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後始末が大変だ……

「ハァ、ハァ……!」


 ――ドンッ!


 俺の頭をかすめて、竜の顎が地面に叩きつけられる。

 衝撃で吹き飛ぶ体をなんとか立て直し、再び接近戦を挑む。

 比較的安全なグリーンドラゴンの右腕付近に張り付き、スキを見ては何度も首に戦鎚のピックを叩き込んでるのだが……効果は芳しくない。


 何枚か鱗が剥がれはしたが、その下にある皮にはまったく刃が立たないのだ。

 こんなことなら、レベル上げだけでなく新しい武器も作っておくべきだった。


 アダマンタイトの棍棒も、ヒヒイロカネの剣鉈も傷一つつかないから油断してた……。

 せめて魔力に余裕があれば、炎の剣を無理やり振り回すんだが。


 まあ、考えても仕方ない。なんとか残った手札でやりくりするしか。


「グオオッ!」


 しつこく張り付く俺に業を煮やしたか、緑竜は無理に首を回して俺に噛みつこうとしてきた。

 これまでに無かったパターンだ。


「ぬおおっ!」


 俺はとっさにドラゴンの肩を使って三角飛びして牙をやり過ごし、その反動で竜の頭に突っ込んだ。

 大上段に振りかぶったアダマンタイトの戦鎚を、どこでも良いから当たれ! と全力で振り下ろす。


「グギャアアアアア!!」


 その一撃は幸運にも竜の右目を直撃した。戦鎚のヘッド部分が全て眼球に埋まるほどのクリティカルヒットだ。

 それは良かったのだが……ついに戦鎚も折れて手持ちの武器が尽きてしまった。


 痛みに大暴れするドラゴンの巨体に巻き込まれないように距離を取り、最後の上級回復薬を飲み干す。

 これでいよいよ、素手の格闘戦しかなくなってしまったな……。


 緑竜が暴れ終わるのを待っていると、ヤツの体から恐ろしい量の魔力が放出されるのに気づいた。


「ヤバイ!」


 次の瞬間、ドラゴンの口からプレッシャーカノンとは比べ物にならないほどの巨大な空気の玉が放たれる。

 その反動で緑竜の巨体が浮き上がり、仰向けにひっくり返った。


 とっさに地面に伏せた俺の頭上を圧縮空気の巨大砲弾が通過し、急激な気圧の変化で空中に吸い上げられる。

 幸い砲弾に巻き込まれることはなかったが、俺の体は風に揉まれる木の葉のように無軌道に揺さぶられ、数秒の後、地面に叩きつけられた。


 ――ゴバァン!


