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『純粋無垢で優しく、可憐な美少女!ヒロインこそが真のお姫様よ!!悪役令嬢?バカバカしい、攻略キャラに見捨てられた時点でその程度の存在じゃないっ』


『はっ、姉さんは何もわかっていないわ。知性と気品溢れる美しさの裏で努力を怠らず、どんな陰謀をもものともしない悪役令嬢、彼女こそがすべての頂点よ。お花畑ヒロインと一緒にしないでくれるかしら?』




『『ねえ、貴女もそう思うでしょう?』』




前世の私は声を被せる姉二人に、生ぬるい笑顔でこう答えた。



『いや自分、モブAでいいっす』






さて、初っ端からお見苦しい場面を見せてしまい申し訳ない。

そして前世、だなんてアイタタタワードを出してしまったこともこの場をお借りしてお詫びしよう。

しかしこれは私の妄想でも中学二年生病発症でもなんでもなく、紛うことなき事実なのである。……いや、自覚がないとか発症してる人間はみんなそう言うとか言わないで是非聞いてほしい。




まずは、私の前世について。


前世の私は日本という比較的平和に保たれた国に生まれ、平均収入のサラリーマンの父とパート勤めの母にそれなりに愛情を注がれて育つ、極ありふれた人間であった、と思う。…ただ、私の上にいた二人の姉は、ちょっと…いやかなり?変わった人間であった。



まず、一番上の姉。少女漫画が大好きな、夢見る乙女。これだけならばそう珍しくもないように聞こえるかもしれないが、そのはまりっぷりは異常だった。曰わく、


『私だってこんなに優しくて可愛くて無垢なんだから、いつかこのヒロインみたいにイケメンにチヤホヤされるわよね!ううん、きっと私が気付かないだけでもう取り合いが始まってるにちがいないわ…ごめんなさい、罪深いお姉ちゃんを許してね!』とのことである。


いや、身内の贔屓目抜きにしても長女は可愛い。庇護欲を掻き立てる見た目をしてたし、料理や裁縫などを特技とする高い女子力を持っていた。が、こんな裏顔を男子たちは知らないのだろう、と思う。もし知ってもなお慕っているならば、私は姉にその人をお勧めしたい。



次に二番目の姉。彼女はクールで知性的で、学校でも秀才と有名だった。そして長女とは系統の違う美人と、チート性能である。だが、重度のオタク。そして若干中学二年生を患ってる系女子でもあった。彼女曰わく、


『はあ…あんなのが身内だと思うと頭が痛いわ。いい?貴女もアレは姉だと思わなくていいのよ。それにしても…あんなのがお姫様だなんて慕っている男もどうかしているわ。節穴なのかしらね、それとも…あの女が操っているのかしら。だとしたらその操り糸、仮にも血縁者である私が責任を持って切るべきなのかも、ね。ふふ』とのことらしい。



いや、お姫様とか言ってないし、可愛いよねって話してるぐらいだと思うんだけど。あと洗脳とかじゃなく、純粋な好意だと思う。

しかしご満悦そうに美しく笑う姉になにも言うことはできなかった。ぶっちゃけこれ以上理解しにくい単語や比喩表現されても困る。


まあそんなわけで、ちょっと変わった姉二人を持っていたが、二人共私をたくさん可愛がってくれた。私もそんな二人が好きなので、なんだかんだで良い姉妹関係を続けていたと思う。

が、姉二人の仲となると話が違う。それはもう、美しい彼女らの口から出ているとは些か信じがたいほどに互いに罵詈雑言が飛ぶ。


長女は次女の高慢ちきで性悪なところが気に食わないと、次女は長女の欲望丸出しのぶりっこ具合が気に食わないのだと言う。



その犬猿の仲たるや、幼稚園から続くやりとりなのである。



そんないがみ合う仲であるはずなのに、姉二人のゲームの趣味はよく合っていた。




二人がするゲームとは【乙女ゲーム】というらしく、なんでもイケメンと恋愛関係を築いていくものなんだとか。ちなみに私がやるゲームは年齢指定の付くアクションやホラー、RPGである。一度恋愛シュミレーションたるものをやってみたが、それは女の子を口説くゲームであり、姉二人に『そうじゃない!』と突っ込まれた。倫子ちゃん可愛いのに。



そして、それなりに順風満帆な生活を送っていた私であったが、家族旅行先で事故に合い、その生涯はあっさりと幕を閉じた。

死に際に、『次の生に希望することはあるか』、だなんて謎の声が響き、できるなら今の家族とまた会いたい、だなんて返したのが最後の記憶。



これが、私の前世の話。





そして現在。魔法なんてものが当たり前に世の中を支え、王族やら貴族なんてのがいる妙に西洋ファンタジーな世界に生まれたのにも関わらず、死ぬ前に頭に響いた声の通り、私の両親は前世の両親のままであった。


