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ドラゴン強すぎなんですけど……

 開幕はドラゴンブレスだった。

 恐ろしく圧縮された空気の玉が吐き出され、高速で飛来する。

 それは着弾すると一気に破裂し、雨に濡れた地面を数十メートルに渡ってえぐった。


 当然、激しい衝撃波が発生し、その余波だけで俺は大きく吹き飛ばされる。

 安全マージンをとって回避したつもりだったが、それでもこの結果だ。それにグリーンドラゴンの様子を見るに、今のブレスが最強の攻撃というわけではあるまい。


 攻撃を終え、悠然と俺の頭上をフライパスする緑竜の魔力は少しも減っていないように思える。

 となると球状のブレス――プレッシャーカノンとでも呼ぶか――は、通常攻撃みたいなものかもしれない。


 ――となると。


「そうなるよなあ!」


 一撃で仕留められなかった事を知った緑竜は旋回して戻ってきながら、今度は何発も連続してプレッシャーカノンを放ってきた。

 秒間一発と言ったところだが、近くに着弾すれば吹き飛ばされるのだから回避するのがめんどくさすぎる。


 それに一発ごとに削られて地面がどんどん荒れていくので、徐々に移動が制限されてゆく。

 相手にしてみれば、飛べない人間など空からなぶり殺しにできる獲物でしかないから降りてくる様子もない。


 どうにか地上に落としたいところだが――。


「……やってみるか」


 頭上を通過してゆくグリーンドラゴンを見送り、意を決する。

 反転したところが狙い目だ。


「……フラッシュバン!」


 旋回し、こちらに向かおうとする緑竜の眼前で、閃光と爆音を発生させる魔法を発動する。風と火の合成魔法である【ハイドロボム】を更にアレンジしたものだ。


 ――ドォオン!


 俺は、目を閉じ耳をふさいで魔法の影響を受けないようにする。

 そして音と光が収まったところで目を開き、効果が出たかどうかを確認する。


「おわっ!?」


 効果は見事に出ていた。なにしろグリーンドラゴンは一時的に視力を奪われ落下しつつあるからだ。

 しかし、その落下方向にいるのは俺だ。慌てて横っ飛びし、転がって即座に起き上がる。


 俺の視線の先で、巨体が地面に激突した。

 轟音を上げて滑る緑竜が、何百メートルも地面を削り取ってゆく。


「フィジカルブースト!」


 この好機を見逃すわけには行かない。ということで、俺は全力で身体強化を施し駆ける。

 ――狙いはドラゴンの翼だ。


 強化された足がぬかるんだ地面を蹴り、並の人間の十倍近い速度を叩き出す。

 その速さは数百メートル離れた敵に、わずか数秒で到達することを可能にした。


「うおらああっ!!」


 地面にめり込み動かないグリーンドラゴンの右翼を狙い、全力でヒヒイロカネの剣鉈を振り下ろす。

 倒れていても俺の頭より高い位置にある翼は、両手持ちした剣で攻撃するのに丁度よい場所にあった。


 そして剣鉈の刃は皮膜の半ばまでめりこみ――真っ二つに折れた。


「なあっ!?」


 これまでどんな材質を切っても刃こぼれ一つしなかったヒヒイロカネが、あっさりと折れるほど頑丈なのか! 一番弱そうな皮膜が!?