 その直後、はるか遠くでブレス着弾の轟音が響き渡る。

 なんとか身を起こし、音が聞こえた方に顔を向けると――そこには山頂をごっそりと削り取られた山の、無残な姿があった。


 さほど高くないとはいえ、五百メートルほど離れた山を砕くとは……恐ろしい破壊力だ。

 あんなものを食らったら粉々にされてしまう。


 ただ、グリーンドラゴンの魔力がごっそり減ったのだけは良い展開だ。

 おそらく、アレをあと二発撃てば魔力は枯渇寸前になるだろう。


 それに緑竜自身の攻撃の威力で、縦に切り裂かれていた右腕の肘から先――橈骨がつながっている方――が完全にちぎれとんでいる。

 傷口からはとめどなく血が溢れ、ドラゴンは激痛に再び狂乱していた。


 それは理性が吹っ飛んでいるということで――ヤツは再び魔力を激しく放出し始める。

 何としても俺を殺そうというのだろう。


 仰向けのまま首を持ち上げ、ドラゴンの口元に巨大な空気の砲弾が発生する。それは間違いなく俺を狙っていた。

 俺は即座に横っ飛びしようと足に力を込める――しかし、さっきのダメージのせいか、俺の足はピクリとも動かなかった。


「しまっ――」


 目の前に、極限まで圧縮され揺らぐ砲弾が迫る。

 今回は、伏せたところで地面ごと粉砕されるだろう発射角度だ。

 ――これは終わった。


 そう考えた瞬間、俺の視界はブラックアウトした。

 死ぬのって意外とあっけないんだなー、なんて思いながら浮遊感に身を任せていたのだが……二秒ほどして顔面に何かがぶつかった衝撃で我に返る。


「いでっ!」


 さらに二度、背中に何かが落ちてきた感触を覚えた。これは痛くなかった。

 続いてまたブレスの着弾音が辺りに轟き、俺の頭上に大量の土砂が降り注ぐ。


「キュキュッ!」

「キュキュ~!」


 土砂が収まったところで、聞き慣れた鳴き声が聞こえてきた。

 ……なるほど、シロとクロが地面に【ピット】で穴を開けて助けてくれたのか。


「いてて……二人共ありがとう。助かったよ……」


 

仰向けに転がると、シロが上級回復薬を、クロが魔石を渡してくれた。

 それぞれ三枠分、二十七個――十分な数だ。


「よっしゃ! いっちょブッ飛ばすか!」


 早速、俺は上級回復薬を一気飲みし、気合を入れて穴から飛び出した。

 シロとクロも一緒だ。


 地上に出ると、グリーンドラゴンが起き上がるところだった。

 ブレスの発射で体を反転させたか。

 しかし、やはり自分の攻撃が傷に響いているようで、右腕は肘から先が完全になくなっている。


「グギャオオオオオオ!!」


 ひどくなった出血と痛みに吠え、ますます俺への怒りと憎悪が強まるのを感じる。

 そして三度、高まる魔力。今度は三本になった足を全力で踏ん張り、きっちりと狙いを定めてブレスを放つつもりのようだ。


 この一撃をしのぎきって、反撃――あわよくば倒してしまいたい。

 シロとクロはすでに両翼に移動しているが、緑竜は俺以外は眼中にないらしく、まったく警戒する様子もない。


「オオオオン!」


 そして咆哮とともに放たれる圧縮空気の砲弾――ではない!?

