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なんか大量の魔物が攻めてきた!

 予定通りイエティを狩り、シロとクロにツナギを作った。

 着せた当初は動きにくそうにしていたが、しばらくしたら慣れたみたい。


 ただ、今の時期だとまだ暑いらしく、すぐに脱いでいた。ダンジョンの地下三階に降りる直前に着るようにしないとね。


「さて、今日は――」


 ――ギャー!ギャー! ブギィー!


「……何この声」


 酒場で朝食を終え、今日は何をするかと考えていると、セーフティエリアの北西側から多数の鳴き声が聞こえてきた。

 かなりの数のモンスターが争っているような雰囲気がある。


 あっちの方角は森と山ばかり、そしてダンジョンがあるが……。昨日までは、山中にこんな大量の魔物がいる雰囲気はなかった。

 それなのに、この感じは――。


「また、お約束か?」


 ファンタジー物では「ダンジョンがあれば氾濫する」というのがテンプレだ。

 特にあまり人が入っていないダンジョンでは、狩られないまま繁殖した魔物があふれるというのが当然の流れとなっている。


 翻って、近所のダンジョンではどうか? 地下三階までは俺とシロクロコンビが潜っているが、それより下は全く未踏の地だ。

 ――確証はないが、氾濫の条件を満たしていたのかもしれない。


 となると、この後の流れは「強い魔物に追い立てられた弱い魔物が、生息域から移動する」というものになるか。

 それは自然と山を下る方向になるだろう。


「じきに、ここまで来るか……」


 声の聞こえ方から、さほど余裕はないだろうと判断できる。なら短時間で必要な準備を整えねばならない。

 となれば、なにはなくとも回復薬関係だ。


「シロ、クロ、売店でしこたま回復薬と解毒薬を買い込むぞ!」

「キュ!」

「キュ~!」


 二匹に指示を出し、即座に売店にダッシュする。ウサギたちの方が足が速いので置いていかれた。

 俺が到着する頃にはもう買い物が済んでいるのだから見事な物だ。


「低級回復薬と低級解毒薬を五十本ずつくれ!」

「承知しました。――お待たせしました」


 注文すると、ものの数秒で所持品欄に薬が納品される。現在の枠は十六種なので、これで所持品欄は満タンだ。

 もう用意できる便利アイテムはないな……。


「よし、シロ、クロ、北西の壁に向かうぞ!」


 再びシロクロコンビに声をかけ、俺たちはギルドから飛び出した。

 魔物の叫び声は徐々に近づいてきている。時間的な猶予は、もうほとんどなさそうだ。


 星型の頂点の一つへ、北西側の壁に設置された階段を使い駆け上がる。

 ここがダンジョンから一番近い。


 状況に合わせ、西の頂点側にも移動しつつ戦うことになるだろう。

 森に向けて目を凝らすと、ザワザワと木々が揺れるのが分かる。どうやら、俺が作った道を使って移動してきているようで、さほど範囲は広くない。


「……来たか!」


 しばらく観察していると、とうとう魔物の先頭集団が森から飛び出してきた。

 浅い階層にいるからだろう、現れたのはゴブリンだ。


「シロ、クロ、しばらく魔法は控え目で節約しよう」


 そう言うが早いか、俺は壁から飛び降りゴブリンに駆け寄った。両手にはヒヒイロカネの剣鉈だ。

 浅い階層の魔物と森にいる魔物が相手なら武器は何を使っても問題ないが、今は威力より使いやすさを優先する。


「キュ!」

「キュ~!」


 ウサギたちも俺に続いて飛び出し、一足早くゴブリンを蹴散らし始めた。俺も負けじと剣を振るいまくる。

 相手が弱い――いや、ヒヒイロカネ装備が強い――ため、当たれば倒せる状態だ。


『サドンクエスト、ダンジョンの氾濫が開始されました』


 と、そこで遅まきながらシステムアナウンスが入る。

 サドン――突発ってことか。言い得て妙だな。

 察するに、魔物を全部とは言わずとも、大量に倒してセーフティエリアを襲わないようにするのがクリア条件ってところか。


 さーて、いったい何匹と戦うことになるやら。



 サドンクエスト開始から約一時間――ゴブリンから始まった戦いは、ディジーバット、オーク、キラービーの混成軍との戦いに変化していた。