「ギャオオオオ!!」


 翼を切られた痛みに緑竜が悲鳴を上げ、嫌がるように激しく翼を打ち振るう。

 危うくぶっ叩かれそうになりながら、俺は慌てて大きく飛び退った。


 皮膜に食い込んだままの刀身が作った傷口から、真っ赤な血が滴る。

 巨体を跳ね上げ四つん這いになったグリーンドラゴンが、怒りのこもった眼光を俺に向けた。


 その様子は、ただの餌だと思っていた小さな生き物に、空から落とされた上に傷を負わされてプライドを傷つけられた――そう言わんばかりだ。


 とはいえ、実際有利なのは緑竜の方だ。何しろ無尽蔵とも思える魔力を持ち、ヒヒイロカネの剣鉈すらもへし折る防御力を持っているのだから。


 俺にある手札は多いが……通用するかは、また別の話だ。

 それに今のうちに、なんとしても飛べなくする必要がある。


「どうした? かかってこいよ、クソトカゲ。それともビビってんのか?」


 言葉を理解できるかは分からないが、俺の舐めた態度は伝わるだろうと煽ってみる。

 すると――グリーンドラゴンは思惑通り、怒りの咆哮を上げて突進してきた。


 その巨体に似合わぬスピードは、俺との距離を一瞬で詰める。

 そして勢いのままに振り上げられた前足が、俺を踏み潰そうと迫ってきた。


「出ろ!」


 即座に逃げ出したい気持ちを抑えギリギリまで待ち、俺は所持品欄から炎の剣を取り出す。

 長さ五メートルの巨大剣が、ドラゴンの掌が降下する角度に合わせて姿を表した。


 そこでようやく俺は全力で横っ飛びし、竜の攻撃から逃れる。

 しかしその攻撃は止まることなく振るわれ、標的である俺ではなく、炎の剣の切っ先に叩きつけられた。


 果たして剣が勝つか、グリーンドラゴンの防御力が勝つか――。


「ギャアアアアアアアオ!!」


 その勝負は、剣が勝った。

 掌を突き抜けた切っ先は竜のパワーによって更に押し込まれ、手首から前腕へと肉を切り裂きながら移動、尺骨と橈骨の間に食い込んでようやく止まった。


 グリーンドラゴン自身の攻撃力が、仇となったのだ。

 そして俺は、この結果を次に繋げなければならない。


「ストーンウォール!」


 痛みに吠え暴れる緑竜の上を取るべく、俺は石の壁を足場として発生させる。

 竿立になっているドラゴンは全高二十メートルは超えているだろう。その上となると三十メートル程度にはなるが……躊躇しているわけにはいかない。


 多少のダメージは与えただろうが、まだ動けなくなるほどではない。だから今のうちに、なんとしてでも飛ぶ力だけは削ぐ。

 そう、『頭上から重量物を落とす』作戦だ。


「出ろ!」


 今、俺が持っている炎の剣は二十六本、これを全て、切っ先を下にして放出した。

 二・三本くらい刺さってくれれば御の字だ。


 重力に引かれ落下する剣の雨が、緑竜の頭上から降り注ぐ。

 ガンゴンと硬い物同士がぶつかる重々しい音が草原中に響き渡り、ドラゴンの悲鳴が上がった。


 そして願った通り、右の翼に二本、左の翼に一本、炎の剣が突き立つ。

 総重量千五百キロの重しと、何度も落ちてきた剣の衝撃で、ついに緑竜が地に伏せた。しかしここで手を緩めるわけにはいかない。


「アイアンウォール!」


 地面から鉄の壁を発生させ、周囲に散らばる炎の剣ごと巻き込みドラゴンの体に巻き付かせる。

 刺さっている剣を抜けなくするとともに、重さで飛べなくするためだ。


「グウウオオオオオ!!」


 さすが魔物の王者ドラゴンだ、これだけの重量物を抱えて動いている。が、さすがにこの状態では飛べないらしい。十四トンくらいか。

 とはいえ魔力は全然減っていないから、攻撃の手段はいくらでもあるだろう。


 一方、俺はそこそこ魔力を消費している。なんといっても、一気に二十メートル以上の鉄の拘束具を作ったのがでかい。

 覚えたばかりの頃よりはずっと消費が少なくなっているはずだが、それでも気軽に使えるほどではない、か。


 だが、消耗を気にして勝てる相手ではないだろう。

 せめて翼だけは完全に潰しておかねば。


「うおおおおおっ!」


 俺は気合の声を上げ、足場から飛び降りた。

 地上三十メートルからのダイブはタマヒュンものだが、今の俺なら死にはしない。


 一直線にドラゴンへと落下し、炎の剣の鍔に着地した。衝撃はスゴイが、炎の剣が緑竜の翼に刺さっているおかげで足がしびれる程度ですんだ。


 ついでにその衝撃がグリーンドラゴンの傷口を広げ、三度竜の悲鳴が響く。


「まだ、まだあ!」


 若木の幹のように太い巨大剣の柄にしがみつきながら、俺は全力で炎の剣に魔力を流し込んだ。

 その途端、波打っている刃から炎が吹き出す。


 かつてラーヴァジャイアントが同じことをしたが、発生する炎の様子は大きく異なる。

 それは俺が炎を大きくするのではなく、温度を上げることをイメージしているために起きた違い。


 赤い炎ではなく青い炎が上がり、緑竜の翼を焼き切りながら鉄の拘束具を溶解させてゆく。

 炎の剣が傾き、ついに翼を支える骨に到達。そこで俺は全力で体重をかけ、鍔から足を離して柄にぶら下がった。


「いっけええ!!」

「ギャオオオオ!!」


