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獣人族の集落に行ってみた

 一度拠点に戻り、冒険者ギルドに顔を出した俺達は、獣人族の集落を魔物が襲ったのはサドンクエストであったこと、それをクリアしたことを話した。これで各種族にも事の詳細が伝わるだろう。


 ギルドに来たついでに回復薬と解毒薬、それに万能薬を購入しておく。あとは食料だな。

 所持品欄は同じ料理なら一枠に収まるし、温かい物は温かいままで保管できるから非常に便利だ。


 ちなみに回復薬は、一つ等級が上がると値段が十倍になる。

 下級が100、中級が1000、上級が10000CPだ。

 ハッキリ言って高いと思うが、今の俺達なら苦もなく稼げるので惜しまず購入している。


 レベルが上ったことで必要な経験値が莫大なものになっているから、レベルアップ回復でしのぐなんてことはもうできない。だから回復手段を確保しておくことは重要なのだ。


 理想は回復魔法を覚えることなんだが……いまだに覚えられる様子がない。

 多分、追い詰められた時に「絶対行ける!」と思うような状態なら覚えられると思うが、そんな時に考えてる余裕はないよなあ。


 実際、グリーンドラゴン戦は、どうにか倒すことしか考えていられなかった。

 一人じゃなかったら、また違ったんだろうけど……まあ、言っても詮無いことだ。


 今後も試行錯誤していくとしよう。



 消耗品を買い揃え、装備を身に着けた俺は、シロクロコンビとともに獣人族の元集落を目指すために拠点を出た。

 出たのだが……。


「頼む、俺も連れて行ってくれ!」


 門を出た途端に、土下座した獣人の男に懇願されているのだ。


「断る」

「そこをなんとか!」


 これのループだ。

 この男の様子に悪意や敵意は感じないのだが、目的が分からん。

 まあ、俺に媚を売っておけば獣人族に便宜を図ってくれると考えている可能性もないではないが、どうもそういう感じはしない。


「……なんで俺についてきたいんだ?」

「アンタの強さに惚れたからだ」


 うわあ……。


「ほ、惚れた!?」


 おっと、変なタイミングで誰かが現れましたよ。

 まあ、リリーなんだけど。


「だ、ダメよ! 同性愛なんて普通じゃないわ!」

「ち、違う! 強さ! 強さに惚れたの!」


 いやーもう何がなんだか。


「モテすぎるのも考えものだな」


 おっと、今度はダリオか。

 リリーもそうだけど、最新の装備で完全武装している。


「リリーとダリオさんは、これからダンジョン?」

「え? ええ」

「うむ、そう思っていたんだが……リョウジ、俺たちも元獣人族の集落に同行させてもらえんか?」


 変な流れを変えようと話を振ってみたところ、リリーとダリオは俺を誘ってダンジョンへ行こうと思っていたらしい。

 そこで変な状況に出くわし、俺の様子からダンジョンと思しき元獣人族の集落へ行くのだろうと推察したそうな。


「うーん……そうだなあ。第五階層までなら」

「うむ、それで良い。出る魔物は分かっていても、ダンジョン内の様子は分かっていないからな」


 俺の提案にダリオは頷く。

 魔物が分かっているというのは、今朝のサドンクエストで戦った魔物がダンジョンの魔物だと思われるからだな。


 第五階層までというのは、第六階層の最初に転移装置があるからだ。

 そこまで行けば、出入りも楽になるしね。


「じゃあ、今日は第五階層まで潜ってみるってことで」

「わかったわ」

「了解だ」

「よっしゃ! 行こうぜ!」


 なし崩しで獣人族の男も混ざっているが……まあ、いいか。

 ということで、俺、シロ、クロ、リリー、ダリオ、獣人の男クルススの四人と二匹で、かつて獣人族の集落があった場所を目指すこととなった。


 よく考えたら、普通にパーティ組んで潜るのって初めてかも。




 クルススの案内に従い、俺達は山頂のセーフティエリアから北へ移動した。そこから東西に流れる川沿いに上流に向かう。

 歩くこと一キロほど、鬱蒼と茂る森に到着した。


「はー……こりゃ中々広そうだな」

「ああ……。俺たちも、いきなりここに放り込まれて難儀したぜ」


 俺の感想に応えるのは虎獣人のクルスス。

 おそらくは他の種族同様、ダンジョン発生と同時に管理者によってデータから生み出されたのだろう。


 そして、しばらくしてダンジョンが限界まで魔物を発生させ、ダンジョンの内外で暴れまわるサドンクエストが発生した。

 ドワーフとエルフはたまたま近所だったため俺が対処できたが、獣人たちは対処に失敗し敗走。川を越えて南へ南へと逃げたのだ。


「集落は第何階層か分かるのか?」

「区切りがないから大雑把にしか分からんが……第三階層辺りだと思う」


 ダリオの質問に、クルススは眉をひそめながら答えた。

