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卵?

「リョウジ!」

「おーい! 大丈夫かー!?」


 ドロップアイテムと散乱した炎の剣、そして砕けた武器類の回収をシロとクロに任せて大の字で寝転んで休憩していると、西から俺を呼ぶ複数の声が聞こえてきた。


 首だけ起こしてそちらを見やると、エルフのリリーとドワーフのダリオが駆けてくる。

 俺は彼らに手を振り、大丈夫だとアピールした。


 ふと気づくと空を覆っていた雲はすっかり消え、雨も風も収まっている。

 台風の目に入ったのか、それともあのグリーンドラゴンが嵐を起こしていたのか……どっちだろう?


「リョウジ!」

「おぶっ!?」


 まだ気だるさの残る頭でぼんやり考えていると、いきなりリリーが俺の上にのしかかってきた。

 しかも俺の名前を何度も呼びながら、しがみついて離れようとしない。


「お、おい、リリー。俺、泥だらけなんだぞ」

「バカ! 私達だけ逃して、一人で戦うなんてバカよ!」


 俺の言葉を無視してリリーは言い募る。

 まあ、確かに一人でドラゴンと戦うのは無謀の極みだとは思うが、選択の余地がなかったんだから仕方ないだろ。


 ……とは思うが、さすがに俺を心配して言ってくれているのは分かる。だから口には出さない。


「……ごめんな。心配してくれてありがとう」

「な、なによ! 別に心配なんてしてないんだから!」


 ツンデレか?


