嵐とともに来る者
エルフの拠点も概ね完成し、季節は梅雨。
しとしとと雨が降る日が増えてきた。
春先からつい先日までは野外での冒険者活動をする者が多かったが、雨模様になってからはダンジョンをメインに変えたようだ。
基本的には妖魔の迷宮へ行っているようだが、まれに深緑の迷宮や巨人の迷宮に潜る者もいる。
ただ、巨人の迷宮は他の二つに比べて難易度が高いので、中々攻略は進まないようだ。
深緑の迷宮に関してだが、やはりアリの大発生によって他の魔物が狩りつくされていたらしい。
というのも、第一から第四階層までの魔物が全く違うものになっていたからだ。
第一階層はリスの魔物ヒュージスクオロとジェルボール、第二階層は下位のトレント? ビートシュラブとコガネムシの魔物ブリットシェーファー、第三階層は茨の魔物トラップソーンとカマキリの魔物ジャイアントマンティス、第四階層はこれも下位のトレント? ラバーウッドとダンゴムシの魔物ヒュージデンドライオン
大体が二種の魔物で連携、あるいは協力して攻撃してくるので、ちょっと面倒だ。
ドロップアイテムは虫系はカマキリを除いて甲殻ばかりだが、植物系は香辛料の種と天然ゴムが出た。生活環境が整いそうで良い感じである。
あ、そうそう以前『甘露の種』というドロップアイテムを得たが、これは何と砂糖が取れる植物だった。
スイーツとまでは行かないけど、蜂蜜系以外の甘味が取れるのは嬉しい限りだ。
そういった周辺環境を色々と確認しつつも、俺とシロクロコンビは巨人の迷宮下層でレベル上げにも勤しんでいる。
第八・第九階層では大量に魔物が出てくるため、他に比べて一気に経験値を得やすいからね。
もう拠点付近に危険な場所は無いと思うが、まだ何かが起こる可能性はあると考えてレベリングは続けている。
正直もういいだろうとも思うが……どうにも不安が消えないのだ。
なにしろ、これまで気を抜いて良かったことなど無いし、これから秋口までは初めて経験する季節でもある。
自然災害が起こったとしても、レベルが高い=身体能力が高いほうができることは多いはずだ。
そして季節による魔物の変化は、何も冬だけではないというのは現時点で分かっている。
拠点周辺でもヒュージスラッグやヒュージスネイル、ウォータージェルボールにジャイアントフロッグなどの魔物が現れるようになっていた。
どれもさほど強くはないが、気候と魔物の数が揃えば対処に手間がかかることもある。
あらゆる状況に対処するのは無理でも、手札を増やしておくに越したことはない。
ということで、一日に1レベル上げることを目標に潜りまくっているのだ。
早い時間に上がったときは、スキルのレベルを上げるために第六階層に移動してアイアンジェルボールを相手に戦いまくる。
あいかわらず固定していない状態では切っても叩いても倒せないので、剣術と棒術、それに体術を伸ばすのに最適なのだ。
普通に倒せるようになるのは、いつのことやら……。
◇
梅雨から二ヶ月ほど、季節はすっかり盛夏。
夏に入ってからはまた現れる魔物も変化し、昨年の秋と変わらないモノたちが顔を出すようになっている。
梅雨の時期に現れたジャイアントフロッグの皮から完全防水のウェットスーツのようなアンダースーツを作り、台風が来ても大丈夫なように準備を整えた。
作った当初、試しに一時間ほど雨に打たれてみたが、体温が奪われることもなく、かといって暑くもないという快適さに驚いた。
さすがに晴れの日には着ていられないが、雨の日の野外活動には必需品といっていいだろう逸品だ。
また、ドワーフたちの畑や、エルフの拠点の畑も様々な野菜類が青々とした葉をのばし、秋の収穫が期待できる。
俺は相変わらず魔法促成栽培でやっつけちゃったけどね!
