魔法金属の武器大活躍って感じだ
「おーい! みんな! 援軍を呼んできたぞ!」
ダリオの胴間声が戦場に響き、それを合図に俺たちは前線へと駆け出した。
「シロ、炎の竜巻から行くぞ」
「キュッ!」
俺の指示に応え、シロが軽く跳躍して風魔法で横向きの竜巻を起こす。そこに俺が火属性魔法の【フレイムスロウワー】を放つと、竜巻に火炎が巻き込まれ、炎の竜巻となって魔物の群れに襲いかかった。
「お?」
すると、魔法が直撃したオークがバタバタと倒れ、次々に消えてゆく。どうやら種族レベルとスキルレベルが上がった事で魔法の威力も高まっているようだ。
おあつらえ向きの通路が出来た形になったな。
「ダリオさん、ちょっと運ぶよ」
「は? お、おおおお!?」
遅れて駆けてきたダリオを小脇に抱え、俺は無属性の魔法【フィジカルブースト】で身体能力を強化して全力疾走した。ウサギたちも問題なく付いてきている。
わずか数秒ほどでドワーフの集落の防壁まで到達し、アースウォールで即席の足場を作って壁の上へ跳躍する。上にいたドワーフたちは驚いていたが、緊急事態だから見逃してもらいたい。
「ダリオさん、武器を」
「お、おお!」
壁の上へと下ろし、ダリオに促す。俺もアダマンタイトの棍棒二本を取り出し、近くにいるドワーフに「使ってくれ」と言って手渡した。彼らは戸惑いながらも受け取り、魔法金属で出来ていると気づいて驚きの声を上げる。
続いてシロクロコンビと合わせて九百本の低級回復薬を全て放出し、これも「自由に使ってくれ」と大声で周知した。
「じゃあ、俺達はまた後方に回り込んで削ってくるよ」
「おう! よろしく頼む!」
武器を配り終えたダリオに一言伝え、俺とシロクロコンビは防壁を飛び降りた。
レベルが上ったことでステータスも初期数値の三倍以上になっているから、五メートル程度の高さから飛び降りても何ともないのはスゴイよね。
さておき、群がってくる魔物を俺が先頭でバッサバッサと切り捨ててゆく。今のところ、オークもコボルトも一撃で倒せている。コボルトの速度も、俺たちには気になるほどのものではない。
シロとクロは俺の後方で左右のフォローをしてくれている。
二匹は素の状態でも、身体強化した俺と同じくらいの速度で走れるので余裕があるのだ。野生ってスゴイね。
現状、魔物の群れは大半が集落の門前に集中しているので、親玉にあたる上位種は後方に位置取っていると思われる。だから俺たちは横からちょっかい出しつつ、後方へと歩を進めるのだ。
「っ! ストーンウォール!」
――ガァン!
俺たちの動きを察知した者がいたのか魔法が飛んできたため、とっさに石壁を作ってしのいだ。放たれたのは地属性の魔法【ストーンランス】だった。この魔法はスキルレベル2で使えるようになる物だから、オークメイジのスキルレベルはそれ以上ということになる。
俺の地属性はレベル4だから、問題なく対処できるだろう。
まあ、他の属性も持っているかも知れないから、油断はできないが。
さて、お返しというわけではないが、こちらも魔法を使おう。
「ピット、ピット、ピット、ピット、と」
中央辺りの魔物を狙い、足元にいくつも穴を開ける。城壁の上ばかり見て前進している魔物たちは、面白いくらい転倒、落下してゆく。直径、深さそれぞれ二メートルほどだから、一つにつき三匹くらいは落とせる感じかな。
「ブギィーッ!」
俺の邪魔に業を煮やしたか、上位種と思しきオークが数匹のオークを連れて突進してきた。
普通のオークが粗末な服や革鎧に鉄か銅の小剣や手斧を持っているのに対し、上位種は少し大きな体に鉄の胴鎧と鉄の盾、そして鉄の長剣を装備している。さしずめオークリーダーといったところか。
「キュキュッ!」
シロの警告の声が聞こえ、同時に矢が飛んできた。どうやら別の魔物も俺たちに狙いを定めたらしい。
矢を切り落としながら確認すると、こちらはコボルトとその上位種のチームで、オークよりも後方から駆けてきているのに到達はほぼ同時になりそうだ。
「一塊になってくれるなら面倒がなくていいな……フレイムウォール!」
俺は魔物の隊ふたつが合流する直前で魔法を発動した。これはファイアウォールの上位版だ。効果範囲を広くしたり単純に火力を高くしたりと融通が効く。今回はU字型に炎の壁を展開し、後ろにしか逃げ場がない状態にする。
「シロ、竜巻だ!」
「キュッ!」
俺の指示に従ってシロが風の魔法を放ち、再び炎の竜巻が一直線に伸びて魔物を飲み込んだ。さらに俺もトルネードを発動すると巨大化した炎の竜巻が広範囲に及び、一気に百体近い魔物を舐め尽くす。
