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これ、島?

 ホーリードラゴンの背に乗って飛ぶこと二時間ほど、俺たちは竜の島上空に到達していた。

 ……というか島と言いつつ、どう見ても眼下の陸地はめちゃくちゃでかい。


 飛行高度は日本の上空からほとんど変わっていないことからすると、オーストラリアくらいの広さがありそうだ……って大陸じゃん!

 しかし日本の南東、太平洋上に大陸なんてなかった。ということは、世界が変容してからできたのだろう。


 なんというか、ムー大陸を思い出す位置関係だ。

 いやまあ、本当はムー大陸もアトランティスも無かったらしいが。

 ともあれ、よくよく考えてみれば巨大なドラゴンが大量に生息している場所が島レベルの大きさなわけはないわな……。


 段々と高度を下げてゆく聖竜の背から見下ろすと、話に聞いていた通り様々な地形が散見される。

 噴煙を上げる火山、大きな砂漠、大河と隣接する湿地帯、雪をかぶった山々……雄大であり、各地の要素を集めたような違和感も覚える不思議な大陸だ。


 そんな中でホーリードラゴンが向かうのは、豊かな森の中央に位置する山。どうやら、そこが彼の住処のようだ。

 赤道に近いはずなのに、近づけば近づくほど過ごしやすい気温になっていくように感じる。


 ホーリーってくらいだから清浄な土地で生まれたのかな? いや、最初はホワイトだったはずだから、成長の過程でいい場所を見つけて聖なる竜に進化したのか。


「そういえば、自然竜のことは聞いてなかったな……」


 一人脳内で考察していて、思わずつぶやく。


「自然竜か。今は一体もいないが、名の通り自然を司る存在と言われている」


 俺のつぶやきを聞き逃さず、聖竜は語り始めた。

 それによると自然竜は半ば精霊のような存在で、属性そのものの姿をしているという。


 つまりアースドラゴンなら大地、シードラゴンなら海、マグマドラゴンなら溶岩、スカイドラゴンなら空そのものになるわけだ。

 ……それって、もしいたとしても気づけないのでは。


「我らドラゴンであれば、いるかどうかは感じられる」


 俺が疑問に思ったのに気づいたのか、ホーリードラゴンは話を続ける。

 自然そのものとなった竜は、新たな世界誕生の礎であり、より上位の階梯――要は神のような――へと至るという。


 地水火風光闇無の七種の自然竜が揃ったとき、新たな世界が形作られ、彼らはその世界の管理者となる。

 ……管理者か。これは地球を変容させた存在と同じ意味なのだろうか?


 もし地球も自然竜たちによって生み出された世界なのだとしたら、彼らにとって地球の有り様は許容できない状態になっていたということなのだろう。……実際、ヘルプさんの話でもそんな感じの説明を受けた。


