2019/04/22 15:35/猩々
『日向、水蜜』
日向夏。
僕たちの町を作った細い川を銀の魚が遡泳する
今となっては曖昧だが、確かにあの日君はいたのだ
ケーブルを数えた丘の上、Ω塔の袖は緑色に翻った
海はきらきら、きらきらしていた、その前を電車が通った
赤いレンガのトンネルが二つ、銀の箱が合間を流れた
僕たちはそれを見ていたはずだ
ばちん、それだけはよく覚えている、誰かの死が聞こえたはずだ
白砂糖。
そうそう、あの日なんか汽車が走っていたね
昨晩の雪が深い中、真っ白な曇りの中
海と車体とトンネルだけが、触れられないほどひんやり
はっきりした輪郭を、真っ黒く引いていたね
そんで、あのどれもが、嘘だった世界の外に繋がっていたね
私はガタガタの窓を開けてあなたと話をした
塔には弦が一本だけ残って、楽器みたいな音を鳴らした
いや…そういえばあれはただの桃売りだった
向日葵。
僕はもうここまでやってきた、円琴だけが浮いている
差し渡し世界の全てで、同名に奏でる、触れることは
心の単音を鳴らしても意味がない、記憶しか持たない
僕にはもうなにもできない、そんな振りをして近づく
僕には夕の雨があるのだ、君の驚く顔がうつっている
中心に触れるだけでいいのだ、それで世界の音は消え
水蜜桃。
私はこんなところまで来てしまった、消えたあなたを探してきた
洋針は何光年先から延びて、今海面に突き立っているんだろう
そしてそれは何本あって、あの白塊の中で嘘をついているんだろう
真っ白な宇宙はずっと流れていて、ここには空気もないのに
幾らの針だけひたすら星を求めて、水満つ原動の中、重ならない波
一しずく、飛び出してきた私がそこに落ち、飛沫をあげて
さあ、泳いでやろう
全部めちゃくちゃにしてやる