属性竜たちとの会談
転移小屋の料金四千万CPにガックリしつつ竜王の住処に戻った翌日、俺たちは――正確にはレグルスが――属性竜たちの訪問を受けていた。
てっきりこちらから出向くとばかり思っていたが、よく考えればホーリードラゴンが竜王なら属性竜たちが来るのが妥当だったわ。
まあ、俺が勝手に竜王だと判断してただけで、実はもっと上位の存在がいる可能性はゼロではなかったということで一つ。
「ミャー」
「おうおう、これはまた可愛らしいではないか」
「まったくだ。それにしても猫そっくりだのう」
巨大な七体のドラゴンたちを前に、大はしゃぎで駆け回るレグルスに火竜と風竜が眦を下げる。
他の四竜も地面にペッタリと顎をつけて、レグルスの様子を楽しげに見守っていた。
一方、多種族チームは揃って固まっていた。なにしろ、誰も彼もが二十メートルを軽く超える巨体を誇る属性竜たちの威圧感は半端ではない。
孫を前にしたおじいちゃんおばあちゃんみたいな感じになっていても、ドラゴンという存在は人に属する者たちにとっては恐ろしくて仕方ないのだ。
下級の色竜ですら災害と言われるほどの力を持っているのだから、さもありなん。
俺とシロクロコンビは多少の緊張はあるが、まあ、平静と言っていいだろう。称号様様だな。
「それで光の。お主自らが、わざわざ人族まで連れてきた理由はなんだ?」
ドラゴンたちはひとしきりレグルスと戯れて満足したのか不意に身を起こし、その内の一体、闇竜がホーリードラゴンに問いかける。
「うむ、その幼子の望みであったというのもあるが、少し興味を惹かれたことがあってな。闇の、そなたは何故我らがこの世界に放り出されたか考えたことはないか?」
聖竜の言葉に、闇竜は「無論だ」と答えた。目を向けられた他のドラゴンたちも、同様に頷く。
その様子に聖竜も満足げに頷き、彼が知り得た事実を話し始めた。
その内容は、この三日ほどで俺たちが彼に話したことであり、中でも管理者によって世界が変容させられ、ダンジョンの奥にボスとして配置された魔物が自我を持っていた上に倒した途端、ただの魔物となったことが詳細に語られた。
そして俺がヘルプさんへの質問で知り得たこと――。
「その魔物たちは、データから再現された存在に過ぎぬという話だ」
この一言によって聖竜の話は締めくくられ、それは全てのドラゴンに驚愕を持って受け止められた。
「……それはつまり、我らも同様ということか?」
「恐らくは、な」
しばし無言で心を鎮めようとしていた竜たち。その中で口を開いたのは闇竜。やはり彼はナンバーツーということか。
だが、問いを肯定されてしまえば、動揺は避けられなかった。
それも当然だろう。自分は自分であると認識している者がコピーに過ぎないと言われたところで納得などできないだろうし、そうであったとしても現状は変わらないのだから。
「勝手なことを言うけど、自分が自分だと思えるならそれでいいんじゃないかな? 少なくとも、俺の目の前にいる存在は本物だよ」
俺はあえて、そこで口を出した。
何しろこの問題は地球で生き残った者を除いた全ての知性ある生物に当てはまることで、それはリリーを始めとしたダンジョンとともに現れた種族も当然、含まれる。
そして俺は、彼らをただのコピーだなどとは思わない。
出会いや歴史の不幸から行き違いがあったりはしたが、それでも手を取り合い、ともに過ごした時間は本物だ。
であるなら、誰にも――例え、この世界の変容とともに生み出された存在だとしても――彼らを偽物扱いなどできはしない。
何なら、途中から分岐した人生を送っていると考えることだって出来るはずだ。
まあ、完全に地球の人間だと思ってる俺が言うのはどうか……とも思うけどね。
「……ふむ。そなたは、そう考えるか」
