簡単にダンジョン攻略とは行かないなあ……
突如、地面から湧いて出てきたアースジャイアント。
その特性は地面に同化し、『魔力探知』にすら引っかからなくなるというもの。中々厄介な特性だが……。
「ウォーターストリーム!」
見た目は土の塊が人型になったという感じなので、とりあえず水魔法をブッパしてみた。するとみるみる動きが鈍り、まだ上半身しか出てきていない状態で困ったように唸り声を上げはじめた。
「キュッ!」
「キュ~!」
相手が動きを止めたと見るや、シロクロコンビは即座に攻勢に出る。アースジャイアントの頭を狙いダブルウサキックが叩き込まれ、湿って固くなっていたそれを見事に粉砕した。
あっさり倒されドロップアイテムになるアースジャイアント。自分でやっておいてなんだけど、ちょっと罪悪感が……。
それはさておき、ドロップアイテムは魔石のみだった。まあ、土が残ってもどう使うんだって感じではあるけど。
ともあれ、アースジャイアントは簡単に倒せることが分かった。でも、もう一種がどんな魔物かはまだ不明だし、気を抜かずに探索を続けるとしよう。
◇
しばらく歩き続けていると、段々と大小の岩が転がっている場所が増えてきた。この時点で、もう嫌な予感しかしないが……やはり『魔力探知』には何の反応もない。
進めば進むほど岩が増え、歩きにくくなってきた。
時々なにか反応がないか、と岩を叩いてみたりもしたが、何事もなく時間と道程が消化されてゆく。
「……んん? ちょっと待て、通路がまた広くなってる。……これは」
気が抜けそうになったところで何となく周囲を見ていると、あからさまに通路が広くなっていることに気づいた。どうやら岩が目に付きはじめた場所くらいから徐々に広がっていたらしい。
どう考えても何かある――と俺はあわてて『魔力探知』を行使する。すると、地面の僅かな揺れとともに、辺り一面に魔力の反応が現れた。
「下がれ――――!!」
俺は叫ぶと同時に踵を返し、全力で駆け出した。シロとクロは、すでに全力で逃げ出している。
それに前後して揺れが激しくなり、あちこちに転がっている岩が震源と思われる場所に吸い寄せられるように集まりはじめた。
「おいおいおい……」
十分に距離を取り後方を確認すると、石と土、そして岩で四つん這いの巨人の体が形成され始めていた。それはその状態でも五メートル近くある巨体だった。
俺たちの視線の先でゆっくりと立ち上がる巨人は、さながらギリシャの彫刻のような、髭を生やした男性の姿をしている。身にまとうトガも精巧に表現されており、こんな状況でなければじっくり観察したいくらいだ。
『ギガスゴーレムが現れた!』
巨人が完全に立ち上がったところで、接敵のアナウンスが流れる。
ギガスといえば、ギリシャ神話の巨人の一種だったか。ゴーレムということは、その姿を模した物なのだろう。
ダンジョンの天井に頭が届きそうなその身長は、十メートルはある。武器の類は持っていないが、腕でも足でも数メートルのリーチがあるから問題にもならない。というか武器があったら、近づくのすら厳しそうだ。
「こいつには打撃だよなあ……」
どう見ても並の魔法も、斬撃も刺突も効きそうにない。ということで、俺はヒヒイロカネの剣鉈をしまってアダマンタイトの棍棒を取り出す。
岩が相手なら、アダマンタイトの棍棒でブン殴れば砕けるだろう。
ただ……一つ懸念がある。それはギガスゴーレムが岩石と土の集合体だということだ。つまり、壊したところで周囲から吸収して再生するのではないか? という不安が拭えない。
これまでのゴーレム同様に頭が弱点なら、どうあっても足から攻略せざるを得ないが……。
「考えても分からないよな。とりあえず、フィジカルブースト!」
すでに接近戦では定番となった身体強化を施す。するとシロとクロも同様に魔力の光をまとった。
……ん? シロも?
「いつの間に……」
ステータスを確認すると、シロに『無属性魔法』が増えていた。
どうやら俺の知らないところで、彼も努力していたようだ。
考えてみると、シロはいつ頃からか遠距離攻撃メインに動くようになっていた。でも『獣体術』というスキルが表すように、本来は近接攻撃が得意だったのだろう。
であるなら、クロだけでなく俺も無属性を覚えて身体強化しているのを羨ましく思っていたのかも知れない。仲間はずれみたいな気持ちもあったかも。
気持ちの問題を置いておいても、人数が少ない都合上、得意分野が偏ると何も出来ない状況が増える。そういう意味でも、シロが無属性を得たことは大きなプラスになるだろう。
「よっしゃ! 皆でぶっ飛ばそうぜ!」
「キュキュッ!」
「キュキュ~!」
さっきまでの弱気が吹っ飛んだ俺は、ウサギたちに明るく声をかける。彼らも元気よく応えてくれた。
そして俺たちは、全力でギガスゴーレムへと駆け出した。
一方ギガスゴーレムは、俺たちを踏み潰そうと足を上げる。その動きは巨体に比例して遅い。しかし――。
「うおおお!!」
落下速度は恐ろしく早かった。
――ドゴォン!