オークとコボルトが大半だったが、上位種も十体ほどは混じっていたらしく、リーダーだけが死なずに焼かれて苦しんでいた。しかし、しばらく炎に晒され続けると、それらも倒れて消えてゆく。
炎が鎮火した後、そこには大量のドロップアイテムが転がっていた。そしてその先には、リーダーよりも大きなオークとコボルト、さらにいかにも魔法使いといった形の木の杖を持ったオークが二匹いるのが確認できた。
「あいつらが大将ってところか」
いかにも本陣といったメンバーに、俺はそう判断する。
どうやらあっちにも俺たちが見えたようで、慌てたような苛立ったような声を上げて動きはじめた。
「ブギッ!」
最初の攻撃はオークメイジの魔法。今度もストーンランスだが、別に魔法は必中というわけではないので、出どころが見えていれば回避するのは容易い。もう一匹も続けて魔法を放ってきたが、難なくかわした。
「スパイラルブレット!」
俺は、反撃に石の弾丸を放つ。元はスキルレベル1でも使える低位の攻撃魔法だが、アレンジしたことで回転しつつ高速で飛ぶ銃弾みたいな魔法になっているため、視認しにくく当てやすい上に貫通力が高いのだ。何しろイエティにすら通用するのだから、オークメイジに効かないわけがあるまい。
「ギィーッ!」
「ブギャッ」
二発放ったそれは見事に二匹のオークメイジを貫いた。さすがに即死とは行かなかったようだが、かなりのダメージを与えたと見える。
「キュキュッ!」
「キュ~ッ!」
痛みに悲鳴を上げるオークメイジの姿を好機とみたシロクロコンビは、それぞれ攻撃魔法を放った。シロは風属性魔法の【エアブリット】、クロは無属性魔法の【マナボルト】だ。どちらも視認しにくく使いやすい。
しかし、その攻撃は大将――オークジェネラル、コボルトジェネラルと呼ぶか――の持つ鉄の盾により防がれた。どうやら首魁だからといって、後方で見ているだけというわけではないらしい。
「なら……フレイムウォール! アンチファイア!」
オークメイジを守るのなら後退できなくするべしということで、U字型の炎の壁で大将チームを周囲から隔離する。そして壁の内側に踏み込んでも大丈夫なように、俺自身とウサギたちに耐火の魔法をかけた。
するとシロクロコンビは左右に分かれて駆け出し、炎の壁の外側に回り込んだ。……なるほど、そう来たか。であれば、俺は正面からジェネラルたちの相手をするしかないな。
「行くぞ!」
俺は一つ気合の声を上げ、大将チームに向かって突っ込んだ。
リーダーでクレイゴーレムと同程度な感じからすると、ジェネラルはイエティと同等くらいか? 今の俺ならもう一つ二つ上の相手とでも戦えるから、多分二対一でも大丈夫だろう。
「フィジカルブースト! っりゃあ!」
身体強化も施し、俺は踏み込みの勢いのまま右の剣鉈を振り下ろした。それはオークジェネラルの盾に防がれる――ことはなかった。なんと鉄の盾は、ヒヒイロカネの剣鉈によって真っ二つにされたのだ。しかもオークジェネラルの腕まで切断したものだから、魔物にとっては泣きっ面に蜂という事態である。
「ギャウッ!」
オークジェネラルの窮地を救うべく、コボルトジェネラルが前に出てきた。オークジェネラルよりも軽装で、腰布と鉄の盾、そして鉄の曲刀を持っている。
コボルトジェネラルは、その曲刀を遮二無二振り回す。その速度は中々のものだが、今の俺なら回避するのは難しくない。
焦れたヤツが大振りになったところで、あえて剣を合わせる。すると――思った通り、鉄の曲刀の刀身を斬り飛ばすことが出来た。
「キュキュッ!」
「キュ~ッ!」
大将チームの意識が完全に俺に向いた時、シロクロコンビが炎の壁を貫いて現れる。完全に虚を突かれたオークメイジは、抵抗する間もなく二匹とも首を蹴り折られて絶命した。
ジェネラルたちが突然のことに驚き立ちすくむが――それは彼らの命脈を縮める行為に他ならなかった。
「はあっ!」
一息に両手の剣鉈を一度ずつ振るい、俺はオークジェネラルとコボルトジェネラルの首を飛ばした。そこで炎の壁を消し、周囲の魔物たちにも状況を確認できるようにする。
大将首が二つとも転がっていれば、部下たちの同様は大きいだろうという目論見だ。そしてそれは功を奏した。
俺たちの近場でギャアギャアと喚く者の声に、戦場中の魔物たちが混乱してゆく。驚愕と怯懦が全体に広がるまで、このままなら数分とかからないだろう。
「戦士たちよ、行くぞおおおお!!」
ドワーフのものと思しき鬨の声が上がり、それに続いて辺りをどよもす雄叫びが轟いた。集落の方を見やると、城門が開かれて中から完全武装のドワーフたちが駆け出してくる。
