拠点の新たな機能
いきなり入ったアナウンスの内容を確認すべく、俺は自分の拠点の冒険者ギルドへと移動した。
その結果――。
「転移機能とは……ビックリだなあ」
「そうですよね。拠点の間でしか使えませんけど」
受付のお姉さんに声をかけると、セーフティエリアがレベル4になったことで追加された機能を教えてくれた。
それがギルドの隣にいきなり現れた小屋の中に設置された『転移装置』だ。
おそらく、他の拠点にも現れているのだろう。まあ、無いと転移しても帰れない一方通行とかになっちゃうだろうしね。
それにしても、これは遠くの拠点を得た際にはおそろしく有用だ。
もちろん、それなりのサイズ(おそらく拠点の外周総延長一キロ以上)がないとダメだろうが、どこに行っても一瞬で帰ってこれるのだから旅の準備がものすごく楽になる。
未開の地に行った場合でも、拠点さえ作ることができれば安全に調査や戦闘を行えるのだから、そのメリットは計り知れない。
まあ、俺自身はあまり遠くまで行くつもりはないんだけども。
転移装置に関してちょっと心配だったのが『どこともしれない拠点とつながってしまっていないか』という点だったが、これは俺の行ったことのある拠点としかつながっていなかった。
というのも、転移装置を使う際にどこに移動するかを指定するパネルが現れるので、移動できる場所の確認ができたのだ。
良かった良かった。
ただ、この転移装置、移動する場所ごとに異なる額のCPがかかる。
現状、一番遠い『地魔の迷宮前セーフティエリア』で3200CP。
ということは、大体一キロにつき1000CPということで、ものすごく遠い拠点に移動しようと思えばスゴイ金額になるということでもある。
十キロ先なら一万、百キロ先なら十万……これでは気軽に旅行というわけにはいかないな。
馬とかも今のところ見かけてないし、遠出するのも現実的ではない。むしろ小人族に、何か魔道具でも開発してもらうほうが良いかも。
なんにせよ、選択肢が増えたのは良いことだろう。
最低限ダンジョンの近くに拠点を用意しておけば、人によっては移動の手間と金銭を天秤にかけて使うことも可能だしね。
そんな感じで、ダンジョンの内外にしっかりセーフティエリアを作りますかねー。
◇
小人族と出会って約二ヶ月、間もなく冬という時期に差し掛かっている。
まだダンジョン外で冬を越したことのない獣人族と小人族には、事前に冬に起こる変化を伝え、備えるように促しておいた。
さすがに秋になってから食料の用意をするのは難しいので、俺が例の魔法促成栽培で大量に野菜類は用意した。
あとは肉を落とす魔物や、近隣の食用に適した動植物なども学んでもらっていたので、まあ、この冬も大丈夫だろう。
俺はと言うと、この二ヶ月は周辺地域の探索をメインに行い、地魔の迷宮で手に入れた『付与術の書・初級編』『作刀指南の書』の二冊を熟読し、ちょこちょこ実験的に制作を行ったりもしていた。
とはいえ、付与術はともかく、作刀は魔法的な技術のみでは完成させられないので、ドワーフの職人たちにも情報を開示して試作してもらっている。うまくいくと良いんだけどねー。
まあ、実際のところ刀が武器としてどこまで使えるのかはわからないんだけど、日本人としてはやっぱり憧れがあるからね。
剣術で使えないかもしれないという懸念があるけど、そうなったらそれはそれで新しいスキルが得られる可能性も出てくるし、完全に無駄になることはあるまい。
さておき、これまでの成果を見てみよう。
【名前:リョージ】
【種族:人間LV100】
【所持CP:14928501】
