念の為しっかり混ぜ混ぜしとくか。あと、ついでに畝も作っておこう。
「んで、何を植えるかだが……」
ぶっちゃけ時期的に何を植えても普通に時間かけて育てたら百パー枯れる。だから何を植えても良いのだ。魔法頼みで促成栽培を試みるのだから。
「まあ、主食にもおかずにもなるイモ類と大豆かな」
植え方の基本も知らないので大雑把に間隔を開けて、じゃがいも、サツマイモの種芋と大豆の種を植えていく。
で、どういう属性が促成栽培に使えるのか?だが……。
「地と水で行けるだろ!」
そんな感じで魔力ドバーして、一気に育てーと祈る。
待つことしばし。ニョキッと来たよ、芽が! 行ける!……と思いきや、なんか地面がカラカラになってきた!
「水、水! ええと……ウォーターシャワー!」
即興で水の魔法をぶっ放したぜ。読んで字のごとく、シャワー状の水を散布します。
……うむ、なんとか持ち直したかな? しばらく水浸しにならない程度に撒きまくろう。
そんな事をしている間にも、どんどん芽が伸び茎が伸び葉が伸びと育ってる。魔法すげえな、ホント。明確なイメージさえできれば、すごく色んな事ができそうだ。
しかしヤバイ、魔力が保たなくなってきた。全然レベルの上がってない属性だからな……。とりあえず、水路から水すくって来るか!
◇
地属性で石の桶を作って、水を汲んでは田んぼ……いや、今は畑か、に撒き続けること三時間ほど。
「いやー、見事に実ったね!」
種を撒いた間隔が大雑把すぎたせいか、すし詰めになってしまっているが、畑に使った部分は全てじゃがいも、サツマイモ、大豆に埋め尽くされる程に大漁だ。
多分、畑は養分を吸いつくされてるだろうけど、これで今後も食糧難は回避できるとわかったので良かった。
後は同じように別の田んぼの一部を畑にして、他の野菜類を育てればいいだろう。
しかし、塩とか香辛料の類はどうしたものかなあ……。日本に野生の香辛料ってあるもんなのかな? まあ、山にでも入って探してみるしかないか。
塩は……どっかに岩塩の鉱山でもあればいいんだが。ここから海までは百キロくらいはあるはずだから、徒歩で行くのは無理がありすぎるし……なんか、ゲーム的な都合のいい場所はないものか。
◇
ひとまず実った作物は全部ギルドに納品した翌日。今まで避けていた山に入っての探索に出かけた。ハチが怖かったからね。
まあ、色々探しまくれば、香辛料に限らず山の幸は見つかるだろう。多分。もうすぐ秋口だし。
魔力探知全開で、不意打ちを受けないように野草や木の実を探す。
山に入るのなんて十年ぶりどころじゃないほど久しぶりだけど、栗とかはあった気がする。あとはイチジクとかアケビとか。
あ、柿なんかは育ててもいいかも。うん、そうしよう。
そういえば、もっと山奥に行ったら桃とかスイカを作ってる農家があったな……残ってるかな?
「むっ」
探知に近づいてくる反応があった。これはウサギだな。さて、どうする……あれ? なんか、ちょっと小さい気が……うん、一回りほど小さいな。別のモンスターか?
『ブルーアイズ・ホワイトラビットが現れた!』
「何だって?」
アナウンスが流れると同時に、茂みを抜けてウサギが現れた。アナウンスの通り、毛が白くて青い目のウサギだ。ハームラビットより小さくてかわいい。それに襲いかかってくる様子がない。
うーむ……どうしたものか。とりあえず焼き芋用に取っておいたサツマイモでも渡してみるか。
「戦う気がないならコレやるぞー」
しゃがんで手に持ったサツマイモを、ふりふりしつつ声をかけて見る俺。
しばらく警戒するようにこちらを見ていた白兎だが、食欲に負けたか俺が無害だと判断したか、ピョコピョコとこちらに近づいてきた。
俺の差し出すサツマイモに鼻面を近づけ、フンフンと匂いをかぐウサギ。……久しく忘れていた、安らぎを感じる。
「クゥ」
とうとうサツマイモを両手で掴んで口にするウサギ。一口かじった後は、一心不乱に食べている。甘いから美味しいんだろうか?
しかし、ウサギの鳴き声なんて初めて聞いたよ。
それにしても、襲ってこないモンスターは初めてだ。アナウンスが有った以上、普通の野生動物じゃないはずだし……。今は戦闘中扱いなんだろうか? だとしたら、終了の条件はなんだ?
考え込んでいるとウサギは食事を終えたようで、満足そうに目を細めて口の周りをペロペロしている。
……まさか、この子を倒さないと駄目って事はないよな?
『ブルーアイズ・ホワイトラビットからパーティ申請が入った!』
「は?」
パーティ申請って事は……仲間になるってことか?
