南へ足を伸ばしてみた
農民ドワーフたちと獣人の族長・イオクスの面会は、平穏とはいかないが荒れもしなかった。
農業に従事するドワーフは戦士以外――女性や戦いに自信のない男性――がメインであることと、怒りよりも失意のほうが大きかったというのが理由だ。
結局のところ、ドワーフたちは「謝罪は受け入れるが、許すことは難しい」というのが結論だった。
至極当然の答えだろう。
何年も農業をやっていたらショックも軽かったんだろうが、初めて日の下で野菜を育て、間もなく収穫というところでの事件だったからねえ。
ともあれ、今後は獣人たちが信頼に足る存在だと誰もが認めるまで、拠点への出入りは制限し続けることになる。
……たまに行商みたいなことでもするかねえ。
◇
三日後、俺はシロとクロを連れて南へと向かった。
魔獣の迷宮で、南にも足を伸ばしておくべきだと考えたからだ。
それと魔獣の迷宮をクリアしてマップを貰ったことでスキルレベルが4に上がり、範囲内の魔物も表示されるようになった。
つまり魔物が極端に多い場所があれば、その周辺にダンジョンがある可能性が高いと分かる。
もしそういう場所があれば、優先して偵察しておく必要がある。まだ見ぬ異種族が、ダンジョン内で困窮しているかもしれないからだ。
知らなきゃのほほんとしてられたんだけど、知ってしまうと見過ごすのも寝覚めが悪くなっちゃうんだよねえ……。
まったく難儀なことだ。
「今のところ、怪しい場所はない、か」
山を越え、南下すること二キロほど。山に囲まれた盆地に到着した。
以前はここから少し東に国道が通っており、山にトンネルが掘られていた。
どこもすっかり自然豊かな場所になってしまっているということは、この辺りにも生き残りはいないか。
これで俺の拠点を中心に、東西九キロ、南北九キロほどの範囲には人間はいないことになるな。
やはり生き残りは基幹駅周辺に集中しているのだろう。
あの辺りは、県内で最大の人口密度だったはずだしね。
……ただ、例の人口表示は日々減っていっているんだよなあ。
以前は3224だったのが、今は3198になっている。
ぶっちゃけ、俺が全力で助けに行けば結構な人数を助けられそうではあるんだが……どう考えてもすでに何らかのコミュニティができているだろうし、そこに勝手に手を出せば軋轢が生まれることになる。
畢竟、静観するのがベターとの結論になるのだ。
まあ、俺はヒーローでも博愛主義者でもないから仕方ないね。
あとリーダーなんてガラじゃないから、自ら行動したくないのだ!
「はてさて、ここからどうするかなあ……」
更に南に行くとまた山があって、その先に平野があるはずだ。
東は小川と山を越えて三キロほど行くと大河の下流にたどり着くが、ほとんど人は住んでいない場所だった。
逆に西だと山ばかり数キロ続く。
その先には平地があると思われるが、マップで確認した限りでは人はいないし魔物も多くはない。
あ、そうそう。マップの詳細表示範囲が半径四キロになっているので、前より遠くを確認しやすくなっている。
まあ、実際に現地に行かないことには詳しいことは分からないのは変わらないが。
「……南に行くか」
かつては国道沿いに多少住宅があり、その先にはそこそこ大きいショッピングセンターやホームセンター、それに電気屋が軒を連ねる一角があった。
これまでは俺が関わった拠点しか周囲になかったためマップにも表示されているが、他者の作ったセーフティエリアが表示されるかどうかは分からない。
もしダンジョンのように表示されないなら、逆に空白地帯として見つけることが出来るだろう。
見つけてどうするって? 近づかないようにするんだよ。
できれば、そこの人々の活動範囲を避けて動きたい。
関わらず、危ないところだけ対処する。ついでにレベル上げたりする。って感じで行きたい。
◇
再び山を越え南へ。低い山を挟んで東西に川と平地がある。