全員の目が俺に集まってしばらく、聖竜は穏やかに口を開いた。
俺は頷き、肯定する。
「ふっ……あの馬鹿者を倒したという割には弱そうだと思ったが」
「うむ、存外、期待はずれというわけでもなかったようだな」
正確に意図が伝わらなければ激怒されかねないと思っていたが、どうやらちゃんと理解を得られたようだ。
……というか、ドラゴンから見て強そうな人間なんていないだろ。
「はっはっは、そうだな!」
「まあ、この島で鍛えれば強くなれるであろう」
苦笑する俺を見て、竜たちが口々にそんな事を言う。
気持ちはありがたいけど、拠点の人たちも心配するだろうから、あまり長居はできないよなあ。
気軽に来る方法があれば良いんだが……そう都合よくは行かないだろう。
「とりあえず、何日かは頑張ってみるよ」
「そうするが良い」
レグルスもまだチッコイし、直にミケたちが恋しくなるだろう。それまでにレベル上げとCPの貯蓄を頑張るか。もちろん素材収集もね。
◇
それから数日滞在し、俺たちはレベル上げに勤しんだ。
俺とシロクロコンビはサポートをメインとしていたため一つしか上がらなかったが、他のメンバーはおおむねレベル60の大台に乗ったので悪くない結果だろう。
【名前:リョージ】
【種族:人間LV102】
【所持スキル:木工LV3 石工LV5 細工LV4 棍棒術LV9 二刀流LV8 地属性魔法LV8 金工LV9 魔力増加LV9 水属性魔法LV8 風属性魔法LV8 火属性魔法LV8 植物鑑定LV3 恐怖耐性LV9 毒耐性LV4 魔力探知LV9 打撃耐性LV8 刺突耐性LV6 体術LV8 スタン耐性LV7 魔力操作LV9 剣術LV7 皮加工LV6 無属性魔法LV8 冷気耐性LV3 炎熱耐性LV3 衝撃耐性LV5 気配察知LV6 回復魔法LV4 光属性魔法LV2 闇属性魔法LV2 付与術LV1 隠身LV3】
【エクストラスキル:マップLV5】
【名前:シロ】
【種族:ブルーアイズ・ホワイトラビットLV100】
【所持スキル:気配察知LV8 獣体術LV6 風属性魔法LV7 スタン耐性LV3 打撃耐性LV3 無属性魔法LV6 冷気耐性LV2 炎熱耐性LV5 水属性魔法LV5 地属性魔法LV5 光属性魔法LV2 闇属性魔法LV2】
【エクストラスキル:マップLV1】
【名前:クロ】
【種族:レッドアイズ・ブラックラビットLV100】
【所持スキル:気配察知LV8 獣体術LV7 無属性魔法LV8 スタン耐性LV3 打撃耐性LV3 冷気耐性LV2 炎熱耐性LV5 地属性魔法LV5 水属性魔法LV5 光属性魔法LV2 闇属性魔法LV2】
【エクストラスキル:マップLV1】
一方、スキルレベルの方は魔法関係がそこそこ上がった。
回復魔法は、みんなそれなりの頻度で怪我をするためによく使ったから上がりやすかったのだが、光と闇はいくら使っても一つしか上がらなかったのは残念。まあ、ほとんど空打ちみたいな状態だったから仕方あるまい。
それから探索範囲を広げたことで、ドレイク系以外の魔物とも遭遇した。
巨大なトカゲの前足が翼になったウィルムと、その上位種ワイバーン(コイツには会ったことがある)がそれだ。
もちろん、竜系統以外の魔物もいる。
巨大虎の魔物・サーベルタイガー、風属性を使う巨大鳥・ゲイルファルコン、巨大樹の魔物・エント、トンボの魔物・ドラゴンフライ(マジで火を吹く)、黄金色の甲殻と角を持つ甲虫・キングビートルなどなど……。
ドロップアイテムも実に様々で、特にエントの落とす木材【巨大樹魔の幹】は何と火に耐性がある上に鋼より硬いという驚きの性質を持っていた。
もう一つキングビートルのドロップアイテムである【黄金の甲殻】と【黄金の角】は、見たままそのままの金であり、拠点近隣ではまだ鉱脈を発見できていない鉱物であった。これで新たな魔法金属が作れるかもしれない。夢が広がる。
