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ドワーフとの出会いと新たなダンジョン

 俺たちは城壁から飛び降り、血まみれの人物の安否を確認に向かった。


「生きてる! シロ、クロ、回復薬をぶっかけてくれ!」

「キュッ!」

「キュ~!」


 ウサギたちに指示を出し、俺はうつ伏せの男を仰向けに寝かせ直し、自分でも低級回復薬を所持品欄から取り出してゆっくりと飲ませる。


 意識は無いようだが、シロクロが回復薬をぶっかけると、回復薬はなんとか飲みはじめた。

 それにしても……身長百三十くらいでガッシリした体型のヒゲモジャなので、どうしてもあの種族を連想する。――そう、ドワーフだ。


 これまで他の種族――というかこの三か月あまり誰にも会っていなかったので、もしかしたらほとんどの人間が死んだか魔物になったのかも……と思っていたのだが、他の種族になる場合もあるのだろうか? それとも別の世界から来たとか、新たに生み出されたとか?


「門を開けてくれ!」


 ここで考えていても仕方ないので、ヒゲ男の呼吸が落ち着いたところでストーンドールに命令し、俺は彼を抱えてギルドに走った。

 移動しながら身ぎれいにする無属性魔法【クリーン】と乾燥させる風属性魔法【ドライヤー】を使っておく。


 ドライヤーの方は火も混ざっている気がするのだが、「温かい風出ろ」と考えつつ発動するので、基本は風だと思う。まあ、使えるんだから深くは考えない。魔法なんだから不思議でもいいのだ。



 ギルドに到着した俺達は、ヒゲ男の装備している鎧兜を外し、酒場のソファに寝かせて毛布をかけた。

 それにしても精巧な作りをした装備だ。体の動きを阻害しない構造になっている事からして、相当な腕前の職人が作ったと思われる。……やっぱりドワーフなのかな? ファンタジーのドワーフといえば鍛冶師だし。


 しかし一体、どこから来たのやら。ここから西方向だと民家以外にはゴルフ場と飛行場、あと桃農家くらいだった気がするが……それらが変容したところで、ドワーフに関連のある物になるとも思えない。


 とはいえ大怪我をしたままで移動してきたのだろうから、そこまで遠い場所ではないだろう。となると最長でも五キロかそこらか。こっちからは山しか見えなくても、あっちからはここに人工物があると判断できたって感じかな。


 そして何らかの戦闘が起き、逃げてきたか助けを求めに来たか……そんなところだろうか。

 まあ、詳しいことはヒゲ男が起きてから聞くしかないんだけども。



「うう……腹減った……」


 すっかり日が暮れ、俺たちが夕食をとっていると、盛大な腹の音とともにヒゲ男が目覚めた。


「具合はどうだい?」

「お……あんたは……」


 一旦ハシを置き、俺は男に声をかけた。初対面の人間に声をかけられて彼は少々面食らったようだ。自分の置かれている状況にも混乱しているのかもしれない。


「俺が、うちの拠点の近くで倒れてたアンタに手当して、ここに運んできたんだ」

「お、おお! そうか! ここは、あのデカイ城壁がある集落なんだな!?」


 俺が軽く説明すると、ヒゲ男は興奮したように声を上げ身を起こした。

 詳しいことを聞くと、彼は洞窟内に作られたドワーフの集落から来たそうだ。その理由は集落が魔物の群れに襲われたこと。あまりの大群に防戦一方の状況を打破するために、山頂からの観察で発見した俺の拠点に援軍の望みをかけて、決死の突破を試みたという。


 結局、魔物の群れを抜けられたのは彼――ダリオというそうだ――一人で、傷だらけになりながら、ここまでやってきた。城壁を間近に見た途端、気が抜けて倒れてしまったようだ。


 ていうか、やっぱりドワーフだったんだな。


「ここには何人の人がいるんだ?」


 話が一区切りしたところで、ダリオがそう問いかけてくる。援軍を頼みに来たのだから人数が気になるのは当然だな。――しかし。


「一人だ」

「は?」

「ここにいる人間は、俺一人だ。ここにある物は、自宅とギルドを除いて全て俺一人で整えた」


 期待を裏切る答えに、ダリオは絶句する。それはそうだろう、こんな規模の城壁を構えておいて中身は一人だなんて誰も思うまい。


「……いや、待て。全て一人で整えたのか?」

「うん」

「では、先日の魔物の襲撃も一人で撃退したのか!?」


 ああ、なるほど。どうやら例のサドンクエストの時にここに気づいたということのようだ。大量の魔物が移動しただろうから、山頂から見える程度の距離なら多少は影響があっただろう。で、あの襲撃を撃退したなら援軍として期待するのも当然か。