なんでも東の国から来た貿易商人らしく、この国には珍しい日本人(この世界ではそんな呼び方はしないけど)である。

この国の王様にも気に入られた父のおかげで、男爵という爵位もいただいてそれなりに良い生活をさせていただいてる。やったね父、大出世だね。



そして私はといえば、そのおこぼれで王族や貴族の集う学校に入学することとなった。




「飛鳥ッ!」



そして入学式に、まさか二番目の姉に再会するなんて思わなかった。

彼女の顔立ちは私の知っている彼女そのものだが、髪色は銀色に変わり、瞳は紅い色に変わっていた。




「ああ飛鳥…ッ!まさかこうして会えるだなんて…!」


「さ、朔姉…?」



ぎゅうぎゅうと抱きしめられて顔を上げれば、僅かに潤んだ瞳が見えて思わず抱きしめ返した。次女…朔姉は滅多に泣くことなんてないから、余計に胸が苦しくなったのだ。



「あの…ローゼリア様?その…其方のお方は、成り上がりですわよ?」


「我が国の人間ではありませんし、その、ローゼリア様が抱きしめられるには身分不相応かと…」




おずおずと進言してくる茶髪と赤髪の女子生徒二人に、朔姉は先ほどの弱々しい表情が嘘のようにぎろりと二人を睨み付ける。めっちゃ怖いからやめてあげて朔姉。


小さく震える二人に彼女はきっぱりと言った。




「お黙りなさい、彼女は陛下が重宝なさる商人の一人娘…そして私の可愛い妹分ですわ。彼女を貶しめるその言葉は、すべて陛下や私に向けると同等であると思いなさい」



ざわ!と周囲に動揺が走る。あの新入生は何者だと囁かれ、未だに私を抱きしめる朔姉はといえば、「私が守ってあげるから」と恍惚とした笑みで言うのだ。いやあのうん。


どういうことか、誰か私にも説明してください。









「この世界は天使の囁きの世界なのよ」



入学式も終えたその日の放課後。薔薇園に呼ばれた私は、朔姉とティータイムだ。



それしても、天使の囁き。どこかで聞いたことがあるなと首を傾げていれば、姉はじとりと私を見て「昔貴女に勧めた乙女ゲームよ」と言った。ごめんなさい、その時はスマッシュシスターズにハマってました。




「え、っていうか、じゃあここゲームに出てくる学校なの?」


「ええ、スチルで何度も見た風景であるし、学校名も一緒。それに攻略キャラもいたしね」



まじか。ポカーンとする私に朔姉は優雅に紅茶を飲みながら微笑む。



「…飛鳥、今の私はね、悪役令嬢なのよ」


「……はあ…悪役令嬢…」


「ゲームで出てきた彼女に成り代わったの」


「………えーと、まさか罪のない一般人を人身売買したり殺人したり拷問にかけたり?あとは戦争を引き起こしたりテロ起こしたり世界滅ぼしたり?」


「悪事のスケールが大きすぎるわ、貴女のやっていたゲームと一緒にしないでちょうだい」



いやだってゲームの悪役ってこういうイメージしかないし。

眉をぎゅっと寄せてため息を吐く朔姉の説明によると、悪役令嬢とはゲームの登場人物でお金持ちのお嬢様であり、ヒロインをいじめ抜いて最後は痛い目にあう、というのがお約束のようなキャラなのだそうだ。ちなみに大体のゲームでは攻略キャラの一人を婚約者に持っていたが、その婚約を破棄されたり、家が没落したり、最悪処刑されたりもするらしい。



ちなみに、天使の囁きの悪役令嬢、ローゼリア・ライグロスは、最終的に攻略キャラの王子に婚約破棄されて家が没落してしまうらしい。



「え、なにそれやだ」


「あら、どうして?」


「朔姉が男にポイ捨てされるとかお家が没落して苦しい人生になっちゃうとか絶対やだよ」



たとえ今は血が繋がっていなかろうが朔姉は大切な私の姉である。不幸な人生は送ってほしくない。

真面目な顔でそう言う私に、姉はくすくすと上品に笑ってみせる。



「飛鳥ったら優しいのね。でも大丈夫よ」


「何が大丈夫なの?」


「こうなることを望んだのは、私だもの」


「………はい?」




え、なんで?いやたしかに昔から、馬鹿な人達に蔑まれ困難に巻き込まれながらも頂点に立つ私かっこいい!とかいうノリはあったけど、だからって自ら不幸に飛び込んでたわけがないのに。




「悪役令嬢、ローゼリアは二次創作ではとても人気でね。本編では悲しくも退場してしまうけれど、二次創作では一度は窮地に立たされるけれど、彼女の仲間と道を切り開き、お姫様気取りのヒロインと、自分のことしか考えられない未熟者な王子を切り捨てて報復し、幸せになるの」



ほう、と熱っぽいため息を吐く姉に私はちがう意味でため息が出そうにる。



ごめん朔姉、意味が分からない。



ええとつまり?朔姉はゲームに、果ては二次創作に感化されて自らこの面倒な立ち位置を望んだと。

…………だめだ、理解できない。



「できるなら飛鳥にもう一度会いたいって願ったけど…まさかそっちも叶うだなんて」



そう言って笑う朔姉は本当に幸せそうで、なんだかどうでもよくなった。

…相変わらず理解しがたい彼女だが、私にはこんな風に良い姉だから憎めないのだ。



「そういえば、飛鳥はなんて願ったの?」


「家族みんなとまた会って仲良くなれますように」



「……」



私の言葉に姉は無言で全力でタックルするように抱きついてきた。かなり痛いのだが、嬉しいのも事実なので黙っておこう。


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