小人族の脱出と移住
夕食を振る舞いながら聞いた小人族の四人の青年の話によると、彼らの現状は中々厳しいものであることが分かった。
もうすぐ食料の備蓄が底をつくし、陽の光を浴びることが出来ないせいか体が弱るものも現れているという。
そんな時に俺達が魔物を片っ端から倒していったおかげで、彼らは地上に出られるのではないか? と、決死の調査行を敢行。見事、地上へと到達したというわけだ。
「ねえ、お兄さん、皆が迷宮を脱出するの手伝ってもらえない?」
「ちょっと、アメット!」
「だってペスタス、こんなチャンスは、もうないよ?」
「そうだよね」
「オイラも、そう思う」
おっと、何やら議論が勃発しましたよ。
助けてもらうべき、報酬が何も払えない、あとで働きで返せば――というような感じだ。
まあ、助けるのはやぶさかじゃないし、援助要請派の三人の言う通り報酬は技術や知識、それに能力で払ってもらえれば問題ない。
否定派というか慎重派のペスタスは、空手形を切ることになってしまわないかが心配なようだ。
「そうだなあ……じゃあ、こっちから協力要請した時に知恵とか知識とか、あと技術とかを貸してくれれば良いよ」
「そ、そんなことで?」
話がちっともまとまらないので、俺から結論を出すことにした。
が、やはりペスタスは労力に見合わないのではないかと思っているようだ。
「まあ、今のところ、君の言うように俺は困ってない。でも、困ることは必ず出てくる。それに、エルフやドワーフとも似たような協力関係を築いて生活してるからね」
片方に頼り切らず、助け合えればそれが一番いい――俺は、彼らにそう伝えた。
「……分かりました。よろしくお願いします」
どうやら納得してもらえたようだ。
さて、それじゃあ明日の朝になったら案内してもらおうかねー。
◇
ということで第四階層の広間にやってきた。
彼らの言う通り、崖には上に登るための中々険しい通路がある。
身が軽い小人族とはいえ年寄りもいるだろうから、ちゃんとした階段をついでに作っておこう。
「ええ……? 人族ってこんなに魔法得意だっけ?」
「いや、そんな話は聞いたこともないけど……」
俺がつづら折りの石の階段を作っていると、呆れたようにフルワルがこぼし、ペスタスが呆然としながらも答える。
そういえば人族のスタンダードな特性とかは聞いたことがなかったな。
で、聞いてみたところ、人族は個人差が大きすぎて特性らしい特性はないそうな。
大体はファンタジーもののゲームや小説と同じで、『これといって突出した部分はないが、ある程度は何でも出来る』感じらしい。
他の種族も、おおむねイメージ通りの特性だそうな。
ドワーフは器用で鍛冶が得意、エルフは何でも得意だけど特に魔法が得意、獣人族は身体能力が高い、小人族は器用で身が軽い、という感じだね。
嬉しい情報としては小人族には魔道具職人がいて、里には結構いろんな魔道具があるらしい。
今のところコタツ以外まともな魔道具を作れていなかったので、どんな物があるのか見るのが楽しみだ。
「着いたよ!」
「ここがオイラたちの里さ!」
雑談をしつつ移動し、俺達は小人族の里に到着した。
アメットとフルワルは朗らかに言うが……どう見ても限界集落です。
畑は作物じゃなく雑草がボウボウだし、道だった場所もパッと見て分からないくらい荒れている。
幸い建物は何の損傷もないようだが、どこにも明かりの類がないため、ダンジョンの薄暗さそのままだから雰囲気が最悪だ。
「おーい、みんなー! 地上に出られるぞー!」
「魔物はほとんどいないから、今のうちに脱出しよう!」
俺が里の様子を眺めている間にアメットとフルワルは里へと駆け込み、大声で家々に声をかけ始めた。
すると「何事?」と沢山の人々が家を出てくる。
彼らは小人族だけあって一様に小柄で子供のようだが、よく見ると顔にシワのある人や白髪交じりの人、そして背中の曲がった人もいて、ドワーフやエルフに比べるとずっと年齢がわかりやすい。
身長が低く耳が少し尖っていることを除けば、人族とそんなに変わらないのかもしれない。
「大騒ぎしてどうしたんじゃ、悪たれども」
多くの人が里の広場に集まる中、里でも一際大きな(と言っても背は低い)建物から出てきた白髪の老人が、大声で問いかけた。
悪たれというのはアメットたちのことだろう。
「長老! 外に出られるんだ!」
「今なら魔物が少ないんだよ~!」
フルワルとグーテンが老人に駆け寄り、興奮した様子でそう告げる。どうやら里の人々に説明している間に、どんどんテンションが上っていっていたようだ。
「そうなんだ! オイラたちもさっき地上に出たんだよ!」
「お祖父さん、本当です。今なら安全なんです。あの人たちが魔物を倒してくれたから」
興奮してまくしたてるアメットと、なんとか冷静に伝えようとするペスタス。
そして説明の中で俺たちの事が挙がり、ペスタスに手で指し示された俺たちに、人々の目が集中した。