【所持品:ナタ 上級回復薬×9 上級解毒薬×9 万能薬×9 炎の剣×9 炎の剣×9 炎の剣×9 大蛙スーツ 竜の卵】
【所持スキル:木工LV3 石工LV5 細工LV4 棍棒術LV9 二刀流LV8 地属性魔法LV7 金工LV9 魔力増加LV9 水属性魔法LV7 風属性魔法LV7 火属性魔法LV8 植物鑑定LV3 恐怖耐性LV9 毒耐性LV4 魔力探知LV9 打撃耐性LV8 刺突耐性LV6 体術LV8 スタン耐性LV7 魔力操作LV9 剣術LV7 皮加工LV6 無属性魔法LV8 冷気耐性LV3 炎熱耐性LV3 衝撃耐性LV5 気配察知LV5 回復魔法LV2 光属性魔法LV1 闇属性魔法LV1 付与術LV1】
【エクストラスキル:マップLV5】
【称号:1級冒険者 ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー 迷宮踏破者 アントキラー フェアリーキラー ドラゴンスレイヤー ウルフキラー ジャガーキラー マンティコアキラー ブルキラー キマイラキラー ベアキラー フォックスキラー ワームキラー ジェルボールキラー スパイダーキラー スネークキラー リザードキラー アルマジロキラー】
【名前:シロ】
【種族:ブルーアイズ・ホワイトラビットLV98】
【所持CP:4155468】
【所持品:上級回復薬×9 上級解毒薬×9 万能薬×9 手長巨人のツナギ・改三 大蛙スーツ 炎の剣×9 炎の剣×9】
【所持スキル:気配察知LV7 獣体術LV6 風属性魔法LV7 スタン耐性LV3 打撃耐性LV3 無属性魔法LV5 冷気耐性LV2 炎熱耐性LV5 水属性魔法LV4 地属性魔法LV4 光属性魔法LV1 闇属性魔法LV1】
【エクストラスキル:マップLV1】
【称号:ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー 迷宮踏破者 アントキラー フェアリーキラー ドラゴンスレイヤー ウルフキラー ジャガーキラー マンティコアキラー ブルキラー キマイラキラー ベアキラー フォックスキラー ワームキラー ジェルボールキラー スパイダーキラー スネークキラー リザードキラー アルマジロキラー】
【名前:クロ】
【種族:レッドアイズ・ブラックラビットLV98】
【所持CP:4155431】
【所持品:上級回復薬×9 上級解毒薬×9 万能薬×9 手長巨人のツナギ・改三 大蛙スーツ 炎の剣×9 炎の剣×9】
【所持スキル:気配察知LV7 獣体術LV7 無属性魔法LV7 スタン耐性LV3 打撃耐性LV3 冷気耐性LV2 炎熱耐性LV5 地属性魔法LV4 水属性魔法LV4 光属性魔法LV1 闇属性魔法LV1】
【エクストラスキル:マップLV1】
【称号:ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー 迷宮踏破者 アントキラー フェアリーキラー ドラゴンスレイヤー ウルフキラー ジャガーキラー マンティコアキラー ブルキラー キマイラキラー ベアキラー フォックスキラー ワームキラー ジェルボールキラー スパイダーキラー スネークキラー リザードキラー アルマジロキラー】
レベルは一つだけ上がって100になった。
二つの迷宮を踏破して三周してこれなのはちょっとがっくりくるけど、まあ、それだけレベルが上っているということなんだろう。
スキル関係は迷宮のクリアボーナスで得たものばかりだな。
あと称号、増えすぎ!
