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激闘!アイアンゴーレム!

 すでに日は高く昇り、秋口とはいえ動いていると暑くなってきた……そんな時間帯。

 俺たちはオーガを相手にし続けていた。


 ヒヒイロカネ装備のおかげで致命的な怪我はないものの、まともに喰らえば骨が砕けそうな攻撃をかいくぐり続けるのは神経がまいる。


 たまにかすっただけで吹き飛ばされ、その度に低級回復薬で傷を癒やす。

 シロとクロがフォローしてくれるおかげでなんとかなっているが、二匹がいなかったらとっくにセーフティエリアは蹂躙されていただろう。


 とくにクロの活躍はめざましく、無属性魔法による身体強化で適切にダメージを稼いでいる。

 彼には遠距離攻撃がないため、壁の上ではシロの護衛に徹してくれていたフラストレーションを存分に解消しているようだ。


 しかし回復薬も残り少なくなってきているし、セーフティエリアの耐久値も400を割っている。

 もう物資の補給は不可能だろう――このまま最後まで戦い続けるしかない。


 ――せめてオーガで打ち止めになってくれれば。


「やっぱダメか……!」


 俺の淡い期待はあっさり裏切られ、大地を揺るがす足音とともに増援が現れた。

 太陽の光を浴び鈍色に輝く巨体――軽く五メートルを超えるそれは、鉄で出来たゴーレム。


 ――アイアンゴーレムだ。


「マジで、こいつはヤバイ……」


 足音の重々しさから、中ががらんどうってことはあるまい。

 となると頭が弱点だと仮定しても、あの高さでは壁の上からしか攻撃できないことになる。


 それにリーチの問題から、それこそジャンプして突っ込みでもない限りこちらの武器は届かないだろう。

 俺たちの中で最大の攻撃力を持つ物理攻撃は、おそらくヒヒイロカネの棍棒かクロの全力強化キックだろうが……中身が詰まった鉄の塊を破壊するほどのものかと言われると疑問だ。


 であれば何度も攻撃する必要があるということで、その度にあの巨大な拳か丸太のように太い腕の一撃をかいくぐる必要がある。

 ――恐ろしく分の悪いギャンブルだ。


 まあ、それ以前にまだ残ってるオーガをどうにかしないといけないんだが。

 幸いアイアンゴーレムが壁まで到達するには、まだ時間がかかるだろう。


 その間に一体でも多く、オーガを行動不能にしなければ。



 俺たちが低級回復薬を使い尽くしてオーガを止めきるのと、アイアンゴーレムが壁に到達し攻撃を打ち込むのは、ほとんど同時だった。


 ――ゴガァン!


 辺りに恐ろしい轟音が響く。

 表示されたセーフティエリアの耐久値は――残り346! なんと一発で30程も削られている。


 こりゃストーンゴーレム辺りも、まともに攻撃されればかなりの攻撃力だったんだろうな……。

 オーガですら2か3だったのに、こんな破壊力を見せられてはショックがでかすぎる。


「キュキュッ!」

「キュキュ~!」


 しかしウサギたちは冷静――いや勇敢だった。

 ストーンゴーレムへの対処と同様、足に攻撃を集中させはじめたのだ。


 だが、その程度ではアイアンゴーレムは小動もしない。


「ここは死力を尽くす時だな……ピット!」


 シロクロコンビが一旦離れたところで、拳を振りかぶったアイアンゴーレムの蹴り足の下に地属性魔法で穴を開ける。

 狙いは上手くいき、バランスを崩した鉄巨人は音を立てて仰向けに転倒した。


 とはいえ、もう魔法は完全に打ち止めだ。これ以上魔力を使えば気絶してしまうだろう。

 そうなればなぶり殺しだし、セーフティエリアも蹂躙されることになる。


 それは絶対に看過できない。ということで覚悟を決めて突貫だ。


「チェストオオオ!!」


 奇声を上げ、両手持ちにしたヒヒイロカネの剣鉈を、起き上がろうともがくアイアンゴーレムの頭に叩き込む。

 上半身が重すぎて丁度いい高さにある側頭部に、甲高い音を立てて鋭い刃が食い込んだ。


 さすがヒヒイロカネといったところだが、食い込んだのはせいぜい五センチ程度のため致命傷には程遠い。

 そこで剣鉈はそのまま放置し、一旦後退しつつ所持品欄からヒヒイロカネの棍棒を取り出した。


 狙いはもちろん剣鉈をぶっ叩いて、もっとめり込ませることだ。だが、アイアンゴーレムもただやられてはいない。

 動きそうもない首を巡らせ俺を確認すると、倒れながら裏拳を振り下ろしてきた。


「うおおお!!」


 離れていても間合いの中だったと気づき、俺は大慌てで横っ飛びする。


 ――ドゴォン!