それからレベル上げも予定通りとは言えないが、納得の行く成果を得られた。
【名前:リョージ】
【種族:人間LV77】
【所持CP:4598161】
【所持品:アダマンタイトの棍棒×2 ヒヒイロカネの剣鉈×2 ナタ 上級回復薬×9 上級解毒薬×9 万能薬×9 アダマンタイトの戦鎚 炎の剣×9 炎の剣×9 炎の剣×9 大蛙スーツ】
【所持スキル:木工LV3 石工LV3 細工LV2 棍棒術LV7 二刀流LV6 地属性魔法LV4 金工LV6 魔力増加LV6 水属性魔法LV5 風属性魔法LV5 火属性魔法LV6 植物鑑定LV3 恐怖耐性LV7 毒耐性LV4 魔力探知LV8 打撃耐性LV4 刺突耐性LV3 体術LV5 スタン耐性LV5 魔力操作LV6 剣術LV5 皮加工LV6 無属性魔法LV6 冷気耐性LV3 炎熱耐性LV3】
【エクストラスキル:マップLV3】
【称号:2級冒険者 ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー 迷宮踏破者 アントキラー フェアリーキラー】
【名前:シロ】
【種族:ブルーアイズ・ホワイトラビットLV77】
【所持CP:4122128】
【所持品:上級回復薬×9 上級解毒薬×9 万能薬×9 手長巨人のツナギ・改三 大蛙スーツ 炎の剣×9 炎の剣×9】
【所持スキル:気配察知LV7 獣体術LV6 風属性魔法LV7 スタン耐性LV3 打撃耐性LV3 無属性魔法LV5 冷気耐性LV2 炎熱耐性LV5 水属性魔法LV4 地属性魔法LV4】
【称号:ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー 迷宮踏破者 アントキラー フェアリーキラー】
【名前:クロ】
【種族:レッドアイズ・ブラックラビットLV77】
【所持CP:4122091】
【所持品:上級回復薬×9 上級解毒薬×9 万能薬×9 手長巨人のツナギ・改三 大蛙スーツ 炎の剣×9 炎の剣×9】
【所持スキル:気配察知LV7 獣体術LV7 無属性魔法LV7 スタン耐性LV3 打撃耐性LV3 冷気耐性LV2 炎熱耐性LV5 地属性魔法LV4 水属性魔法LV4】
【称号:ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー 迷宮踏破者 アントキラー フェアリーキラー】
春先から約五ヶ月で14レベルが上った。
一日1レベルアップとか、計算したら絶対無理だったよ!
とはいえスキルレベルも軒並み上がったので、特に問題はあるまい。
あと巨人の迷宮に潜りまくった副産物として、炎の剣が山ほど手に入った。
そこでラノベでたまに見る『アイテムボックスから直接モンスターの頭上に重いものを落とす』という戦法を出来ないものかと試してみたところ、数メートルの高さから半径数メートルの範囲に落とすことができると判明。
しかもどっち向きに落とすかも決められるので、切っ先から落とせばストーンゴーレムにもドスッと刺さる。
さすがにアイアンゴーレムにはちょっとしか刺さらなかったが、それでも重さがスゴイのでかなりのダメージが入るようだ。
それと例の雪原で炎の剣を何本か地面に刺して魔力を流せば、フロストジャイアントが勝手に突っ込んできてどんどん死んでいくという、お手軽経験値稼ぎができた。
シロとクロは俺よりアイテムを出せる範囲が狭いらしく頻繁には使えないが、横向きに落とせば障害物&ギロチンみたいな使い方ができるので一応、炎の剣を常備している。
ラーヴァジャイアントも、愛剣が乱獲された上にそんな使い方をされるとは想定してなかっただろうなあ……。
「大分、雨と風が強くなってきたな」
今日は今夏はじめての台風が迫ってきているようで、朝から雨模様だ。
今現在、俺は東の平原に建設した監視塔に詰めている。
ここは一応セーフティエリアだが、この塔以外に建物はない。
塔の下層には寝泊まりできるように部屋もあるが、基本的には生活の場ではないな。
ともあれ、今は台風の影響がどの程度のものかを確認するべく、塔のてっぺんで東の川の方を眺めているのだ。
見た限りでは少々水かさが増し、木々が風に揺さぶられている程度で、現状さほど警戒する必要はないだろう。
「リョウジ、お茶にしましょう」
塔の最上階にリリウム――リリーが上がってきた。
彼女はなぜか、俺が監視塔に詰めていると聞いてやってきたのだ。
まあ、基本的にはシロクロコンビと戯れているので、彼らが目的なのかもしれないが。
「ありがとう、いただくよ」
詳しいことは知らないが、このお茶はエルフが見つけてきたお茶っ葉で淹れられている。
味わいは緑茶っぽいので、日本人としてはありがたい発見だ。
「はあ……うまい」
「そ、そう。良かったわ」
俺の言葉に赤くなるリリー。
うーむ、気のせいだと思おうとしていたけど、これはやはり俺のことを意識しているんだろうなあ。
アリにさらわれて死にかけたところを助けたから、いわゆる『吊り橋効果』が発生してしまったのだろうが……色々と障害がある。
種族も違うし、俺は人間――彼らエルフにとっては人族だ。
エルフの歴史を考えると、そう簡単には受け入れられないだろう。
個人としては、おそらく知人程度には考えてもらえているとは思うが……どうしても人族を嫌うエルフはいるだろしねえ。