印象を良くしようと、俺は笑顔で頭を下げる。
しかし、相手が人族であると見て取った小人族たちは、怯えた顔、憤りを宿した顔、不安を浮かべた顔――要はネガティブな感情のこもった顔になった。
まあ、人族による他種族弾圧は何度も聞いたから、こういう反応も想定内ではある。
「大丈夫です! あの人たちは凄い力を持った魔法使いだけど、僕たちを見下すようなことはしませんでした!」
「そうだよ! それどころか、オイラたちが腹一杯になるまで飯を食わせてくれたんだ!」
同胞たちの反応に、ペスタスとアメットは慌ててとりなそうと言葉を重ねた。
どうやらそれはプラスに働いたようで、小人族たちは「腹いっぱい?」「本当に?」「飯食えるのか?」と口々に驚きを漏らしている。
というか、みんな飢えてるのね……。
「あー、今はそう大した量はありませんけど、必要なら提供しますが……」
言うが早いか、小人族たちは大挙して全力で俺に駆け寄ってきた。
その勢いに若干気圧されながら、俺は所持品欄から持っている全ての食材を放出した。
出す端からひったくるように持っていく人々に呆れはしたが、即座にいくつもの鍋が用意されるに至り「まあ、いいか」という気になった。
久しぶりにまともな物を食べるんだろうから、気分良く食べてもらうとしよう。
◇
何百人かいるのだから満腹とはいかなかっただろうが、小人族はみんな久々のちゃんとした食事に満足したようだ。
……俺は何も食えなかったけど。まあ、夕方には拠点に戻るつもりだからいいけどね。
「いやあ、美味かった!」
「本当に助かったよ!」
ちょこちょこ感謝の言葉をくれる人もいる。
「ところで、あの肉は何の肉なんだ? 食ったことないと思うんだが」
「ドラゴンだよ」
「へ?」
そんな中、食材が気になった人がいたようだ。
特に隠すことでもないから、俺は素直に答える。
「グリーンドラゴンの肉」
「「「「「グリーンドラゴン!?」」」」」
もう一度答えを告げると、周囲で聞いていた人も驚きの声を上げた。
……なんか悪戯が成功したみたいで面白いな。
結局、話がどんどん広がっていって、皆が落ち着くまでに一時間ほどの時間を要することになった。
◇
冷静になった長老の指示で、数人の青年が魔物が本当に減っているのかを確認に出た。
もちろん俺も同行し、彼らは問題なく状況を把握、魔物がほとんどいなくなっているという情報を持ち帰った。
その報告を受け、長老はダンジョンからの脱出を決断。
まずは魔物を徹底的に減らし、第六階層の転移装置を使えるようにすべく、俺とシロクロコンビが魔物退治に出発。
その間に里の人々は最低限の身の回りの物をまとめ、脱出の準備を整える。
そして俺たちが帰ってきたら、第一陣が出発。五十人ずつで六往復だ。
「では、よろしく頼む」
「ええ、任せてください」
長老に頭を下げられ、俺は笑顔で請け負う。
ということで、俺達は第一陣とともに出発した。
◇
しっかり掃除しておいたおかげで魔物に襲われることもなく護衛をこなし、問題なく全ての小人族をダンジョンの外に脱出させることが出来た。
もう外はすっかり日が傾いている。
昼に小人族の里に到着したことから考えると、脱出行にかかったのは三時間程度か。
さすがに今から俺の拠点まで移動するのは危険だろうということで、地魔の迷宮入り口付近の木を引っこ抜きまくって空間を作り、ストーンウォールで即席のセーフティエリアを作った。
大雑把な作りなため少々過ごしにくいだろうが、今夜だけの野営地みたいなものだから我慢してもらおう。
で、俺達は一度拠点に戻る。食料を持ってくるためだ。
全力疾走すれば、食料の準備も込みで往復で一時間かかるまい。
小人族たちはみんな疲労困憊なうえに空腹だし、毛布なんかも持ってきたほうが良いか。
幸いといっていいかどうか分からんが、エルフたちの拠点準備の時に大量に用意した毛布がそのまま残っている。
まあ、必要なのはそんなもんかな? 食器やら鍋やらは魔法で作ればいいしね。
◇
はい! ということで、ささっと往復してきました。
まずは地面を耕して毛布を敷き、寝やすい環境を整える。
それから大量の竈と鍋、それに調理台をストーンウォールで作り、食材を大量に放出して鍋には魔法で湯を注ぐ。
調理は小人族の皆さんにおまかせし、次は大浴場を作る。といっても洗い場と湯船、それに衝立があるだけの簡素なものだが。
まあ、安全は確保されているし、久々の地上だから露天風呂でも喜んでもらえるだろう。
風呂が完成する頃には料理も完成しており、すでに皆わいわい騒ぎながら食べまくっていた。
簡単なスープと焼いた肉だけだけど、それでも嬉しそうだ。
「おう、お兄さん! あんたも食いなよ!」
すっかり警戒しなくなった小人族の一人が、俺を食事に誘ってくれた。結局まだ何も食べてなかったから、ありがたく混ぜてもらう。
シロとクロは小人族の女性や子どもたちに撫でられたりしながら生野菜を食べている。ちゃっかりしてるなあ……。