 その直後、俺の右横の地面が爆発したような勢いで砕け散った。

 こんなもん食らったら一撃で死ぬ!


「キュッ!」


 俺に攻撃が集中しそうな予感がしたか、シロがアイアンゴーレムの穴にはまっていない方の足を攻撃しはじめた。

 ゴーレムはまんまと釣られ、ほんの少し上体を持ち上げてシロに目を向ける。


「キュキュ~ッ!」


 そこにクロが左側頭部を狙うように、身体強化を乗せたキックを放つ。

 すると今度はクロを確認すべく、アイアンゴーレムは左に首を巡らせた。


 ――チャンス!


「どりゃああああ!!」


 全力で駆け出した俺は勢いを利してジャンプし、ゴーレムの頭に食い込んだままの剣鉈を全力でぶっ叩いた。


 ――ガァン!


 いい音が響き、刃が峰まで頭に潜り込む。

 頭のサイズがでかいバケツくらいなので、剣鉈の刃幅が全部入っても三分の一ほどだ。


 何か効果出てくれ――と思ったのが良かったのか悪かったのか、アイアンゴーレムはピタリと動きを止めたかと思うと、今までにない速さでグリンと首を回した。


 その様子は明らかに俺をターゲットに定めたもので、なんの表情もないのに怒りが伝わってくるようだ。

 と、そんな事を思っていると、鉄巨人がいきなり寝転んだまま両腕を振り回しはじめた。


 それはまさに駄々っ子といった風情で、俺を狙っているのかいないのか判断がつかない。

 なにしろまだ生きているオーガやストーンゴーレムがいようとお構いなしに激しく裏拳を連発するので、巻き込まれた魔物が次々と死んでゆくのだ。


 ある意味、俺達にとってプラスになっているが、これではこっちから攻撃することも難しい。

 激しい打撃音が何度も轟き、わずか数十秒で辺りは絨毯爆撃に晒された戦場さながらの様相を呈している。


 ストーンゴーレム以降は全部そうだが、こんな強さの魔物はもっとレベルが上ってから戦わせろよ!

 ゲームならバランスがクソ過ぎて、ネットで叩かれまくるぞ。


 ……眼前の光景にちょっと現実逃避しかけたが、なんとか打開策を考えねば。


「シロ! 回復薬を買ってきてくれ!」


 まずは回復手段の確保、ということで指示を飛ばす。

 シロは即座に「キュ!」と答え、セーフティエリア内に飛び込んでいった。


 ゴーレムはいまだに暴れているが、幸いなことに徐々に動きが遅くなってきている。しばらくすれば通常通りの動きに戻るかもしれない。


 と、希望的観測を抱いていたところで、鉄巨人は自分の頭上に両の拳を叩きつけ、一瞬で上半身を起こした。

 ――反動で起き上がりやすい叩き方を模索してたのかよ!?


 文字通り体が固いからか座っただけで立ち上がることはできていないが、この状態ではこちらも簡単にはゴーレムの頭を攻撃することはできない。


 いや座ってても三メートルくらいだから、今の俺の身体能力ならジャンプすれば届くことは届く。でも攻撃した後、着地するまで無防備になるのは怖すぎる。


 ――なんて躊躇している場合じゃないよな。


 見たところアイアンゴーレムは背後には手が届きそうにない。ということで俺はもう一本のヒヒイロカネの剣鉈を所持品欄から取り出し、後ろから全力攻撃をかますことにした。


 ささっと背後に回り込み、俺は全力でダッシュジャンプする。狙いは当然、脳天だ。


「おらあああ!!」


 三度奇声を上げながら、渾身の力を込めて両手持ちした剣鉈を振り下ろす。

 それは上手くゴーレムの脳天に命中――すると思ったところで、奴はいきなり後ろに倒れ込んできた。


「がっ!?」


 若干猫背状態から背筋を伸ばして倒れてきたものだから、ゴーレムの後頭部は俺の腹にめり込み、嫌な音を響かせてから俺を弾き飛ばした。


 しばらく滞空した後、俺は強かに地面に叩きつけられる。

 痛みと衝撃で息がつまり呼吸が出来ない。この感じでは、完全に何本も肋骨が砕けている。


 ――畜生、座ったのも誘いだったのかよ!


