なんか、すごく嫌な情報が……
深緑の迷宮をクリアした俺達は、ささっと拠点に戻って体を休めた。ちょっと衝撃的なことがあって、精神的にも疲れたからねえ。
風呂に入ってシロとクロをキレイにして、一緒に布団に入って寝たよ。
で、これまでの成果だが。
【名前:リョージ】
【種族:人間LV63】
【所持CP:1327111】
【所持品:アダマンタイトの棍棒×2 ヒヒイロカネの剣鉈×2 ナタ 中級回復薬×9 低級解毒薬×9 万能薬×9 アダマンタイトの戦鎚 炎の剣】
【所持スキル:木工LV3 石工LV3 細工LV2 棍棒術LV6 二刀流LV5 地属性魔法LV4 金工LV4 魔力増加LV5 水属性魔法LV4 風属性魔法LV4 火属性魔法LV5 植物鑑定LV2 恐怖耐性LV6 毒耐性LV3 魔力探知LV5 打撃耐性LV3 刺突耐性LV2 体術LV3 スタン耐性LV3 魔力操作LV4 剣術LV3 皮加工LV3 無属性魔法LV3 冷気耐性LV2 炎熱耐性LV2】
【エクストラスキル:マップLV3】
【称号:4級冒険者 ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー 迷宮踏破者 アントキラー フェアリーキラー】
【名前:シロ】
【種族:ブルーアイズ・ホワイトラビットLV63】
【所持CP:1303115】
【所持品:中級回復薬×9 低級解毒薬×9 万能薬×9 手長巨人のツナギ・改二】
【所持スキル:気配察知LV5 獣体術LV4 風属性魔法LV5 スタン耐性LV2 打撃耐性LV1 無属性魔法LV3 冷気耐性LV1 炎熱耐性LV3 水属性魔法LV1】
【称号:ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー 迷宮踏破者 アントキラー フェアリーキラー】
【名前:クロ】
【種族:レッドアイズ・ブラックラビットLV63】
【所持CP:1303036】
【所持品:中級回復薬×9 低級解毒薬×9 万能薬×9 手長巨人のツナギ・改二】
【所持スキル:気配察知LV6 獣体術LV5 無属性魔法LV4 スタン耐性LV2 打撃耐性LV2 冷気耐性LV1 炎熱耐性LV3 地属性魔法LV1】
【称号:ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー 迷宮踏破者 アントキラー フェアリーキラー】
みんなレベルが上ったね。しかしアリだけでも軽く千は倒したのに、上がりにくくなったものだ。
やっぱり、適正レベルを大幅に超えているということか。
あとシロとクロは魔導書を使うことで、それぞれ地と水の属性魔法を覚えた。
最初はどう使えばいいのか謎だなあと思っていたのだが、なんと彼らは魔導書に手を置いて魔力を流しただけでスキルを得たのだ。これはすごく便利だなあ。
今後のことも考えると手札は多いほうが良いし、あと二回は深緑の迷宮をクリアしておくべきだろう。
それとレベル3になったマップに関してだが……マップ上に人の数が表示されるようになった。
実のところ、これがどうも嫌な感じだ。
というのもダンジョンではダンジョン内にいる人数だけが表示されるのだが、外ではかなり広範囲の人数が表示されているっぽい。
これだけだと何が嫌な感じなのかわからないだろうが、問題はその数字と表示範囲だ。
表示されているのは『3224』、そして表示は倍率を最小にして南北に海があるというのが分かる範囲……つまり西日本の三分の一くらいは収まっているだろう範囲なのだ。
もちろん詳細は俺が行ったことのある場所しか表示されていないから、もしかしたらもっと違う範囲、あるいは日本の地形が変わっているのかもしれない。
でも、もし地形が変わっていなければ、『西日本で一万人程度しか生き残りがいない』という可能性が出てくる。
単純計算が正しいわけもないが、それでも日本全体で二万人もいないかもしれないのだ。
それはなんと元の0・00015%ほどしか生き残っていないということ。
全世界で九十万人だ。
正直、ゾッとした。
大雑把に考えると、かつての町内には三百人もいない。いや、人口密度のことを考えれば、もっと少ないか。田舎だし。
生き残りと会わないわけだ……。
まあでも、考えても意味はないし、別に会いたい人がいるわけでもない。今はシロとクロがいればいいや。
あ、マップの詳細表示範囲は半径三キロくらいに広がったよ。
めちゃ便利。
◇
一週間ほどダラダラして過ごし、俺たちは再び深緑の迷宮にやってきた。一応、エルフの里への差し入れ――上級回復薬と万能薬、そして新たに売り出された上級解毒薬――も持ってきた。
正直、気が進まないが、助けた者としては麻痺していたエルフたちが無事かどうかだけは確認しておきたい。
ということで、門前まで移動したのだが……。
顔を見るなり、門番の一人に全力ダッシュで逃げられた……なんで?