東側が国道沿いで住宅も比較的多かったが……。
「この辺りにも人はおらず、か」
マップの詳細表示範囲内に人の光点はない。
この辺りだと大分下流という感じで、南下するにつれて平地が広くなっている。
市街地と呼べる辺りに到達するには、もう五キロか六キロ南に行く必要がある。
まあ、今はやめておこう。
東はそこそこ高い山だから、西側の平地の方へ行ってみる。
見た限りではそこそこ木が茂っているが、ダンジョンらしき空白地帯はない。
現れる魔物もここまで同様、ジェルボール、キラービー、ハームラビット、まれにフォレストウルフといったところ。
特に危険な魔物もいないな。
うーむ、完全に無駄足……いや、何事もないことが分かったのは無駄ではないか。
ま、この辺で戻るとしよう。
◇
「……そういえば、あの峠はトンネルだったんだよな」
山を越えて北に移動したところで、ふとそのことを思い出した。
森のダンジョンは空白として表示されるが、洞窟タイプは入ってみるまで分からない。
もしかしたら、トンネルが洞窟になっているかも? と俺は考えた。
「ちょっと、行ってみるか」
ということで、東の山へと向かう。
ここからだと、山間を東から南へ回り込むような形で移動すればたどり着けるだろう。
最終的には少し山を登ることになるが、まあ、大した距離ではない。
レベルが上っているから、坂も平地も変わらない速度で歩けるしね。
「この辺だったか……お」
あった。
木々が茂っていて見にくいが、北側の山肌にポッカリと洞窟が口を開けている。
ここがもしダンジョンなら、小人族、人魚族あたりがいる可能性もあるか。
「ま、行けば分かるさ」
ということで、さっさと中に入ってみる。
『地魔の迷宮』
おっと、ダンジョンでしたねえ……。
しかし、地魔ってなんだ。地面に関係のある魔物? それとも地属性の魔物?
とりあえずマップを確認するか。
「うわあ……」
マップが真っ赤だよ! 魔物多すぎ!
まあ、見る以前から気配はビンビン感じてたんだが。
どう見ても氾濫寸前です。
「よっしゃ。シロ、クロ、全力で間引いていくぞ!」
「キュ!」
「キュ~!」
近場からやっつけていくか―ってことで、俺たちは気配の近い場所を目指して駆け出した。
◇
どうやらここは地下・地底に棲む、あるいは地属性を持っている魔物が出るようだ。
さっき考えたダンジョン名の意味は、全部内包されていたということだね。
第一階層はアースジェルボールのみ。
第二階層はグランドスパイダーとアースワーム。
第三階層はケイブバイパーとアースリザード。
グランドスパイダーはその名の通り、地下に生息する蜘蛛。糸と毒牙で攻撃してくる中々厄介な魔物だ。
ドロップアイテムは、その糸と毒牙。糸は布とか作れるのかな?
アースワームはでっかいミミズだ。急に地面から出てきてビックリはするが、何故か攻撃してこないので無害だ。
ドロップアイテムは腐葉土。……畑に撒けと?
ケイブバイパーは、全長五メートルはあるデカイ蛇。岩陰や天井から奇襲してくる。毒牙と巻き付き攻撃を使うので、要注意だ。
ドロップアイテムは皮と毒牙。皮はブランドバッグ感がある。
アースリザードは地面や岩に擬態し、地下を移動することも出来るトカゲ。やはり奇襲がメインだ。
ドロップアイテムは皮と毒牙。毒牙多いな、このダンジョン。
で、恐ろしく大量の魔物を借りながらここまで来たわけだが……なぜ氾濫していないのかが何となく分かった。
それは魔物同士でも戦っていることと、どいつもこいつも地下に生息する習性を持っているから。
外に出たら出たで十分戦える能力はあるのだろうが、単純に出たくないないんじゃないかと思う。
「ん?」
そして第四階層へ至った俺のマップに、『人』の反応が現れた。
ドワーフやエルフとの出会いとは違い、少人数――四人だ。
……もしかしたら他の種族じゃなく、人間の生き残りか?
しかし、少しも動く様子がない。魔物から身を隠しているのか?