 ていうか体が動かねえ。裏拳よりはマシだと思いたいが、ほとんど致命傷みたいな状態かもしれない。


「キュ~!」


 クロが慌てた様子で駆けてきた。

 俺がやられて心配してくれたのかな? と思ったら、俺のすぐそばに生き残りのオーガがいて、今にも俺に掴みかかろうとしているところだった。


 クロのキックがオーガの顔面にめり込み、その行動を押し止める。間一髪、オーガの手は地面を叩くにとどまり、俺は命拾いをした。

 と言っても、ほんの数秒だけ寿命が伸びたって感じかもしれないが……。


「キュキュッ!」


 諦めかけた俺を救ったのは、またしてもウサギだった。

 低級回復薬を売店で買ってきたシロは、器用に両手で小瓶を持ち、コルク栓を噛んで引っこ抜いて俺の口に突っ込んだ。


 回復薬が喉に流れ込み、胃に届く頃には体に少しだけ活力が戻ってきた。

 シロはもう一本を開けて、俺の腹にぶっかける。


 内と外からの治癒で、砕けていたであろう肋骨の痛みが引いてゆく。こうなると現金なもので、なんとか生き残ろうと俺は行動を起こした。


 まずは吹き飛ばされ取り落していた、ヒヒイロカネの剣鉈を拾いに走る。

 完全に治ってはいないからか胸と腹がひどく痛むが、なんとか剣鉈を拾い上げ、クロが相手をしているオーガの延髄に突き立てとどめを刺した。


「シロ、もう一本くれ」

「キュ!」


 シロが出してくれた低級回復薬を一気にあおり、痛みで動きが鈍らない程度に回復するのを待つ。

 そうこうしている間に、アイアンゴーレムは再び上半身を起こしていた。


 関節の可動域の問題か、どうやら座った状態から立ち上がることは出来ないらしく、両手を腰の脇やや後方につっかえ棒のようにして支えている。


 この両手を前に出せば、さっき俺が喰らったヘッドバットを出せるということか。

 だが逆に言えば、何かしようと思ったらその度に倒れるということでもある。


 ――ならば頭突きを誘ってやれば、攻撃しやすくなるかもしれない。


「クロ、俺がなんとかしてゴーレムの頭にこいつを突き刺す。その後、スキを見て追撃してくれ」


 俺は剣鉈を掲げ、追撃は柄頭にと身振りで示す。

 するとクロは「キュ~」と一鳴きし、了承するように頷いた。


「シロは、いざというときのフォローを頼む」

「キュ!」


 そしてシロにも指示を出し、俺は即座に駆け出した。

 アイアンゴーレムの背後に周り、雄叫びを上げ全力でジャンプする。


「うおおおお!!」


 その行動はさっきの焼き直しといった感じだが――当然、狙いは違う。

 アイアンゴーレムは再び身を起こし、俺に頭を叩き込もうとしてきた。


 そこで俺は剣鉈を所持品欄にしまい、両手でアイアンゴーレムの頭を、両足の裏で肩を受け止める。

 それから地面への激突に巻き込まれないよう、後方へと跳躍した。


 ――ズドォン!


 大地を揺るがし、アイアンゴーレムの巨体が倒れる。

 すぐに俺も着地し、再び駆けだした。


「くらええええ!!」


 右手で逆手に持ったヒヒイロカネの剣鉈の柄尻を左手で押さえ、俺は全力でゴーレムの目に切っ先を突き刺した。

 目の位置はわずかにくぼんでいるため、より深い場所まで刺さるだろうという考えだ。


 ――ガギュッ!


