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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

バーチャル

 ゲームが大好きな男性がいる。男性の名は斉藤良太。年は二十二歳。見た目はごく普通の青年。特に太っているわけでもなく、眼鏡をかけているわけでもない。自分の部屋にたくさんのフィギュアがあるわけでもない。至って普通のどこにでもいる若者だ。


 彼は今日も大好きなゲームで遊ぶためゲームセンターにやって来ていた。


「ラッキー! 今日は空いてるじゃん」


 目当てのゲームを見つけるとゲーム機の前に腰掛けた。彼が今ハマっているゲーム「ハンター」は街に潜んでいる「デモニオ」と呼ばれる悪魔に似たモンスターをやっつけるものだ。


 「デモニオ」は人の形にも化けられるため特徴を見つけて倒さなければならない。デモニオの特徴は尻尾が出ているや人と違った行動をしているなどを示す。突然、目の前に現れるデモニオもいる。ステージがいくつか設けられていてクリアするごとに次のステージに進むことが出来る。


 初めの方のステージは人に化けているデモニオは出現しない。突然、行く手を阻むデモニオが現れて攻撃してくる。攻撃をかわしながらデモニオを倒していくのだ。デモニオを倒すには主人公の所持している武器を使う。良太はこのゲームにもうずいぶん慣れてきていて最初のステージなんてお手のものだった。そんな彼の元へ一人の女性が近付く。


「やぁ。良太くん」


「おー、香織どうだよ? 調子は」


「いやー、やっぱり難しいね。全クリなんて出来ないよ」


 香織と呼ばれた女性は頭を少し掻きながらそう答えた。彼女はこのゲームセンターの常連で「ハンター」にハマっている一人。容姿は背が小さくて丸顔でかわいらしい感じだ。良太とはここで知り合った。元々は良太が「ハンター」をしているのを見てから自分も「ハンター」にのめり込んだ。同年代の良太は良きゲーム仲間だった。二人とも暇があればここへ来て「ハンター」をする、いわゆるゲーマーだった。


 香織は良太の隣の席に座った。「ハンター」は十回・百円で楽しめる単価の安いゲームだ。今では家庭用ゲーム機が増えてしまい、ゲームセンターで遊ぶ人が少なくなってきたためゲーム会社が叩き出した苦肉の策だった。このゲーム会社の戦略にまんまと二人ともどっぷり浸かってしまっていた。


 そして、良太はいつものように百円を入れて「ハンター」のスタートボタンを押した。画面上には初期設定を決めるため性別が表示される。まず、男か女かを決めるのだ。


「男っと」


 良太は男を選びキャラクターが映し出される。次は使用する武器を選ぶよう指示が出る。武器は短剣、長剣、拳銃など様々なものが並んでいる。ここから十秒以内に選ばなければならない。どこのゲームでも時間制限があるのは変わらない。


 良太は決まって長剣だった。一番戦いやすいらしい。その上、デモニオが横並びになった際に一刀両断出来るというメリットがある。短距離になると非常に戦いづらいのが難点だが、仕方なかった。


 いよいよゲームが始まった。ゲーム内の世界は現実と酷似していて、銀行やビルが並ぶオフィス街が映し出される。駅を出て路地を歩く。すると、突然目の前にデモニオが五匹現れる。横並びに出てきたため得意の一刀両断で倒した。


「お前らザコはお呼びじゃないんだよ」


 デモニオを倒すと次のステージへと進む。第四ステージまでは、ひたすら悪魔の形をしたデモニオを倒していくだけだ。問題なのはそこから先。人の形へと変化するデモニオを見つけ出し、抹殺しなければならない。


「ここまでは余裕なんだよな。さ! 集中!」


 良太はそう言って気合いを入れた。第四ステージはオフィス街をたくさんの人が歩く。ここまでは特に人は多くなかったが、このステージから一気に難しくなる。良太もこのステージ以降に進んだことがなかった。子連れの人やOL、サラリーマンと様々な人たちが画面上には見られる。


 良太はこれだと思った人に目を付けて倒す。デモニオが化けている場合はそれなりの特徴が存在する。それを見極めて倒す。ちなみに人を誤って倒した場合はその時点でゲームオーバーとなる。


 ただ百円で十回遊べるため非常にお得だった。尻尾の生えている人間や植木の臭いを嗅ぐなどの妙な行動をしているのは間違いなくデモニオだ。そんな奴を見つけて片っ端から倒していく。


