魔獣の迷宮を踏破したぞ
魔獣の迷宮を第五階層まで踏破した俺達は、一度入口まで戻って野営をした。
リリー、ダリオ、クルススの三人は疲労困憊だったため、不寝番は俺とシロ・クロのウサギコンビでこなした。
そして夜が明け、皆が起き出してきたところで二手に別れる事となる。
俺とウサギたちはダンジョンを攻略するべく潜り、あとの三人はそれぞれ拠点へと戻り、魔獣の迷宮の様子を報告するのだ。
「じゃあリョウジ、気をつけてね」
「ああ、そっちも気をつけて」
野営地を片付け、俺たちはそれぞれの目的を果たすべく別れた。
手を振り離れていく三人を見送り、ダンジョンへと振り返る。
さて、警戒は怠らず、それでいて時間をかけすぎず行きますか!
◇
第六階層は牛型の魔物ヘルブルとそのリーダーが現れた。
牛といいつつサイのようなゴツい体表を持ち、パワーとスピードに優れている上に火を吹いてくる中々面倒な魔物だ。
とはいえ、どうしても足元は弱点になるようで、ピットを効果的に使うことで難なく対処。止めはシロクロコンビが刺す。
ドロップアイテムは皮と角、あと肉。
第七階層はクマ型の魔物ビッグベアとそのリーダー。
体長五メートルを超える巨体を誇り、恐ろしい腕力で繰り出す爪と剛毛による防御力が凄まじい。そして頻繁に毒霧を吐く。しかも、追い詰めると巨大な火炎を吐くので油断できない。
水と地の合成魔法【マッドフィールド】で足元を泥沼と化して腰まで埋め、暴れているところにカウンターで目に剣を突き刺す事で対処した。やはりデカイことは、それだけで強い。
ドロップアイテムは毛皮と爪、そして毒袋と肉。
もしかしたらレアドロップで火炎袋とかもあるのだろうか……いや、油かなんかの可燃物か?
第八階層はシャドウフォックスとそのリーダー。
名前から連想する通り、影に潜り尾の刃で奇襲をしてくる厄介な魔物だ。
影があればどこにでも潜れるらしく、俺たち自身の影や木々の影、果ては仲間の影に潜って気配を完全に隠し、思いもしない場所から現れるのは面倒極まりなかった。
結局、無属性の【ライト】で影の位置を一瞬で変えることで潜伏場所を奪い、転がり出てきたところを攻撃することで対処した。
ドロップアイテムは毛皮と尾。尾は武器にできそうだ。
第九階層はキマイラとエルダーキマイラ。
こいつらはマンティコアを強くしたような魔物で、様々な魔法と毒を使い空を飛ぶ。
さらにキマイラはヤギとライオンの頭を持っているので、ヤギが魔法を使いつつライオンが物理攻撃をする上に尾の蛇が毒かみつきをするという同時攻撃を。
エルダーキマイラはそれにプラスしてドラゴンの頭を持っているので、それが火を吹く。
正直、ドラゴンの頭ってことでビビったが、本体サイズが牛くらいなのでドラゴンの頭も相応に小さく、グリーンドラゴンほどの防御力も攻撃力も持っていなかった。まあ、当然だよな。
こいつらには単純にスピードと手数で対処した。いちいちそれぞれの攻撃に対応するのは、どう考えても現実的ではなかったしねえ……。
ドロップアイテムは毛皮、毒牙、角、角、皮膜、鱗、と色んな種類が出た。
どうも倒した時に無事だった部位に対応する物が優先的に出るらしく、欲しい物があるときは気を使って倒す必要がありそうだ。
そして第十階層で現れたのは――。
「王の宝を狙う、愚かで矮小なる人族よ、死ぬがよい」
体長十メートルを超える獅子の体に巨大な猛禽の翼、そして獅子の首からは褐色イケメンの上半身が生えた魔物。
『スフィンクスが現れた!』
しかし、スフィンクスというと謎かけをして答えられなかったら殺されるってイメージなのに、顔を見た途端、殺しに来てるんだけど……。
褐色イケメン――いかにもエジプトのファラオって感じの装い――は手に持つ王笏から雷撃を放ち、獅子の前足は俺たちを引き裂こうと唸りを上げて何度も振るわれる。
巨体に似合わぬ身軽さで繰り出される爪と、こちらのスキをつこうとする魔法の同時攻撃は中々鋭いが、しかし厄介さという意味ではエルダーキマイラに劣るだろう。
防御力はビッグベアリーダーと、どっこいどっこいくらいか。
そして巨体故か森の大広間という環境のせいか、飛行能力も限定的らしい。