ダリオもドワーフの本能が刺激されたのか、目の色を変えてキングビートルを狩りまくっていた。おかげで山ほどの黄金が集まってしまったよ。
レグルスもそろそろ帰りたくなってきたようなので、俺たちは竜王であるホーリードラゴンに暇乞いをすることにした。
「明日には帰ろうかと思うんだけど……」
「……そうか、寂しくなるな」
竜王は少し残念そうだったが、明日は送っていくから心配いらないと言ってくれた。まあ、送ってもらえないとCP貯めて転送小屋を使う以外に帰る方法はないのだが。
ともあれ、こうして俺たちは竜の大陸への旅行と属性竜たちとの会合を終え、拠点へと戻ったのだった。
◇
様々な土産を持って帰った俺達は、各種族が欲しい物を分配し休暇をとった。
俺とシロ、クロはなんともないが、それ以外の四人は精神的にも肉体的にも疲れており、故郷に戻ったことで一気にそれを実感してしまったらしく、ぐったりしている。
レグルスは元気だが、やはり寂しさがあったみたいでミケを始めとした猫たちにべったりだ。
いつ猫小屋に行っても大体、猫団子ができていて、実にのどかな光景である。
そんな中で、俺はまたマップ――というよりは人口の表示――についての新たな懸念が湧いていた。
ここのところ確認していなかったのだが、かつて三千人ほどだった最大表示範囲の人数が、いつの間にか三千五百人ほどに増えていたのだ。
そして増えた人数はおおむね小人族の総人口と同数で、もしそうであったなら……人口表示は地球人のみの数ではなく、他の種族をも含んだ数ということになる。
であれば現在確認されている四種族の合計が二千人ほどであるため、地球人は千五百人ほどということ。
つまり……以前、考えたよりも遥かに生き残りが少ないわけだ。
まあ、俺自身は地球人が多かろうと少なかろうと、思うところはないのだが。
とはいえ、地球人が少ないということは面倒事に遭遇する可能性が低くなるということでもある。ならば探索範囲を、もっと広げても良いかもしれない。
まあ、それもこれも、総人口が全ての種族を内包した数であると確認が取れてからの話だが。
――とか思っていると。
「あっ」
マップの人口表示が増加した。
「リョウジ! 獣人族の女性が子供を生んだそうよ!」
そして、新たな生命の誕生を叫びながら猫小屋に駆け込んでくるリリー。
これは確定だなあ……。
「どうしたの?」
思わぬ情報に苦笑いしていると、リリーが不思議そうに首をかしげる。
「なんでもないよ。しかし、めでたいな……よし、皆が集まって初めての子供だ。祝の宴を開こう!」
「いいわね! 皆に伝えてくるわ!」
俺の宣言に、リリーが笑顔で飛び出していった。
丁度良いから、獣人族の入場制限を完全に撤廃しよう。(実際にはもう制限していないのだが、あいかわらず獣人族は自重ぎみなのだ)
母になった女性にも、何か贈り物をしたいところだ。冷気耐性のあるウェンディゴ素材で室内着でも作るかねー。
なんにせよ、レグルスも含め新しい年を迎える前の慶事だ。来年こそは平穏に過ごせるよう願いを込め、全力で宴を繰り広げるとしよう。
◇
盛大な宴のあと、俺は新たな魔法金属を作るべく奮闘していた。
いわずもがな金の魔法金属化である。
例によって恐ろしく魔力の通りが悪く、レベル100を越えた俺でも全魔力をわずか五百グラムの金塊に持っていかれるほどの強情さだった。
金の比重は水の十九倍にもなるわけで、五百グラムだとピンポン玉よりも小さい程度。これをまともな武具にしようと思えば、二十から三十キロは魔法金属化しなければならない。
一日中作業をしても三回か四回しか制作できない都合上、魔法金属を作るだけで最低でも十日から十五日もかかってしまうのだ。
