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拠点をもっと拡大してみた

 エルフたちの家を作っている時、深緑の迷宮に初めてたどり着いた際に考えた「拠点のレベルを上げたら、許可のない人間の出入りを制限できるのではないか?」というのを確認してみようという気になったので、俺は拠点をもっと拡大することにした。


 南北が山と川に挟まれているので、東西に伸ばしていくことになる。

 ということで、まずはドワーフたちの集落のある妖魔の迷宮まで街道を作り始めた。


 街道と言っても、そう大したものではなく、単にストーンウォールを地面にかけていくだけだ。

 一応、雨が降ったときのために側溝も作っておく。適度な間隔で南側の川へと流れ込むようにすれば問題あるまい。


 この街道づくりは、だいたい十日ほどで完了した。ドワーフたちも移動が楽になったと喜んでいたよ。

 あ、路面は滑り止めも兼ねた凹凸を付けてあるから雪が降っても多分、大丈夫。


 さて、それでは防壁づくりの開始である。

 今回の拠点拡張は実験の意味合いが強いので、さほど頑強さは考えず三十センチ程度の厚みと二メートル程度の高さの石壁をどんどん立ててゆく。


 一キロほど西へと川の南側に壁を立て終え、今度は街道をまたいで北へと向かう。ここまで来ると南北幅は広くとも二百メートルほどしか無いため、またすぐに東へと方向転換だ。


 そうして防壁の総延長を二キロと少し伸ばし、俺は冒険者ギルドに向かった。条件をクリアしていれば、セーフティエリアのレベルが上がったとアナウンスがあるはずだからだ。


 が、残念ながらダメだった。

 確かレベルが2に上がったのは総延長が一キロくらいのときで、今は四キロくらい……これは十キロ位いかないと上がらないか?


 まあ、どれだけ広げても使わない場所ができるだけで邪魔にはならないから、十キロまで伸ばしちゃおうっと。



『セーフティエリアのレベルが上がった!』


 それから数日、防壁の総延長が十キロを超えたからギルドに行ってみると、見事レベルが上った。

 どうやら十倍の総延長が必要だったようだ。となると、次のレベルは百キロか? それは、ちょっと無理だなあ……。


 で、レベル3になった事で何が変わったのか、だが。


「いらっしゃいませ!」


 ギルド内の職員たちが実体化してる!

 今までは言ってみれば立体映像みたいな感じだったのが、完全に人間だよ。スゲーな、これ……。


 でも、なんか複雑だわ。ダンジョンと同じ、データから再現された存在なんだろうか……。

 俺が作ったみたいなことになってたりしないよな?


「リョウジさん、ありがとうございます」

「へ?」


 受付のお姉さんがカウンターから出てきて、俺の手を握ってそう言う。


「俺たちは『こう』なって初めて気づいたが、人間だったんだな」


 酒場の親父が、歩いてきながら不思議なことを言う。


「僕たちは今まで、このギルドの一部って感じだったんですけど、ちゃんと一人の人間として行動できるようになって嬉しいんです」


 今度は、売店のお兄さんがやってきた。

 ……なるほどな、『本物』になったという自覚が出来たということか。それで「ありがとう」か。


「どういたしまして」


 だったら俺から返す言葉は、これしかないよな。

 そして――。


「コンゴトモヨロシク」

「はい!」

「おうよ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 死ぬまでお世話になるわ!