本来なら、強力な魔物の優れた特徴を併せ持つ難敵なのだろうが……俺たちにとっては中途半端な魔物でしかなかった。
そしてどうも、あまり頭もよろしくない模様。
ということで、着地したところをアイアンウォールで捕縛し、シロクロコンビが翼をへし折り、イケメンの注意がそれたところで俺が首を落とす事であっさり決着した。
キマイラだと首が一つでも残ってれば生きてるのに……まあ、イケメンファラオが本体みたいな扱いなのだろう。
なんとも締まらないボスだった……。
まあ、無意味にしんみりしなくて良かったのは助かったが。
「あそこか」
大広間の最奥、二本の巨木の間に別の場所につながるゲートのような物が発生していた。
その先には、石造りの広い部屋が見えている。
さて、今回はどんな物が貰えるか行ってみるとしよう。
◇
例によって最後の部屋に入ったことで迷宮を踏破した事となり、クリアボーナスが提示された。
これまた例によって『マップ』が一つ、あとは『光の魔導書』と『闇の魔導書』だった。
新属性の魔導書は予想だにしなかったボーナスではあるが、俺は躊躇なくマップを選択。
シロとクロはそれぞれ魔導書を得た。
今回は色々と考えさせられる魔物構成だったが、どうにか対処はできたかな。
レベルが高いからとゴリ押しばかりしていると、後で手痛いしっぺ返しをくらいそうだから気をつけないとねえ。
それから魔獣の迷宮をもう二周し、俺たちは拠点へ戻った。
これで、ここも氾濫することはないから安心だな。
◆
リョウジと別れ、俺たちはそれぞれの拠点へと戻った。
獣人族と袂を分かつ覚悟で出奔した俺だったが、今回の事の顛末は伝える必要がある。
「おお! クルスス、戻ったか!」
「族長?」
リョウジによって作られた門に近づくと、いきなり族長であるイオクスに声をかけられた。
俺はリョウジについていくから里を出ると伝えてくれ、と知人に伝言を頼みはしたが……。
まあ、タイミングはいいか。
「族長、話さなきゃいけない事があるんだが」
「……む、そうか。ワシにも話したいことがあるのだが……そちらの話から聞こう」
どうも族長も俺に用があったらしいが……とりあえず、前の集落に関する話をしてしまうか。
ということで、俺は魔獣の迷宮であったことを全て話した。
「そうか……あの人族の男が、そこまで手厚く同胞を葬ってくれたか……」
集落の残骸とともに死者を荼毘に付し、全てをキレイに整えて慰霊碑まで作ってくれたと聞いた族長は、感に堪えないとばかりに何度も頷き、そう呟いた。
俺たちが話している間に集まってきていた他の者も、この集落を守ってくれたことと合わせて、考えさせられている様子だ。
人族は敵である、と言い聞かされて育ってきた俺達にとって、その人族(正確には違うらしいが)に助けられたことは屈辱であると同時に、言い伝えが全てではないと気づくきっかけを与えた。
……まあ、俺は元々言い伝えを話半分でしか聞いていなかったから、他の者よりずっと簡単に行動したわけだが。
ともあれ、どれほど感情が否定しようと、リョウジに助けられ、あいつが見返りを求めることはなかったのだから、それがリョウジという人族に関する情報の全てだ。
そこから導き出されるのは、あいつが『いいヤツ』であるという結論――あるいは、何らかの下心があって親切にしているという可能性くらいのものだ。
どちらにせよ、これまでのリョウジの行いは人道に則したもので、誰にも非難されるような点はない。
にもかかわらず彼が『人族であるから悪である』と断ずるならば、獣人族は事実を受け入れられない、恩に仇で返す狭量で恥知らずな種族であると認めることになる。
「……クルスス、実はな――」
俺の話に納得したのか、族長は彼がしたかったという話をし始める。
その内容は、俺にとっては信じられない……しかし、ある意味、納得のいくものだった。
族長の息子であるストルトと仲間たちが、ドワーフの育てた野菜を根こそぎ盗み、リョウジに因縁をつけて拠点の仲間を傷つけようとした――恐ろしいことをする……。
下手人どもは全員、腕を折られていたそうだが、むしろ殺されなかったのが不思議なくらいだ。