 時折、思い出したように現れるジェルボールとハームラビットもいるが、他よりずっと弱いので特に問題はない。

 しかし、これまでの流れから考えると、そろそろクレイゴーレムが出てきてもおかしくないはずだ。


 クレイゴーレムは足が遅いから合流が遅れていると考えられる。

 それからイエティだが、おそらくクレイゴーレムと同時くらいには現れると思う。戦った感じでは、けっこう足が早そうだったからな。


 問題は今のところ地下三階ではイエティ以外とは戦ったことがなく、もう一種いると思われる魔物が分からないこと。

 そしてダンジョンの氾濫がもっと深い層からの魔物も現れるのなら、地下四階、地下五階の魔物が現れた場合まともに戦えるのか? という不安がある。


 なにしろ『巨人の迷宮』なんて名前のダンジョンなのだから、深層になれば確実に巨体の持ち主が現れることになるのだ。

 イエティにすら苦戦しかねない現状、どうにか分断して戦わなければなるまい。


 具体的な方策はまったく思いつかないが……。


「来たな」


 ひときわ大きな足音が近づいてきている。

 ちらりと見えたのは白い体毛――イエティだ。


「シロ、クロ、壁に上がるぞ!」


 ここからは魔法の温存はあまり考えられない。ということで、壁の上からの攻撃に切り替える。

 シロクロコンビは即座に撤退、俺もアースウォールで足場を作り壁に飛び乗った。


 俺が離れた後、アースウォールはすぐに崩れる。魔力で作る方だと、術者が解除すると土の壁でも石の壁でもすぐに消えるから、こういうときには便利だ。


 イエティの行動を確認すべく振り向くと、なんと奴は全力でジャンプしてきていた。


「マジかよ!」


 ――ドン!


 迎撃を……と思った俺だったが、それよりも早くイエティは見えない何かにぶつかって跳ね返った。


 ピロリン。


『セーフティエリアの耐久力:999』


 うわあ、何やら嫌~な表示が現れましたよ!

 これゼロになったら、大物や飛行型には飛び込まれるようになるんだろうなあ……。


 そんな俺の予想を裏付けるように、次々と壁に攻撃を加えてゆくイエティ。その度に耐久力の数値は減ってゆく。


「ファイアウォール!」


 続いて現れた十体ほどのクレイゴーレムの群れと、五体ほどのイエティの群れにまとめて対処すべく、俺は火の魔法を広範囲に放った。


 それなりの時間持続するファイアウォールなら、クレイゴーレムは確実に足が鈍る。イエティも火が苦手だから、そこそこダメージを与えられるだろう。


 そう思って見ていると、イエティは前進を躊躇するようになったが、クレイゴーレムは焼かれるのも気にせず前進し続ける。そして壁に向かって拳を打ち込み――自らの破壊力で自壊した。


「こりゃいいや」


 クレイゴーレムは放置でOKだな。

 イエティ、そしてまだ残っている浅層および森の魔物はファイアウォールのない方へと移動しようとしている。


「キュキュッ!」


 どうにか魔物を逃さないようにせねば……と思ったところでシロが動いた。

 シロが発動したのはダンジョンでたまに使っていた風魔法の小さな竜巻。


 横向きに放たれたそれは火を巻き込んで炎の竜巻と化し、十体以上の魔物を巻き込む。

 流石にオーク以上の魔物は倒せなかったが、それでもなかなかのダメージを与えられたようだ。


 ということで、俺もシロの真似をして【トルネード】でファイアウォールを巻き込む戦法を取る。

 二度目の攻撃でオークが、四度目の攻撃でイエティが倒れた。


 これで後続が来ても楽ができる――と考えたのがフラグになったか、重い足音を響かせ数体のイエティとともに現れたのは、石でできた巨人・ストーンゴーレムだった。


 その体はイエティよりも一回り大きく、いかにも力が強そうだ。ただクレイゴーレムより、さらに足が遅い。


「うわあ……こりゃ火は効かないだろうな……」


 とはいえ、イエティがいる間はファイアウォールは切らせない。並行してストーンゴーレムにも効く対処法を探るしかないだろう。


「シロ、イエティを任せる。クロはシロの護衛を続けてくれ」


 二匹に指示を出し、俺はストーンゴーレムに目を向け考える。

 今現在、俺が使える攻撃で効きそうな物というと……ヒヒイロカネの棍棒か、スパイラルブレットくらいか?