 世界が管理者によって運営されているのなら、地球が『失敗』として処理されてしまうのも仕方のないことなのかもしれない。

 とはいえ、生きていて殺されたり、魔物にされたりする当人からすれば、理不尽の一言でしかないが。


 まあ、こんなこと考えても過去に戻ることはできないし、過去に『管理者』の情報があったとしても、人間は似たような進歩の道をたどったんじゃないかと思うけどね。


 そんな益体もない事を考えている内にホーリードラゴンは住処へ到着し、山頂の開けた場所に降り立った。

 そこはすり鉢状にくぼんだ地形で、周囲は大きな木々で囲まれているのに窪地は背の低い草花くらいしか生えていないという、巨体の竜も過ごしやすそうな環境だ。


「長旅で疲れたであろう。何もない場所だが、ゆっくり休むが良い」


 聖竜は地面へと横たわりながら、俺たちにそう促した。

 俺たちは彼の背から地上へと降り、凝り固まっていた体を曲げ伸ばししてほぐす。


 目に入るのは青々とした草木と無害な小動物ばかり。

 それだけで、ここの主たるホーリードラゴンの格が分かろうというものだ。おそらくは今、最も自然竜に近いのが彼なのだろう。


 これまでの話からも長い時間を生きているのは間違いないし、自然竜や管理者の事情に詳しすぎる。

 となると、すでに次段階の直前くらいには到達しているのだろう。


 数多いる竜たちの最上位に君臨する者――竜王とでも言うべきか――が、わざわざ出奔したバカのために出張ってきただけでも異例なようにも思えるが……。


「我は、知性ある竜の統治者を自認しておる。であるならば、愚か者の引き起こした事の顛末を見届ける義務があるというもの」


 何度目か分からないが、また考えを読まれたように竜王は俺の疑問に答える。まあ、すぐに疑問が解消されるのは助かるけどね。

 しかし「知性ある」か……ということは、この大陸には知性の生まれていない竜もいるということだろうか?


 そして他者が考えていることを読み取る能力からして、俺が現在、最も求めている物も理解していると考えられる。

 であるなら……。


「この島の魔物は強いぞ。無論、竜に連なる者たちは、その最上位に位置するが、弱肉強食の摂理から除かれるのものではない」


 はいはい、「知性のないドラゴンなら殺しても良いよ」ってことね。

 俺は竜王の言葉に頷き、同行者たちに目を向ける。すると彼らも話(竜王が一方的に喋っているようにも見えただろうが)の流れを理解していたようで、それぞれ硬い表情で頷いた。


「まあ、無理をしない程度に探索させてもらうよ」

「そうするが良い」


 さあて、しばらく休んでから、この『竜の大陸』の探索をしようかね。



 竜王にレグルスを預け、その住処から数キロほど離れた森の中で俺たちは最初の魔物と遭遇した。

 おそらくは、これが最弱クラスなのだろうが……。


「みんな下がれ! アイアンウォール!」


 ――ドゴォン!


 肉食恐竜のような魔物の突進が、轟音を立てて鉄壁に激突する。

 獣脚類というのだったか、アレだ、ジュラシックな映画で出てきたラプトルだ。


 あんな感じの魔物、スキッパードレイクが続々と現れ、木々の合間を縫って襲いかかってくる。

 今は接近経路をアイアンウォールで制限し、俺とシロクロコンビが前に立つことでしのいでいた。


 もちろん木々を利用して壁を越えてくるモノもいるので、それらへの対処も必要だ。が、着地の際に足元に穴を開けてやれば、どうとでもなる。


 だが、レベル40前半のリリーとダリオでどうにかなる感じの強さだから、クルススとペスタスにはいささか荷が重い。しかし、それは逆に言えば経験値は美味しいということだ。


 俺とウサギたちにとっては大した相手ではないから、回復魔法を使って仲間たちの体力を回復させつつ殺さない程度に削ることで、余裕……というほどではないが、限界ギリギリにはならない状態で倒すことができるように調整できている。