 空気が圧縮されるところまでは同じだったが、放たれたのは空気の爆発と衝撃波そのものだった。


 さっきまでの二発が遠距離用とすれば、今回の一発は近距離用――ドラゴンの口元から、放射状に破壊がもたらされるもの。

 正真正銘、本物のドラゴンブレスだ。


 視界の端で、シロとクロが暴風に吹き飛ばされ転がっていくのが見えた。俺の体も、すでに後方へと押しやられている。

 まだ攻撃そのものは届いていないのに、その余波だけで人を殺すには十分な破壊力が伺えた。


「アイアンウォール! ウォーター!」


 俺はとっさに身を縮め、魔石の魔力を使って自分の周囲を鉄の壁で覆う球状の防壁を作り出した。そして中に水を満たす。

 溺れそうで怖いが、衝撃を逃がすには緩衝材があったほうが良い。


 すぐに轟音が響き、俺は鉄の球ごと吹き飛ばされた。

 上も下も分からなくなるほど激しく揺さぶられ、何度も地面に叩きつけられる衝撃に襲われる。


 さながら、洗濯機の中の洗濯物のような状態だ。

 この方法で洗濯をすれば、汚れ物はさぞキレイになることだろう。

 そんな現実逃避をしながら、俺は永遠にも思える酷い衝撃の連続に耐え続けた。


 ついに集中が解け、俺を覆っていた鉄の球が消滅する。魔力で作ったために、霧散したのだ。

 いまだに衰えない暴風の中、俺は空中へと投げ出される。


 何度も地面に叩きつけられ、転がり、跳ね上がり――一際強烈な衝撃とともに、俺の体は、ついに土にめり込む形で止まった。

 もう体の感覚もないし、音も聞こえず目も見えない。


 あちこち骨折しているだろうことは想像がつく。

 正直、もう寝てしまいたいが、それは死を意味する。

 俺が死ねば、次はシロとクロが戦うだろうが……ドラゴン相手では相性が悪すぎる。


 ――ならば俺が踏ん張るしかあるまい。


 力を振り絞って所持品欄から上級回復薬を取り出し、一本を飲んで何本かを体にぶっかける。

 クロがアイアンゴーレムにやられた時に、こうして回復させたのが効果的だったからだ。


「がふっ」


 薬が効き、肺から血混じりの水が吐き出される。やはり溺れかけてもいたか。

 そして血を吐いたということは、内蔵もかなり傷ついていたということだろう。


 回復薬がなきゃ死んでたな、これは。

 こういうときは、ファンタジーな世界もありがたいと感じる。


「う、く……」


 まだ痺れの残る体を起こし、周囲に目を走らせる。

 どうやら俺は、最初のブレスで山頂を吹き飛ばされた山の中腹まで吹き飛ばされていたようだ。


 山肌に間延びした人型の穴ができているのには、ちょっと苦笑い。

 おかげで少しリラックスできた状態でもう一本上級回復薬を飲み、遠くで動きを止めているグリーンドラゴンを見つめた。


 魔力は、もうほとんど残っていないのが『魔力探知』で感じとれる。

 奥の手には驚かされたが……あとは物理攻撃しかできない状態だろう。


「決着を付けさせてもらうぞ……!」


 俺は両手に魔石を握りしめ、魔力を吸収、魔法を発動する。


「フィジカルブースト・ストレングス!」


 それと同時に山を駆け下り、目的の場所へと向かう。

 え? 目的の場所はドラゴンだろうって? そうだけど違う。

 いくら相手が魔法攻撃を使えなくなっても、素手の殴り合いで勝てるとは思わない。


 ――だから、俺は炎の剣を拾いに走ったのだ。


 全部で二十七本の内、転がっているのは二本。

 どちらもブレスで吹き飛ばされているが、流石に重さが五百キロほどもあればどこに行ったか分からなくなるほどではない。


 俺は東の大河側に落ちている一本を拾い、両腕で柄を抱えるように持ち上げる。

 身体強化とレベルアップによって、ワイバーンを倒したときよりも楽に持ち上げられた。


 これなら、このまま持って走れそうだ。


「よし……」


 再びグリーンドラゴンを視界に収め、炎の剣をしっかりと固定する。

 視線の先ではシロとクロが激しく魔法を放ち、あるいは飛び蹴りを仕掛けて牽制を始めていた。


 おかげで、俺は自分のタイミングで仕掛けられる。


「行くぞ!」


 体を前傾させ、両足に力を込める。そして気合の声とともに、俺は全力で駆け出した。

 レベルアップで常人の七倍、身体強化でさらに倍ほどに高められた脚力は、五百キロの重しを抱えていても俺を車の法定速度ほどまで加速させる。


 真っ直ぐに切っ先を掲げ土砂を蹴り上げて全力疾走する俺は、さながらランスを構えて突進する騎士だ。

 しかし、その破壊力は破城槌にも勝るだろう。


 だが、それだけでない。更に魔石を取り出し、その魔力を全て剣に流し込んだ。

 すると剣身が青い炎に包まれ、降りしきる雨を蒸発させてゆく。


 炎の尾を引いて駆ける俺は、さながら火の車だ(誤用)。


「アンチファイア!」


 当然、炎熱耐性があってもムチャクチャ熱い! ということで耐火の魔法をかける。

 もう魔石使いまくりだ。ここが決め所だからケチケチしない。


「ハイドロボム!」


 ――ドン!


 俺の背中で水素爆発が起き、更に俺を加速させる。


「ハイドロボムッ!」


 ――ドン!


 もういっちょう!


「ハイドロボムッ!!」


 ――ドン!


 もう一発!

 計三発の爆発は、さながら多段ロケットのように俺を激しく加速した。その加速力は、俺を半ば滑空させるほどだ。


 そしてそのスピードの行き着く先は、シロクロコンビに翻弄されるグリーンドラゴンの首――俺の幾度もの攻撃で、鱗を数枚破壊された場所だ。


「行っけええええ!!」


 ――ドシュッ!