多分、同系統の魔物を網羅したら統合されるんだろうけど……動物系とか一体あとどれだけ得れば良いのか想像もつかない。
まあ、あって困るものでもないから、気にしないことにする。
なんにせよ100の大台に乗ったってことは、まだまだ上のレベルの魔物が現れる可能性があるということだから気は抜けない。
実際、ドラゴンとか明らかに100どころじゃないレベルだったもんねえ……。
しかし現状、巨人の迷宮でフロストジャイアントを養殖する(広間の入り口で仲間を呼ばせまくる)以外では効率よく経験値を稼ぐ方法はないんだよなあ。どうしたものか。
あとマップだが、いつも通り詳細表示範囲が広がり直径五キロほどに。
そして、人数表示に新たな項目が増えた。
それは――総人口。
これはバッチリ『総人口』『国内総人口』『周辺人口』と項目分けされていたので、どう目をそらしても完全に総人口が表示されている。
何人だったのかというと……24371人。思ったよりもずっと少なかった。
そして国内総人口が11465人――実に生き残りの半数近くが日本人だということだ。
いったいなぜ日本人がこれほど多く(少ないけど)生き残ったのかは不明だが、この現状でうっかり生き残りと出会えば面倒なことが起きそうな予感しかしないので、あまり嬉しくはない。
それに見ている間にも少しずつ数が減っていっているから、なんともいえない気分になるのも困ったところだ。
定期的に周辺の状況は確認すべきだろうが、能動的に生き残りを探したくはないなあ。
所詮俺は利己的な人間だし、仲良くなった人々を危険、あるいは不快な思いをさせる可能性が高いことに巻き込むつもりはないのだ。
優先すべきは自分と好ましいと思える隣人。それだけ。
まあ、もうすでに俺の手にあまるほどの責任が乗っけられてるから、これ以上はノーサンキューというのが正直なところだ。
最近は俺を族長扱いする人が増えてきたのも困ったことだしなあ。
リリーなんかは、なぜか俺が族長であることが嬉しいみたいだけど……。
つっても人間はギルドの人たちを含めても四人しかいないし、名ばかり族長だけどね。
なんにせよ情報収集はしやすくなったし、人のいない場所を中心に現地調査していくのが妥当なところだろう。
あとは、ある程度の距離ごとに関所のように防壁を作っておきたい。
ドラゴンやらワイバーン相手には何の効果もないが、地上を移動する魔物の行動は制限できるだろうし、分布が大きく変化するのを予防することにもつながるはずだ。
それに比較的安全に狩猟採取できる領域が確保できれば、今後の生活にもプラスだろう。
特に拠点郡の周辺は全てのダンジョンを攻略したし、山間を塞いでしまえば未発見のダンジョンで魔物が氾濫を起こしても被害は少なく済むと思う。
ということで関所兼防壁の建設と、探索はセットで行っていくことになる。
本格的な冬が来る前に、近隣だけでも作業を完了させておきたいね。
◇
獣人のアホたちのせいでケチが付いたこの秋の収穫だったが、せっかくみんなで頑張ってきたのだから収穫祭をやろうと言う話になった。
結局ドワーフの畑では、ごく一部で魔法促成栽培を身につけた者が少量の野菜類を収穫したのみだが、今年の収穫祭はその野菜と育てたドワーフたちが主役だ。
会場は俺の拠点で、今日ばかりは獣人族も出入り自由に設定した。
皆それぞれ思うところはあるだろうが、獣人族全体が悪いわけではないので、これを機に少し歩み寄れれば良いなあと思っている。
夕方を前にし、エルフと小人族が一時暮らしていた場所に大きなテーブルや竈が多数設置されていた。
テーブルの上にはいくつもの食器が並び、竈の上にはドデカイ鍋が乗っかりスープが煮込まれている。
また、沢山の酒樽もテーブル脇に置かれており、蓋を開けられるときを待ちわびている。
深緑の迷宮で得たドロップアイテムは酒場で提供される酒類にも影響を及ぼしていて、それまではエールしか無かったのが蜂蜜酒や果実酒、そして日本酒に焼酎まで購入できるようになっていた。
俺は普段、酒を飲まないから気づいてなかったけど、ドワーフやエルフは大喜びのようだ。
まだ蒸留酒は無いみたいだから、今後なにかドロップアイテムなり技術なりを得たら増えたりするのかもね。
会場の様子を見ながら、俺はそこここに立てられた篝火の受け皿に乗せられた薪に火を着けてゆく。
普段は魔法で明かりを灯すけど、こういうお祭りのときは篝火の方が雰囲気があっていいと思う。
そうこうしている内に赤かった夕日は徐々に青みを帯び、いよいよ夜を迎える。
空には一足早く月が顔を出しており、紺色の中に白く浮かんでいた。間もなく一番星が出るのだろう。