 硬質で耳障りな音が響き、切っ先は十センチほどめり込んだ。

 もっと押し込みたいところだが、あまり近くにいすぎると反撃を受けかねない。


 ということで、俺は即座に後退する。あとはクロの追撃に期待するのみだ。

 一方アイアンゴーレムは、思ったとおりに俺に攻撃を加えようと拳を振るってきた。


 だが肩関節の可動領域の関係で、俺のところまでは届かない。というか拳を当てようとしているため、よりリーチが短くなっている。


「キュキュ~!」


 そしてクロはそこをチャンスと見たのだろう――大きく跳躍し、倒れたままの鉄巨人へと全力のウサキックを放った。

 狙いはまっすぐ顔面に刺さる剣鉈の柄頭だ。


 これで決まる――そう思った俺だったが、すぐにそれが間違いだったと思い知らされた。

 なぜか? それはゴーレムが叩きつけた拳の反動を使って、今度はクロを迎撃するように身を起こしたからだ。


 ――グシャッ。


 落下の勢いとアイアンゴーレムの起き上がる勢いが合わさり、鉄の頭がクロの下半身を直撃した。骨を砕く音が異様にはっきりと耳に届き、クロの小さな体が落下してゆくのが妙にゆっくりに見える。


「クロおおおお!!」

「キュキュキュッ!!」


 クロが地面に叩きつけられる直前、我を取り戻した俺とシロは全力でクロを拾いに駆けた。スピードの差でシロがクロを拾い、その下に俺が滑り込む。


「シロ! 回復薬だ!」

「キュキュッ!」


 クロを地面にそっと寝かせ、シロが低級回復薬を飲ませようとする。

 ――しかし、クロは薬を飲まない……いや、飲む力がないのだ。


「シロ! 薬をぶっかけまくれ! その間に俺が――」


 指示を出し、俺は立ち上がってアイアンゴーレムをにらみつける。


「アイツを倒して終わりにする……!」


 戦闘が終わってレベルが上がれば受けたダメージは回復する。だから一刻も早く、このサドンクエストを終わらせるのだ。

 そうすればクロは必ず助かる。


「いくぞ!」


 俺が駆け出すと同時に、アイアンゴーレムが地面を殴りつけて立ち上がった。これまで座ったり寝たりしていたのは、いちいち大きく反動をつけなければ立ち上がれなかったからということなのだろう。


 そして立ち上がったゴーレムが何をするかといえば、セーフティエリアの耐久力を削ること。俺が近づくのも無視して拳を振り上げている。


「うおおお!!」


 両手持ちしたヒヒイロカネの棍棒を鉄巨人の膝裏へと叩き込む。膝カックンの要領でバランスを崩させようとしたのだ。

 しかしアイアンゴーレムは何の痛痒も感じていないようで、そのまま壁に向かって巨大な拳を叩きつけた。


 ――ゴガァン!


 激しい轟音が響き、346あった耐久値は286まで減少してしまった。

 俺は焦燥感に突き動かされるままに棍棒を振るいまくる。


 だが少々の凹みができるだけで、やはりアイアンゴーレムは俺を無視して攻撃を続行した。


「畜生があああ!!」


 俺が棍棒を打ち込む音とゴーレムが壁を叩く音が、何度も辺りに響き渡る。

 ――このままじゃダメだ! 何か、何か手はないのか!


 現状を打破する手段を求めて俺はあちこちに視線を走らせる。

 魔物の群れを倒したことで、そこかしこにドロップアイテムが散乱しているから、何か良いものはないかという悪あがきだ。


 そして一つの魔石に目が止まった。

 これはオーガがドロップしたと思われる拳大の物で、そこそこ強い魔力を放っている。


 ――ジェルボールからドロップする魔石ってなんなんだ? と思ってはいたが、これまで深く考えたことはなかった。

 しかし魔石で『魔力が籠もっている』というのなら、電池みたいな物なんじゃないか?


 であるなら、魔法を使うのに必要な魔力を代替させることが可能なのでは――そう考えたところで、いよいよセーフティエリアの耐久値がゼロになった。


『セーフティエリアの耐久値がなくなりました。これより魔物の侵入が自由となります』


 わざわざシステムアナウンスも流れ、俺の焦りを煽る。

 ――もう迷っている猶予もない、と俺は魔石を拾いに走った。

 もはや、思いつきであろうとも何とかするしかないのだ。


 ――バガァッ!