 シロとクロの牽制のおかげで、ちょうど首の右側を晒している緑竜に、俺は渾身の力を込めて激突した。

 確かな手応えとともに切っ先が分厚い竜皮に突き立ち、白熱した刃が肉の中にめり込んでゆく。


「ギャアアアアア!!」


 肉と血の焼ける匂いが立ち込め、ドラゴンの悲鳴が上がった。


「アイアンウォール!」


 暴れて俺にぶつかりそうなドラゴンの頭を、鉄壁の魔法で作り出した巨大な角柱で迎撃する。

 地面を支えに斜めに生えた鉄柱が、横に振られた竜の側頭部にぶち当たった形だ。


「おおおおっ!!」


 自分の全力パワーで障害物に頭をぶつけたグリーンドラゴンは、まるで脳震盪を起こしたようにふらついている。

 そこで俺は柄を肩に乗せて両手と肩で鍔を押さえ、全体重をかけて炎の剣を竜の首に押し込んだ。


「グギャアオオオオ!!」

「ぐぬううう……!!」


 またドラゴンの悲鳴が上がり狂ったように体をばたつかせるが、地面に膝までめり込みながらも俺は決して力を緩めず前進し続ける。


 炎の剣の波打つ刃にえぐられ、暴れるせいでその傷が更に広がり竜の血が激しく吹き出すが、それも青い炎によって一瞬で蒸発してゆく。


 あと、もう一息――俺は、そう感じていた。

 だが、俺だけの力ではもうこれ以上押し込めない。


「キュキュキュッ!」

「キュキュキュ~!」


 なら仲間の力を借りればいいじゃない!

 シロとクロが勇ましく鳴き、俺の背後から駆けてくる気配を感じる。


 チラと振り向くと、すでに二匹は全力で身体強化をしているらしく、全身から激しく魔力の光を放っていた。

 そして前を走るシロが跳躍する。


「キューキュッ、キュッ!!」


 まず前方に一回転、次に捻りを加え錐揉み回転に変化、さらに竜巻により回転力を大きく増し、巨大なドリル化したシロが炎の剣の柄頭に両足によるウサキックを叩き込んだ。


 ――ガァン!


 まるで仮面なんちゃらブラックRXの必殺技のようなそれは、轟音とともに炎の剣を一段と奥へと押し込んだ。


「グボォッ!」


 グリーンドラゴンの悲鳴が湿ったものに変化し、声が途切れる。


「キュキュ~!!」


 攻撃を終えたシロが後方にトンボを切って下がるのと入れ替わりに、クロが輝く足で大地を蹴って飛び上がった。

 シロよりレベルの高い無属性魔法で強化されたそれは、単純だが確かな破壊力を秘めていることが見て取れる。


 クロは前方に一回だけ宙返りをし、シロのキック同様、柄頭を全力で蹴りつけた。


 ――ゴガァン!


 再び轟音を上げて炎の剣が押し込まれ、俺の手に何か硬いものを刃が貫通した感触が伝わってくる。


「ゴヒュッ」


 空気の抜けるような音とともに緑竜の口から大量の血液が吐き出された。

 どうやら炎の剣が動脈と気管を切り裂き、貫いたようだ。


「どうだ……?」


 動きを止めたドラゴンの姿に、思わずつぶやきが漏れる。

 やったか? じゃないから大丈夫だと思いたいが……。

 やけに長く感じる短い時間が経過し、動きを止めていた緑竜の体がぐらりと傾いた。


「え、ちょ」


 やばい、膝まで埋まってる上に体力を使いすぎて脱出できない!

 炎の剣が刺さるとともに近づきすぎている今、このままでは潰されてしまうかもしれない。


「キュッ!」

「キュ~!」


 シロとクロに引っ張られ、ズボッとと音を立てて地面から抜けた俺は、盛大に空中を飛んで退避に成功した。


「あだっ」


 俺が背中から落下し、派手に頭をぶつけるのと同時に重々しい音が周囲に響いた。

 なんとか顔を上げると、それはドラゴンが倒れた音――つまり。


『グリーンドラゴンを倒した!』


 戦闘終了のアナウンスが流れ、俺はようやく体の力を抜いて地面に大の字に寝そべった。

 首をめぐらせれば、戦闘の影響でぐちゃぐちゃになった景色が目に映る。


 こりゃあ、後でどうにかしないとなあ……。


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[一言] 手に汗握るジャイアントキリング! 男のロマンだね~、スライムで上げれる限界までLV上げをするというつまらないプレイができない私は、こういう話は好きです。
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