 妄想していたレベル3の機能に関してだが、俺のステータスから操作が可能になっていた。

 それは思った通り『入場制限』を設定するもので、個人から団体、そして種族といった枠組みを作ることが可能だ。


 現状は俺とシロクロコンビ、ドワーフ『ダクス氏族』、エルフ『テネブリス・ヴィリディ氏族』のみを許可している。

 その他の動物は普通に出入りできるらしい。猫たちは問題なく出入りしていたからね。


 しかし、これで不意の生き残り、あるいは他種族の来訪にも対応できる。やってきた者が、必ずしも友好的とは限らないからね。

 まあ、現状マップに表示される数字は減る一方だから、そうそう人が来ることもないとは思うけど。



 この二週間あまりで、エルフの病人(アリに麻痺させられていた人)たちはほぼ回復していた。

 ほとんど寝たきりの生活が続いていたために少々リハビリが必要だが、もう散歩くらいはできるようになっている。


 介護する人が付き添う形で、それぞれ拠点の見学をしたり、猫小屋で猫と戯れたり、冒険者ギルドで職員から情報を聞いたりと復帰の準備をしている段階だ。


 彼らは戦士、あるいは魔法使いとして優れているそうで、あの日も狩りと採取にでかけた折の災難だったらしい。

 だから復帰すれば、新拠点開拓のために活躍することになるだろう。


「待って~、ウサちゃーん」


 その一人、里長・フラヴォの娘リリウムは、シロとクロのことが気に入ったらしく、リハビリがてら彼らと戯れている姿をよく見る。

 普段はキリッとした美人なのだが、ウサギたちと遊んでいるときは子供のような無邪気さだ。


 シロとクロも彼女の事を気遣っているようで、できる限り相手をしている。

 今も、ゆっくりとした追いかけっこの最中だ。


 適度に追いかけさせ、疲れが見えたらすぐに捕まってやる。

 そして草原に座り込んで休憩に入れば、抱きしめさせたり撫でさせたりと、いたれりつくせりだ。


 ……シロとクロって、ホントに頭いいよなあ。なんなんだろ。

 特殊な魔物ってことは分かってるけど、他に似た個体もいないし。

 何らかの条件で、変化したり進化したりしたのかな? あるいは、ただのレアモンスター?


「……ん?」


 ぼんやり空を見上げて考え事をしていると、何やら視線を感じたのでそちらに顔を向ける。視線の主は、シロとクロを抱いたリリウムだった。


「何か?」

「……まだ、ちゃんとお礼を言ってなかったわね。助けてくれてありがとう」

「どういたしまして」


 発言を促すと、彼女はおもむろに礼を言って頭を下げた。

 とりあえず、返事をしておく。

 あっさりと会話は途切れた。


「……何か、もっと他に言うことはないの?」

「そう言われても……別にないなあ」


 リリウムは、なぜか憤慨したような表情で問う。

 会話ともいえない短いやり取りに、何か機嫌を損ねるような要素があったか?


「こんなイイ女にお礼を言われて平然としてるなんて……」


 あー……自分の美貌に自信があったのか。で、俺が照れたりすることを期待していたと……。


「いやまあ、君は美人だけど、現実離れしすぎてるからなあ」

「……どういう意味?」


 ふわりと波打つ美しい金髪、切れ長だけど柔和さも感じさせる目元、雪のように白い肌、桜色に色づいた唇、細く長い手足、均整の取れたプロポーション――どれをとっても芸術作品のような整いっぷりだ。


「だから、女性として意識すると言うよりは、名画を見るような感覚になるんだよ」

「げ、げいじゅつ……。ま、まあ当然よね! 私は氏族一の美人と言われているんだから!」


 お、おう。

 なんだ、美人と言われてる割には褒められ慣れてないのか?