 城壁の規模がでかいとはいえ、何の確証もなく来るものかなあ? と思ってはいたが、そういうことなら納得だ。


「いや、このウサギたちと三人でだ」

「ウサギ……」


 俺がそう言うと、シロとクロは胸をそらすように後ろ足で立ち上がった。その様子に、ダリオはさっきとは違う意味で絶句する。まあ、人畜無害そうなウサギ――それもオーバーオールをはいた――が、あの大軍を相手に戦えるというのは信じがたいことだろう。


 とはいえ、別に信じてもらう必要はない。なにしろ信じられなければ援軍を頼まれずに済むのだから。どんな魔物が現れたのかも聞かずに依頼されて、請けるわけもないよねえ。


「とりあえずもう日も落ちたから、一晩ゆっくりしていくと良い。飯はそこで頼んでくれ」


 考える時間も必要だろうということで、俺はダリオにそれだけ言うと食事に戻ることにした。



「……ちょっと良いか?」


 デザートの蜜柑まで食べてダラダラしていると、食事を終えたらしいダリオが声をかけてきた。俺は「どうぞ」と手で椅子を指し示し、座ることを勧める。彼はそれに従い、素直に席についた。


「俺が知る限りのことを話す。だから援軍の検討をしてくれないか?」


 ダリオの口から出た言葉は、予想通りの物だった。俺は頷いて先を促す。

 彼の説明によると、ドワーフは六百人ほどで、その中で純粋な戦闘職は百人と少し。対する魔物の軍勢は八百ほどで、その大半はオークとコボルト。そして上位種と思われるものが百ほどいることが確認されているという。


「オークとコボルトって、よく組むの?」

「ああ。オークは穴蔵に棲むしコボルトは銀を食うから、自然とな」


 銀を食うとか迷惑な魔物だな……でも逆に言うと、コボルトがいれば銀の鉱脈がある可能性が高いわけだ。


「どっちが強いの?」

「そうだな……一概には言えんが、鱗の装甲を持っていて動きが早い分、コボルトの方が厄介だろう」


 なるほど。いわゆる犬人間じゃなく、竜に連なると言われる方のコボルトか。それならザコとはいえない強さだろうな。そしてその上位種か……オークより上となると、イエティクラスを想定する必要があるかな。


「魔法なんかは?」

「一部のオークが使っていた。おそらくオークメイジだろう」


 魔法使いもいるのか……面倒そうだ。しかし、ここまでの情報では今の俺達ならどうにかなりそうではある。

 俺はチラリちシロクロコンビを見る。専用の椅子に座った二匹は、任せろと言うように前足を上げてみせた。どうやら、既にやる気になっているようだ。


「……分かった、援軍に行こう」

「おお! 本当か! 恩に着る! ……報酬は、どの程度出せるか分からんが……」


 歓声を上げるダリオだが、その勢いはすぐにしぼんでしまった。まあ、集落が滅ぶかどうかの瀬戸際で、十分な報酬が出せるわけもないから仕方ない。


「いいさ、ある程度ドロップアイテムでももらえれば」

「すまん……」


 俺の言葉に、神妙な顔で頭を下げるダリオ。だが、実のところ俺は、ドワーフの集落がある場所がダンジョンなのではないかと考えている。そうであれば、新たな素材が手に入るだろうことは想像に難くない。


 それにドワーフがイメージ通りの存在なら、多くの種類の鉱石を採掘しているだろうから、その情報も得られる可能性がある。だから、恩を売っておくに越したことはないのだ。


「じゃあ明日の朝、日の出とともに出発で良いかな?」

「うむ、それで良い!」


 これで方針は決まった。ダリオの顔も希望に溢れた明るいものになっている。下心もあるが、請けたからには出来る限りのことをしよう。


「あ、そうだ。ちょっと見てほしい物があるんだけど」

「ん?」



 俺たちはダリオを伴い、自宅へと向かった。正確には農具などがしまってある納屋だな。


「これなんだけど」

「ふむ……んん? ……こ、これは!」


 見てほしい物というのは、俺がこれまでに試作してそのままになっているヒヒイロカネとアダマンタイトの武器類だ。そう大した数ではないが、ドワーフたちに使える物があれば多少は戦力アップになるのではないかと考えた。


