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イエローブースター  作者: 綾沢 深乃
「第7章 クローバーとイエローブースターの関係性」

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26/34

「第7章 クローバーとイエローブースターの関係性」 (1)

(1)

 その日、彼女はその街に仕事で訪れていた。車を丘の上にある公園のパーキングに停めて、近くの喫茶店で打ち合わせをした。長い時間をかけて話を重ね、終わる頃には、外が夕焼けで真っ赤になっていた。相手と別れて車に戻る最中、先程までの打ち合わせ内容について考える。

 決して楽な相手ではなかったが、長時間費やした甲斐あって、それなりの成果があった。今回はココまで。元々、分が悪いと考えていた相手にあそこまでやれたのだ。快勝とは言えなくとも大敗ではない。

 当初の予想よりもプラスの結果を生んだ事が、彼女の進路をそのままパーキングにではなく、公園へ向けさせた。

 乗ってきた自身の車を一瞥して、公園内へと入る。

 パーキングからは公園の周りを囲む針葉樹で中は見えなかった。こうして中に入り周囲を見回すと、その景色に思わずため息が出た。

 住宅街の真ん中にあるその公園は、どこにも特徴的な印象はなく、カラフルなジャングルジムや背の低い滑り台。そして、砂塵が舞わないようにカバーがされている砂場があるだけだったのだ。

 取り敢えず作りました。

 そういった言い訳めいた声がどこからともなく聞こえてきそうだった。

 時刻は既に十七時を回っている。夕焼け空の公園には、子供の姿は見当たらない。

 こんな公園は、子供の側から遊ぶ価値がないと思われているのだろう。

 入った時の気分は一気に萎えて、ただ機械的に足を動かして、公園内を散歩していると、いないと思っていた子供を見つけた。

 良かった、ちゃんといるじゃない。

 本来ならココにいて当たり前の子供の姿にほっとする。見つけたのは男の子が一人。背丈から小学校低学年くらい。

 今ならライバルがいなくて独占出来るのに遊具の方を見向きもせず、一面の緑の床でしゃがみ込んでいる。一体、何を探しているのか。まさか体調が悪くて動けない? だったら、早く助けに行かないと。速足で彼がいる一面の緑に向かう。すると、彼が何を探しているのか分かった。

「そうか、四つ葉のクローバー」

 彼の行動原理が分かって思わずそう声が落ちた。

 その声はとても小さかったので、風で飛ばされてくれれば良かったのに残念ながら彼の耳まで届いてしまった。集中して探していたのだろう。誰かが近くにいた事に気付かなかったらしく、ビクっと小さな両肩を跳ねてから、恐る恐る振り返った。

 綺麗な顔立ちをしている。彼女は彼の顔を見てそう感想を抱いた。

 顔立ちのせいで一見すると女の子にも見えるが服装が否定している。

 このまま順調に成長すれば背も伸びてきっと格好良くなる。しかし、今はそんな未来を考えるより彼の警戒を解く方が先だ。

 悪意はない事を示すように両手を上げた。

「ごめんね。驚かせるつもりはなかったの」

 警戒心を維持しつつ、コクンっと頷く彼。

 普段は話さない年齢の子供に少々焦りながらも、彼女は分かりやすく伝わるよう人差し指を立てて思い付いた事を提案した。

「四つ葉のクローバーを探してるんでしょう?」

「はい」

「良かったら私も一緒に探そうか?」

「えっ? どうしてですか?」

 純粋な疑問を二つの茶色の瞳に浮かべて彼はそう質問してくる。

 その質問はもっともだ。立場が逆なら自分でもそう尋ねるだろう。現に提案した本人も、なぜそう言ったのか、すぐに理解出来なかった。

 なので周囲の環境を見回して、適当な理由を即興で作った。

「もう時間も遅いからね。夜になったら地面がよく見えなくなるよ。それなら、今の内に二人で探した方がいいじゃない。探す目が四つに増えるから」

「確かに」

 多少は警戒心を解いてくれたのか。彼は一回目よりも軽くコクンと頷く。

「どう? 私も探していいかな?」

「はい」

「よーし。決まり」

 四つ葉のクローバーを探す許可を得た彼女は、自身の肩掛けカバンを近くのベンチに置いて腰を落とす。

 鼻が緑の地面に近付くと、途端に植物の匂いが鼻を探る。久しぶりに嗅ぐ匂いに自然とワクワクした。逸る気持ちを抑えて腕時計で時刻を確認すると、タイムリミットまで後一時間程度といったところだった。手伝うと言ったからには、必ず見つけたい。大丈夫、いざとなったら、イエローブースターを使えばいい。今日の分はまだ残っているのだ。

 そんな邪な気持ちを抱えつつ、四つ葉のクローバー探しがスタートした。


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