 リリウムは顔を真赤にして一気にまくし立てたあと、シロとクロの毛に顔を埋めて隠してしまった。


「なんだ……可愛いところもあるんだな」

「なっ!」


 思わず漏れたつぶやきに、リリウムは激しく反応した。

 どうやら『美人』より『可愛い』の方が言われ慣れていないようだ。


「か、からかわないで!」

「いや、からかってはいないんだが……悪かった、もう言わないよ」

「え? いえ、別に嫌なわけじゃ……」


 ……いかんな、ホントに可愛いわこの子。

 シロクロコンビを抱きしめて、二匹の頭の後ろから上目遣いで覗くように見てくる姿は年相応(エルフの年齢はよく分からんが)に思える。


 ついさっきまでは別世界の種族という意識が強かったが、今はもう地球の人間と変わらない『人』なんだと思えるようになっていた。

 これからは、ちゃんと人として付き合いを持てそうな気がしてきた。



 新たな拠点を作りにあたり、里長・フラヴォと話し合いをする場が設けられた・

 そこで俺はマップで周辺地域の様子を見れるようにして、どの辺りが候補地となるかを彼とともに考えた。


 東側は大きな川と平原があるので住みやすそうだが、土地が低いため大雨で川が反乱すれば危険である。それと魔物の情報がないため、調査にも行く必要がある。


 西側は山の向こうに平原と小川、そしてダンジョンがあり、ここもまた住みやすそうだが、冬と春には強い魔物が現れる可能性がある。


 妖魔の迷宮とうちの拠点の間にも少し開けた場所があり、小川もあるのでそこそこ住みやすそうだ。魔物は冬に変化するが、そこまで強くはない。


 ともあれ、情報のない場所の調査をしようということになった。



 東の平原周辺調査隊は、俺とシロクロコンビ、フラヴォとその護衛、そして何故かリリウムの六人になった。

 おそらくは山より魔物は弱いだろうし、距離も一キロ程度しか離れてはいないが、まだ体力が回復しきっていない彼女は大丈夫か? と思いながら東へと移動する。


 出てきてもせいぜいキラービーとハームラビット、そしてジェルボールくらいだったので、特に問題もなく小川と大河が合流する手前の平原に到着した。


 かつては国道や線路があった辺りはただの川原に、東西をつなぐ県道とその周辺を埋め尽くしていた水田は雑草の生えた草原になっていた。


 多分、ずっと昔はこんな風景だっただろうな……と思うが、見慣れていた場所が変わってしまっているのは少し寂しい。

 危険があるという事もあったが、あまり拠点から東に行かなかったのは、こういう感情に襲われそうだと無意識に思っていたからかもしれない。


「……リョウジ、大丈夫?」


 俺の様子がおかしいと気づいたのか、リリウムが声をかけてきた。

 離れて周辺の警戒をしていたはずのシロとクロも、いつの間にか足元に戻ってきている。


「ん、ああ……大丈夫だよ。ありがとう」


 リリウムに微笑み答え、ウサギたちの頭を撫でる。

 気を使ってもらってしまったなあ……。


「この辺の魔物は大したことはないね」

「そうだな。山からも少し離れているし、大物が出てくることも少なそうだ」


 空気を変えるために、フラヴォに声をかける。

 大河近くの環境は、エルフたちにとってもそれなりに好印象なようだ。


 もし拠点を築くなら、いざという時に水害を避けられる防壁を作るか、住居を建てる場所に何メートルか土台を作るかする必要があるだろう。


 普通なら高台を作れば『生活用水をどうするのか』という問題が出てくるが、魔法があるからさほど気にする必要がないのは安心材料だ。


 まあ、その場合、相応に拠点構築には時間がかかってしまうだろうが。何百人かが暮らすわけだからね。

 ともあれ、もうちょっと周辺の調査を続けるとしよう。



 結局のところ、エルフの新拠点は妖魔の迷宮とうちの拠点の中間地点に構えることになった。

 東の平原には、川と周辺の監視をするための施設のみ建設する。監視塔だね。


 何ヶ月か後には梅雨だし、夏になれば台風も来るから、備えておくに越したことはない。

 うちの拠点もエルフの新拠点も、土砂崩れへの対策もしておかないとな。山に近いし。


 ということで、現在エルフの新拠点の外壁建造中だ。

 エルフとドワーフも大勢集まり、短期間で一気に終わらせる予定。


 ドワーフの戦士たちも妖魔の迷宮でのサドンクエストと間引きで大分レベルが上っているので、作業効率は中々高い。

 シロとクロも最近覚えた地属性魔法を頑張って使っている。前足を上げて気合を入れている様子は、実に愛らしい。


 エルフの女性たちは、そんなシロクロコンビの近くでニコニコしながら作業している。人気者だなあ。

 護衛と立哨役のエルフ男性たちはそんな女性陣の様子が気になるのか、仕事をしながらもチラチラと彼女たちに目を向けている。……春が来てる感じなのか?


 ちなみに新拠点は、南を底辺とした南北に長い二等辺三角形のような形になる予定だ。

 中央付近を南北に小川が流れていて、水の便もいい。北側に住居を、南側に畑を作る。


 北東の小さな山を超えると巨人の迷宮があるから、戦士が鍛える場所にも事欠かない。まあ、最初は妖魔の迷宮から慣らしたほうが良いと思うが。


 ドワーフもそうだが、なるべく皆レベルを上げていこうということにもなっている。

 身を守る意味もあるし、ダンジョンをクリアできれば便利なスキルやマジックアイテムを得られるという情報を俺が伝えたからだ。


 意外なことに、彼らが元いた世界にはダンジョンは無かったそうな。古代遺跡はあったらしい。有用な道具などを求めて、たまに潜ったりしてたそうな。


 となると、地球のダンジョンは『管理者』がわざわざ用意したということか。

 クリアボーナスはありがたいけど、氾濫の事を考えると迷惑でもあり……なかなか手放しには感謝できないなあ。


「よし、こっちは終わりだな」

「リョウジ、お疲れ様」


 最も土砂崩れの危険が大きいであろう北西側に一際分厚く高い石壁を立て終わった俺に、リリウムが労いの言葉をかけてくれた。

 彼女を筆頭に、俺に対するエルフたちの対応も徐々に良くなってきている。


 ここは彼らの生きていた世界ではないということと、人間――人族が少ないということ、そして俺個人との付き合いで悪人ではないと判断されたというところか。


「ああ、おつかれ。リリーも無理してない?」

「え、ええ……大丈夫よ」


 リリーというのは彼女の愛称である。

 なぜ俺がそんな親しげな呼び方をしているかと言うと、彼女が「今後の交流を考えれば、もっと親しくしておくべき」と言い出したからだ。


 まあ、ご近所さんなんだからそれも良いか、と了承し、俺は彼女をリリーと呼ぶようになった。

 しかし、呼ばれるたびに顔を赤くするのはどうにかならないのか。まるで彼女が、俺を男として意識しているように思えてくるから怖い。


 モテない男は、すぐに勘違いするから危険なのだ。

 それはさておき、ちょっと休憩したら作業に戻らないとねー。


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