 深緑の迷宮もそうだが、森ダンジョンは魔物の分布でしか階層が分からない場所が多い。


 弱い魔物が出る場所のつもりで強い魔物が出る場所だったりしたら大怪我に繋がりかねないから、警戒を怠らないようにしないとね。


「行くか」


 装備を再確認し、俺達は森へと足を踏み入れた。



『魔獣の迷宮』


 迷宮のアナウンスが俺たちの脳裏に響いた。

 ここは深緑の迷宮よりも木々が太く大きいため、通路もそれなりの広さがある。


 それだけ大きい、あるいは数の多い群れを成す魔物が現れるということだろう。

 今朝の戦いで肉食獣がメインであろうことは予想がついているが、どんな戦い方をしてくるかは分からない。


 いつも思うことではあるが、相手が何もしない内に倒してしまうために攻撃手段などの情報は集まりにくい。

 かといって、わざわざ時間をかけるのも無駄なのでしたくないんだよねえ。


 まあ、今日は一人と二匹じゃないから、様子を見ながら戦うことになるだろう。

 前衛はダリオとクルススに任せ、俺とウサギたちはサポートに徹する。リリーは中衛・遊撃だ。


 レベル差を考慮した結果の陣形だね。

 多分、第五階層までは、俺達が戦ったらすぐに終わってしまうだろう。


 マンティコアの強さからすると、巨人の迷宮より難易度は低いと思うしね。

 レベル40程度のリリーとダリオには、ちょうど良いだろう。


「そういえばクルススってレベルいくつなの?」

「26だ」


 ふうむ……まあ、問題ないか。

 実際どの程度の戦力なのかは、実戦を見て判断すべきだな。

 ここまでの道中では戦闘はなかったし。


 第一階層は、おそらく狼系だろうが……。

 というところで、ちょうどよく気配が近づいてきた。

 どうやらクルススは、すでに気づいていたようで身構えている。『気配察知』のスキルを持っているのだろう。


 俺はグリーンドラゴン戦を経てようやく『気配察知』を身に着けたばかりだから、まだまだ使えるというほどのものではないな。

 しばらくは『魔力探知』は使わず、『気配察知』を使っていくか。



 クルススの実力は、他の二人と比べても遜色のないものだった。

 単純なレベルだけでは測れない、ステータスや適正みたいなものもあるということだろうな。


 獣人といえば高い身体能力というイメージがあるが、まさにそういう部分が彼の力量を高めているようだ。

 気配に敏感で、音や匂いで動きを探るなんてこともできるらしい。


 普段は、シロとクロに任せている部分だな。


「着いたか……」


 しばらく戦いながら移動し、俺達はかつて獣人の集落があった場所に到着した。

 そこはすでに人が住める状態ではないほどに破壊されており、沢山の建物の残骸が散らばる廃墟だ。


 それだけでなく、殺された獣人のものと思しき壊れた装備や人骨、破れた衣服などもそこかしこに散乱している。

 そして地面には血が染み込んだのか、黒く凝固している部分がいくつも見受けられた。


 クルススは一言つぶやき、その光景を前に黙り込んだ。

 俺たちも口を閉じ、黙祷を捧げる。

 自分の責任ではないが、このダンジョンに気づいていれば助けられた可能性があったというのも事実。


 もうちょっと南北にも足を伸ばしておけば……なんてことも考えてしまう。

 まあ、今回のことは反省点として覚えておき、これが終わったら南の方にも行ってみるとしよう。山を越えなきゃいけないけど。


「リョウジさんよ、ここ焼いちゃあもらえないか?」


 睨むように集落跡を見つめていたクルススは、振り向いてそう言った。

 戦い敗れ、死んでいった者たちを荼毘に付そうということか。


「……わかった」


 俺は頷き、魔法の準備に取り掛かった。

 広範囲に焼き尽くすには、炎の壁をいくつも出して酸素を供給しまくるのが早いか。


「フレイムウォール」


 一気に五百メートル四方ほどの空間を炎が埋め尽くす。

 後は魔法を制御したまま、風属性の【エアブロー】で酸素を送るだけだ。


 崩れていた家々に火が着き、あっという間に焼き尽くされてゆく。

 わずかな木の柵の残骸も同様だ。

 あっさりと焼けて崩れていく様は、なんとも言えない寂寥感を覚える。


 三十分も経過する頃には、可燃物はすべて燃え尽きた。

 残ったのは陶器などくらいなものだ。

 俺はそれも含め、灰を地属性魔法で地面に埋めて平らに均し、高さ二メートルほどの石碑を建てた。


 亡くなった獣人たちの墓石であり、慰霊碑となれば良いと思ったからだ。

 所持品欄から、持ってきていた花と酒瓶を取り出す。


 石碑の前にそれらを置き、再び黙祷を捧げた。

 その場にいる全員が同じように祈り、死者を悼む。

 まだ他にも複数の種族がいるという話だし、どこかで窮状にあるかもしれない。


 できることなら、無事に出会いたいものだ。


『回復魔法を習得した!』


 えっ、どういうこと?

