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5話 その怠惰を、彼女は許さない

5話です

どうぞよろしくお願いします

 夕食を食べて、時計が7時半を回ったのを確認すると、和也はいつも通り枡爺の家に向かう。

 思わぬ出来事があったせいで頭から抜けていたが、問題は何一つ片付いていない。

 このまま類衣と争うことになるのだろうか。

 和也の足取りは重いままだった。


 村長の家の扉をたたくと、意外なことに類衣が姿をみせた。

 和也は内心ドキッとしたが、ポーカーフェイスを崩さず尋ねる。


「枡爺は帰ってきてるか?」


 類衣は無言で頷き、和也を中に入れてくれた。

 そのまま書斎に案内され、はたしてそこに枡爺はいた。


「ほんとにいつも通りだな。感心感心」


 いつも和也1人、多くとも枡爺を加えた2人でしか使わなかった書斎は、類衣の存在によって途端に小さくなったような気さえしてしまう。


「さて、和也にわざわざ来てもらったのは他でもない、類衣の意思確認のためだ」


 ゴクリ。和也の喉が鳴る。


「単刀直入に聞こうか。類衣、お前はもう一度外に行きたいと思うのか?」


 この質問を聞いた類衣の表情に変化はない。

 この時点で、和也は類衣の回答を察して、覚悟を決めた。


「うん、でたい。私はもう一度外をみてきたい」


 和也の想像通り、お互いの願いは重なる。

 叶えるためには1つしかない椅子の奪い合いをするしかない。

 類衣の肯定を聞いた枡爺は、2人に向き直った。


「...和也には言ったな。若い頃に必死でつくった儂のコネもそろそろ限界でな、やはり向こうが受け入れてくれるのは1人がせいぜいだ」


 類衣の表情は動かない。もともと1人しかでれないことは想定済みだったのだろう。

 しかし、類衣のポーカーフェイスはそこまでだった。

 枡爺は続ける。


「ちなみに選定方法だが、前と違って学力テストじゃない。勉強をやめろとは言わないが頭に入れておけよ」


「....?」


 もちろん、和也は訳がわからない。

 みると、類衣もしきりに首を傾げている。


「どういうこと?学力以外の何で選ぶっていうの」


「勉強がいらないって言うなら、俺らは3月までなにをして備えればいいんだ」


 2人の問いかけにも枡爺は動じない。


「儂からはなにも言えんな。一つアドバイスをするなら残りの1年間、この村での生活を最大限に楽しみ、行事に参加し、人とつながりをもつことが村を出る近道だ」


 和也の頭には疑問符が無数に浮かんでいた。

 おそらく類衣もそうなのだろうが、枡爺がこれ以上何も言わないのを理解すると一歩引いてしまう。


 その後、和也はほぼいつも通り枡爺勧めの本を読んで過ごした。

 いつもと少し違うのは、物置から椅子を引っ張り出してきた類衣が、同じ書斎で本を読んでいることだ。

 難しい本だからだろうか、和也のページをめくる手は、少々ゆっくりだった。




 類衣が帰ってきてから1ヶ月が経とうとしていた。

 この30日あまりの間の和也の日常の変化は、驚くほど少ない。

 明確に変わった部分といえば、隣の席が埋まり、枡爺の家で本をめくる音が2つになったくらいだ。

 それくらい自然に、類衣は和也の日々の生活に馴染んでしまった。

 自分から積極的に喋りに行くことはない類衣だが、孤立しているという感じはなく、恵の助けもあってか誰とでも話せる立ち位置を確立している。


 今日も、類衣は昼休みにわざわざやってきた恵と昼食を取っていた。


「ねぇ類衣ちゃん、学年順位どうだったの?」


 恵が自作の卵焼きをつつきながら聞いた。

 類衣は少し恵に近づき、声を潜めて答える。


「...1位」


 その言葉を聞いた恵は目を丸くしている。

 隣に座っているので2人の会話が丸聞こえの中、黙々と菓子パンを頬張る和也は、顔を少し顰めた。

 今回の中間テストで、和也の順位は42人中3位だった。