男たちはすでにテーブルの前に集まり、各々カップを手に持って開宴の時を待っている。
料理を担当していた各種族の女性陣も仕事を終え、竈の火を小さくしてテーブルへと移動した。
俺もシロクロコンビとともに手近なテーブルに場所を移し、西の山の稜線へと沈んでいく太陽を眺める。
俺のそばには、いつの間にかリリーとダリオ、そしてクルススが集まってきていた。
「よし! 樽を開けろ!」
夕日が沈みきったところで、ドワーフたちの声が上がる。あちこちで樽の蓋を叩き割るパカパカという小気味良い音が響き、男たちがカップを突っ込んでは次々と周囲に手渡してゆく。
食器類は魔法やスキルで大量に作ったから、足りないということはあるまい。
そうしてしばし、全員に酒盃が行き渡ったようだ。
「リョウジ、開宴の挨拶をしろ!」
「ええ……なんで俺?」
「当然でしょ、ここを作り上げたのはアナタなんだから」
いきなりダリオに促され戸惑う俺に、リリーがそう言う。
まあ、確かに会場を提供したのと大半の食材は俺の持ち出しだけど、主催者ってわけではないのだが……。
「みんな、お前に助けられたんだ。だから、お前がやるのが筋ってもんだ」
ダリオは更に、そう主張する。そして周囲の皆は、納得とばかりに頷いている。
……この状態で逃げるのは無理だなあ。
「わかったよ……。あー、まずは皆さん準備お疲れ様。こうして収穫祭を行えるのは、皆がそれぞれ頑張ってきたおかげだ」
軽く皆を労い、頭を下げる。
「色々あったし、これからも色々あるだろうけど、出来る限り助け合っていければと思ってる。その上で平穏に暮らせれば最高だ」
真っ先に脳裏をよぎるのは魔物との戦いばかり。それだけ大変な一年だったということだが、それでも楽しいこともあった。
「種族ごとに出会った時期は違うけど……一年間、無事に過ごせたことを嬉しく思う。これからの一年も無事に過ごせることを祈って……乾杯!」
俺が挨拶を締めくくり、酒盃を高く掲げると、会場中から「乾杯!」の声とともにカップを打ち合わせる音があちこちで起こった。
早速、酒盃を干し、次の酒をすくいに走る男たち。
農家のドワーフたちは会場の中心付近で自分たちの育てた野菜のスープを味わい、来年こそはきっちり収穫することを誓いあっているようだ。
獣人族の参加者は他の種族に比べて少ないが、笑顔が見える。
二ヶ月と少しで、ある程度わだかまりは解けたようだが、まだ遠慮があるか。
クルススが各種族との緩衝材と交渉役を務めていたから、少しずつ関係が改善されているかな。
相互に協力していく上で序列みたいなものができてしまうとマズイから、俺も獣人族に隔意は無いことを示しておく必要があるだろう。
小人族は苦しい時期の記憶が強く残っているのか、酒もそうだが料理をバクバク食べている。あちらの皿をつつき、こちらの皿をつつき、鉄板で焼かれる肉をかっさらい、頬張っては酒で流し込む。実に豪快だ。
徐々に徐々に笑い声が大きくなり、やがて歌声が上がる。
重低音の渋いドワーフたちの歌声とエルフたちの奏でる様々な楽器の音色が木霊し、誰もが酒と宴の空気に酔いしれた。
二時間もする頃には、あちこちで轟沈した小人族たちが寝転がり、地べたに座り込んで肉をかじりながら歓談に興じるドワーフとエルフの集団も現れる。
小人族は獣人族とも問題なく交流出来ているようで、こちらも歓談し笑い合っていた。
合流時期のズレが、良い方向に作用したということだろう。
人々が大騒ぎしているのが気になったのか、猫たちも猫小屋から出てきてご相伴に預かったり、大の字で寝転がる小人族の腹の上に乗っかったり、女性陣に撫でられたりしている。
猫たちもこの拠点の仲間のような存在だから、参加してもらえたのは良いことだ。
ちなみにギルドの人たちも参加してくれている。
ギルドレベルが4になったことが彼らにどういう影響をもたらしたのかは今のところ分かっていないが、人間として交流できるのは嬉しい。なんと言っても、彼らは絶対に敵にならないと確信できるのが良い。
変容したこの世界は、言ってみれば暴力の巷だ。
そんな中で確実な味方がいるというのは、大きな意味があると思う。
それはさておき、ドワーフやエルフたちすら酔いつぶれて地面に転がり始めた。
収穫祭開始からすでに四時間、宴もたけなわというところか。
酔っ払いたちが風邪をひいたりしないように、適当な建物に放り込みますかね。
ちなみに俺は、たまに回復魔法の『デトキシケーション』で酔いを冷ましつつ飲んでいたので元気だ。
魔法ってホント便利だねえ。




