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クトゥルフ神話

手記

作者: NARU0040

 半年前、湖のほとりに家を建てた。色々あって一ヶ月前にその家を放棄した。今はぼろいアパートで部屋を借りている。苦労して手に入れた家を一年足らずで手放した理由を周囲の人達にしつこく聞かれたが、なんとか隠し通した。この秘密は墓まで持っていくつもりだった。しかし、あまりにもしつこく聞かれ、日に日にこの秘密を他人に打ち明けないでいるのが難しくなってきた。そこで、少しでも楽になればと思い、事の顛末をここに書き付けることにした。そうやって頭の中を整理すれば、案外大したことではないかも知れないと、そう考えた。

 それが起きたのは十月七日の日曜日、前日に台風が上陸しその日は酷い大雨だった。特にすることもないので家の掃除をすることにした。散らかさないように日頃から心掛けていたつもりだが、自分の思っていた以上に掃除は手間が掛かった。掃除を始めて三時間。ようやく綺麗に片付き、コーヒーでも飲もうかと立ち上がり机の上を見ると、見覚えのない一冊の本が置いてあった。厚さ四センチほどの豪華な装丁の革表紙で、表紙の文字はいくらか擦れていたが「グ■■キの■示録 ■十二巻」と書かれていた。その時の私にはなぜかこの本がとても魅力的に思えて、気が付けば居間の椅子に深く腰掛け、この本の表紙を開いていた。

 本の内容は恐らく神話について述べていたのだろうが、肝心な所が塗り潰されたり、ページが破れたりしており要領を得ない物だった。本を読み終え時計を見るとすでに日付が変わってしまっていた。慌てて昼間から開けっ放しだった居間のカーテンを閉めようと窓に近づいた時にはもう遅かった。

 目と鼻の先、窓のすぐ外にそれは居た。一見ただの肥満体の男に見えたが、白く膨れ上がってぶよぶよとした体から湯気を立ち昇らせた「なにか」には首から上が存在していなかった。代わりに、突き出した両手のひらに鋸の様な歯がびっしりと生えた口があった。窓の外で静かに佇んでいた「なにか」はしばらくこちらを視た後、ゆっくりと夜闇の中へと消えていった。

 今になってもあれがなんだったのか見当もつかない。あれはきっと本来人間が知ることのないこの世界の―――血まみれの手記はここで途切れている。



「本日午後二時頃、都内のアパートから遺体が発見されました。遺体は全身に動物に噛まれたと思われる傷があり、警察は動物を利用した殺人とみて捜査を進めています」

哀れなこの男が犯した過ちは単純だ。彼等の姿を見てしまったことである。


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