「まあ、何にしても無事で良かったな」


 そう言うのはダリオだ。

 彼は俺とリリーの様子を見てニヤニヤしている。

 怒ったように眉を吊り上げながらも俺から離れないリリーの姿は、どういう感情を抱いているのかが丸わかりだ。だからまあ、ダリオがニヤけるのも当然か。


 というところで、ウサギたちが諸々の回収を終えて近づいてきた。

 彼らも泥まみれで、白と黒のはずの毛皮が茶色と焦げ茶色になってしまっている。


「あはは……帰って風呂入ろっか!」

「クゥ!」

「クゥ~!」


 俺が笑ってそう言うと、二匹は嬉しそうに鳴いて飛び跳ねた。



 歩いている間もプリプリ怒るリリーをなんとかなだめつつ、俺たちは拠点に戻った。

 今日は、以前エルフたちが一時居留する際に作った大浴場を使う。リリーが「まだ怒り足りない」と言うからだ。


 ダリオはともかく他の四人(二人と二匹)は泥まみれなので、大浴場の外で魔法を使ってお湯を出し、大雑把に汚れを落とす。

 それから湯船に湯を張り、洗い場で体をきっちりキレイに洗った。


 あ、もちろん混浴じゃないよ。


「んあ~……しみる~……」


 広々とした湯船に浸かり、おっさん臭い声を上げる俺。

 自分で作った自宅の風呂も十分に広いが、大浴場の開放感と広いスペースを独り占めしている感覚(一人ではないが)は、また格別なものがある。


「はっはっは、いや本当にお疲れ様だ」


 俺のだらけた様子に、ダリオは笑いながら労いの言葉をくれた。


「それにしても、まさかドラゴンをほとんど一人で倒してしまうとは……」

「ホントにねえ……実際、ムチャクチャ格上だったわ」


 呆れたような感心したような彼の言葉に、俺自身ムチャしたなあという実感を漏らす。


「当たり前でしょ! ドラゴンなんて、どんなに若い個体でも百人はいないと勝てないって言われてるんだから!」


 いきなり女湯から、リリーの怒声が飛んできた。

 さっきまで落ち着いてたのに、俺達の話が聞こえて怒りが再燃したか……。


「いやあ、どうにか逃げる時間くらいは稼がないとなーって思ってたから……」

「それで死にかけてるんじゃ、本末転倒じゃない!」


 おっしゃる通り。

 とはいえ、どう考えても逃げられる相手じゃなかったからなあ。

 俺の拠点もエルフの拠点も上空からは丸見えだから、うかつにそっちに移動されれば避難する余裕もなくなっていただろう。


 なにしろ相手は、空を高速移動するドラゴンなんだから。

 だがまあ、俺も死にたいわけじゃない。


「もう無茶はしないよ」

「絶対よ?」

「ああ、絶対だ」


 心情を伝え、リリーに念を押されてそれにも答えた。

 無茶をしないと死ぬときは無茶せざるを得ないけどね……。

 なにしろ世界が変容して以降、ムチャしなければ生きていけなくなるという状況ばかりだったからねえ。


 ホント、何事もなくゆっくり過ごさせてほしいものだ。



 数日ダラダラしつつ台風の経過を観察し、完全に通過したと判断してから俺はシロクロコンビとともに東の平原に向かった。

 改めて対グリーンドラゴン戦の被害を確認するためだ。


 この数日は、多くの人に感謝の言葉を告げられた。

 まあ、ドラゴンなんて災害みたいな認識らしいから、それを倒したとなれば感謝もされようというものだ。


 特に冒険者ギルドの皆には涙を流して礼を言われた。

 どうも彼らは自分たちがギルドの一部と感じているようで、もし拠点が破壊されたら自分たちも消えてしまうのではないかと不安だったみたい。


 真相は分からないが、そんな事になったら嫌だから今後も拠点の防衛力を高めていかねば。

 まずは、ドールを大量生産するかねえ。


「これはひどい」


 平原に到着し、俺は思わず呟いた。

 なにしろ破壊と風雨の影響で、草原だった場所が水田みたいになっているのだ。


 東西に流れる小川と南北に流れる大河の川辺の一部も破壊されており、クレーターが出来た場所に川の水が流れ込んで溜池状になっている。


 ……とりあえず深い溝が出来てしまっている場所は埋めて、池はそのままでいいか。

 多分、魚を捕りやすくなったりするだろうと思うことにする。


「あとは……」


 北側の、山頂を吹き飛ばされた山だな。

 遠目に見ると、スプーンですくわれた後のプリンみたいだ。

 実際には何十本……いや、何百本もの木々がなぎ倒されているだろう。


 放置したら腐っちゃいそうだし、木は回収して地面は均しておくかなあ。

 マップで確認した限りでは誰もいないけど、近くに行った時に土砂崩れがあっても嫌だし。


 ま、まずは平原から土木作業開始しますかね。



 地属性の魔法でささっと穴や溝を埋めて平原を後にした俺は、山頂が砕けた山に向かった。

 道中、へし折れたり根っこから抜けた木が散乱していたので、それも所持品欄に回収しておく。


 薬品類の素材となる草花はそれぞれ名前が出るのに、俺が材木としか認識していない木々はサイズや種類が違っていても『木』としか表示されず、九本までなら一枠に収納できる。


 大雑把だなあとも思うが、枠が圧迫されないのは良いことだし、何百と回収する物がある現状では助かるから深くは考えまい。


「ほとんど禿山だな、こりゃ」


 山道を整えるように魔法で階段状の石壁を立てながら移動し、えぐれた山頂に到着した俺はため息とともに呟いた。

 ドラゴンブレスが直撃した南側はもとより、東西北の三方も木々が放射状に倒れ、かなりの広範囲が土砂によって茶色くなっている。


 むしろ南側が一番、土砂の影響が少ないぐらいだ。

 詳しいことはよく分からないが、山頂の土台がそのまま三方向に飛散したのかもしれない。


 これはもう、方角問わず回収と地均しをしておくべきだなあ。



 おおむねドラゴン災害の後始末を終え、自宅に戻った俺はすっかり忘れていたステータスの確認をすることにした。


【名前:リョージ】

【種族:人間LV99】

【所持CP:14598161】

【所持品:ナタ 上級回復薬×9 上級解毒薬×9 万能薬×9 炎の剣×9 炎の剣×9 炎の剣×9 大蛙スーツ】

【所持スキル:木工LV3 石工LV5 細工LV4 棍棒術LV9 二刀流LV8 地属性魔法LV7 金工LV9 魔力増加LV9 水属性魔法LV7 風属性魔法LV7 火属性魔法LV8 植物鑑定LV3 恐怖耐性LV9 毒耐性LV4 魔力探知LV9 打撃耐性LV8 刺突耐性LV6 体術LV8 スタン耐性LV7 魔力操作LV9 剣術LV7  皮加工LV6 無属性魔法LV8 冷気耐性LV3 炎熱耐性LV3 衝撃耐性LV5 気配察知LV5】

【エクストラスキル:マップLV3】

【称号:2級冒険者 ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー 迷宮踏破者 アントキラー フェアリーキラー ドラゴンスレイヤー】


【名前:シロ】

【種族:ブルーアイズ・ホワイトラビットLV97】

【所持CP:4122128】

【所持品:上級回復薬×9 上級解毒薬×9 万能薬×9 手長巨人のツナギ・改三 大蛙スーツ 炎の剣×9 炎の剣×9 緑竜の皮膜 緑竜の牙×9 緑竜の牙×8 緑竜の爪×9 緑竜の鱗×9 緑竜の鱗×9 緑竜の鱗×9 緑竜の鱗×9 緑竜の鱗×9 緑竜の目 緑竜の角×2 ドラゴンキラー】

