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ドワーフとの交流が始まりそう

「援軍と救援物資、それに魔法金属武器の貸与に感謝する」


 集落で一番大きな石造りの屋敷で、俺はドワーフの族長・ゴングに頭を下げられた。

 確かに総数六百ほどの魔物の群れが攻めてきたという情報だったのに、俺たちが到着した時点でも四百以上はいたはずだ。ということは丸一日経って二百倒せていなかったということで、時間をかければジリ貧になっていた可能性が高い。


 そこで救援が得られたのは――それもわずか三人で戦局を一変させられる人員だ――相当に大きかったと感じているのだろう。


「どういたしまして。俺としても、ドワーフの方々と繋がりができるのは今後のためにプラスになると考えての事ですから、頭を上げてください」


 俺は下心があるのを隠さず話し、へりくだられすぎても困ると伝える。

 ちなみにシロとクロは木のベンチに毛皮を敷いただけの椅子が気に入らないのか、俺の膝に乗っている。まあ実際、座り心地悪いけどね……。


「そう言ってもらえると助かるわい」


 頭を上げた族長は、そう言うとニカッと笑った。



 結局の所、俺への報酬はここ『妖魔の迷宮』における鉱石類の採掘権と、持ち込み素材の無償加工となった。どちらも俺にとっては美味しいものだから助かる。


 特に鉱石類はヒヒイロカネやアダマンタイトみたいに魔法金属化、もしかすると宝石類の魔法石化なども出来るかも知れないので夢が膨らむ。まあ、何に使えるかは分からんのだが。


 あと採掘権に絡んでダンジョン自体の攻略も許されるため、『巨人の迷宮』を攻略し終えたらこちらも攻略したい所だ。



「おお、ここがリョージの拠点か……」

「中々、整っているな」


 数日後、集落の方も落ち着いたということで、数人のドワーフたちが俺の拠点を訪れていた。

 というのも、ドワーフの集落には当然ながら冒険者ギルドなどはなく、何をするにも自力での調達と作成が必須なのだが、ギルドを使えば素材を納品することで薬品や布、紙に筆記用具などが販売される。色んな物を売れば、それだけ多くの品も販売されるのだ。だからそれを利用しない手はない、ということである。


 それから俺の拠点で栽培した農作物の余剰分をドワーフの集落に卸すことと、手つかずのスペースをドワーフたちに貸し出し、彼ら自身が農作業を行うことが大きな目的だ。


 やはり洞窟内では農業には向かないし、なんといってドワーフの集落はダンジョンにあるので、城壁外では安全が確保できない。

 ということで我が拠点の空きスペースを借りられれば、戦士や職人以外の者が安全に安定して働けるだろう、というわけである。


 視察に来た者たちは、早速城壁の上に登り城壁と城壁の間のスペースを確認しはじめた。

 ドワーフの集落から最も近いのは西門から入ってすぐの空き地で、第三城壁の内側になる。大体、三ヘクタールくらいの広さで、元々水田だった場所だし南端は川に面しているので、土壌も水源も問題ないだろう。


 いざとなれば山から腐葉土を持ってきたり、魔法で土壌改良することも出来るし何も心配はない。

 まあ、今は冬だからいきなり作物を得られはしないが。


 ちなみに今回の視察には女性のドワーフもいるのだが、年若い女性は子供のような体型で髭がもっさり生えている。ロリで髭だ。年かさの女性は、ちっちゃいおばちゃんで髭だ。人間だと女性は髭が薄いから、中々インパクトがある。


 それとドワーフの寿命に関する話から得た情報として、レベルの高い者ほど長寿であるというものがあった。それも若い時期が伸びるそうなので、すでに三十路の俺には朗報だ。


 今のうちに生活環境を充実させつつ、レベル上げも行っていかねばと決意を新たにした。

 あ、ドワーフの寿命は三百年くらいだそうです。長いなー。



 その後、ひとまず農業をやりたいというドワーフ七人を出入り自由とし、第三城壁内スペースを任せることになった。

 第二城壁以内のセーフティエリアに入る必要のある用事に関しては、ドワーフを代表して彼らのみが入る形だ。


 まあ、恩人の拠点を私物化しようというバカはいないと思うが、一応、念の為というか節度ある付き合いをするという意思の表明というか……そんな感じ。


 一方、俺たちは『巨人の迷宮』の本格的な攻略に乗り出した。といっても、特に装備などに変化はないが。

 まあ、現在のレベルで潜れるところまで潜ってしまおうということで。


 前回、転移装置を使えるようにしたので、今回はショートカットして地下五階あらため第六階層へと転移する。

 柱に手を触れ「転移」と念じると、一瞬の浮遊感の後、問題なく第六階層に到着した。


「さて……ここからは未知の領域だ。シロ、クロ、気を引き締めていこう」

「キュッ」

「キュ~」


 ウサギたちに声をかけ、右手にヒヒイロカネの剣鉈、左手にアダマンタイトの棍棒を握りしめ、俺はエントランスホールから奥へと歩を進めた。



 第六階層はこれまでと同じく洞窟だが、より一層通路が広く天井が高くなっている。

 アイアンゴーレムで五メートルほどの体長があったが、ここからはそれよりも大きな魔物、あるいは武器込みでアイアンゴーレムに勝るリーチを持った魔物が現れるということだろう。