 ……まあ、確認はまた後にするか。



「みんな、ありがとう」


 クルススが深々と頭を下げる。

 当事者である彼の気持ちが分かるは言えないが、気遣うことはできたか。


「どういたしまして」


 笑顔というわけにはいかないが、軽く応えてこちらも頭を下げる。

 リリーとダリオも同様だ。


「さて、探索を続けよう」

「おう!」

「うむ」

「ええ」


 俺の言葉に三人が応え、俺たちはダンジョン探索を再開した。

 第三階層と思われる場所から先だから、少しずつ敵も強くなってくるだろう。


 これまでに現れた魔物は、第一階層がおなじみジェルボールと犬型のワイルドドッグ、第二階層が狼型のフォレストウルフとフォレストウルフリーダー、第三階層がセイバージャガーとセイバージャガーリーダーだった。


 どうやらリーダーが一緒に現れることで、統率が取れた群れで行動するようだ。

 もちろんリーダーがいない場合もあるので、そのときは大分楽に戦える。


 傾向は分かったが、強い魔物が群れやすいというのは気をつけるべきポイントだろう。

 さあ、気を引き締めていくとしよう。



 きっちり警戒しつつ進むことしばし、現れる魔物に変化があった。

 第四階層は巨大狼ダイアウルフとそのリーダーの領域のようだ。

 フォレストウルフと基本的な動きは同じだが、スピードとパワーが大きく異なるので中々の難敵である。


 とはいえ、レベル的にはリリー、ダリオよりも下と言えるので、対応は可能だ。

 問題はクルススだが……彼は持ち前のスピードを生かして相手の動きを誘導・制限し、リリーとダリオに強力な一撃を入れさせることで十分に前衛としての役割を果たしている。


 ここまでで痛感したのは、同格かやや格下が相手でも統率が取れている群れだと対処の難易度が一気に高まるということ。

 そういう意味では、やはり巨人の迷宮に次ぐ難易度であると言えよう。


 パーティの連携強化にはもってこいの環境であるが、経験値的には美味しくないか……。

 まあ、そこはそれぞれが何を目的に潜るかでダンジョンを選べば問題あるまい。



 そして第五階層――ここはレッサーマンティコアとマンティコアの領域だった。

 ライオンの尾がサソリになってるやつは、レッサーマンティコアだったんだなあ。


 ここに至って、また一つ難易度が高まる要素が出てきた。

 それは状態異常攻撃と魔法だ。

 レッサーの尾はサソリ同様、毒を持っているし、マンティコアは空を飛ぶ上に多彩な属性の魔法を放ってくる。もちろん毒もある。


 そのため、リリーたち三人も被弾することが多くなっていた。

 それでもなんとかやれているのは、クルススの頑張りが大きい。

 木々を使った立体的な動きが、マンティコアたちの集中を乱すのだ。


 こちらにとって嫌なのは頭上を取られて遠距離攻撃を連発されることだが、クルススがそれに近いことをしつつ牽制を繰り返しているので、相手に的を絞らせないことに成功している。


 とはいえ、相手の攻撃を受け止めたダリオが毒を食らうことが多いので、この毒の回復だけは俺が手を貸している。

 まあ、さっきなぜか習得した『回復魔法』の習熟の意味もあるのだが。


 この毒、キラービーとは違って麻痺はしないようだが、アレ以上の激痛に襲われるらしい。

 頑丈さでは随一のドワーフが痛みで動けなくなるほどだから、その効果の程が知れようというものだ。


 久しぶりに毒耐性のレベル上げが捗りそうだ……。


「……ここまでだな」


 第五階層の最深部と思しき場所に到達し、ダリオがため息とともに言葉を漏らした。

 リリーとクルススも疲れた様子で頷いている。


 転移装置があるのも確認したので、予定通りここで引き返す。


「戻ろう」


 皆を促し、転移装置に手を触れる。

 ――今日は魔獣の迷宮のそばで野営だな。近くに川もあるし。


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