 このまま行ける――そう思った俺だったが、ドラゴンの方向とともに放たれたプレッシャーカノンによって 吹き飛ばされた。直撃だ。


 そして竜の右翼とともに、俺は地面に落下した。

 ――まさか、翼を失う覚悟で攻撃してくるとは。


「っ……がはああ……!」


 土砂降りの雨で泥沼と化した草原に叩きつけられ、肺から空気が押し出される。

 地面が柔らかくなっていたおかげで多少はダメージが軽減されただろうが、圧縮された空気の砲弾を食らったせいか体の感覚が無い。


 頭蓋骨に反響するような心音だけが聞こえ、雨の音も、風の音も、そして竜の咆哮も聞こえなくなった。

 鼓膜がやられたか。


 所持品欄から取り出した上級回復薬を震える手でつかみで、なんとかかんとか栓を抜いて一気に呷る。

 さっさと動かないと、ドラゴンに追撃されたら終わりだ。


「ッ!」


 薬が効くと同時にはっきりした視界に、太い何かが迫ってきているのが映った。

 俺はとっさに自分の背中でハイドロボムを発動し、爆発の威力を使って距離をとった。痛い。


 吹き飛び転がる俺の横に、何かが叩きつけられる重々しい音が響く。

 起き上がって確認すると、それは緑竜の尻尾だった。


 どうやら右前足と右翼の傷、そして重りのせいで上手く動けないから、比較的近い位置だった尾を使ったようだ。

 筋肉の塊である尾による一撃は、柔らかくなっているとはいえ地面を数メートルほど掘り下げる威力がある。


 食らえば死ぬな……。

 しかし、もう魔力が心もとない。まさかドラゴンと戦いになるなんて予想もしていなかったから、魔石も持っていない。


 もう、できることはヒヒイロカネの剣鉈とアダマンタイトの棍棒を使って接近戦を挑むくらいしかないか……。


「死中に活を見出すしかないな」


 幸い、上級回復薬はあと八本ある。

 これを使い切るまでに、なんとか倒す手段を考えるしかあるまい。


「行くぞ!」


 意を決し、俺はグリーンドラゴンに向かって駆け出した。



「シロ! クロ! 止めて!」


 石の船で運ばれながら、私は叫んだ。

 東の平原ではリョウジがグリーンドラゴンと対峙しているのだ。

 彼を見捨てるわけにはいかない。


 だけど、ウサギたちは私を無視して船を走らせる。

 なぜ? 主人であるリョウジの命令は絶対だとでもいうの?

 東からはひっきりなしに破壊音が響いているのに、二匹は振り返ろうともしない。


 疑問に思っている間にも船は進み、もうすぐリョウジの拠点にたどり着く。

 そこで東の空が急に明るくなった。


「なに!? 何が起きたの?」


 思わず振り向くと、ドラゴンの巨体が傾き落下してゆくのが見えた。


「リョウジ……」


 何をしたのかは分からないけど、ドラゴンを空から落とすなんてとんでもない事をやってのける彼に、私は憧憬の念を覚える。

 シロ、クロとたった三人で、アリの軍勢ほとんど全てを倒した強者。


 だけど強さに驕ることなく、暇さえあれば鍛えようとする。

 彼を動かす原動力は一体なんなんだろう。


「分からない、けど……」


 今は彼に任せておくしかない。

 私は私のやるべきことをする。


「みんな! ドラゴンが現れたわ! 今すぐ妖魔の迷宮に避難して!」


 船に乗ったまま拠点の門をくぐり、冒険者ギルドの前に乗り付ける。そして即座に室内に駆け込み、私は声の限り叫んだ。

 次は住み込み農夫をやっているドワーフたちのところへ向かう。その後は私たちエルフの拠点。


 シロとクロがリョウジの自宅へ跳んでいくの見送り、私は西へ西へと走った。



 グリーンドラゴンとの戦いは熾烈を極めた。

 後ろに回れば尻尾、横に回ればブレス、正面に立てば噛みつきとブレスが襲ってくる。


 懐に入り込めば首を振り、無理やり体を揺さぶってぶつけてきた。

 僅かな動きでも巨体がぶつかればトラックに跳ねられたような衝撃に襲われ、大きく弾き飛ばされる。


 その度に回復薬を飲み、接近することからやり直さねばならないのだ。

 そして俺に残された武器は、アダマンタイトの戦鎚のみ。ヒヒイロカネの剣鉈は折れ、アダマンタイトの棍棒は二本とも砕けた。


 一方、緑竜のダメージは全くと言っていいほど増えていない。せいぜい、鱗を数枚割った程度だろう。

 幸い再生能力などはないらしく、翼の切断面からはとめどなく血が溢れている。


 このまま持久戦を続けられれば勝てる可能性はある、か。

 しかし俺は、ここに至ってもドラゴンは全力で攻撃してきていない気がしていた。


 圧縮空気砲弾のブレス――プレッシャーカノンを乱発した今でも、ヤツの魔力はまだまだ余裕がある。

 翻って考えると、他の攻撃手段がないとは思えないのだ。


 じゃあなぜ使わないのか? となると、接近戦では使えないのか、使うのに時間がかかるのか、空中でないと使えないのか……どれかだろうか。


 さて、回復薬は残り一本。

 俺の予想が正しければ、接近戦を仕掛けていないとマズイことになる可能性がある。


 覚悟を決めて、最後まで接近戦を敢行するか……。


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