「ワシの首一つで許されると思うか?」
族長は謝罪するとともに、自分の命を差し出すつもりか……。
「……むしろ嫌がるだろうな」
「何……?」
俺は知る限りのリョウジという人物の為人を話す。
凄まじい力を持ちながら穏やかで、他の種族であろうと人が傷つくことを嫌い、死者を悼む――。
無論、強者ゆえの余裕があるからというのも事実だ。
それを『上位に立っていると驕っている』と感じる者もいるだろう。
だが、事実リョウジにはそう振る舞うだけの力があるのだ。
「それに、リョウジの拠点に人族が一人しかいないってことは、あいつは『族長』だってことだ。なら、自分の利益を最大化しようとするのは当然だし、種族の方針を決めるのはあいつの権利だ」
そして、リョウジは他の種族と良好な関係を築き、互いに助け合うことで安定した生活を手に入れようとしている。
「そこで首なんかもらっても、迷惑なだけだろうよ」
俺の言葉に、族長は絶句した。
リョウジが『種族の代表』だなどとは、考えてもいなかったのだろう。
周囲の者たちも同様で、族長に対して何の礼儀も払っていなかったということにショックを受けているようだ。
まあ、俺もリョウジと一緒に行動してみなければ、彼の考え方など分かりもしなかっただろうが。
とはいえ、俺の知り得たことは全部話したし、俺の考えも伝えた。
これで獣人族に対して俺のすべきことは終わっただろう。
「じゃあ、俺は出ていくぜ」
「あの男のところへ行くのか?」
「ああ。だが、俺は受け入れられたわけじゃない。だから拠点の外で野宿でもするさ」
族長の言葉に答え、俺は踵を返した。
幸い建材にする木は周辺にいくらでもあるし、掘っ立て小屋くらいは作れるだろう。
魔獣の迷宮で得たドロップアイテムとCPもあるから、誰かに頼んでギルドで素材を売ったり食い物や生活必需品を買ってもらうこともできるはずだ。
ダリオかリリウムがいれば話が早いんだがな……。
「待て、ワシも行こう。愚か者どもを追放したことも伝えねばならん」
マジか、追放したのか。
「分かったよ」
俺は納得し、族長とともに集落を出た。
ま、謝ったところで許されるわけもないが、それはこれからの有り様で見せていくしかないだろうな。
◇
拠点に戻った俺は、風呂に……と思っていたのだが、俺を待ち構えていた二人の獣人に止められた。
クルススと族長・イオクスだ。
もう夕方だというのに、俺を訪ねてきていたということは……ドワーフの畑関連のことか?
「それで話というのは?」
とりあえず門前に即席のテーブルセットを魔法で作り、お茶を出す。
「うむ、先日の事に対する謝罪と、礼を言いに来た」
族長は神妙な様子でそう言うと、俺が追い出した奴らに関する話を始めた。
最初は、奴らが怪我をして集落に戻ったところからだ。
何があった?→人族にやられた→なんでやられた?→野菜泥棒の犯人扱いされて問答無用で折られた。
というような問答があったらしい。
ただ、アホどもの様子が明らかに変だったのと、腹が減っていないという一事から「あ、こいつらやったな」と感じたそうな。
で、なんで腹が減ってないのか突っ込んだら答えないから「じゃあ追放だ」となった。
話がまとまりきる前に魔物の襲撃があって一時うやむやになりかけたが、俺が助けてすぐに撃退できたことで怪我人の治療のあとアホどもの部屋を探ったら大量の野菜が出てきた。
そして追放が確定した、とのこと。
「あの六人は、今朝、船に乗せて大河へと追放した」
わーお、中々容赦ないな。
あの川はそんなに流れは速くないけど、深いところは深いはずだ。
場合によっては死ぬかもなあ……。
「この度は本当に申し訳なかった。できれば、ドワーフの方々にも直接、謝罪させてもらいたいのだが……」
獣人族の族長は深々と頭を下げてそう言った。
野菜は箱詰めして、所持品欄に突っ込んで持ってきているらしい。
うーむ……まあ、いいか。
「わかった。じゃあ、入れるようにするよ」
ということで、獣人族でイオクスとクルススだけを入れるように設定した。
はてさて、ドワーフの農民たちは許してくれるかねえ。




