不意打ちが怖いので対策しようと思う
8級になったし何か良い依頼ないかなーと冒険者ギルドの掲示板を確認したところ、ゴブリンの討伐依頼がなくなっていた。
いつの間にか全滅したのか……?
近所の人たちが全滅していることから、大半がゴブリンかオークになったんだろうとは思うが……それを全滅させるような状況、あるいは存在がいるのだろうか? 怖いな……。
◇
それはそれとして、稼がないと何も出来ないので川のそばで薬草類の採取だ。ランクが上がっても、美味しい依頼がなかったから仕方ない。
「うごっ」
しゃがみこんでいた俺の脇腹に突っ込んできたのはジェルボール。名前の通り水色のゼリーみたいな魔物で、水辺によくいるっぽい。当然、薬草類を探していると頻繁に遭遇する。
どうも打撃に耐性があるらしく、鉄の棒だとかなりの回数ブッ叩かないと倒せない。そのため、枝打ちのために買ったナタを使って対処している。
ただ、斬り殺すとジェルシートというドロップアイテムが全く出なくなる。何となく防具に使えそうだなーと思っているので、余裕がある時は棒で倒す。
話がそれたが、生息域が薬草類の繁茂している場所とかぶっているので、頻繁に不意打ちを受けるのがちょっとした悩みの種だ。
強さ自体はハームラビットにも劣るので致命的なことにはならないのだが、他の魔物とリンクするような事があればどうなるかわからない。川のそばだと、キラービーも出てくるしね。
ということで、何とか不意打ちを受けずにすむようにするべく行動することにした。
何をするかというと、他者の気配を探るスキルを身に着けられないか試行錯誤するのだ。
◇
はい! 今日は自宅の裏庭に程近い、山の手前まで来ました!
これまでは山とか怖いので近づいてなかったんですね~。
平原に出てくるウサギですら体長一メートルとかになってるんだから、イノシシとかクマとかがヤバイことになってるのは確定的。そんな危ない所に突っ込む気は、サラサラないのだ。
今回ここに来たのは、危険な領域のそばで気配を探ろうとし続ければ気配察知みたいなスキルが生えるのではないか?……という希望的観測からの行動なのである。
物は試しってことで、山にギリギリまで近づく。
ジッとその場に立っていると、風に揺れる枝々の葉擦れの音や小鳥の鳴き声くらいしか聞こえず、目にうつるのは鬱蒼と茂る下草や木々、そしていくらかの花だけだ。
そもそも気配というのは何なのか?と考えると、呼吸や動くことによる空気の流れ、それに伴う音や熱の発生だろうか……という感じのことしか思いつかない。
そんな些細な周辺状況の変化を感じ取れるのは、それこそ武術の達人くらいなものではないだろうか?とも思う。
しかし、そう断じてしまっては希望がない。
という事で、もうちょっと色々と考えてみるべきだろう。
先に挙げた、気配を構成する要素とでも言うべきものを排除した上で他に何かないか……あるな! 魔力だ!
こんな世界になってから自分が新たに使えるようになった力であり、魔法やスキルを使うためのエネルギー。
……なんとなくだが、生物はみんな魔力を持っているような気がする。
ならば、まずは魔力を探ってみるべきだろう。
自分の中の魔力の動きは、そこそこわかる。他者の魔力の動きを探知するためにすることは……うーん、こっちから魔力を放射してみるか。
放射する形として分かりやすいのはドーム状かな?
「ぬぬぬ……」
これはいかん、すごく疲れるわ。
まあ、半球状の空間に自分の魔力を垂れ流しまくるんだから、当然といえば当然だが。
消費を抑えるためには……あー、レーダーみたいな感じにしてみるか。
まずは、ごく細い線状の魔力を放出する感じで……うん、大丈夫だ。
で、それを自分を中心に回転させる……おお、ここまでは魔法一発分くらいの消費量かな?
これで上手く他者の存在を感じ取れれば良いんだけど……。
「……」
徐々に魔力の線を伸ばしつつ、くるくると回転させる。
今の所、生物の探知は出来ていないが、木に魔力が触れた感覚は返ってきている。このまましばらく続ければ、きっと何か得るものがあるはずだ。
(きた!)