 予想されるものとしては牛頭の巨人ミノタウロス、陽に当たったら石になるというトロール、一ツ目巨人サイクロプス、あとはそのままジャイアントか。


 ゴーレム系でアイアン以上となると、もう魔法金属くらいしか思いつかないが、そんな物が出てきたら即座に撤退だ。


「……なんも出てこないなあ」


 探索を始めて三十分ほど経つが、今のところ魔物と遭遇していない。時折『魔力探知』で探ってもいるのだが、やはり反応はなかった。

 大きな曲がり角に到達し、もう一度『魔力探知』を試みるが、やはり何も引っかからない。


「うーむ……謎だ」


 ぽつりとボヤキ、曲がり角を抜ける。と、そこで何か音が聞こえてきた。風を切って飛ぶような――。


「キュキュッ!」

「キュキュ~!」


 シロクロコンビから警戒を促す声が上がり、俺は即座にその場に伏せる。すると俺の頭上を空を引き裂いて何かが通過し、その直後、曲がり角の壁に轟音を立てて激突した。


「なんだ!?」


 魔力を探知すれば、壁にぶつかったモノから反応が返ってくる。ということは、飛んできたのは魔物ということになるが――。


『アイアンボールが現れた!』


 接敵のアナウンスが流れ、魔物であることが確定した。にしてもアイアンボールって、鉄球かよ。

 視線を飛ばし確認すると、ジェルボールに似た鈍色の球体が転がっていた。おそらくはジェルボールの上位種のひとつなのだろうが……動きは他のボール系と変わらず遅いようだ。であれば、さっきはなぜ超高速で飛んできたのか、という話になる。


――ォオン。


「ッ! また来た!」


 再び風切り音が洞窟内に反響し、アイアンボールが飛来する。そして壁に激突するのも同じだ。違ったのは一つ、アイアンボールの射出方向から重々しい足音を響かせて接近する者が現れたこと。


「本命のお出ましか!」


 メジャーリーグの大エースもかくやという豪速球を投げてきたモノの正体は、長い手足を持ち毛むくじゃらの巨人――。


『トロールが現れた!』


 予想した魔物の内の一種、トロールだったようだ。

 しかしトロールといえば棍棒か何かを持っているイメージだったが、バットならぬボールを投げるタイプだったとは……。


 ともあれ、またアイアンボールを投げられても面倒だ。ということでアイアンボールを先に倒すとしよう。


「フレイムウォール!」

「キュキュッ!」


 トロールの前進を妨げるように炎の壁を張り、シロが風魔法を追加して炎の竜巻を発生させる。目論見通り、トロールは炎を嫌がって立ち止まった。


 その間に、俺はクロが牽制しているアイアンボールへと向かう。


「ふっ!」


 飛び跳ねて攻撃してきたアイアンボールに、カウンターでヒヒイロカネの剣鉈を叩き込む。


「なっ!?」


 すると――なんと、鉄のくせに体を柔らかく変形させるようにして、斬撃を体の中心に喰らわないようにズラされた。とっさに左手のアダマンタイトの棍棒を振るうが、例によってボール系には打撃は効きにくく、明後日の方向に吹き飛んでいった。


 ……意外と面倒くさいかもしれん!


「クロ! アイアンボールをトロールに近づけさせるな! 俺たちは先にトロールを片付ける!」

「キュキュ~!」


 あっさり方針変更し、俺はトロールを炎の竜巻で攻撃しているシロのもとに走る。見たところ、そこそこダメージを与えているようだ。


「トルネード!」


 風の魔法を追加し、炎の竜巻を拡大させる。早く倒したいという意識が強かったためか、思いの外強烈な風が巻き起こり、通路半分ほどの幅を炎が包み込んだ。


「グゴォ!」

「グオァ!」


 体長三メートルほどの巨人が、焼かれて悲鳴を上げる。そう、トロールはあまり大きくない。オーガとさほど変わらないのだ。違うのは、腕が細く長いことと素早いこと。


 その素早さで、炎からもすぐに脱出する。そしてトロールといえば高い回復力を思い浮かべるが、焼けた部分が治る様子はない。炎で焼かれれば再生しないというのが俺の知るゲームでの特徴だが、似たような感じだろうか。