「なら、こっちからだな……スパイラルブレット!」


 両手で二発の、圧縮した石の弾丸を打ち出す。

 狙いはストーンゴーレムの足の甲――パッと見、一番防御が薄そうな場所だ。


「よし!」


 上手いこと二発とも左足の甲に命中し、人間であれば指の付け根の辺りから割れた。するとストーンゴーレムは踏ん張りが効かなくなったのか、その場に片膝をつく形で前進を止めた。


 右足が前に出た形になったので、今度は右足の甲を狙い撃つ。

 立ち上がろうと中腰になっていたストーンゴーレムは、完全にバランスを失いうつ伏せに転倒した。


 これでストーンゴーレムは完全にただの的だ。どこを破壊すれば倒すことができるのか試してみるとしよう。



 しばらくあちこちにスパイラルバレットを打ち込んでみたところ、ストーンゴーレムの弱点は頭と判明した。あとは冷静に倒すだけ……とはいかないかもしれない。


 増援が現れたからだ。

 しかもイエティ、ストーンゴーレムにプラスして、オーガが現れた。こいつが意外と足が早く、イエティとともに群れを成して駆けてくる。


 その威圧感は凄まじく、正直いって俺はビビっていた。

 次々に現れる巨人たちによってセーフティエリアの耐久値が徐々に削られてゆく。


 すでに数値は900を下回り、一秒に一ずつ減る勢いだ。このままでは、あと十五分もしない内に耐久値がなくなってしまう。

 それに、もう既に魔法を限界近くまで使ってしまった。となれば、どうあがいても接近戦に移行せざるを得ない。


 明確に弱点のあるイエティや喋らないゴーレムと違い、オーガは火もあまり恐れないしメチャクチャ吠えまくるから、ホント怖いんだが……。


「キュッ!」

「キュ~ッ!」


 そんな俺の思いを知ってか知らずか、シロクロコンビは状況の変化を悟ったらしく、勇ましく声を上げながら壁から飛び降りてゆく。


 ――まったく、これで俺がヘタれてるんじゃ格好がつかないよなあ。


「うおおお!! 行くぞおおお!!」


 さあ来いリョウジ!!

 ――俺の勇気が世界を救うと信じて……!

 冗談でも言ってなきゃ、やってらんねーよ。


 雄叫びとともに壁から飛び降り、手近にいたオーガのふくらはぎにヒヒイロカネの剣鉈を叩き込んだ。

 上手いことアキレス腱が切れたか、そのオーガは膝を折る。


 そこにもう一方の剣鉈を、喉元に滑り込ませ一直線に切り裂いた。

 しゃがんでて高さが丁度いいとか、でかすぎるだろ。



 倒したかどうかの確認はせず、俺に気づいた他のオーガに矛先を変え全力で突っ込んだ。

 唸りを上げて振り下ろされた豪腕をかいくぐり、再びふくらはぎに一閃、膝をついたら首を切る。


 恐ろしい幸運に助けられ、同じパターンで二体のオーガを動けなくすることが出来た。

 気を抜かず、思考をやめず、俺は足を動かし剣鉈をがむしゃらに振り回す。


 シロとクロは蹴りによる打撃がメインのため、ストーンゴーレムの足を砕くことに集中している。

 彼らのスピードなら掴まることはないだろうし、確実に動きを止められる相手から対処していくのは良い判断だ。


 ちょっとした空隙ができたら低級回復薬を取り出し、喉を潤すのと体力の回復を同時に行う。ここまでに使った回復薬は、すでに十本を超えている。


 はてさて……クエストをクリアするまでに、あと何本使うことやら。


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