 ……それにしても、この魔物ぜんぜん減る様子がない上に、大量に殺されても逃げもしないのが不思議だ。

 まあ、いわゆる『魔物の養殖』的に考えれば良いことだが、何か続きがありそうな気がするねえ……。



 お、来た来た、来ましたよ。でっかい恐竜が。

 まあ、お約束って感じだよね。小さい肉食恐竜の後にデカイ肉食恐竜が出てくるの。


 このハンタードレイクは、まさにティラノって感じで木々をなぎ倒して現れた。

 どうやら何にでも食らいつく性質を持っているようで、スキッパーにも襲いかかっている。


 話はそれるが、魔物同士が食い合うとドロップアイテムを出して消滅しない場合がある。

 これまでの経験では、食おうとしてると消えず、殺すだけだと消えるっぽい。不思議。


 さておき、ティラノことハンタードレイクの対処だ。

 といっても例によって穴に落として瀕死まで追い込み、他人種組に止めを刺させるだけだが。


「はぁ……強いとは知っているつもりだったけど」

「ああ、我々とこれほど差があるとは……」

「ミスリル装備がなきゃ、ダメージも与えられんぞ……」

「いや、皆さんも動けている時点で相当なものだと思いますけど……」


 その止めを任される四人は、口々にレベル差の大きさをこぼす。

 言ってみればダンジョンのボスクラスが頻出しているような感覚だろうから、げんなりするのも分かる。


「まあ、じきに慣れるよ。レベルもドンドン上がってるだろうし、午後にはスキッパーくらいは楽勝になるんじゃないかな?」


 あまり深刻に捉えられても今後に差し障りがあるだろうと、俺は軽い調子でフォローする。


「まあ、確かに、もうレベル50を越えたけど……」

「スキルレベルもいくつか上がったな」

「チクチクやってるだけで、これだからな……」

「僕は生き延びられれば何でも良いです……」


 それぞれ多少の幅はあるが、四人はさっきまでより落ち着いたようだ。まだ、探索は始まったばかりだし、緊張しすぎていても良くない。


 初戦を無事に乗り越えたことで、この周辺の魔物の強さも多少は分かった。

 気を抜きすぎないようにしつつ、竜王の住処を中心とした数キロ圏内の魔物を相手取るようにしますか。



 昼食を挟み、俺たちは夕日が空を赤く染める頃まで探索を続けた。

 暑くもなく寒くもない環境は体調に気を使わず動けたため、悪くないペースでそれなりの範囲を探索できたと思う。


 しかしながら、このレベル帯の魔物と戦うのに慣れていないリリー、ダリオ、クルスス、ペスタスの四人は完全にグロッキーだ。

 単に体力だけなら適宜回復魔法を使っているので大丈夫なはずだが、戦闘ごとに相当な緊張を強いられただろうから精神的な疲労は大きい。


 ということで、ここでも小屋と風呂を作る。もちろん竜王の許可は得た上で、営巣地の端っこにだ。

 ほぼ安全だとは思うが、木々の側にはキッチリ鉄の壁を張り巡らせて頑丈にした。


 風呂は男女で分けたので、入浴の順番を気にする必要はない。まあ、俺は見張りに立つので後で入るが。

 シロとクロ、そしてレグルスはリリーと一緒に入る事を選択したらしい。女性は一人だから、彼らがいれば寂しくなくていいだろう。


「随分と頑張ったようだな」


 夕食の準備をしつつ見張りをこなしていると、竜王が声をかけてきた。

 彼は日中、俺達のためかずっと住処にいたようだ。多分、彼がいるのといないのとでは魔物の分布も変わってくるのだろう。


「うん、まあ、これほど好条件で鍛えられる場所も滅多にないだろうからね」


 単純に経験値を稼ぐだけなら俺たち以外の者には巨人の迷宮第八階層があるが、あそこはスキルレベルを上げるのには向いていない。


 その点、ここなら魔物ごとにいくつものスキルを同時に鍛えられる。

 実際、俺たち高レベル組も『気配察知』や『隠身』などが生えたり伸びたりしている。



【名前:リョージ】

【種族:人間LV101】

【所持スキル:木工LV3 石工LV5 細工LV4 棍棒術LV9 二刀流LV8 地属性魔法LV7 金工LV9 魔力増加LV9 水属性魔法LV7 風属性魔法LV7 火属性魔法LV8 植物鑑定LV3 恐怖耐性LV9 毒耐性LV4 魔力探知LV9 打撃耐性LV8 刺突耐性LV6 体術LV8 スタン耐性LV7 魔力操作LV9 剣術LV7  皮加工LV6 無属性魔法LV8 冷気耐性LV3 炎熱耐性LV3 衝撃耐性LV5 気配察知LV6 回復魔法LV2 光属性魔法LV1 闇属性魔法LV1 付与術LV1 隠身LV1】

【エクストラスキル:マップLV5】


【名前:シロ】

【種族:ブルーアイズ・ホワイトラビットLV99】

【所持スキル:気配察知LV8 獣体術LV6 風属性魔法LV7 スタン耐性LV3 打撃耐性LV3 無属性魔法LV5 冷気耐性LV2 炎熱耐性LV5 水属性魔法LV4 地属性魔法LV4 光属性魔法LV1 闇属性魔法LV1】