おそらく魔物たちの様子から、ここが勝負の賭けどころと判断したのだろう。
「おりゃあ!」
「ふん!」
「くらえ!」
口々に気合を発し、戦士たちが縦横に武器を振るう。先頭を行く者たちが手にしているのは、俺が貸し出した魔法金属の武器だ。その威力はドワーフのパワーと相まって、オークもコボルトも一撃で屠ってゆく。
いくらか攻撃を回避するコボルトもいるが、戦線が瓦解するのも時間の問題だ。
「なら、一匹でも多く倒せるようにするか……アースウォ――――――――――ル!」
俺は現在地から三百メートルほどの長さの土壁を二つ、九十度ほどの角度をつけて発生させた。さして頑丈でもない土の壁だが、壊すにせよ迂回するにせよ手間をかけさせられる。そして魔物が背を向ければドワーフたちも攻撃しやすくなるだろう。
趨勢は既に決したと言えるが、最後まで気を抜かずに戦い抜くとするか。
◇
それから一時間もせぬ内に戦いは終結した。『サドンクエストをクリアした』というアナウンスも流れ、現在は大量のドロップアイテムを拾い集めている所だ。しかし――。
「武器防具しかないなあ」
思わずぼやいてしまうほど粗末な武器と防具しかない。
どうやらコボルトもオーク同様、固有のドロップアイテムはないらしい。もっと上位の個体になれば違ってくる可能性もあるが、少なくともジェネラルまでは持っていた武器防具しか残っていなかった。
しかも、そのジェネラルのドロップアイテム四つの内二つは俺が壊してしまっていたものだから、余計にがっかりな感じだ。まあ、大した性能の物ではないようだし、鋳潰して素材にしてしまえば一緒だろうと思うことにする。
それに途中参加だったけどそれなりの経験値とGPがもらえたしね。さすがに三人だけだった前回と比べれば、ずっと少なかったけど。
【名前:リョージ】
【種族:人間LV47】
【所持CP:144411】
【所持品:アダマンタイトの棍棒×2 ヒヒイロカネの剣鉈×2 ナタ 低級回復薬×9 低級解毒薬×9】
【所持スキル:木工LV3 石工LV3 細工LV2 棍棒術LV5 二刀流LV4 地属性魔法LV4 金工LV3 魔力増加LV4 水属性魔法LV2 風属性魔法LV4 火属性魔法LV4 植物鑑定LV2 恐怖耐性LV6 毒耐性LV3 魔力探知LV5 打撃耐性LV3 刺突耐性LV2 体術LV3 スタン耐性LV3 魔力操作LV3 剣術LV3 皮加工LV2 無属性魔法LV1】
【称号:5級冒険者 ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー】
【名前:シロ】
【種族:ブルーアイズ・ホワイトラビットLV45】
【所持CP:120415】
【所持品:低級回復薬×9 低級解毒薬×9】
【所持スキル:気配察知LV4 獣体術LV4 風属性魔法LV4 スタン耐性LV2 打撃耐性LV1】
【称号:ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー】
【名前:クロ】
【種族:レッドアイズ・ブラックラビットLV45】
【所持CP:120336】
【所持品:低級回復薬×9 低級解毒薬×9】
【所持スキル:気配察知LV5 獣体術LV5 無属性魔法LV4 スタン耐性LV2 打撃耐性LV2】
【称号:ジャイアントキラー オークキラー コボルトキラー】
レベルは三つ上がったけど、スキルは変化なし。あとは称号が増えた。
称号に関してだが、ヘルプさんの解説によると大量の魔物を短期間に倒すと得られるらしい。そしてその効果は、その系統の魔物に対する攻防のプラス補正。『キラー』はその中で最下級の物で、あと二つ上の称号に上がる可能性があるそうな。
しかしそんなに大量の魔物と戦いたくはないので、称号はもう欲しくない。今回みたいに、完全に格下相手なら良いんだけどねえ。
「お疲れさん、リョウジ」
ドワーフに渡された木箱にドロップアイテムを詰めていると、ダリオが声をかけてきた。髭でわかりにくいけど、彼は満面の笑顔だ。集落が守られたのだから、当然といえば当然だな。
「おつかれ、ダリオさん」
「あとは他の者に任せて、族長のところに行くぞ」
「何か用でも?」
「そりゃ、今回の援軍に関することに決まっとる」
なるほど、詳細を話すために俺を呼びに来たわけか。
「分かった、案内頼むよ」
応諾すると、頷いて歩きだしたダリオの後に続き、俺は集落へと向かった。
はてさて、どんな話になりますやら。