ウサギに目をやると、彼?は立ち上がった状態でこちらをじっと見つめている。
「あー……申請を受ける」
『ブルーアイズ・ホワイトラビットがパーティに加入した!』
俺が了承を宣言すると、再びアナウンスが流れた。これで仲間になったのかな?
首をひねっているとウサギが近づいてきたので、そっと手を触れてみる。すると、逃げることもなく撫でることが出来た。うむ、なかなかの手触りだ。
一人きりというのも正直寂しかったし、いい機会だったかも。
「そういえばステータス見れるのかな?」
ピロリン。
『パーティメニューと念じることで確認可能です』
おお、久しぶりだなヘルプさん! 教えてくれてありがとよ。
早速、念じてみるか。
【名前:リョージ】
【種族:人間LV9】
【所持CP:5510】
【所持品:鉄の棒×2 ナタ 低級回復薬×2 低級解毒薬×2】
【所持スキル:木工LV2 石工LV2 細工LV2 棍棒術LV2 二刀流LV2 地属性魔法LV3 金工LV2 魔力増加LV2 水属性魔法LV1 風属性魔法LV1 火属性魔法LV1 植物鑑定LV1 恐怖耐性LV4 毒耐性LV2 魔力探知LV2 打撃耐性LV1 刺突耐性LV1 体術LV1】
【称号:7級冒険者】
【名前:なし】
【種族:ブルーアイズ・ホワイトラビットLV8】
【所持CP:6312】
【所持品:なし】
【所持スキル:気配察知LV2 獣体術LV2 風属性魔法LV2】
【称号:なし】
ほうほう、モンスターにもスキルあるんだな。てかCPも持ってるのか。
ステータスの詳細も見てみよう。
【器用:13
敏捷:17
知力:13
筋力:19
体力:11
魔力:14】
……なんか強くない!?
体格的には俺の半分もないだろうに、俺より筋力高いんだけど! 敏捷が高いのはまあ、ウサギだから納得なんだけど……いや、仲間が強いのは良いことだよな。うん。
「しかし、名前がないのか……」
流石にウサギとか、ブルーアイズ・ホワイトラビットとか呼ぶのはないよな。何か考えるべきか。
「うーむ……毛色は白で目が青。シロ、アオ、むむむ」
白いからシロとか白兎だからイナバとか、安直な名前しか思い浮かばない。雪うさぎってわけでもないしなあ……。
『ブルーアイズ・ホワイトラビットの名前が決定された!』
「え?なんで?」
いきなりのアナウンスに驚いて、ウサギのステータスを確認する。すると……。
【名前:シロ】
Oh……シロで良いのか。
「じゃあ、シロ。これからよろしくな」
「クゥ」
俺の言葉にブルーアイズ・ホワイトラビットことシロは、嬉しそうに目を細め応えた。
それにしても思わぬ出会いで心強い仲間を得られたものだ。この幸運には感謝しないとなあ。
◇
「う、うーむ……」
シロが仲間になってから二時間ほど、俺は山をウロウロと歩き回っていた。
たまに魔力探知に引っかかる魔物と戦いながら、山の幸を色々と採取していたのだが……。
『レッドアイズ・ブラックラビットが現れた!』
というアナウンスが、ついさっき入ったのだ。そして俺たちの目の前には、シロと同じくらいの体格の黒毛に赤い目のウサギが鎮座ましましていた。それも敵対的な様子もなく。
「あー、芋食うか?」
シロの時同様、サツマイモを差し出してみると、黒兎は躊躇なく前足で芋を掴んでモグモグ食べ始めた。シロより警戒心が低いな……。
『レッドアイズ・ブラックラビットからパーティ申請が入った!』
お、きたきた。了承っと。
『レッドアイズ・ブラックラビットがパーティに加入した!』
イエーイ、新たな仲間ゲットだぜ! ステータス確認しよ。
【名前:なし】
【種族:レッドアイズ・ブラックラビットLV8】
【所持CP:5311】
【所持品:なし】
【所持スキル:気配察知LV2 獣体術LV2 無属性魔法LV2】
【称号:なし】
シロもそうだったけど金持ちだな……まあ、野生じゃCP使うような事もないからだろうけど。あと、やっぱり名前もない。
「うーむ……どんな名前が良いかな。白いからシロ、なら黒いからクロってのも……」
『レッドアイズ・ブラックラビットの名前が決定された!』
わお、決まってしまったようですよ。
【名前:クロ】
一応確認したら、やっぱりクロだった……。まあ、本人がいいならそれでいいか。
「クロ、これからよろしくな」
「クゥ~」
頭をなでてみると、クロは嬉しそうに鳴いて頭を手に押し付けてきた。どうやら仲良くやれそうだ。
あ、一応ステータスの詳細も見ておくか。
【器用:17
敏捷:22
知力:10
筋力:16
体力:14
魔力:11】
やっぱ強えな!