まあ、エルフの恋愛観がどんなものなのか知らないから、じっくり時間をかけて関わっていくのが妥当か。
幸いと言っていいかどうかわからんが、他に俺に好意を持つ女性もいないしね……。
◇
それから、お茶をしながら最近のことを話した。
エルフたちの平均レベルが30を超えたとか、妖魔の迷宮がまだ踏破できないとか、巨人の迷宮はきつすぎるとか、そんな話だ。
「最近は、ドワーフたちと組んで潜る人が増えてるわ」
「ああ……得意分野を受け持つのか」
「そういうことね」
エルフとドワーフも、ご近所さんとしてしっかり交流しているようだ。
武器や防具を作るのはドワーフに任せ、薬や魔法に関することはエルフが担当する――実に効率のいい協力関係といえるだろう。
その恩恵は俺の拠点にももたらされている。
エルフの発見した植物や、彼らの作り出す食品に薬品、ドワーフたちの採掘した鉱石に、彼らが作る武具や日用雑貨などなど……。
余剰に作られた物は冒険者ギルドの売店で買い取ってもらえるので、CPが得られるし商品も増える。そして欲しい物をCPで購入する――というサイクルができているのだ。
最近では俺が作ったチェスや将棋、リバーシにトランプなども好評だ。
コマを魔物にしたりファンタジーな職業にしたりと、一風変わった物も売っているので、好きな人は色々買ったりしてくれている。
ドワーフたちは自分でもコマを作って売ったりしているので、コマだけ妙に種類が豊富だったりする。
生活のためのみでなく、趣味的な事をする余裕ができてきているのは良いことだよね。
「おっと……もうそろそろ暗くなるし、リリーは帰ったほうが良いな」
もう昼を過ぎて大分経っているし、台風の影響で暗くなるのが早い。周囲の魔物も風雨から身を守るためか身を潜めているようだが、暗くなれば危険は増すだろう。
「……リョウジは、まだいるの?」
「うん、明日まではいる予定。台風がどんな感じに影響するか確認しておきたいからね」
リリーの問いに答え、外に目を向ける。
かなり風雨が強まっているけど、まだ本格的に上陸している感じではない。これからもっと荒れるだろう。
と、その時、シロとクロがいきなり立ち上がり警戒する様子を見せた。
そして俺の魔力探知にも、恐ろしく強力な魔力反応が現れる。
それは南東方向から凄まじい速度で移動し、接近とともに風雨が激しく強くなってゆく。
――どう考えても、ヤバイ存在だ。
「みんな、下に降りるぞ!」
「え? え?」
一人状況の分からないリリーは、いきなりの緊迫した様子に戸惑っているが、説明している時間はない。
強大な魔力の持ち主は間もなく――。
――ドゴォン!
「きゃああ!?」
激突音とともに激しい揺れが俺たちを襲い、リリーが悲鳴を上げる。
そしてセーフティエリアの耐久値が、表示された瞬間に砕け散った。
ここは小さなセーフティエリアだから耐久値も低いが、それでも300程はあった。
アイアンゴーレムの一撃ですら30程度しか削れなかったのに、それを一撃で破壊するとは――。
――ガゴォン!
一瞬、考えてしまった時間で、再びの轟音と衝撃が俺たちを襲う。
それは飛来した存在によって塔自体が攻撃されたことを意味し――それなりに頑強に作ったはずの塔は、あっさりと破壊された。
「ウォーターストリーム!」
俺はとっさにリリーを抱きかかえ、発動した魔法で自身を覆うように激しく回転する水の球体を作り出した。
シロとクロも、俺の足にしっかりしがみついている。
砕けた石材とともに、水の防壁で守られた俺たちも吹き飛ばされ空中に投げ出される。
いくつも飛んでくる石の欠片は、水の流れではじかれているから中までは入ってこない。しかしこのままでは危険だ。
「ハイドロボム!」
水素爆発の魔法で瓦礫を吹き飛ばし、着地の態勢を整える。
そして空中で目にしたのは、緑色の巨大な影――。
「な……」
動揺しながらも着地し、俺は頭上を通過する魔物を見上げた。
空気を引き裂きながら飛翔し、激しい風を巻き起こす巨体。巨人よりもなお巨大な体躯と、それに倍する翼を持ち我が物顔で空を飛ぶ生物、それは――。
――緑の鱗を身にまとう竜だった。
『グリーンドラゴンが現れた!』
そして接敵のアナウンスが流れる。
大きく旋回して戻ってくる緑竜の目は、完全に俺たちを捉えていた。
しかしグリーンドラゴンは全く未知の魔物であり、その攻撃力は単純計算でアイアンゴーレムの十倍以上。こんな奴と戦って無事に済むとは思えない。俺達よりレベルの低いリリーはなおさらだ。
となると――。
「シロ! クロ! リリーを連れて逃げろ! リリーはエルフとドワーフに、妖魔の迷宮に避難するように伝えてくれ!」
彼女を逃がすとともに、メッセンジャーを務めてもらうしかない。
緑竜がうちの拠点を襲えば短時間で破壊されてしまうだろう。その前に、全ての人に避難しておいてもらわねば。
「そっ――」
リリーが何事か言おうとしたところでシロとクロが魔法を発動、即席の船を作り自分で起こした水流で猛然と移動し始めた。
グリーンドラゴンがそちらに目を向けるが、そうはさせない。
「スパイラルブレット!」
一息に十発の石の弾丸を放ち、全て緑竜の顎下に打ち込む。
驚いたことに、低級とはいえ貫通力に主眼をおいた魔法が、僅かな傷をつけるだけで弾き返された。
しかし、こちらに注意を引きつけることには成功したようだ。
さあて、一体どう戦えば良いのやら……。