「今日はなんだか調子いいねー!」


 良太は上機嫌にそう言うと画面には第五ステージと表示された。第五ステージには良太も初めて来た。そのため非常に感情が高ぶる。

 第五ステージからは何度もデモニオを攻撃しないと倒せない。その上、デモニオの攻撃も強力になっている。


「うわ! 強いな。厄介だな」


 ブツブツと独り言を言いながらゲームを進める。しかし、ここまで来て誤って人を斬ってしまった。ゲームオーバーという文字が画面上に映し出された。


「えー!? あいつデモニオじゃなかったのかよ!」

 不平を言いながらコンティニューボタンを押す。しかし、何度やってもこのステージをクリアすることは出来なかった。結局、百円を使い切り十回のプレイを終えてしまった。


 データのセーブは出来ないため一回使いきると、次はまた一からのスタートになる。そのため良太は席を立った。隣にいる香織の後ろに立って香織のプレイを見る。


「あれ? ダメだった?」


「ああ。ステージ五まで行ったんだけどな」


 ため息をつきながら良太は話す。


「ステージ五かぁ。あたしは四で苦戦してるよ」


 そう言って香織は苦笑した。良太はタバコを取り出して、口にくわえて火をつける。大きく一回タバコを吸って、煙を吐くと言葉を返す。


「俺も今日は調子が良くてな」


「そっか。今日はもう終わり?」


 画面に目をやったまま香織が尋ねる。


「そうだな。そろそろ引き上げるよ」


 百円で十回も楽しめるため知らず知らずのうちに時間が経ってしまうのがこのゲームのすごいところだった。


「そっか。あたしもこれが終わったら帰ろかな」


 香織がそう言ったのを聞き終えると良太は「おう、頑張れよ」と一言放ってからゲームセンターを後にする。帰りにタバコが切れそうだったのを思い出し、コンビニに寄る。高校生ぐらいのアルバイトの店員さんに愛用のタバコを三箱用意してもらう。


「三箱で九百円になります」

 良太はそう言われて千円を差し出した。タバコとお釣りの百円を渡される。百円を見るとどうしても「ハンター」をやりたくなる。なにしろ、たったこれだけで十回も遊べるのだ。


「いや、今日は帰るぞ」


 良太は首を横に振って、コンビニを出てまたタバコを吸い始める。そうして帰ったつもりの良太だったが、気がつけば近くのゲームセンターにいた。


 そして、さっきの百円で「ハンター」を起動させた。先程のように第四ステージまでは軽々とクリアして、また第五ステージで足踏みしていた。ふと、表示を見るともうラストのチャレンジになっていた。


「もう十回目かよ」


 なかなかクリア出来ない自分にイラつきながらも最後のコンティニューボタンを押した。今回はあえて自分がいつも使ってきた長剣を辞めて短剣で戦うことにした。デモニオを見つけ出して倒していく。


「こいつもきっとそうだ」


 普通の人の行動ではないと感じた人間はゴミ箱を漁っていた初老の男性だった。自信満々に良太は彼を斬った。しかし、その人は斬られた腕を押さえながらこちらへ向かってくる。腕からは大量の血が溢れ出ている。


「え!?」


 その時点で誤って斬ったことに気付いた。いつもならここでゲームオーバーの文字が出るはずだが何故か出てこない。


 男性はものすごい形相でこちらを睨みつけて近付いてくる。振り向けば周りにいる人々がざわめきながらこちらを見ている。周りにいる人を見渡せば尻尾の生えた人たちで溢れている。


「デモニオだ!」


 そう思い良太は尻尾の生えた人たちに襲いかかる。周囲にたまっていた人だかりは散って、数名がその場に倒れる。大量の血がその場に流れている。周囲の散った人たちが悲鳴をあげる。


 尻尾の生えた人たちの目が再びこちらに集中する。そして、何人かの尻尾の生えた男性たちがこちらへ走って向かってくる。手にはハンマーや竹刀といった戦うための武器を持っている。


「どうなってるんだ! あんなに一斉に来られたらさすがに対処出来ない」


 このステージで多数の武器を持ったデモニオに追いかけられているため必死で逃げた。逃げ道にいる尻尾の生えた人を見つけると、良太は斬っていった。


 しかし、斬られていく人たちはその場に倒れ込み痛みに泣き喚く。血が大量に流れる。走りながら斬っている良太はデモニオを倒している感覚に陥る。


 デモニオを倒せば倒すほどスコアは伸びて次のステージに上がれるはずだ。良太は逃げながら、デモニオを倒して次のステージに進もうとしていた。しかし、後方には先程の男性たちが追いかけてきていた。


「くそ! どうなってやがる! まだ次のステージに進まないのか!」


 良太はここまでかなりの数のデモニオを倒したはずなのに、と首を傾げていた。状況が理解出来ず時折、後ろを振り返りながら走った。後ろからはパトカーのサイレンも聞こえてきていた。


「パトカー?」


 ゲーム内ではパトカーなんてものは存在しない。良太はようやく気付く。


「現実なのか……。冗談だろ?」


 そう思い手に持っている短剣を見ると、それは紛れもなくサバイバルナイフで血がべっとりと付いていた。


「うわぁー!」


 手に持っていた生々しい血の付いたナイフを見て現実に引き戻された良太は、ようやく事の重大さとに気付き大声を上げた。後ろを見れば、斬りつけた人々を抱えている人が数名いて自分を捕まえようと追いかけて来ている人が見えた。


 そんな追っ手を気にして走っていた次の瞬間。前方で大型トラックの急ブレーキの音が聞こえた。後ろを気にしていた良太はその音で前へと振り返る。

 その直後、自分の体がぶつかった衝撃で飛ばされるのがわかった。パトカーのサイレンが聞こえていた。近付いているはずのその音が次第に遠くなり、良太は意識を失った。良太が目を覚ますと、そこには香織が立っていた。


「良太くん。聞いて。あたし、全面クリアしたんだよ!」


 良太はそれを聞いて一言返す。


「やったな! 香織!」


「でも、残念ながら良太くんはゲームオーバーみたい……」


 香織はニヤリと不気味に微笑んでいた。

「今日未明、谷中村で連続無差別通り魔殺人事件が発生しました。死者の数、負傷者の数はハッキリしませんが、犯人と思われる男性はトラックに引かれて死亡した模様です。詳しいことが……」


 テレビのアナウンサーが淡々と話す声が聞こえていた。バーチャルではない現実の世界。決して迷い込んではいけない。


……その狭間には。抜け出すことは不可能だから。

‐完‐

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