【所持スキル:気配察知LV7 獣体術LV6 風属性魔法LV7 スタン耐性LV3 打撃耐性LV3 無属性魔法LV5 冷気耐性LV2 炎熱耐性LV5 水属性魔法LV4 地属性魔法LV4】

【称号:ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー 迷宮踏破者 アントキラー フェアリーキラー ドラゴンスレイヤー】


【名前:クロ】

【種族:レッドアイズ・ブラックラビットLV97】

【所持CP:4122091】

【所持品:上級回復薬×9 上級解毒薬×9 万能薬×9 手長巨人のツナギ・改三 大蛙スーツ 炎の剣×9 炎の剣×9 緑竜の皮膜 緑竜の牙×9 緑竜の爪×6 緑竜の鱗×9 緑竜の鱗×9 緑竜の鱗×9 緑竜の鱗×9 緑竜の鱗×9 緑竜の骨×9 緑竜の血 緑竜の肉×9 竜の卵】

【所持スキル:気配察知LV7 獣体術LV7 無属性魔法LV7 スタン耐性LV3 打撃耐性LV3 冷気耐性LV2 炎熱耐性LV5 地属性魔法LV4 水属性魔法LV4】

【称号:ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー 迷宮踏破者 アントキラー フェアリーキラー ドラゴンスレイヤー】


 レベルがアホみたいに上っとる!

 俺は22、シロとクロは20も上がるって、ドラゴンはどんだけ格上だったんだよ……。


 しかも俺に限っては、戦闘に関連するスキルレベルも著しく上昇している。

 いやもう、ホントに難敵だったのが数字でわかるな……。


 それに巨体だからか、シロとクロにドラゴン素材が山程回収されている。

 これらは武具を作るのに使えるだろうから、あとでダリオにでも相談してみよう。


「ん? ドラゴンキラーに……竜の卵!?」


 ウサギたちの所持品欄をぼんやり確認していると、看過できない何かが表示されているのに気づいた。

 慌ててそれらを出してもらい、自分の所持品欄に収めると……。


【ドラゴンキラー:攻撃力85 属性:斬撃 付与効果:竜特効

 ・若い緑竜の魂が剣と化した物。ドラゴンを殺した者にのみ使うことが出来る】


【竜の卵

 ・卵。どんな属性の竜が生まれるかは不明。食べられない】


 ドラゴンキラーはともかく、卵って……わざわざ食べられないと書くってことは、絶対に竜が生まれるのか?

 しかも属性がわからないってのが、また不安を煽るわい。


 凶暴なのが生まれたら、どうしてくれるんだよ……。


「ん? ……あれ? ……ちょ、おい! 出せねえんだけど!?」


 暗澹たる気持ちになりながら竜の卵を取り出そうとするが、なぜか所持品欄から出てこなくなった。

 ドラゴンキラーは普通に取り出せるのに……。


「生まれるまで持っとけってこと……?」


 もーなにがなんだか……。



 さすがにこれは俺だけで判断できないということで、エルフの長・フラヴォとドワーフの長・ゴングに冒険者ギルドまで出向いてもらい、事情を説明した。


 なんでギルドかというと、単純に集まりやすい場所であるということ、それとギルドの人達にも深く関わることだからだ。

 万一、凶暴なドラゴンが生まれてしまえば、真っ先に被害を受けるのは俺と彼らだからね。


「なるほどな……」

「確かにのう……」


 二人の長は、俺の懸念に納得した様子だ。

 しかし、ゴングが渋面を浮かべているのに対し、フラヴォの方は意外と余裕がある感じもする。


「二人は何か、ドラゴンに関する話を聞いたことはないかな?」


 そこで俺は、少し情報を聞いてみることにした。


「そうだな……私が知っているのは、善人が孵化させれば善の、悪人が孵化させれば悪の竜が生まれるという逸話くらいだ」


 おっと、フラヴォから核心とも言える話が出てきましたよ。

 彼の説明では、子供に聞かせるおとぎ話のようなものとして伝わっていて、善人が竜の卵を得て孵化させ、ドラゴンが村の守護者として崇められるようになったこと。


 そしてそれを見た悪人が真似をして竜の卵を得て孵化させると、竜によって村が滅ぼされ悪人は死んだということ。

 ……なんというか、花咲かじいさんのような話だ。いささか血なまぐさいけど。


「まあ、この話が真実かどうかはわからんが、リョウジは悪人ではないし大丈夫なのではないか?」


 自分で説明していてより落ち着いたのか、フラヴォは気楽な様子でそう言う。

 ゴングも納得とばかりに頷き、安堵したように体の力を抜いた。


 ……いやあ、俺は悪人じゃないかもしれないけど善人でもないぞ。かなり利己的だし、打算で動くし。

 となると、自分勝手なドラゴンが生まれたりしそうな……。


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