爆発音が響き、地面がすり鉢状に砕かれると同時に辺り一面に石塊が散弾のごとく飛び散る。すでに飛び退っていた俺たちのところにも、何十発も石つぶてが飛来した。
レベルアップと装備、そして身体強化のおかげで何のダメージもないが、足元を砕かれては攻撃はおぼつかない。
だが、踏み込んだ自分の勢いで、ギガスゴーレムも長い硬直が発生しているようだ。
「キュキュキュッ!」
「キュキュキュ~ッ!」
ウサギたちはそのスキを見逃さず、すでに飛びかかっている。狙いはストーンゴーレムの時と同じ、足の甲――。
硬い音を響かせてダブルウサキックが炸裂し、見事に岩の足を打ち砕いた。
だが超巨大石像も見ているだけではない。シロクロコンビを捕まえようと片手を広げ、すくい上げるように思い切り振り回してきた。
そこを迎え撃つのは俺だ。アダマンタイトの棍棒を一本しまい、両手持ちにして左バッターの如く巨人の掌へとフルスイングする。
「ドラァッ!」
――バガァン!
他に比べて薄い掌が乾いた音を立てて砕け、四本の指が四方八方へと吹き飛んでゆく。かなり腕が痺れたが、怪我一つない。これもレベルとフィジカルブーストの恩恵か。
三人揃って一旦離れると、ギガスゴーレムはもう一度足を上げようとしてバランスを崩し、前のめりに倒れてきた。ヤバイ!
「どわああ!」
「キュ―ッ!」
「キュ~ッ!」
俺たちは慌ててもっと距離を取るべく駆け出し、徐々に迫る影に追われながらも振り向かず走り抜けた。
――ドドォン。
大質量の巨像が倒れたことで、一瞬、体が浮くほどの揺れが辺りを襲う。
我々は、そこでようやく立ち止まり振り返った。
「チャンス!」
パワーに対して重さが勝ったか、ギガスゴーレムは手をついても体を支えられなかったようで、顔から地面に突っ込んでいる。最初の踏みつけ同様、身を起こすまでにはかなりの時間がかかるだろう。
ということで、後頭部に全員で全力アタック!
「どうだ?」
俺たちは見事ギガスゴーレムの頭を砕き、距離をとって経過を確認する。今までと同じなら、これで倒せるはずだが……。
『ギガスゴーレムを倒した!』
お、倒せたようだ……ん? 経験値とかのアナウンスが続かないな。
「は?」
戦闘終了のアナウンスがおかしいと訝しんでいると、倒したはずのギガスゴーレムが動きはじめた。それも体がいくつものパーツに分かれて、それぞれが魔物へと変化してゆく。
『ロックゴーレムが現れた!』
なんと、ギガスゴーレムはロックゴーレムの集合体だったのか。
ストーンゴーレムとどう違うんだ? と思ったのだが、おそらくはロックの方は岩石に擬態していると魔力を探知できない能力があるということだろう。
しかもギガスとして出てくるのなら、倒したら必ずロックが複数体――右手を潰して倒したら四体現れたから、おそらくはマックスで五体だろう――現れるということになる。これはなかなか面倒だ。
精巧な彫像のようだったギガスとは異なり、ロックゴーレムはいかにも岩の集合体といった姿だった。やはりどう見ても打撃しか効かないだろう外見だから、俺はもう一本アダマンタイトの棍棒を所持品欄から取り出し、二刀流で戦うことにする。棒だけどね。
「うおっ!?」
先手必勝とばかりに駆け寄ろうとした我々だったが、その出鼻を挫くようにロックゴーレムが投石で攻撃してきた。なにしろそこかしこに大小の岩が転がっているものだから、投げる物には事欠かないようだ。
それにどうやらストーンゴーレムよりずっと身軽なようで、拾って投げる動作も実にスムーズだ。まあ、ストーンの出る場所より三階層も深いところで出る魔物が弱いわけもないよなあ。
しかし所詮は石だ。アダマンタイトの棍棒に当たれば砕ける。それに数が同時に最大四発だから、避けることも容易い。とはいえ、勢いそのものは戦車砲弾もかくやという物だから、直撃すれば痛いではすまないだろう。事実、地面に着弾すればかなりの範囲がえぐられている。
こんな威力の物を正面から打ち砕けるのは、ひとえにレベルと強化のおかげか。どちらが欠けても苦戦は免れない相手だろうことは手応えで分かる。
だがそれは逆に言うと、今の俺達ならどうとでもなるということでもあるのだ。
「キュッ!」
「キュ~!」
先んじて射程距離にロックゴーレムを収めたシロクロコンビが二体のゴーレムにキックを放つ。スキルレベルの関係か、シロは二撃、クロは一撃で見事に撃破してみせた。
彼らに続き、俺も左右の棍棒で一体ずつ全力攻撃を叩き込む。身長の関係でジャンプしながらの攻撃だったが、それぞれきっちりロックゴーレムの頭を破壊した。
思わぬ展開ではあったが、戦い終えてみれば完勝だったな。
◇
ここまでの探索でレベルもいくつか上がっているから、ステータスを確認しておこう。シロの無属性みたいに見落としがあってもいけないしね。