『ジャイアントワームが現れた!』
おっと、早速こっちにも魔物がやってきた。
ここも山ほどの魔物がひしめいているから、出来る限り間引いておくに限る。
ジャイアントワームはアースワームの上位といった感じのでっかいミミズだが、そのサイズは十メートルを超えているか。
どうやら口がヤツメウナギみたいな形状らしく、地面を噛み砕きつつ襲いかかってくる。
それにしても多数のワームのせいで、地面と言わず壁と言わず、あっちこっちに穴が空いている。これじゃあ毎回マップが変わってそうだ。
「あ」
どう倒すか考えていると、シロとクロがワームの口に水を流し込んで溺れさせていた。
ワームって溺れるんだ……。
ま、まあ、簡単に倒せるならそれに越したことはないよね。
ということで俺もワームを溺死させるか。
◇
三百体ほどいたジャイアントワームを片付けたところで、俺は何かが転がるような音に気づいた。それも、どんどん近づいてきているようだ。
反響しているせいで、どこから音がしているのかが分かりにくい。
でも何となく予想がつく。
それは――。
「やっぱ、そう来たか!」
ジャイアントワームの開けた穴から、多数の球体が転がり出てきた。
『ヒュージアルマジロが現れた!』
まあ、丸まるといえば、アルマジロかダンゴムシのどっちかだわなあ。直径五メートルほどあるのはデカすぎだと思うが。
だが、まあ……。
「シロ、クロ、炎の剣でバリケード作るぞ!」
アイアンウォールでアルマジロを跳ね返しつつ、炎の剣の柄を刺して固定する場所をこれまたアイアンウォールで作る。
そんで三人合わせて三十六本の炎の剣を地面に対して水平に設置、切っ先側の鉄壁を解除。
すると――。
「おお、次々に刺さっていく」
さすが巨人の迷宮のボスの愛剣、すごい切れ味だ。
アルマジロはどう見ても硬そうなのに、サクサク刺さる。まるで串団子だ。
刺さらない場所に転がっていったアルマジロはシロとクロが蹴って戻し、刺さる流れに合流させている。
何というか、ピンボールのような巨大アトラクションって感じだ。
たまに俺も蹴って戻すのに参加しつつ、アルマジロを串団子にすること一時間ほど。
第四階層に入ってすぐの大広間は、すっかりドロップアイテムだけが散乱する空間になった。
ジャイアントワームは皮と毒牙(酸)。アルマジロは皮。
ほんと毒牙多いな。
「……まだ動いてないか」
マップを確認すると、『人』の反応はこの大広間の端――それも天井付近から微動だにしていない。
魔力の反応も気配も弱まってはいないから、怪我をして動けないというわけでもないはずだが……。
「警戒しているのかもしれんが……まあ、接触したくないってことかな」
であるなら、ここは気づかないふりをしてスルーするが吉か。
次が第五階層だから、さっさと第六階層の転移装置を使えるようにするべきだな。
そうしておけば、もし助けが必要な者がいても脱出がしやすくなる。
てことで次行ってみよう!
◇
第五階層はデミドラゴンとアースエレメントが現れた。
デミドラゴンは『ドラゴン』だからちょっとビビったが、でっかいコモドトカゲだった。騙された……。
アースエレメントはパッと見は土の塊で、よく見ないと気づけない。
そして奇襲で地属性魔法を使ってくるから、知らないで歩いてると足元から石の槍とか石つぶてとかが飛んできて危ない。
自然に股間を狙うのは怖すぎたので、水を撒いて流すことで一網打尽にした。
男の天敵かよ。
ドロップアイテムは、デミドラゴンが皮と毒牙、アースエレメントが魔石。
このダンジョン、ワンフロア毎に一種は毒牙を出す魔物がいないとダメな縛りでもあるの?
まあ、考えても分かんないんだろうけども。
さて、第五階層も踏破したし、転移装置起動しよっと。
◆
僕たちは、目の前で起きている事に度肝を抜かれていた。
だってジャイアントワームは水の飲み過ぎで死ぬし、ヒュージアルマジロはボールでも転がして遊んでるようにしか見えない上に巨大な剣にサクサク刺さって死んでいくのだ。
それもたった三人――正確には一人と二匹で、苦もなく片付けている。
バカでかいアルマジロが小さなウサギに蹴られ、轟音を上げて転がっていく様は、現実感が全然ない。
呆然と見ていることしか出来なかった僕たちを尻目に、彼らはさっさと先に進んでいった。
まるでピクニックにでも行くような軽快な足取りで。
「……あっ」
しばらく彼らの立ち去った方を眺めていたが、僕は不意にある事実に気づいた。
「フルワル、アメット、グーテン、上に行ってみよう!」
「え? どういうこと、ペスタス」
突然の僕の言葉に戸惑う三人。
でも説明すればすぐに分かるはずだ。
「あのムチャクチャ強い人たちは、ここまであんな感じで潜ってきたんじゃないか? だとしたら……」
「あ!」
「まさか!」
「上の階層の魔物も全部倒した!?」
そう言うことだ。
だとしたら、僕たちでも外に出られるかもしれない。
「行こう!」
「うん!」
「よし!」
「行くぞー!」
外に出られれば、安全な場所がきっとあるはずだ!