【エクストラスキル:マップLV1】


【名前:クロ】

【種族:レッドアイズ・ブラックラビットLV99】

【所持スキル:気配察知LV8 獣体術LV7 無属性魔法LV7 スタン耐性LV3 打撃耐性LV3 冷気耐性LV2 炎熱耐性LV5 地属性魔法LV4 水属性魔法LV4 光属性魔法LV1 闇属性魔法LV1】

【エクストラスキル:マップLV1】


 こんな感じだ。

 シロとクロに隠身が生えないのは謎だが、種族的にもともと持っているのではないかとも思うので気にしないことにする。


 あと所持CPと所持品欄、そして称号は、邪魔だから非表示にできないかなーと念じてみたら非表示に出来た。これは見やすくて良い。


「レグルスは良い子にしてた?」

「うむ、元気に遊んで食べて寝ていたぞ。我の言いつけも守り、ここから外に出ようとはしなかった」


 預けていたレグルスのことを聞いてみると、何も問題はなかったようだ。

 生まれたばかりで何にでも興味を持つ時期だと思うのだが、俺が考えているよりずっと頭がいいのかもしれない。


「それで、だ。明日は休むのだろう? ならば明後日、レグルスを他の属性竜たちと会わせたい」


 よく考えなくても、そもそもレグルスを連れてきたのは同胞と会わせてやりたかったからだろう。ということで、こちらに否はない。


「みんなに話しておくよ」

「うむ、よろしく頼む」


 俺が請け負うと、竜王は満足げに頷いた。



 夕食時に竜王からの申し出を皆に話し、一日の休息を挟んで属性竜たちとの会談を行うことが決まった。まあ、主役はレグルスで、俺達はオマケだが。


 とはいえ、理性あるドラゴンと会う機会など滅多にないだろうから、それなりに楽しみではある。

 それに属性竜の覇気に多少でも慣れておけば、他の強い魔物を相手にする際にも精神的な余裕ができると思う。


 そして一夜明けて休息日。俺は竜王の許可を得て、彼の営巣地付近の森にセーフティエリアを作ることに。

 リリーは同行したがったが、明らかに精彩を欠いているのでゆっくり休んでくれとなんとか説得した。


 昨日の探索で、それなりに拠点に使えそうな場所は見繕っておいたので、そこに向かってさっさと移動する。

 その場所は比較的木々の距離が空いており、出現する魔物も草食恐竜に似たトライホーンドレイク、フィンドレイクがメインだ。


 トライホーンの方は名前からしてわかりやすいだろうが、トリケラトプスみたいな魔物だ。

 フィンドレイクは何というか……長い首に沿ってヒレがくっついている、ブロントサウルスみたいな魔物だ。デカイ。


 どちらも、こちらから近づかない限り襲ってこないので、他の場所に比べればずっと安全だろう。

 たまに肉食恐竜型も現れるので、拠点の防壁は何重にもした上でカモフラージュもしておく必要がある。


 ということで大雑把な範囲を土の壁で覆い、その内側で鉄の壁を五メートルほどの間隔で幾重にも構築してゆく。

 最終的な拠点の大きさは、直径十メートルあるかないかというところだが――。


『セーフティエリアを得た!』


 どうやら、この規模でも問題なくセーフティエリアと認められるようだ。

 そして、そうなると……。


「お、小屋が生えてきた」


 小さな拠点内に、忽然と現れる転移小屋。

 で、中に入って転移可能な拠点を確認する。


「ダメだこりゃ……」


 どうやら日本からここまでは四万キロほどの距離があるらしく、実に四千万ものCPが必要だ。

 これでは作るだけ無駄だったって感じだなあ……。


 まったく、まいった。

 気軽に転移してこれるかも? なんて思いは完全に打ち砕かれてしまったわい。


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