【名前:リョージ】
【種族:人間LV49】
【所持CP:149911】
【所持品:アダマンタイトの棍棒×2 ヒヒイロカネの剣鉈×2 ナタ 低級回復薬×9 低級解毒薬×9 鉄球の魔石×7 焦げた手長巨人の毛皮×4 手長巨人の毛皮×3 土巨人の魔石×9 岩人形の魔核×5】
【所持スキル:木工LV3 石工LV3 細工LV2 棍棒術LV6 二刀流LV4 地属性魔法LV4 金工LV3 魔力増加LV4 水属性魔法LV2 風属性魔法LV4 火属性魔法LV4 植物鑑定LV2 恐怖耐性LV6 毒耐性LV3 魔力探知LV5 打撃耐性LV3 刺突耐性LV2 体術LV3 スタン耐性LV3 魔力操作LV3 剣術LV3 皮加工LV2 無属性魔法LV2】
【称号:5級冒険者 ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー】
【名前:シロ】
【種族:ブルーアイズ・ホワイトラビットLV47】
【所持CP:125915】
【所持品:低級回復薬×9 低級解毒薬×9 雪巨人のツナギ】
【所持スキル:気配察知LV4 獣体術LV4 風属性魔法LV4 スタン耐性LV2 打撃耐性LV1 無属性魔法LV1】
【称号:ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー】
【名前:クロ】
【種族:レッドアイズ・ブラックラビットLV47】
【所持CP:125836】
【所持品:低級回復薬×9 低級解毒薬×9 雪巨人のツナギ】
【所持スキル:気配察知LV5 獣体術LV5 無属性魔法LV4 スタン耐性LV2 打撃耐性LV2】
【称号:ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー】
棍棒ばかり使ってたから棍棒スキルが上がってた。あと無属性も習得以降すっと強化しまくってたから上がってる。
しかし深層だからか、戦う回数そのものは少ないのにGPも貯まるなあ。現状、薬関係以外では食事くらいでしか使わないから、貯まる一方だ。まあ、あって困るものじゃないから良いんだけど。
にしてもアイアンボールのドロップ『鉄球の魔石』て、鉄だか石だか分からん名前だな。あとロックゴーレムの魔核は、どんなドールができるのか楽しみだ。
そんな事を考えながら移動していると、第八階層へとつながる階段を発見した。やはり一回の戦闘時間は伸びても、探索時間そのものは大分短縮されてるなあ。
◇
第八階層は寒い階層だった。イエティのいる第三階層よりも寒いだろう。ということで、シロクロコンビもイエティの毛皮で作ったモコモコのツナギを着込んだ。フードも付いていて、耳だけは外に出す穴が開いている。ぬいぐるみみたいで実に可愛い。
ここまでは比較的余裕を持って探索できたが、ここからも同じとは限らない。
環境も変化したことだし、気を引き締め直していくとしよう。
◇
そして探索すること十分ほど、洞窟内だというのに雪が降りはじめた。
「いかにも、って感じだよなあ……」
自然環境まで再現されているということは、そういう状況で強い魔物が出ることは想像に難くない。そして俺が思いつく寒冷地の巨人というと、もう北欧神話の霜の巨人くらいだ。
詳しいことを知らないから何とも言えないが、雪深くなればなるほど俺達にとって不利なフィールドになることは疑いない。まだ、うっすら積もる程度の降雪量ではあるが……。
「お……」
長い通路の先、二度目の曲がり角を抜けると、そこには恐ろしく広い空間が広がっていた。それも一面の銀世界だ。
地面は起伏に富み、ちょっとした丘のようになっている場所まである。
これまでと違い、このだだっ広い場所をどう移動するかも問われそうな雰囲気だ。先のアースジャイアントの事例から考えれば、霜の巨人――フロストジャイアントか? ――が出てくるなら、いきなり雪原から生えてきても不思議はない。
つまり当たりルートを行ってしまえば襲われる、というわけだ。
「まあ、考えてばかりいても仕方ないよな」
ということで、シロクロコンビの野生の勘に任せて移動することにした。
これまでの探索で得た実感としては、階層数×5くらいが適正レベルなのではないか、というものがある。つまりこの第八階層ならレベル40くらいが妥当ということ。
パーティメンバーが何人かにもよるのは当然だが、あえて苦戦するような(弱点をつかないなど)戦い方をしなければ、この階層でもある程度は余裕があるはずだ。
事実、ここまでは誰も回復薬を使う必要すらなかった。
もちろん全力攻撃の直撃を喰らえば危ないのは解りきっているので、できる限り攻撃はかわす必要があるが。
とにかく気をつけていこう。




