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神になれなかった少年  作者: 田立
1/1

1.草食の神様

初夏の日差しが照り付けた街道を、馬車や徒歩の冒険者などが往来している。


その中、みすぼらしいマントを羽織った白髪の少年が、息も絶え絶えに城門目指して歩いている。

眼前にそびえる目的地に泣き言を吐きながら向かっている。


「なんでこんな事になっている・・世界の創造主たる俺が餓死寸前で彷徨事になろうとは・・・・」


少年は己の空腹感を呪いながら、黙々と歩く。

恨み言を吐くも聞いてもらえる相手もいないし、現状の置かれている状況は、自業自得なのであり、それが分かるうえでの独り言である。


神たる立場を捨て、人としての生を求めて地上に降りてきたのである。

自分で選んだ道ながら、現状の危機を脱する方法はないかと模索している。

街へ行けば、何とかなると全く持って根拠のない自信をもって、目指しているのである。


とにかく空腹だけは何とかしたいと考えていた矢先、

少年は不意に路肩に自生する食料に目を奪われてしまった。

「この草食えるかな。俺なら絶対にいけそうだけど・・・」

いやいやそれはないだろうと思いにふけるが、自らの迷いを断ち切る様に、

いきなり足元にある草を手で切り取ると、恐ろしいスピート゛で口の中にいれた。


「要は腹が膨れればいいだけだしな。フフフ」

少年にとっては毒があろうが食用に適さなくても、解毒魔法を心得ている自分なら問題ないだろうと判断したのである。意識がなくなって魔法が唱えられない危険性は考量していない。すなわち世界の創造主たる力を持ちながら少年の思考力は、少しかわいそうなレベルと判断できる。


草を食べていた少年は、なぜか満面の笑みを浮かべながら、さらに草を手で刈り取って食べている。

当然ながら、とてつもなくまずい。

少年にとっては食べられればそれでよいのであって、美味しいとか、まずいとかはどうでもよいのである。


そんな時である、背後に気配を感じ振り返ると、15歳位の少年と10歳位の少女が少し離れた位置からこちらを見ているのに気が付いた。おおむね兄弟らしき二人は、視線の先には見てはいけない物を見た

顔をしていたが、兄らしき方が困り果てた顔で話しかけてきた。


「今、草を食べてなかったか?」

「食べていたが、どうかしたのか?」

少年は見られていた事など気にする素振りもなく答えた。


少年の余りにも動じない姿に兄の方が驚いてしまった。

「すまんな、少し驚いただけだ。申し訳なかったな。気にせず食事を続けてくれ。さあ・・エリス帰ろうか?」

兄らしき少年は、早急に会話を終了させると、妹らしき少女に声をかけその場から立ち去ろとしていた。

しかし少女は動かず、草を食べている少年に興味があるようで兄の思惑も無視して話しかけてきた。

「道端の草をそのまま食べると、おなかを壊しちゃうよ。」

「俺は強力な魔導士であるから、多少の毒なら治せる。なにより草より他に食べるものが無い。」

少年にとっては空腹の方がよっぽど問題なのである。

ちなみに少年は魔導士でもない、無職12歳が正解である。


「強力な魔法が使えるなら、そこら辺の魔獣でも狩って食料にすればいいと思うが」

兄がなかば呆れたように答えた。

「魔獣を倒すのは容易だが、捌くのができん。血を見ると気が遠くなる。」

あんな気持ち悪いもの食えるか。

誰かが食用に解体してくれるのなら可能であろうが、それでも無理かもしれない。

少年は今まで食べてたこともない魔物料理を想像して気持ち悪くなってきた。


「ねえ、本当に魔法が使えるの?」

少女がうれしそうに問いかける。

「当然使える、完璧に使える、誰よりも使える。」

とてつもなく自身たっぷりに答えるが、兄の方は全く信用していなかった。

なぜなら、この世界においてほぼすべての人間は魔法が使えるが、大半は生活魔法以外使えない。

攻撃魔法や治癒魔法が使える人間は、国から特別に優遇され、生活の保障があるので間違っても道端の草を食べる様な生活をしないからである。


「じゃあ、お母さんの病気も治せる?」

少女が再び問いかける。

「君の母は面識はないが、俺は強力な魔導士って言っただろう。病気ごとき無論余裕だ。」

語気を強めた兄が唐突に問いただす。

「聞くが、君が持っている魔導書は何階級のもの?

普通は、治癒魔法が使えるなら、十階級より上だよね?」

「俺の魔導書は至極究極なものだよ。」

少年は自信満々で答える。単に兄の言っている意味も理解していない。


「なるほど君がすばらしい魔導士であることが分かったよ。

時間を取らして悪かったね。さあ食事の邪魔をしたら悪いエリス帰ろう」

兄の方は、あきらに関わり合いにないたくないとばかりに帰ろうとしている。

なぜなら目の前の少年の言動はあきらかに自分の常識とかけ離れているからである。


「俺のことを疑っているのか?」

「君は究極の魔導士なんだろう。もうそれでいいよ。」

「お兄ちゃん、この魔導士さんにお母さんの病気治してもらおうよ。」

エリスの言葉に兄が動揺する。

「お兄ちゃんが認める魔導士さんならきっと・・・」

兄は自分の不用意な言葉を後悔する。

「俺が究極至極の魔法によって治療してやろう。ただし対価に飯をくれ。」

「わかったよ、草の代わりの飯くらいは食わしてやる。エリスそれでいいか」

「うん」


兄はため息を何度のつきながら、3人で街に向かって歩いていく事にした。

この出会いが兄弟にとって最良の結果をもたらすことはあり得ないと思いながら・・・


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