ようやく、それらしい反応があった。距離にして五百メートルほどか。
魔力の消費もそれほど大きくないし、これくらいの範囲を探れるなら不意打ち対策としては十分だろう。
あとは対象がどういう生物かを判断できるように、何度も訓練するしかあるまい。
今回の反応は大きさからしておそらくハームラビットだろう……うん、こちらに気づいた様子もないな。
知っているモンスターなら、しばらく反応する幅を確認すればなんとかなるか。
◇
そうして一週間。なんとかかんとか「魔力探知」というスキルを習得した。
これは当初思っていたような、いわゆるパッシブスキルではなく、自ら発した魔力で周囲の魔力を持った物を探知するものだ。
なんとか魔力以外の要素で探れるようになれば、気配察知のようなスキルが得られそうな気がするのだが……あわてず色々やってみるしかないかー。
とはいえ、スキルを得てセーフティエリア周辺の魔物は大体判別できるようになったから、薬草類を採取している時の不意打ち対策としては十分だろう。
詳細はこちら。
【名前:リョージ】
【種族:人間LV9】
【所持CP:3645】
【所持品:鉄の棒×4 ナタ 低級回復薬×2 低級解毒薬×2】
【所持スキル:木工LV2 石工LV2 細工LV2 棍棒術LV1 二刀流LV1 地属性魔法LV2 金工LV1 魔力増加LV2 水属性魔法LV1 風属性魔法LV1 火属性魔法LV1 植物鑑定LV1 恐怖耐性LV3 毒耐性LV2 魔力探知LV1】
【称号:8級冒険者】
スキルの訓練と薬草採取の際にある程度はモンスターとの戦闘もこなしたので、種族レベルも一つ上がった。
これからは戦闘スキルや魔法スキルも上げていかないとなあ。
◇
「ふん! ふん!」
いきなり変な声でスマンな。まあ、頑張ってスキルレベル上げしようとしてるんだ。こらえてくれ。
何をしているかというと、ジェルボールを何匹も集めて棍棒術のレベル上げ。
あとついでに打撃耐性とか体術とかも生えないかなーと期待して、わざと攻撃を喰らい続けたり、素手で殴ったり蹴ったりしてみているのだ。
ジェルボールは打撃ではほとんどダメージを与えられないため、こういった修行に適した相手なのよね。
「いってえ!」
乱入してきたキラービーに刺された……。
川のそばであるため、今回のようにハチが飛んでくるのに気をつける必要はある。が、奴らもまあ、刺突耐性みたいなスキルが生えるのを期待できるし、毒耐性スキルも伸びるだろうから邪魔にはならない。
命の危険が増すという意味では困る部分はあるが、一応、防具は身につけているので何とかなると思う。
毒耐性を得るまでは全く余裕のなかった懐事情も、今は無駄に消費することも少なくなっているので革鎧を一揃い買ったのだ。
その上で鉄の棒を二本潰して、頭と胴体だけは鉄板で強化しておいた。もちろん首周りもちゃんと守れるように改造してある。急所を刺されて即死!なんてことになったら悔やんでも悔やみきれないからねえ。
それと、戦闘中も魔力探知スキルを発動しっぱなしにしてみている。
入ってくる情報が五感以外に一つ増える感じなので中々大変だが、今のうちに慣れておけばいざという時に慌てずにすむんじゃないかなーと期待しているのだ。
われながら欲張りだと思うが、まあ、一人きりなんだから何でも出来ないと生きていけないし仕方ない。
また強い魔物が突然湧いてこないとも限らないしね。
という事で、また六日ほど頑張った結果がこちら。
【名前:リョージ】
【種族:人間LV9】
【所持CP:5870】
【所持品:鉄の棒×2 ナタ 低級回復薬×2 低級解毒薬×2】
【所持スキル:木工LV2 石工LV2 細工LV2 棍棒術LV2 二刀流LV2 地属性魔法LV2 金工LV2 魔力増加LV2 水属性魔法LV1 風属性魔法LV1 火属性魔法LV1 植物鑑定LV1 恐怖耐性LV4 毒耐性LV2 魔力探知LV2 打撃耐性LV1 刺突耐性LV1 体術LV1】
【称号:7級冒険者】
思ったとおりのスキルが習得できて満足である。金工と恐怖耐性も一ずつあがった。
恐怖耐性のびるなあ……。まあ、常に死の恐怖と戦いながら行動してるようなもんだから、当然といえば当然か。
なんにせよ、これで大体は欲しいスキルも揃ったし、不意打ち対策も一応できた。
明日からは拠点の防御力を高めつつ、魔法の訓練に勤しむとしよう。
◇
予定通りセーフティエリアの拡大および防御力向上を目指し、地属性魔法スキルLV2で使えるようになった【ストーンウォール】を使いまくって防壁を構築し始めてから一週間……。
総延長一キロメートル程の五稜郭型城壁が完成したぞ!