「ヒヒイロカネに、アダマンタイト!? こんな物を一体どこで手に入れたんだ!?」

「これは自分で作ったんだ。作り方は秘密だけど」


 驚き叫ぶダリオに答えると、彼はより一層目を見開いて絶句した。

 まあ、魔法金属だから、普通に考えれば自分で作れるなんて思わないよなあ。


「まあ、それは置いといて。この武器、使えるかな?」

「ううむ……作りそのものは拙いが、性能は良い。さすがは魔法金属だ」


 拙いかー……まあ、素人だからしょうがないよな。


「これらがあれば、オークくらいは一撃で倒せそうだ!」


 お、それなら大丈夫そうだ。


「スマンが、こいつらの柄を長くさせてくれんか?」


 そう言ってダリオが掲げてみせたのは、ヒヒイロカネのダガーナイフとアダマンタイトの手斧、そしてヒヒイロカネの苦無だ。どれも刃渡りが短いが、長柄にすることは可能だろう。


「ああ、構わないよ。鉄と銅はそこね。木材はあっちの小屋で乾燥させてるから、好きに使って」

「助かる!」


 俺の答えを聞いて、ダリオは早速とばかりに木材小屋へと駆け出した。



 なんと簡易鍛冶道具セットを携行していたダリオにより、鉄を使っての改造が行われた。魔法かスキルで加工するとばかり思っていたから驚いたよ。


 手斧(刃の部分がL字型)は刃渡り二十センチほどだが、これに一メートル程の木の柄を付け、鉄板で補強することで見事なポールアックスが出来上がった。


 ダガーナイフと苦無は一メートル半ほどの木の柄を付けて、刃の付け根周辺を鉄で補強し、ロングスピアになった。

 斧も槍も急場しのぎのため無骨な作りだが、それでもプロが作ると違うなあと感心しきりだ。


 最終的には三時間ほどで二本のポールアックスと、五本のロングスピアが完成し、これらにヒヒイロカネの棍棒二本を合わせた合計九本の武器を貸し出すことになった。


 俺たちも所持品欄に入る限りの低級回復薬を購入したので、必要な準備は整っただろう。なにしろ枠が四十に増えているので、一人あたりマックス三百六十本持っていけるのだ。実際には武器があるので三百本程度だが、それでも三人で九百本あれば足りないということはあるまい。


 ということで、ダリオに風呂に入ってもらってから就寝だ。彼には客間を使ってもらう。

 しっかり休んで明日に備えねば。



 明朝、予定通りに日の出とともに起き出し、俺とシロクロコンビはダリオの案内で一路ドワーフの集落へと出発した。

 かつては空港へ至る道だった山間を、西へ西へと移動する。そして速歩きで進むこと三十分ほど、我々はとある山の北側中腹にある洞窟へと到着した。


「集落はこの中だ」


 ダリオは気が急いているようで、簡単に説明するとすぐに中に駆け込んだ。俺たちも後に続いて入り口をくぐる。

 しばらく進むと予想通りエントランスホールがあり、中央に転移装置である柱が立っていた。やはり、ここはダンジョンだ。


『妖魔の迷宮』


 そしてエントランスからさらに先、ダンジョン内へと足を踏み入れるとアナウンスが流れる。

 妖魔……ゴブリン、オーク、コボルトなんかの人型の魔物のことかな?


 中を確認すべく視線をあちこちに飛ばすと、どうやら直径二キロはありそうな大きな空洞のようだ。巨人の迷宮と同じように壁や天井がほのかに光っており、明かりがなくても十分見える。


 そしてしばらく進むと、一際明るい場所に近づいていることに気づいた。まあ、剣戟の音や雄叫びが響いているから、ドワーフの集落があることは分かっていたが。


 ともあれ、ここから先は戦場だということだ。

 オークとコボルトが相手ということで、俺は所持品欄からヒヒイロカネの剣鉈を二本取り出し両手に握りしめた。


 さて、上位種がどういう強さか分からないし、油断せずに行くとしますかね。


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