 いつもこのクラスの学級委員である高木と首位争いをしてる中で、急に順位が1つ下がったので薄々勘付いてはいたが、改めて耳にした事実に少々げんなりする。

 たしかに、和也は今回のテストでそれほど勉強をしなかった。

 だから高木にも上を行かれたのであろう。

 だが、類衣は4月分の授業をまったく聞いてなくてこれなのだ。

 もし、今回の枡爺の試験が中学卒業時と同じように学力で争うことになっていたらと思うと、今更ながら戦慄させられる。


「類衣ちゃんってやっぱり賢いんだね...

 次のテストは勉強教えてよ」


 今日の朝食で聞いたところによると、恵の順位は34位。

 どうせ大学にはいかないのだから、テストの結果をそれほど気にする奴は少ないが、根が真面目な恵は、テストのたびにあまり高くない順位を悔しがっている。


「別にいいけど、私は教えるの得意じゃないから、和也くんに聞いた方がいいんじゃないかな」


 突然話題にだされて、驚いてそちらを向くと、類衣と目があった。

 和也は慌ててそらしながら言う。


「俺だって得意じゃない。それに、出来の悪い生徒に教えると疲れるんだ」


 もちろん恵が噛み付く。


「なによ!所々省略しながら説明するくせに。

 あんな解説じゃわかる人なんて限られるわよ」


 そのとき、和也と恵の漫才のような口論をみる類衣の表情の僅かな変化に、和也は気づくことができなかった。

 恵が和也に摑みかかる寸前、坊主頭の生徒が何人か教室に入り込んできた。

 坊主頭8人の先頭にいた英二が声を張り上げる。


「野球部の助っ人求む!このままじゃ試合が成立しなくてほんとに困ってるんだ!できる限りの配慮はさせてもらうから誰か協力してくれ!お願いします!」


 英二が頭を下げると残りの7人が頭を下げた。


「お願いします!」


 声量と勢いを見る限り、ほんとに困りきっているのだろう。当たり前だ。

 立候補者がでなければ、彼らの日々の練習は、まったくの無駄になってしまうのだから。

 可哀想だが、自分は協力できないなと和也は思った。

 運動神経に自信がないわけではないが、野球の経験はキャッチボールくらいのものだし、なにより将来的にみんな裏切ることになる自分がそんな重大な責任を負うことはできない。

 みれば、他の連中も出来る限り目を合わせないようにしている。

 だが、そこに小さな手が伸びてきて、和也の腕を掴んで挙手させた。


「和也くんがやりたいって言ってる」


 決して大きくないのに、なぜかよく通る声が教室に響く。

 教室のほとんどが驚愕の顔で和也のことを見つめる中、類衣だけが以前無表情を貫いている。

 和也が突然の出来事に、類衣の方を向いて固まっていると、いつのまにか近くまで寄ってきていた英二が言う。


「和也〜!俺らを助けてくれるんだな?!ほんっと助かるよ!ありがとう....」


 英二の言葉の最後の方は涙ぐんでいた。

 ちょっと大げさ過ぎだろうと和也は思ったが、彼だって2年間きちんと努力を積んできた1人だ。

 本当に心配だったに違いない。

 英二や野球部連中の雰囲気からして、既に断れる雰囲気ではないのは明白だ。

 そこで、和也はあることに気づいた。

 いや、気づいてしまった。


「じゃあ、放課後に部室に来てくれ!詳しいことはそこで説明する!」


 顧問に報告でもしにいくのだろうか、それだけを言い残して英二たちは教室を出て言ってしまう。

 和也はドアのほうを向いたまま、無表情を崩さない隣の少女に話しかけた。


「類衣、話がある」


「ん、わかった。後でね」


「....」


 和也の心中を知ってか知らずか、無慈悲にも昼休み終了のチャイムが鳴り響くのであった。


読んでくれてありがとうございます

和也にはモデルがいますが、類衣ちゃんはいません

だから書くのが難しいのかもしれないです


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