まあ、まだまだ壁自体は薄っぺらい(厚み五十センチ)から、今後もちょいちょい強化していかないといけない。
とはいえ、壁の一部は川をまたぐ形で建てたので、安心して釣りなどが可能だ。
残念ながらセーフティエリア内に収まった途端、川そばに茂っていた草花は消えてしまったので、安全・楽ちんな薬草採取は出来ないようだが。
まあ、今ならさほどモンスターを警戒しなくてもウロウロ出来る程度のレベルにはなっているから、気にする程の事ではないだろう。
冒険者ランクが7級になっても美味しい依頼は出ていなかったので、今後も薬草類の採取にはお世話になります。
作業のおかげで地属性魔法も一つレベルが上ったし、しばらくは安全な場所で他の属性魔法スキルのレベル上げメインにしようかねー。回復魔法とかも考えないといけないし。
と考えつつ冒険者ギルドに入った俺は、驚きに目をむいた。
「冒険者ギルドへようこそ!」
なんでかというと、人がいたのだ。受付に数人、売店に一人、そして飲食コーナーに一人。それにどう見ても日本人じゃない。
ただ、俺を迎えた金髪女性の声には聞き覚えがあった。
『セーフティエリアのレベルが上がった!』
と、そこで脳内にアナウンスが流れる。いきなりだったから、スゲーびびった。激しくビクッとしてしまったよ……。
「あー……つまり、レベルが上ったからギルドの機能が強化されたってこと?」
「はい、その通りです!」
俺のつぶやきに受付の女性が答える。
どうやら一定以上の面積をセーフティエリアにできれば、レベルが上ったりするようだ。
機能が強化されたからと言って人が出てくるとは面妖な……いや、よく見ればホログラムみたいな存在なのはわかるのだが。
まあ、会話はしやすくなるだろう。表情が見えるってのは割と重要らしいし。
「んじゃ、コンゴトモヨロシク、ってことで」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします!」
軽く頭を下げると、元気よく返事をされた。見事な接客態度って感じだねえ……。
少々苦笑しながら俺はその場を離れ、掲示板へと向き直った。
「なんだ、この依頼?」
掲示板に目をやった俺は、「食材の入手」というクエストが増えている事に気づいた。
「それは、酒場のマスターからの依頼ですよ」
一体どういう事なのか?と首をひねっていると、金髪のお姉さんがトコトコとやってきて説明してくれた。っていうか、カウンターから出られるんだ……。
「酒場って、あそこの?」
「はい、今のままだと春まで保つか保たないかくらいの備蓄しかないそうです」
いつも食事をとっているコーナーに目をやりつつ問う俺に、更に詳細を教えてくれるお姉さん。
……ソレってマズイんじゃないの!?
「食材って……野山で取ってくればいいの?」
「そうですね、それでも良いと思います。でも、販売コーナーで種を買って畑で育てるのが無難かと」
あ、あー……そういう。それなら確かに安定する。まあ、一人で全部やらなきゃならないという問題はあるけど……。
となると、早速、種やら何やらを買っておく必要があるな。それから稲の刈り入れだな。ちょうどいい時期だし。
さっさと行動するか……。
【名前:リョージ】
【種族:人間LV9】
【所持CP:5555】
【所持品:鉄の棒×2 ナタ 低級回復薬×2 低級解毒薬×2】
【所持スキル:木工LV2 石工LV2 細工LV2 棍棒術LV2 二刀流LV2 地属性魔法LV3 金工LV2 魔力増加LV2 水属性魔法LV1 風属性魔法LV1 火属性魔法LV1 植物鑑定LV1 恐怖耐性LV4 毒耐性LV2 魔力探知LV2 打撃耐性LV1 刺突耐性LV1 体術LV1】
【称号:7級冒険者】