「なら……ファイアウェポン! アンチファイア!」


 左手を剣鉈に持ち替え、刃に火属性を宿す魔法を行使した。これで斬撃とともに、炎でも攻撃できる。そして耐火の魔法をかけておけばある程度の炎は無視できるから、火属性の魔法を使いつつ接近戦もしやすくなるのだ。


 もちろんシロにも耐火をかけておく。あいにく生き物の体には火属性付与は出来ないが、まあ、その分俺が頑張ればいい。


「もいっちょ、フィジカルブースト!」


 近接戦闘に必須の身体強化を施し、俺はまだ燃え盛っている炎の壁を突き抜けてトロールへと突進した。火に接触したのはほんの一瞬だが、ちょっと熱い。


「ふん!」


 まさか自分で火に突っ込むとは思っていなかったのだろう、トロールたちは俺の行動に驚き硬直している。そこに俺は全力で右手のヒヒイロカネの剣鉈を振るった。


「グギィ!」


 魔法金属の刃は巨人の足首に吸い込まれ、あっさりと両断した。さらに左手の剣鉈を振るい、もう一匹のトールのスネを切断する。……思っていたより、ずっと簡単に倒せそう。


 一瞬、気のそれた俺に、トロールが痛みに悲鳴を上げながらも反撃しようとする――が、それは俺の頭上をかすめるように左右に吹き付けた炎の竜巻により阻まれた。シロのフォローだ。


 慌てて避けようとする二匹のトロールだったが、どちらも片足を失っているためもろに炎を浴び、バランスを保てず倒れそうになる。


「ふっ! はぁっ!」


 倒れまいと手をつくトロールに対し、俺は反復横跳びのように二度跳躍し、それぞれの首を切り落とす。

 そしてトロールは二匹とも、あっさりと消滅した。



 思っていたより簡単にトロールを倒せて拍子抜けした俺だったが……アイアンボールは思っていたより遥かに手こずった。

 ヤツの柔らかな防御の前には、俺の斬撃もシロクロコンビのキックもまったく通用しなかったのだ。


 最終的には、手で押さえつけてストーンウォールで一部だけ露出させるように石の中に埋め、そこにヒヒイロカネの剣鉈を突き刺すという……なんとも締まらない倒し方になった。


 ドロップアイテムはトロールが毛皮と魔石、アイアンボールが魔石を落とした。だがトロールの毛皮は焦げているし、おそらくアイアンボールは斬撃で倒さなければシートを出すだろう。ということで、微妙な実入りになってしまっていると考えられる。


 何度か戦ってみて、余裕があるようなら火を使わずにトロールを、斬撃を使わずにアイアンボールを倒してみたい。

 まあ、なんにしても『いのちだいじに』が最優先だけどね。



 その後も長い通路を歩いては曲がり角で鉄球が飛んできて、それと同数のトロールが駆けてくるという戦いを繰り返し、半日もする頃にはあっさり第六階層を踏破していた。


 ほとんど分岐がなく通路が広いため、これまでにも増してマッピングする必要が少なくなっているためだ。

 しかしながら……トロールは割とあっさり火を使わずに倒せると判明した反面、アイアンボールはどうあがいても打撃だけでは倒せなかった。


 時間をかければ倒せるだろうが……十分も二十分も叩き続けていると、他の鉄球が飛んでくることがあるため危険なのだ。結果、さながらたこ焼き器に収まったたこ焼きみたいな状態にして処理せざるを得なくなってしまう。


 まあ、アイアンボールに関しては効きやすい武器を考えてみるということで、今回はこれくらいで見逃してやらあ! と捨て台詞を吐きながら第七階層へと向かったのだった。



 第六階層と第七階層をつなぐ階段で休憩と食事をすませ、俺たちは第七階層の探索を開始した。

 ここも第六階層と見た目に変化はない。さて、ここではどんな魔物が出るのか……。


 警戒しつつ、たまに『魔力探知』をかける。そんな風にしながら移動を続けていると、不意に足元の床に魔力の反応が現れた。


「二人とも下がれ!」


 自身も飛び退りつつ、俺はウサギたちに指示を飛ばす。彼らも何かヤバイと感じていたらしく、即座に跳躍した。

 するとそれまで俺たちがいた場所が盛り上がり、何者かの大きな手首が生えてくる。


『アースジャイアントが現れた!』


 まるでプールサイドを掴んで水面に上がるようにして地面から顔をのぞかせたそれは、自身を石や土に変化させられる巨人のようだ。


 この手の不定形な魔物はこれまで見たことがない。強いて言えばボール系が近いが、完全に姿を変えるモノは初めてだ。

 ――さあて、どう戦いますかね。


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