……まあ一人は残ってるから、そっちに声かけるか。
「あのー、俺が救助した人たちは大丈夫? もしアレだったら、上級回復薬と上級解毒薬もあるんだけど……」
「あ、ああ……無事は無事だが……」
おっと、返事があるとは思わなかったよ。
何か内情に変化があったのかな?
門番の反応にちょっと驚いていると、さっき走っていったもう一人が戻ってきた。逃げたんじゃなかったのか……。
「ま、待たせてすまない。長がお通ししろとのことだ」
ああ、なるほど。長から対応に関する指示も出ていたということか。
何にせよ、態度が軟化したなら話が早くて助かる。
長のもとに案内するという門番の後に続き、俺たちは里の門をくぐった。
◇
長の自宅に向かうと思いきや、向かったのは病院っぽい建物だった。まあ、どれも平屋で一番大きい建物ってだけの違いしかなかったが。
「出迎えもせず、すまない。それと先日はすまなかった。薬は使わせてもらった」
建物の中、その一室で俺たちはエルフの長・フラヴォと対面した。
俺の顔を見るなり頭を下げるフラヴォだったが、その顔は憔悴しやつれている。目の下にもクマができていてイケメンが台無しだ。
その理由は何となくわかった。というのも、室内には俺たちが助けた五人のエルフが寝かされており、彼らも弱っているのがはっきりと見て取れたからだ。
おそらくは回復魔法かなにかを使える者が、彼らの延命をしているのだろう。
つまり状況は芳しくない。
「話は後で。とりあえず、上級の回復薬と解毒薬を使ってみよう」
「上級があるのか!? 助かる!」
薬を取り出し手渡すとフラヴォは目を剥いて驚いたが、希望を見たように顔色を明るく変え、即座に患者たちの元へ向かった。
俺も手伝うべく、別の患者のベッドに近づく。
手分けして全員に解毒薬を飲ませ、薬効が発揮されてから今度は回復薬を飲ませる。毒を完全に消してから体力を回復させたほうが良い、ということだろう。
上級回復薬の効果が現れてしばらく、一人の患者が目を開いた。
「リリウム! 私が分かるか?」
「……父さん」
お、どうやら意識はそこそこしっかりしているようだ。
これなら、あと何回か薬を服用すれば回復するんじゃなかろうか。
◇
患者全員が一旦意識を取り戻し、そして再び眠るまでを見届け、俺たちは医者? に薬を預けて部屋を出た。
容態の経過を診るのは、本職に任せたほうが良いからね。
「改めて礼を言う。アリの軍勢への対処、薬品類の提供、そしてさらわれた者たちの救助に感謝する。本当にありがとう」
里長・フラヴォは、深々と頭を下げた。
列挙されると、中々スゴイ助力っぷりだよなあ。それでも大半のエルフには嫌悪感丸出しな対応(あるいは無視)されてたんだから、どんだけ人間嫌いなんだよ、とも思うが。
「救助した人が死んでたら寝覚めが悪いから、やっただけだよ」
まあ、ティターニアとの一件で憂鬱になって、一週間ゴロゴロしてしまったけど。
攻略を優先した一因はエルフたちの態度にもあるから、その辺はお互い様と思うことにする。
「それでも助かったのは事実だ。上級がなければ、ただ死を待つばかりだった」
彼の話では、やはり長い時間毒に晒されすぎたせいで麻痺が抜けなかったらしい。
そりゃ餌にするためにさらったモノが回復することなんか、アリは考える必要もないもんねえ。
◇
それから、諸々の働きに対する報酬の話となった。
とはいえ、ドワーフの時と同じで今の里には余裕はない。ということで、回復魔法を教えてもらうことに。
しかし、実のところ回復魔法はなぜ使えるようになるのかは不明らしい。ええー……と思ったのだが、回復魔法を使える物はすべて地水火風の四属性が使えるという話は聞けた。
つまり、俺にも回復魔法が使えるようになる可能性がある、ということだ。
これは実に良い情報だった。何しろ氷属性があるかも、と思ったときのように無駄な努力にはならないのだから。
「それにしても……なぜ人間はこれほど嫌われているんだ?」
回復魔法に関する話が終わったところで、俺は疑問に思っていたことを聞いてみた。
言ってみれば恩人である俺にすら敵意を向けるほど人間という種族を嫌うのには、何か大きな理由があるだろう。
「それは……」
言いにくそうにしながら話すフラヴォの説明では、いわば人種差別によって迫害されてきた事が背景にあるようだ。