小人族の気質もあるだろうが、ドワーフたちと変わらないくらいすんなり打ち解けられたのは良かった。
明日からは一時的にうちの拠点に来てもらって、どこに新たな里を作るかもマップ見て考えてもらわないとね。
◇
翌朝、マップを見せていくつかのルートを提示した。
北東へ山間を縫って移動し、大河に到達したら川沿いに北上する比較的平坦なルートが一つ。
西の盆地まで移動し、そこから北の山間を北上する若干険しいが移動距離の短いルート。
そして、ほとんど真北へ山間を移動する最も険しい最短ルート。
小人族としては早く落ち着きたいというのが本音のようだが、老人や女子供にはあまり険しいルートは厳しいだろうと、話し合いの結果、大河沿いを北上するルートが選ばれた。
今回は里の者全員で一度に移動することになるが、俺たち三人だけではいささか手が足りない。
ということで――。
「リョウジ!」
「来たぞー!」
リリーとダリオを含め、二十人ほどのエルフとドワーフが護衛の助っ人に来てくれた。
昨日、食料を取りに行ったついでに、ギルドでヘルプを頼んでおいたのだ。
マップで取得した地図を紙に書き出してギルドに貼っているので、冒険者たちは周辺の地形をある程度把握している。
だから、こういう依頼を受けることも可能だということだね。
にしても、これほど集まってくれるとは思ってもみなかった。
――そして、その中には一人だけ獣人が混ざっている。
「呼ばれてないけど、来たぞ!」
そう言ってにこやかに笑うのは獣人の若者、クルススだ。
最初は『能天気なヤツ』だとばかり思っていたが、魔獣の迷宮で行動をともにした際に『獣人族の罪を背負う覚悟を持っている』と評価を改めた。
上から目線だが、そんな覚悟を持ちながら朗らかでいられるのはスゴイことだ。
事実、卑屈にならず、仲間のために頭を下げることを厭わず、それでいて己のやりたいことも捨てず行動し続けているのだから、脱帽と言う他ない。
今回の自発的な助っ人参加も、獣人族の信用回復の一環としての意味合いが含まれているのだろう。
ここまで理解してしまうと、件の事件は俺自身が被害者でないこともあって、もう彼に悪感情はない。
まあ、俺自身は最初から、畑の野菜を盗んだバカ獣人ども以外に責任の所在を求める気はなかったが。
ぶっちゃけ犯人たちをボコったことで、溜飲は下がっていたしね。
「みんな、よく来てくれた!」
俺も大声でそう返し、一人ひとり目を合わせ笑い合う。
もちろん、クルススも同様にだ。
そんな俺の態度に彼は一瞬面食らったような顔を見せたが、すぐ満面の笑顔に戻る。
おそらく、俺に隔意がないと理解してくれたのだろう。
さあて、助っ人たちも来てくれたことだし、準備の程を確認したら出発しますかね!
◇
二キロと少しの距離を老人や子どもたちの足に合わせゆっくりと、何度か休憩をはさみながら移動し――三時間ほどの後、俺達は通称『東の監視塔』に到着した。
ここは一度グリーンドラゴンに破壊され、ドワーフの職人たちによって強固な砦として再建されている。
つまり以前より敷地が大きく広く、塔自体も太く高いものになったため、一度に多くの人がてっぺんに登ることが可能なのだ。
ここまでの道中でもそうだったが、好奇心旺盛な小人族の若者たちは、見たことのない動植物を目にしてはあっちこっちに走り回り、この塔では「遠くを見るんだ!」と我先に階段を駆け上がるというアクティブさを見せた。
老人や女性たちも、そんな若者たちの行動と豊かな自然に癒やされたか、元来の快活さを取り戻しているようだ。
そういう流れから、小人族の新たな里は東の監視塔に近い場所に設けることとなった。
とはいえ、このまま塔に住むわけにもいかないので、当初の予定通り俺の拠点を仮住まいとする。
まるで子供のような明るさと前向きさを持つ小人族が隣人となることで、他の種族との交流もより良いものとなりそうな予感。
◇
小人族の登場は、俺の予想を遥かに上回る影響があった。
というのも、彼らの新たな里を作る上でドワーフと小人族が強力タッグを組んだのだ。
それにより、人々が住む区画は水害への備えとして地の魔法で石の高台を築き、上下水道や街灯、公衆浴場に大きな酒場を設置。
畑周辺にはキッチリと水路を張り巡らせ、揚水のために魔道具が設置された。
それと地魔の迷宮に残ったままの里から、一部「家を移設したい」という要望を受けて土台ごと魔法で箱詰めして新拠点に持ってきた。
それにより昔の里を再現した区画が作られ、老人たちも安心して過ごせる環境になったようだ。
そしてわずか一ヶ月の間に、東の監視塔と山頂の拠点の中間に小人族の新たな里が完成した。
のだが……。
『セーフティエリアの数が十ヶ所を超えた!
セーフティエリアのレベルが上がった!』
なんてアナウンスが聞こえたものだから、みんなびっくり。
はてさて、一体どういう変化があるのやら。