 ついにゴーレムの巨拳により、セーフティエリアの防壁そのものが砕かれた。

 俺は魔石を二つ拾って一つを所持品欄に収め、壁内へと歩を進めようとしているアイアンゴーレムを追いかける。


 ――上手く行ってくれよ。


「ピット! ピット! ストーンウォール! ストーンウォール!」


 四度魔法を連発すると魔石が砕け散り、俺は気絶せずに済んだ。そして発動した魔法により、アイアンゴーレムは両足を穴に落とされ、さらに足回りを石によって固められた。


 破壊された壁とゴーレムの隙間から俺はセーフティエリア内に駆け込み、もう一つの魔石を取り出す。

 ここからは完全に運頼みだ。


「フィジカルブースト!」


 魔石から吸い出した魔力を全身に巡らせ、俺はいまだに成功したことのない強化魔法を発動する。上手く行けば無属性魔法を習得してクロのように身体能力が強化されるが、失敗すれば気絶することになるだろう。


 気絶すれば俺もクロも、そしてセーフティエリアも終わりだ。シロは逃げることができるだろうが……彼は逃げないだろう。

 そうなれば全員が死ぬことになる。


 そんなのは絶対に嫌だ!


 ――ピロリン。


『無属性魔法を習得しました』


 福音の如きシステムアナウンスが流れ、俺の体が魔力の光に包まれる。

 スキルレベル1では大した効果はないだろうが、それでも今の俺にとっては何より頼もしいものだ。


「うおおおお!!」


 雄叫びを上げ、最後の一撃を加えるべく俺は駆け出した。

 もう誘いも何もない、ただ一直線にアイアンゴーレムの左目に刺さっている剣鉈の柄頭をぶっ叩くだけだ。


 百メートル五秒を切るだろう速度で疾走する俺を、迎撃しようと鉄巨人も腕を振りかぶる。

 どうやら防御しようという思考は持っていないらしい。


 ――しかし、このまま真っ直ぐ前進すれば死ぬのは俺だ。

 だから、そうはさせない。


「ストーンウォール!」


 二回目の魔法で魔石が砕けた。ムリヤリな無属性魔法行使でレベルに反した魔力を消費していたのだろう――しかし、この一回は値千金だ。


 足元から急速に伸びた石の壁が、俺をゴーレムの顔の高さまで押し上げた。

 さっきまで俺がいた場所めがけ鉄の剛拳が振るわれ、石壁が粉微塵に砕ける。


 その時には俺はすでにヒヒイロカネの棍棒を両手持ちにし、全力で鉄巨人の頭へと跳躍していた。


「これで……終われえええええ!!」


 気合と願いの叫びとともに、パンチを放ってスキを晒すゴーレムの顔に一撃を叩き込んだ。

 魔法金属の棍棒は狙い過たず剣鉈の柄頭を打ち、強化によって高まった破壊力を余すところなく伝える。


 ――ギャゴッ!


 剣鉈の刃が鍔元まで埋まり、切っ先が僅かにアイアンゴーレムの後頭部から覗いた。

 全力攻撃の反動で俺の腕は両方とも手首が砕け、巨人の後ろへと投げ出される。


「があああ……!」


 地面に強か叩きつけられ、俺は痛みに悲鳴を上げた。それでも俺の意識は鉄の巨人がどうなったかに向いている。

 ――倒せたのか? それとも、まだダメなのか?


『サドンクエストをクリアしました』


 その時、待ち望んだ終了の宣言が響いた。


「やった……! シロ! クロは!?」


 引き続き経験値やGPの取得のアナウンスが流れるが、そんなことより今はクロだ。

 レベルアップにより一瞬で回復した体を起こし、シロとクロの様子を確認する。


 だが、シロは気落ちした様子でうなだれていて、クロは微動だにしない。


「……嘘だろ?」


 目の前が真っ暗になるような感覚に陥りながら、俺はシロとクロの元へ歩み寄る。

 砕けていたはずの下半身はキレイに元に戻っているし、ステータスにも異常はない――だからクロは間違いなく、完全に回復している。


 なのに何故、クロは目覚めない?

 間に合わなかったのか?


「そんな……」


 クロのすぐそばで俺は膝をついた。

 シロは相変わらず座り込み俯いたままだ。


「……ん?」


 あれ? これ、チョット待って。

 クロの口元に耳を寄せると……穏やかな呼吸音が聞こえる。シロも確認すると、同様だ。


「……寝てるだけかあああい!!」


 思わず叫ぶと、二匹はうるさいとでも言うように顔をしかめて一瞬だけ目を開け、すぐに再び寝息を立てはじめた。

 ――まったく心配させやがって!


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