人間――人族というそうだ――の国の一つに人族至上主義を掲げる宗教国家があり、そこは人族以外の国や住処を年がら年中侵略し続けていた。
そして亜人――エルフ族、ドワーフ族、獣人族、小人族、人魚族などを人族より下の存在として定義づけるための呼称だそうだ――を人とは認めず、敵対すれば殺し、従わなければ殺し、従っても奴隷として死ぬまで働かせる。
当然のことながら、数多の血が流され、各種族は人族を嫌うようになり――長い歴史の中で、それは強い憎悪へと変わった。
今現在は、どの種族も深い森や谷、洞窟などに隠れ住むことで直接的な被害を被った者は少なくなっているが、語り継がれてきた悪夢の歴史を聞くことで若い者たちも自然と人族を嫌うようになったという。
なんともまあ、救いようのない話だ。
「しかしある時、我らは周囲の森がおかしいことに気づいた」
続けられた言葉は、地球がファンタジーな世界に変容した時点と思われる頃の事。
彼らの住む森は深く、広い。森を知らぬものが入れば、確実に遭難し魔物に食われる――そんな場所だったという。
それがいきなり生息する魔物や植生が激変し、これまでの知識が全く役に立たなくなった。
獣がメインだった魔物は昆虫系と植物系ばかりになり、歯が立たず、あるいは奇襲されて命を落とすものが続出した。
そして食料や薬草類も満足に得られず、けが人や病人も助けられない。
それでもなんとか踏ん張っていたところを、アリの軍団に襲われた。そしてさらなる被害と、さらわれる者が出たということだった。
この事から分かるのは、おそらくは彼らもティターニア同様、データからコピーされた存在であろうということ。
ドワーフたちが何も言っていなかったことは気になるが……。
さておき、話に出てきた種族は、どこかのダンジョンにいる可能性がある。今後はその辺も考えておく必要があるだろう。
「なるほど……参考になったよ。じゃあ、今度はこっちの話もしよう」
という事で、俺は世界の変容からこれまでの事をフラヴォに伝えることにした。
◇
こちらの世界の話は、フラヴォに衝撃を与えたようだ。
まあ、大半の人が魔物になって、魔物にならなかった人も混乱の中で多くが殺されたであろうという話を聞いて「ふーん」で済むわけもないが。
ただ、ダンジョンから出ることさえ出来てしまえば、広い草原と山々があり、魔物もさほど強くないという情報には喜んでいた。
これまでは氾濫直前で大量の魔物がいたが、今は第一から第四階層まではほとんどいなくなっているから外に出て拠点を構えることも選択に加えられるだろう。
なによりも人族がほとんどいないという点が、彼らには重要そうだ。
うちの拠点から、この深緑の迷宮までは一人の人間にも会ってないしねえ。
「一時的に、うちの拠点に来てくれても構わないよ。また魔物が増えたら、移動もしにくくなるだろうし」
「……感謝する。皆と話し合ってみよう」
はてさて、彼らが賢明な判断をしてくれることを祈りますかねえ。
◇
それから二日に一度のペースでダンジョン攻略を繰り返し、その度にエルフの里の様子も見に行った。
結果、二度目の訪問で彼らは一度うちの拠点に避難し、怪我人や病人の回復を待って新たな拠点を築くことを決定。
俺たちはドワーフの戦士たちに協力を頼み、エルフたちの護衛をして深緑の迷宮とうちの拠点を何度も往復した。
そして誰ひとり欠けることなく、移住を完了。ようやく一息つくことが出来た。
うちの拠点には家が猫の小屋くらいしか無かったので、俺がストーンウォールの応用で大雑把な長屋をいくつも作った。
幸い空きスペースはいっぱいあったので、エルフ全員が雨風をしのぐ場所は問題なく用意できたよ。
ドワーフたちも自分たちが使わなくなった家具や寝具を持ち込んでくれたので、生活するのに問題はあるまい。
日々の糧を得ることも、冒険者ギルドで話を聞けばどこにどんな植物があるかなどを知ることができるから、元気な人は冒険者活動をすればどうにかなるだろう。
足りない物は俺の持ち出しにならざるを得ないが、それは貸しとしていずれはエルフたちに返してもらえば良い。
恩を売っておけば、いつか何かで助力を得る事もできるだろうしね。
なんにせよ、この世界の新たな住人が全滅せずに済んだのは喜ばしいことだ。