まあ、それでも他の者が作るよりは遥かに早いのだが。
この魔法金属――予想通り、オリハルコンだった――は元の重さと魔法金属化した後の重さが劇的に変化する。もちろん、これまでの例に漏れず軽くなるので、同サイズのインゴットにするとミスリルよりも軽い。
粘りが強いのも予想通りで、その性質から鈍器やポールウェポンには向かず、片刃の曲刀や細剣に適していると思われる。
ということで、刀一振り分のオリハルコンはダリオを始めとしたドワーフの鍛冶師たちにすでに渡しており、彼らは短い間ながら試行錯誤した成果を出そうと頑張ってくれているのだ。
あとのオリハルコンは何度かナイフなどを試作してみた後、ヒヒイロカネの剣鉈をグレードアップするために使った。
そしてできたのがこれだ。
【オリハルコンの多層刃剣鉈:攻撃力84 属性:斬撃 付与効果:なし】
オリハルコンの刃をヒヒイロカネで挟んで強化した結果、ドラゴンキラーに迫る攻撃力を得た。これなら竜にも、それなりに効くんじゃなかろうか。
ドラゴンキラーを手に入れて以降、両手に剣ではなく片手には棍棒を持つ二刀流で通していたが、オリハルコンの剣鉈であれば不足を感じることはないだろう。
総オリハルコンの方が強いんじゃないの? と思うかもしれないが、どうも大物を作る場合はオリハルコンの粘りが悪影響を及ぼすらしく、大きくなればなるほどヒヒイロカネを併用した物に攻撃力が劣っていくのだ。
刃渡り三十センチ程度までなら、文句なく総オリハルコン製の方が強いんだけどねえ。
なんでもかんでも希少で高価な素材を使えば良い、ってものではないらしい。
そして今回はここで製作完了ではない。そう――付与術である。
地魔の迷宮を踏破することで得た『付与術の書・初級編』を読み込んだことでスキルも身についたし、記されていた術式は有用な物だ。
その中の一つ『鋭刃化』の術式を施そうと思う。
これは攻撃力を五上げて耐久力を五下げるという物で、もともと攻撃力の高い魔法金属の武器であればメリットの方が勝ると考えた。
スキルレベルの低い付与術ではバカみたいに魔力を食うのだが、そこはレベル百超のステータスでゴリ押しだ。
長い時間をかけて刃の片面に術式を刻んでゆく――現状では一つしか刻めないが、スキルレベルを上げていけば改善されてゆくだろう。
【オリハルコンの多層刃剣鉈・改:攻撃力84 属性:斬撃 付与効果:鋭刃化】
ということで、こうなった。
攻撃力の表記は変わらないようだが、付与効果がちゃんと付いている。目に見えて感じられるほどの変化ではないだろうが、付与術を使用した武器・第一号の完成だ!
ちなみに他には『軽量化』『硬質化』の術式が記されていた。
『軽量化』は耐久力が、『硬質化』は材質あるいは武具の種類によって耐久力・攻撃力・防御力が上がったり下がったりする。
前記の通り『硬質化』は「柔らかい物を硬くすれば防御力上がるだろ!」と安易に使うとかえって弱くなったりしたので、素材に合わせた適切な付与が必要なんだなあと思った。
そんな感じで有意義な冬を過ごし、俺たちは再び新たな春を迎えた。
◇
今年こそは平穏無事に過ごせますように……という俺の祈願は、一顧だにされず放り捨てられたらしい。
何があったかと言うと、魔物だ。
春が訪れると同時に、俺は西へ向けて活動範囲を広げていた。
予想通り、生き残った地球の人間に出会うこともなく足を進めた結果――直線距離で拠点から二十数キロほどの場所で、マップの端にウジャウジャと湧き出る赤い光点に気づいたのだ。
それはマップの詳細表示範囲の南北を端から端まで埋め尽くす膨大さで、ゆっくりとしたスピードではあるが確実に東へと進んでいる。
このままでは一月とかからず拠点に到達するだろう。
いったい、なんでこんな大群が湧いてきたんだ……?




